第1章「消えた足跡」
雨が降っていた。
街灯に照らされた粒が、夜の空気を切り裂くように落ちていく。
朝霧 律は肩にカメラバッグをかけ、スマホの画面を覗き込んだ。
最後の位置情報は、この駅前で途切れている。
「……ここで消えた。湊、お前どこに行った」
声は雨に溶け、誰にも届かない。
律はビルの裏路地へ足を向けた。
監視カメラの映像を確認したのは、さっきカフェの奥だ。
湊が歩いている。次のフレームで、影が欠けていた。
人影はある。だが、足元の黒がない。
「影が、ない?」
律は眉をひそめ、映像を何度も巻き戻した。
編集じゃない。これは、生の記録だ。
路地に立ち、律は自分の影を見下ろした。
街灯に照らされ、濡れたアスファルトに黒が伸びる。
一歩、踏み出す。
影が、わずかに遅れて動いた気がした。
「……気のせい、だよな」
雨粒が肩を打つ音が、やけに遠く感じる。
カフェに戻ると、証言者の配送員が待っていた。
「変な感じでしたよ。音が……止まったみたいで」
律は鼻で笑った。
「音が止まる?ホラー話は要らない」
だが、心の奥で何かがざわつく。
ノートを開き、“影 欠落”と書き込む。
湊の名前を消せない。消したら、終わりだ。
窓の外、雨粒が静止して見えた。
瞬きすると、また落ちていく。
「……今、止まった?」
律は息を呑む。
カフェを出ると、傘を差した少女が視界をかすめた。
足元の水たまりが、波打たない。
律は立ち止まるが、少女はすぐに人混みに消えた。
夜の路地で、律はスマホを握りしめる。
「影が消えるなら、俺が追う。湊を、引き戻す」
遠くで、メトロノームの音が微かに響いた。
誰が、観測している?
雨はまだ降り続いていた。
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次回更新予定は1/9です。




