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第三話 引っ越し作業

 三日後の朝。休日で授業が無かったこともあり、ウルニアたちは朝からバタバタと忙しそうに走り回っていた。


「ウルニア、この荷物どこに置くっ!?」

「それは……えー……どこでもいい! その辺に置いておけ!」


 ウルニアとエイナスの両名は、その優秀な成績から学園側から特待生として扱われており、本来は四人部屋であるはずの寮室ではなく、一人用の個室を与えられている。しかし、今後剣術と魔法の訓練をするにあたって部屋が別室であることは都合が悪いと、学園に二人部屋の用意を頼んだのだ。


 そうして引っ越しが始まったのが、二人が約束をしたあの夜から三日後の朝、今日だ。荷物が詰められた大量の箱を、走り回りながら運ぶ二人。そんな彼女たちの様子を、学園中の生徒が興味深そうに眺めている。


「み、見られてるねぇ! ボクたち、ちょー注目の的っ!」

「喋ってる暇があるなら手と足を動かせ、エイナス!」


 二人が運ぶ箱の中身は、それぞれの衣服や魔法・剣術の道具、学園で使う教材など様々。物によってはかなりの重さがあり、二人はタオルを首に巻きながら作業をしていた。学園きっての天才剣士と天才魔道士が、タオルを巻いて引っ越し作業をする……注目の的になるのは、ある意味必然とも言えた。


「というか、こう、魔法でちょちょいと運んだりできないのっ!? 天才魔道士でしょっ!?」

「魔法を万能の技か何かだと思ってるのかっ!? そんな便利な魔法はこの世に存在しないっ!!」

「ふぇぇん!!!」


 エイナスの悲鳴が廊下中に響き渡る中、作業は昼過ぎ頃まで続き——、






「お、終わった……」



 床に倒れ伏すエイナスと、壁に背を預けて座り込むウルニア。満タンに入っていたはずの水差しの中は空で、彼女らの傍には水滴のついたコップが転がっていた。


「思っていたより、大作業になったな……というか、魔導士の私はともかく、なんで剣士のお前まで倒れてるんだ……体を動かすのが仕事じゃないか……?」

「戦うのと引っ越し作業はっ……使う筋肉が違うっ……!!!」


 『それもそうか』と一人納得するウルニア。そうして壁にもたれかかったまま部屋の中を見渡すと、自然と笑いが漏れた。


「……ふふっ」

「ど、どうしたの、ウルニア。疲れて頭おかしくなった……?」

「いや……随分と手狭になったな、と思ってな」


 特待生に与えられる個室は、一人用だとは思えないほど広い部屋だ。貴族の私室かと間違われるほどに。実際、学園に通う生徒のほとんどが貴族や王族のため、特に高名な者たちに配慮するための造りである。


 一方、今回二人に用意されたのは、それと比べると天と地ほどの差もある手狭な部屋だった。『他に空いている部屋がない』といって用意されたのは、二人分のベッドと机を置けば、残りはテーブルと少しの荷物を置くほどのスペースしかない部屋。天井も、少しだけ低い。


 そんな部屋に、荷物が山のように積まれている。ベッドの上ですらお構いなしに。むしろ、ウルニアの『手狭だ』という感想は、控えめな表現であるほどだ。


 ウルニアの言葉に、エイナスは思わず身を起こす。荷物の山でぎゅうぎゅうに詰まっている室内を見て、ウルニアと同じように、小さな笑みをこぼした。


「そうだねぇ。あの個室、すっごい広いもんね」

「ああ。正直なところ、実家の私の部屋よりも広くて、落ち着かなかったよ」


 そう漏らす彼女の口元には、一目見て分かるほど、喜びが溢れていた。


「……嬉しそうじゃん?」

「まあな。こういうのも良いなと思っただけだ」


 そんな言葉に、エイナスは不意に首を傾げた。


「ウルニア、友達いないの?」


 ウルニアは思わず仰け反り、後頭部を壁に打ちつけた。思いもよらないところから攻撃を受け、じんじんと痛む後頭部をさすりながら、ぎろりとエイナスを睨みつける。


「馬鹿が。いないわけじゃない。作ってないだけだ」

「いないんじゃん。何が違うの、それ」

「天と地ほどの差がある。そもそもだなぁ……」


 彼女の力説に、エイナスはうつ伏せになり、両手で頭を支えながら耳を傾けていた。その表情はどこか明るく、にこにこと優しい笑顔を浮かべていた。ウルニアは思わず話を中断し、ため息をこぼしながら問いかける。


「……お前はなんでそんなに嬉しそうなんだ? 私に友達がいないと知って、そんなに嬉しいか?」

「嬉しい? うーん……捉えようによってはそうかも」


 随分と失礼な物言いをする、と、ウルニアが傍にあったコップを握り締めると、エイナスは『にへへ』と、少々気味の悪い笑い声をあげた。


「だって、それって……ボクがウルニアの、最初の友達ってことだよね」


 心の底から、嫌味を感じさせることもなく、そう言い放つエイナス。その言葉に怒る気力も湧かず、握っていたコップをそっと手放した。


「……そうだな。不本意ながら」

「もうちょっと嬉しそうにしなよぉ。ボクってば、結構献身的なんだよぉ」


 それはプロポーズする時の自己プロデュースか何かなのではないかと思うウルニアではあったが、その場で言い返すことはなかった。




 そうしてしばらく休憩して汗も引いた頃、ウルニアは意を決して立ち上がる。荷物の搬入こそ終わったものの、引っ越し作業はまだ終わってはいなかったからだ。


「さて……十分休んだろう。すぐに荷解きを始めるぞ。このままだと、寝る場所にも困る」

「びぇぇ、もう腰ガクガクだよぉ……」


 嫌がるエイナスを叩き起こしながら、二人は大量の荷物と格闘を始めたのであった。

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