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第9話 メールしてもいいのかな?

現代のオタク女子高生が80年代にタイムリープ!しかもなぜか男子大学生に!?

男子ヲタの歴史を知らない彼女は、次々とオタク文化の変化を目撃、体験していきます。

なぜ彼女はタイムリープしてしまったのか?

毎週火曜日更新予定です。よろしくお願いします!

「ちょ、ちょっと待ってよ有紀!」

 有紀が指差す「お問い合わせはこちら」のリンクを前に、紗菜は思わず叫んでいた。キーボードに置かれた指は、まるで自分の意志とは無関係に小刻みに震えている。

「だって、連絡してみなきゃ何も始まらないじゃん!」

「始まるって、何が!? もし本当にこの人が“あの頃の私”だったとして、なんて送るのよ!『私、あなたの過去なんです』って? ただのヤバい子だと思われて終わりだよ!」

 紗菜がパニック気味に言うと、有紀は「うーん」と顎に手を当てて、少しだけ考えるそぶりを見せる。

「じゃあ、本人確認から入るのはどう?」

「本人確認?」

「そう。紗菜しか知らない、ううん、あの時の野口大輔さんしか知らないはずの、超個人的なクイズを送るの!」

「クイズ……」

 有紀の突拍子もない提案に、紗菜は呆気にとられる。しかし、それは案外、悪くない手かもしれない。不審なメールであることには変わりないが、支離滅裂な文章を送るよりは、ずっといい。

「どんなクイズがいいかな……」

 紗菜は必死に記憶の糸をたぐる。1981年の短い大学生活。サークルの仲間たちとの会話、熱中したアニメや漫画、そして、彼が何よりも愛していたオモチャのこと。

「……そうだ」

 ポン、と紗菜は手を打った。 一つの鮮明な記憶が、脳裏に蘇る。それは、彼がなけなしのバイト代を握りしめて、宝物のように買ってきた一つのオモチャ。

「有紀、決まった」

「お、いいね!なんて送るの?」

 紗菜は意を決して、再びキーボードに向き合った。今度はもう、指の震えはない。覚悟を決めた彼女の瞳を、有紀が隣でじっと見守っている。カタカタカタ……。検索窓に入力した時とは違う、どこか祈るような、それでいて挑戦的なタイプ音が部屋に響く。


件名:突然のご連絡失礼いたします。

本文: 放送作家の野口大輔様でいらっしゃいますでしょうか。大変唐突な質問で申し訳ありません。もし人違いでしたら、このメールは破棄していただきたく存じます。

 一つだけ、お伺いしたいことがあります。

 1981年の冬、あなたが机の一番大切な場所に飾っていた「ポピーの超合金」。 あの時、不慮の事故で無くしてしまったロケットパンチは、その後、無事に見つかりましたでしょうか?


「……よし」

 打ち終えた文面を読み返し、紗菜はごくりと唾を飲んだ。これならどうだろう。単なるオタクからの質問にも見えるかもしれない。だが、もし彼があの時の記憶を少しでも持っているのなら、この問いの意味がわかるはずだ。

「……紗菜、すごいじゃん!」

 興奮した有紀が、バシッと紗菜の背中を叩く。

「あとは、名前……」

「うん」

 紗菜はメールの最後に、自分の名前『高校二年生 紗菜』とだけ書き加えた。そして、マウスのカーソルを「送信」ボタンの上に持っていく。心臓が、ドクン、ドクンと大きく脈打つのが分かる。

(本当に、いいのかな)

 このボタンを押せば、もう後戻りはできない。平穏だった日常が、大きく変わってしまうかもしれない。それでも……。

(知りたい。あの人は今、どうしているんだろう。あの頃の記憶は、どこにあるんだろう)

 紗菜がためらっていると、隣から伸びてきた有紀の指が、紗菜の指の上にそっと重ねられ、そのまま一緒にクリックした。

 カチッ。

「あ……」

 送信完了のメッセージが、画面に小さく表示される。一瞬の静寂の後、紗菜と有紀は顔を見合わせた。

「…………」

 そして、次の瞬間。

「送っちゃったーーーーーっ!」

 二人同時に絶叫し、紗菜は頭を抱えてその場にうずくまった。やってしまった。もう取り返しはつかない。迷惑メールとして即削除されるか、あるいは気味悪がられてしまうのか。最悪の未来予想図が、頭の中をぐるぐると駆け巡る。

 それから数日、紗菜は何をしていても、常にスマホの通知を気にするようになってしまった。授業中も、休み時間も、バイト中も。しかし、期待しているような、あるいは恐れているような連絡が来る気配は一向になかった。

(やっぱり、ただの迷惑メールだって思われたんだ……)

 半ば諦めかけていた、一週間後の放課後。有紀とファミレスで期末テストの勉強をしていた、その時だった。

 ブブッ。

 テーブルの上に置いていたスマホが、静かに震えた。どうせまた、ゲームのスタミナが回復した通知だろう。紗菜が気のない様子で画面に目をやった、その瞬間。

「え……」

 紗菜の動きが、ピタリと止まる。

 画面に表示されていたのは、見慣れたアプリの通知ではなかった。 一通の、新着メール。

 そして、その差出人の名前は。

『野口大輔』

「うそ……」

 震える指で、紗菜はそっとメールを開いた。そこに書かれていたのは、たった一行だけの、短い文章だった。

『君は、一体何者なんだ?』

 鼓動が、時が、世界が、一瞬止まった気がした。

 返信は、来てしまったのだ。

なんと、現代の彼から返信が!?

いったいこれからどうなるのでしょう?

ドキドキハラハラの次回をお楽しみに!

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