第5話
冬美に怒られて大急ぎで仕事をこなすべく、数日前にようやく修理の終わったエレベーターに駆け込み6階にある所長室へと入っていった。
数時間後、いつものように自分の机にあるパソコンで何件かの仕事の案件を処理していると、冬美が紅茶を持って部屋に入ってきた。
「そういえばこないだのお客様、九重明日香さんから連絡がありましたよ。前向きに考えているので是非家族の方にも説明をしてほしいとのことでした。担当はどうします?今、手が空いているスタッフはあんまりいないのですが。」
紅茶を冬美から受け取りながら、うーんと伸びをする。
「なら今回は僕がやろうかな。今抱えてる案件も少ないしね。」
そう言って九重明日香のファイルを開くのだった。
____________________________________
九重明日香は漫画を愛している。
何故かって?そんなのわかんない。だって好きなものに理由なんて必要ないでしょ。好きなんだもの。
小さなころからずっと漫画好きで自分でも作品を作っては家族や友達に見せて回っていた。年を取れば自然に漫画離れできると思っていた両親は小学生高学年になってさらに漫画好きが加速した娘に少々お困惑しながら、まぁまだ子供だしなという思いで見守っていたのだが中校生になって日を追うごとに漫画への熱を上げていく娘に若干不安を覚え始めたのか、よくキャンプや釣り、旅行に連れ出すようになっていった。明日香も両親の思惑にそれとなく気づき、家で漫画を描いたり読んでいたかったものの嫌がることなく家族サービスのような感覚でついていくようにしていた。
事態が変わったのは高校受験を間近に控えたとある日であった。
明日香は元々成績も良かったために受験も比較的簡単にパスするだろうと考えていた気楽に考えていた両親は、いきなり娘が高校に行かずに漫画の専門学校に通いたいといい始めたことに驚愕した。しかしとにかく娘をなんとか説得し高校に入れることに成功した。
かくして娘、九重明日香は高校生になったのであるが明日香は全く諦めていなかった。
大学受験のためにも両親に予備校に通うように強く諭され渋々通ってみたはいいものの全くやる気が起きない。こんなところで勉強している時間があったら漫画を描きたいと考えていたのだ。
そんな無気力な明日香の様子に予備校の学習カウンセラー、成田は頭を悩ませていた。
カウンセリングで何度となく話をするが結局効果は上がらずそれどころか、このままでは予備校はもとより、高校まで辞めてしまうのではと危惧していた。そこで漫画の塾の見学を提案しようかとも考えたのだが、最悪、塾の営業トークにのまれて予備校も高校もやめてしまい、そのまま通い始めるのではないかと思い提案するのはやめた。
そんな時、フッと思いついたのが家族交換斡旋所だった。