第1話
コンコン
「ごめんくださ~い」
一人の少女が扉を叩いている。
コンコン
「う~ん、ここで合ってると思うんだけど。」
女性はあたりをキョロキョロと見渡し、ここが教えられた住所で合っているか若干不安になってきた。
そこは大きな町からだいぶ離れた、どこか懐かしさを感じさせるような商店街の近くにあるビルだった。
「は~い!今出ます」
小さく男の声が聞こえ、ガチャリと扉が勢いよく開いた。
「紹介状をお持ちですか?」
扉を開けるなり男は開口一番そういった。
「はい、カウンセラーの成田さんからここを紹介されまして、あ、これ紹介状です。」
そういうと、いそいそと肩にかけていたバックから紹介状を取り出して手渡した。
「あぁ!あなたが成田さんのご紹介の方でしたか。電話でお話を伺ていますよ。いらっしゃいませ。家族交換斡旋所へようこそ!外は寒いでしょう。どうぞ早く中にお入りください。」
にこやかに男がそう告げて中に入るように促す。
(本当に来てしまったけど大丈夫かな、なんか騙されてるかも。)
そういう思いもあったがここまで来てしまったし今更引き返すのもなぁと考え中に入る決意をした。
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ビルに入るとそこは奇妙な場所だった。
外からは普通のオフィスがありそうな、そのビルの中はまるでスペインのアルハンブラ宮殿のような壮観な内装で、壁全体に彫刻が施され天井には神々しいシャンデリアが吊るされ照明一つとってみても溜息がでるような美しさがあった。にもかかわらず、なぜか右側に巨大な狸の置物が置いてあるのだ。
まさに雰囲気ぶち壊しである。
さらに少し進むと左側に階段があり、右側には故障中と書かれた張り紙の張ってあるエレベーターがあった。
「すいません、今ちょっとエレベーター壊れてましてほんとに申し訳ないのですが階段で3階まで登っていただくことになります。」
前を歩く男が振り返って謝った。
「大丈夫ですよ。いい運動になりますしね。」
軽く謝罪を流してその男の顔を見た。入ってきた時は目を隠すような前髪のせいで気づかなかったがその男はどうやら片目の色が違うようで薄い灰色をしていたのが印象的で、背が高い痩身で前髪が長いこともあり若干病的に見えるが、話し方や雰囲気から男の性格は明るくとても気さくな人物のように感じられた。
階段を上がって2階を通ると、そこには鉄製の大きな扉とその横に小さな椅子が置いてあった。少し気になったものの特に何も言うことはなく、ようやく3階に到着した。
3階の廊下を歩き、いくつかの扉を通り過ぎて一番奥の扉にたどり着いた。
男がその扉を開き一緒に中に入るとやはりそこにはやはり美しい内装とシャンデリアに飾り付けられ、その雰囲気を壊さない優美な机と椅子、ソファーなどが並んでいた。