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老科学者の空虚な日常

変異はある日突然に

作者: 一飼 安美

 突然変異。こんなに便利な言葉もなかなかないものだ。生物学の世界というより、空想、御伽噺の類いとしてよく知られているね。……君は、考えたことがあるかい?突然変異とは、何を意味するか。遺伝子?環境?あるいは、啓示?難しく考えすぎるきらいが、誰にでもあるからね。疑問に思う程度に見どころがある相手は、なかなかいないんだ。だから言う機会は、ほとんどなくてね。


 生物の体は、我々が思っているよりも遙かに簡単に変わる。何億年の時を経て変わる場合以外に、ごく単純な変異を大量に起こす場合がある。ほんの数千年の間に、だ。地球の歴史から考えれば、十分突然と言っていい。群れは同じような変異を繰り返し、種を埋め尽くす。進化などというものではない、そんな大したものじゃないよ。


 突然自分が変化した生き物は、自分に合わせた環境を作る。今までに存在しなかった、生きていくために必要な環境。時に道具に頼り、時に異種生物に、時に同族に頼る。徐々にコロニーを大きくして、同じような変異体が集まり、あるいは生み出して、強固な群れにする。群生。あるいは、文化と呼ばれるものだ。生物のやることは、おおまかにここから逸脱しない。誰かは知らないが、蚯蚓も螻蛄も水黽も同じとは、よく言ったものだ。


 アリが高度な社会性を持っていることは、君も知っているだろう。だが……我々が社会性と呼ぶものが、アリの巣と大して変わらないことは、あまり知られていない。有名なのにね。働き蟻、兵隊蟻、女王。大して変わりはしないものだ。


 ときどき、むなしくなるんだ。一体私は、何を見ているんだろうってね。君の考えていることを、当ててあげようか。「見えるものがすべて」。実体がなんであれ、何を見ているかは結局変わらない。……君ならそう言ってくれると、私は思ったんだ。

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