ヒモにされた男とヒモにした少女
「ねぇ、凪。もう冒険者やめた方がいいよ。私たちはこれ以上の難易度のダンジョンに挑まないといけなくなる。それに凪は着いてこれないでしょう?」
「そうか。それが3人の意見なんだな。」
俺はそう言って残りのパーティーメンバーを見る。残りの2人も頷いている。仲の良かった俺たちは共にダンジョンを目指し、4人で冒険者の頂点に立つという約束をした、1人は天職『武術士』により、武術に対して天才的な才能が、1人は天職『魔法士』により、魔法の天才的な才能が、最後の1人は天職『戦闘士』により、戦闘の天才的な才能があった。昔からステータスが低くかった俺はサポートするために大量の知識とそれに特化した能力を磨いた。
けれど、その約束が消えたその時、俺の生きる目的は消えた、意味は消えた。だから、何も言わずにステルススキルを起動し、ゆっくりとどこかに向けて歩いた。後ろで3人が気づいた素振りもなく何か言っていたが、内容などどうでもいい。今の俺にとって『何でもない』存在だ。
俺は俺がいつまで歩いていたのか憶えていない。どこに向かっていたのか、何を思ったのか、なにをしたのか、そんなことすらも。それなのにただひとつだけ、今、俺が横に抱き上げている少女を助けなければ、そう思った。
俺は小刻みに震えている少女にスキルを使い、容態を見ると、呪いの一種が少女を蝕んでいることが分かった。そこから後は簡単である、サポーターとしての知識をフルに使い、治療に必要なアイテムを記憶の中から『探し出す』。
必要なアイテムは『聖光の幻華』、本来なら『百の試練ダンジョン』の階層クリア時などに極低確率で手に入る、超がつくほどのレアアイテム。それも、最高品質のもの。しかし、そんな理由で諦める必要はない、俺は迷いなくあるダンジョンに入る。
その名も『花畑ダンジョン』。危険度が低く、観光地として人気ではあるのだが、実は特定の行動をすることで祭壇が出現、供物を捧げることでその価値に応じた花を選び得ることができる。
そして、その価値は祭壇の精霊である花の精霊が決めるため、花畑ダンジョンに無い花などを持っていくことで高い価値の花と交換することができる。ここに来るまでに憶えている限りのダンジョンに無い花を多数用意した、これで交換出来なければもうどうにもならない。
規定の行動をして祭壇を召喚する。すると、どこからともなく花を身に纏った少女が顕れる。
「あら、貴方でしたか。『また』、花を対価に花畑の花が欲しいのですね。」
「あぁ。」
俺がそう答えると花の精霊は笑い、その場でくるりと回る。
「ふふふ。貴方の持ってくる花はどれも珍しく、美しいものばかり。今回はどんな花を持ってきたのですか?」
無言で俺はアイテムボックスから大量の花を出す。ユリ、サクラ、アサガオ、アジサイ、どんどんと出てくる。俺のアイテムボックスは時間停止効果があるので、交換のために四季折々、様々な種類の花をここの祭壇を見つけてからずっと溜めて置いたのだ。そして、そのすべてを出した。花の精霊は見たことのない花たちを見て大いに喜んでいた。
「あら!こんなに持ってきてくれるなんて。今回はどんな花がいいかしら?前のように沢山のマナユリ?それともステータスフラワー?」
どれもすごく高価な花で、ここ以外ならばそうそう手に入れることはできない。しかし、俺は少女を助けるために要望を伝えた。
「聖光の幻華を」
俺の要望を聞いて精霊は残念そうに言った。
「ごめんなさい、それは無理だわ。」
ならば、と俺は最後の一つを取り出す。それを見て精霊は目の色を変えた。それは青いバラだった、長く不可能の象徴とされた青のバラだった。精霊にはすぐに分かったことだろう、これが色水によって青に染められた偽りの青バラでないことが。
青薔薇の花言葉は『奇跡』、他になにも無くなった俺の最後の一手。
「ふふ。ちゃんと訳も聞かずに行動するのは愚かなことよ?私もこれだけの珍しい花を花畑に加えれる機会を逃したいわけじゃないの。
ただ、聖光の幻華には二つ必要なものがあるの。一つはたくさんの生命、これはこの花畑の花たちの生命を少しずつ貰えば大丈夫なのよ。だけれどねもう一つ、その生命を貯めれるだけの能力を持った花が必要なのよ、今はそれが手元に無かった。だけど、その青い薔薇はピッタリだわ。青い薔薇は惜しいけれど、対価はしっかりと払うのが私の流儀よ。」
「ならっ!」
「ええ、聖光の幻華を渡しましょう。少し待ってちょうだい。」
そう言って精霊は花畑の花たちのところに行き、唄を歌った。人の身には理解出来ない唄、けれど心地よく美しい。
歌い終わるころにはキラキラと輝く粒が俺の持つ青い薔薇に集まり、青い薔薇が輝きはじめる。光が収まるとそこには蒼い光を放つ蒼薔薇があった。
自動的にウィンドウが表示され、そこには
『聖光の幻華(蒼薔薇)』
と、表示されていた。すぐにそれを少女に使おうとすると、華が水のように変わり、少女に落ちる。みるみるうちに少女を蝕んでいた呪いが消えて、逆に蒼く輝きだした。だんだんと俺も巻き込み、光が激しくなっていき、俺と少女の身体に吸い込まれて消えた。それを確認してから俺は意識を失った。
《器を修復しました》
《スキルを獲得しました》
《魔力を得ました》
《魔力を得ました》
《魔力を得ました》
《魔力を得ました》
《魔力を得ま…
《魔力を…
《魔…
《肉体の限界に到達しました》
《肉体が適応しました》
《スキルを獲得しました》
《魔力を得ました》
《魔力を得ました》
《魔力を得ました》
《魔力を得ました》
《魔力を得ま…
《魔力を…
《魔…
《肉体の限界に到達しました》
《肉体が適応しました》
《スキルを獲得しました》
《魔力を得ました》
《魔力を得ました》
《魔力を得ました》
《魔力を得ました》
《魔力を得ま…
《魔力を…
《魔…
《肉体の限界に到達しました》
《肉体が適応しました》
《魔…
《魔力を…
《魔力を得ま…
《魔力を得ました》
《魔力の器が満たされました》
《他のステータスの器も満たされました》
《条件が満たされました》
《スキル『システム』が解禁されます》
《取得スキル群が進化します》
《取得スキル群が変質します》
《取得スキル群が統合されます》
《"魂の回廊"が繋がりました》
《対象者との強い繋がりによりステータス等を共有化します。》
「あらあら、面白いことになったわね。」
そう言って『花の?霊』は微笑む
「知らなかったのでしょうけれど、私の作ることの出来る『完全な』聖光の幻華は稀に、花言葉と同じ力が宿ることがあるのよね。ゆえに、奇跡の花言葉を持つ青薔薇を使った幻華には奇跡を起こす力が宿った。それは本来ならあり得ないほど低い確率だったのだけれど、この子はそれを引き当て、本来なら治せるはずの無かった呪いを治した。」
呪いの残滓を見て『?の精?』はため息をつく。
『?????』には見えていた。過去に類を見ないほどに大量の呪いが重なりが、一つ一つは弱いものから強いものまでさまざまだが、重なることで強すぎるほどの力を持っていた。彼に見えていた一つの呪いを消したとしても意味は無かっただろう。
そして、その呪いの底にはありとあらゆる呪いを吸い寄せる呪いが仕組まれていた。つまり、この娘の呪いは作られたものだ。それが、なぜ作られたのかは知らない、しかし、魂を見てもそんなことをされるべき者ではない。
だから、少しだけお節介をやいた。
『?いの??』の力を使い2人の間に強い繋がりを作ることで、彼の抵抗力も上乗せされるようにした。
『願いの女神』は永久に2人が結ばれるよう願った。