スペース・オンライン
スペース・オンライン。何の捻りもない名前で発売された、このフルダイブVR用ソフトは一部のガチ勢ヘンタイ達にスペオンの通り名で愛されて、一定の人口を誇っていた。
その名の通り、科学と魔法が交差する宇宙が舞台のファンタジーSFオンラインゲームで、プレイヤーは傭兵から一国の王までありとあらゆる存在に成れた。醍醐味は機動兵器『ギア』での戦闘であるが、宇宙船での艦隊決戦や生身での銃撃・法撃戦、その他クラフト要素などもある。
まぁ、なんといっても運営の頭がぶっ飛んでいるため、イベント一つで超重要な燃料の輸出国が変わって値段が跳ね上がったり、MAP上から惑星が一つ消えたり、とかなりカオスな状況になる。ときどき、胸くそイベントを起こしてはブチギレた上位プレイヤーが1日で終わらせるという奇妙なことが起きていた。
それでもギアの挙動も凝っていたし、どんな小さな種族にもしっかりとしたストーリーが作ってあったし、ある時『白紙のブループリント』と言うアイテムを追加し、プレイヤー自らギアや宇宙船を設計して使えるようにするなど運営自身のこのゲームに対する熱量も凄まじかった。
沼にハマった者は多く、常時一万人ほどがオンラインだった。かく言う俺もその1人で、『ナギ』と言うプレイヤーネームで活動しており、一時的にランキング1位を取ったこともある。
さて、ここまで長くなったが現状を説明しよう。
目が覚めたらスペオンの見慣れた所有艦の一室のベットに手足を拘束されて寝かされていた。これが、ゲームでクラメンのイタズラならいいのだが、ステータスウィンドウも出ないし、ログインした覚えもない。完全に現実である。
「ゑ?本当にこの状況どうするべ。」
悩みに悩んだ末、もう一眠りする事にした。眠いんだから仕方がない、ないよね!
ぼんやりと自分の上に何かのっている事に気づき起きる。(起きると言っても目を開けるだけだが。)目を開いて見てみれば美が5回ほどつきそうなくらい美人な女性が俺に馬乗りになっていた。
「マスターぁ、やっぱりあなたは可愛いですね。マスターぁ、起きなくていいんですかぁ?私に食べられちゃいますよぉ?えへへ、私を1ヶ月も放置して何処かに行っていた罰です。」
甘ったるい全身に絡みついてくるような猫なで声でそう言って女性が服を少しづつ脱いでいく。冷や汗が流れる。このままでは俺の貞操が危なそうだ。
「おい!起きてるから!やめろ!」
「きゃっ!」
無理矢理体を動かすと体を固定してたロープが千切れる。予想以上の力が入ってしまっていたようで、逆に女性を押し倒してしまった。
「えへへ、マスターに押し倒されちゃいました。このまま私、マスターに生意気なことしちゃったから強引に犯されちゃうんですか?初めてなので優しくしてくださいね?」
俺は気まずくなってしまったのだが、女性の方はそうでは無いようで、なぜか紅い瞳を潤ませて期待に満ちた声色でそう聞いてくる。そんな瞳で見られてしまっては俺もその気になってしまいそうになる、先程の動きで俺の手に絡まったプラチナの髪も綺麗で……ん?プラチナ?紅い瞳?まてよ?さっきからのマスター呼びといいもしや?
「まさか、お前。ルーミアか?」
「ん?ますたぁー、今さら気づいたんですか?でも、そんな事どうでもいいじゃ無いですか。私と気持ちいいことしちゃいましょう?」
「えっ?ちょっとまて!」
「問答無用ですっ!えいっ!」
語尾にハートマークがつきそうなほど甘く、上機嫌な声で俺を下にする。
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「ほんっとうに申し訳ありません!」
状況もわからないまま、性的に食べられるというもっとおかしな状況になったわけではあるが、今俺の目の前に土下座しているのが元凶である。
「で?本当にルーミアなんだな?」
服を着替えながら問う。
「はいっ!マスターに作っていただき、最近ボディをもらったのに、1ヶ月放置プレイを決め込まれたルーミアです!」
……言葉の端々に不満を感じるが、それは今はどうでもいいだろう。
ルーミアは俺が始めて間もないときに作ったAI…つまりは、チュートリアルで作ったAIなのだが、最初は『最初期型サポートAI』だったのが、アップデートとアップグレードを何十回、何百回と繰り返すことにより今では、最上位種である、電子生命体にまで進化し、電子生命体の内の『ベイビー子供級』や『エルダー長老級』と表されるレベル(どの段階か)においても、レベルという領域を外れた『スペリオル超越級』と表される。
ちなみに、電子生命体の一つ前が量子コンピュータなのだが、量子コンピュータから電子生命体に上がるには、AIとの良好な関係つまり、好感度が一定以上必要とされている。なので、AIを道具としてしか見ていなかった一部のプレイヤーは好感度をマイナスの状態からカンストするまで上げるという酷い、と言うか不可能な状態になり、また一から育て直すという羽目になり、運営に非難が殺到したとか。
俺や俺のフレンドはAIと共に成長してきた、と言えるほどに背中合わせな状態だった、というより信頼しきっており、ときにはログインしっぱなしにして飯などで離席して後はAIに任せるということもしていた、それをクランメンバー全員同じタイミングでしたこともあり、今思えば全員が好感度カンストしてスペリオルまで育て上げていたからこその荒業である。
話は戻って最新のアップデートによってAI用のボディが追加されたためルーミアのために外見にもしっかりとこだわり、生産ラインに追加したのだが、いかんせん制作時間が長すぎた。最大までアップグレードした生産ラインでもリアルタイムで数日かかるため、ログアウトしてまたログインしたときに見ようと思っていたのだが、仕事が忙しく10日ほどログインできなかったのだ。そして…
「あっ!」
「ほえ?」
「そういや、残業終わりで疲れてたときに「俺は異世界に行くんだぁぁぁ」とか変なこと言ってた変なやつに巻き込まれて三トン半に吹っ飛ばされたわ。あぁ、納得だわ。」
「何言ってるんですか?マスター。」
こてん、と首を傾げながらルーミアが聞いてくる。
「いや、いいんだ。で?俺は何で縛られてたんだ?なぁ?」
そう俺が聞くとあからさまに目を逸らして口笛を吹き始めた。俺がジリジリと近づいていき、もう少しでぶつかるという辺りで観念したのか、ぽつぽつと話し始めた。
「で?要約すると、中立コロニーに停泊してたら突然飛ばされて、いつのまにか自室に俺が居たから触れ合えることに興奮して逃げられないように拘束したと?」
その通りですと言わんばかりにルーミアがブンブンと頭を縦に振る。
「ふーん。ばか?」
「うっ。」
「お前なぁ、サポートAIがここまで暴走するなよ。」
「ごめんなさい。」
ルーミアが本当に申し訳なさそうな顔をしているのでしょうがなく許す。…べ、別に自分好みの女の子が泣いている姿が見たくなかったとかじゃないからな。
ついでに現状を1番よく把握しているであろうルーミアに現状を聞く。
「現在地は不明です。そもそも、探査結果からして私たちの知る世界では無いかと。」
ここは予想通り。
「それから、今私たちが乗っているのは、ガーデン製『多目的特殊戦闘艦フソウ型 三番艦カナシロ』で間違いありません。」
多目的特殊戦闘艦フソウ型。この艦は、プレイヤーメイドのかなり特殊な艦となっていて、一番艦フソウから三番艦カナシロまで全て仕様が異なっている。
三番艦カナシロは、ギアの運用を軸に開発されており、艦の両舷から伸びるリニアカタパルトが特徴的ではある。が、フソウ型の中でこの艦は特別であり、フソウの特殊エネルギーミサイル(25連バージョン)とヤマシロの超高出力エネルギーシールド及び、特装砲を一門だけ艦首に備え、圧倒的な性能を誇っている。
そこから、かなり手を加えているため生活空間なども充実しており、広めの風呂なども用意されている。ギア搭載機数は6機、航宙機なども搭載していて、大型製作機も設置されており、パーツや弾薬の現地生産が可能となっている。
「確認した結果、艦の機能に異常は見られませんでしたし、機体の状態も良好です。」
「物資の量は?」
「食料などはあと1ヶ月分程度、弾薬も10回程度の戦闘であれば問題ありません。レアメタルなどの一部マテリアルは少ないですが、早々に必要になるような物ではないです。」
「さっさと中立コロニーを見つけて物資供給の目処を立てないとな。」
「それには地図が必須ですねー。」
地図を手に入れる方法は大きく2つ。中立コロニーで公開地図をインストールするか、船から抜き取るか。前者は中立コロニーの場所がわからないので無理だが、後者なら撃破した海賊船や漂流船などから抜き取ることができるため船さえ来てくれれば手に入れることが可能である。
漂流船などそうそうあるわけも無いし、あるとするならばリアクターがついた状態で何日か同じところで留まっている故障したと思われる船を襲う海賊ぐらいな物だろう。
「んっ!マスター、レーダーに感あり。こっちに通信を繋いできてます。」
そら来た。故障船を見逃す海賊はいないだろう。
「一応聞いておくがなんて言ってる?」
「えーと、「物資と女を置いていけば命までは取らない」だそうですよ。」
「ふーん。ルーミア返信。」
「おや?珍しいですね。いつもならこういう輩には問答無用で砲撃するのに。それで、なんてかえします?」
「物資も女もてめーらにはもったいないから、お前らこそ置いて行けってな。」
「じー。」
ジト目でルーミアがこちらを見てくる。
「ん?どうした?」
「いえ、なんでも。………女なら私がいるのに、マスターのバカ。」
一番艦フソウは、最新技術のテストベット的な艦で、大きさは戦艦と重巡洋艦のちょうど中間ほど、動力は試作の縮退炉を搭載し、スラスターなども多数配置。主砲は発生エネルギーを直接利用できるようにエネルギー式のものを載せ、副砲や対空砲も高出力なエネルギー式ものになっている。
最も特徴的なのはエネルギーミサイル『萌芽ほうが』で、一斉射で50発近く放てるのにプラスし、エネルギーが続く限り『絶え間なく』連射可能で、そのエネルギーもミサイルだけに絞れば無限に撃てた。
まあ、生命維持装置なんかも止めないとだから無理だったんですけどね。さしずめ『高速飽和雷撃艦』といったところである。ミサイルなのに雷撃でいいのかは知らんが。
二番艦ヤマシロは、フソウとは打って変わって砲戦と近接戦を主とする艦で主砲は現実で言う超弩級クラスの艦に取り付ける『41式高エネルギー主砲』を付け、ガーデン製の艦に標準で装備されているエネルギーシールド『天蓋』を超高出力化したものを採用。近接戦闘用の『赤熱式衝角ヒートラム』と『有線式機動ポッド』を装備。ミサイルなども積んでいるが砲戦能力の高さと敵陣突破能力の方が目を引くだろう。ヤマシロ1番の特徴は両舷に取り付けられた特装砲『カグラ』だ。これは、普通のエネルギーシールドをつけた艦程度ならエネルギーシールドごと貫ける威力であり、これらの武装をフルに使った状態のヤマシロは、言うなれば『高速強襲近接砲撃艦』であろう。