有名ダンジョン配信者のカメラマンは最強である事が露呈する
人気だったら続き書きます。作者の気分がのっても書きます。
とある雨の降る夕暮れ
俺はいつものように傘をさして帰り道を歩く、石畳は歩を進めるごとにコツコツといい音を鳴らす、雨音と石畳の音が混ざり合い綺麗な音が鳴っていた。
綺麗な音を聞きながら上機嫌になっていると、ふとスマホの電源を落としっぱなしにしていることを思い出す。スマホをポケットから取り出して電源をつける、するとメッセージアプリに母親から連絡が来ていた、俺の母親はシェアハウスを営んでいる。(といっても手に余っていた亡くなったじいちゃんの家をシェアハウスとして使っているだけなのだが。)そのシェアハウスは今、俺が1人で使っているだけである。母親からのメッセージを開いて読む。
「…ん?」
あまりの内容に意味がわからずもう一度読み返す。
「えーと?〈新しいシェアハウスの住人が今日決まって、もう着いてるはずだから仲良くしてね。byはは〉……?なんでもっと早く言わなかったんだよ!」
俺はようやく理解すると本気で走り出す。路地を無理矢理突っ切り、私有地をお構いなしで駆ける。家が見えてくると玄関先に立ち尽くしている人が見えた、それが分かると一段と走るスピードを上げる。家に着くとかなり息が上がっており、膝に手をついてゼーゼーと息をする。
「すまない、君が今日からこのシェアハウスに住むことになった人であってるか?」
そう言いながら顔を上げたその時だった。
「っ…」
俺が驚いたのも無理は無いと思いたい、シェアハウスに住むと言うことだから男かと思っていたが、女性でそれもかなりの美人だったのだから。
陶磁器のように白い肌、夕暮れ時の西陽を反射して黄金色こがねいろに輝く白金色プラチナの髪、そして血のような真紅の瞳。その全てが俺を魅了した。
それが俺と彼女の出会いだった。
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E級ダンジョン 緑鬼りょくきの洞窟
「みんなー、八咫プロダクション所属 2期生の『水無月みなづき ルーミア』だよ〜。」
〈待ってた。〉
〈おっ、今日はゴブリン洞窟か〉
〈初心者の登竜門だな〉
〈でもなんで今更、ゴブリン洞窟なんだ?〉
〈強化用のゴブリンキングのレアドロ周回だ〉
〈前回見てこい〉
耳に付けたイヤホン型のデバイスによって、コメントがリアルタイムで読み上げられる。かなりの量が流れており、聞くのも一苦労である。
〈今回もカメラマンさん来てる?〉
〈あの人がいないと画質が落ちちゃうからな〉
〈それでも他の有名配信者の配信と変わらない模様〉
〈ダンジョンにカメラマン連れてってる方がイカれてる定期〉
〈そういや、どっかの新人が真似しようとして高ランク探索者雇ったけどピントブレブレだったらしい〉
〈全てカメラマンさんがかなり戦えて、プロ並みの撮影技術持ってて、家事全般できる超ハイスペックなのが悪い〉
〈最後のだけダンジョン関係なくて草〉
「今回もちゃんとカメラマンさんに来てもらってるよ〜?」
そう言われて俺は、手袋をした片手を見せて手を振る。
〈やっぱり手袋だな〉
〈くっ、性別が知りたい〉
〈知ってどーするよ〉
〈男だったらファンに女でもファンになる〉
〈どっちでもファンで草〉
〈女だと良いなー(願望)〉
〈男だと良いなー〉
〈どっちだったとしてもルーミア×カメラマンのカプは誕生してんだよなぁ〉
〈かなり密着しても動揺しないカメラマンさすが仕事人〉
恒例のカメラマン男か女か論争が幕を開けようとすると、ルーミアが頬を膨らませてムッとした表情を作る。
「私の配信なんですけど?」
〈はい〉
〈はい〉
〈ひゃい〉
〈カメラマン そろそろ始めないと定時で上がれないんだが?〉
〈あっ〉
〈あっ〉
〈お疲れ様です〉
〈申し訳ないです〉
「それもそうですね。カメラマンさんのためにもさっさと始めましょう。」
ゆっくりと歩き出す。一つ目の曲がり角を曲がろうとしたところでゴブリンに出くわしたが、
「ふっ」
ルーミアの一太刀で首が飛んだ。
〈ナイス〉
〈ナイス〉
〈本日の1キル目〉
「んー、準備運動にもなりませんねぇ。さっさとボスのとこまで行きましょう!」
そう言って軽く走り始める、それに合わせてカメラがぶれないように最小限の動きで走る。走る間もルーミアは出会ったゴブリンの首を辻斬りのように刎ねていく。
あっという間にボス部屋の入り口に着いた。
〈リアル辻斬り〉
〈それな〉
〈早すぎる到着〉
〈これなら定時で上がれますね〉
〈なお、この後ドロップ品の整理がある模様〉
〈流石に社畜より社畜してらっしゃる〉
〈おい、おまいらレアドロの出現率忘れたか?〉
〈今回は10%のやつだったはず〉
〈ドロップは一回で3〜10個だから運が良ければ一回で出るはず〉
〈あっ〉
〈あっ〉
〈ルーミアは20%のために20周してたぞ〉
〈忘れてた〉
〈その前は10パーのために42だっけ?〉
〈その割にそれよりレアリティ低い物はでるもよう〉
〈物欲センサーだな〉
〈ピピ、これはビンビンだな〉
「さーて、今回は何周で出るでしょうかね。みんなで予想してみてくださいね。」
〈12〉
〈15だ〉
〈23かな〉
コメントが流れる間にも準備を終えてボス部屋に入っていく。
俺が最後に入るのと同時に扉がバタリと閉じて、目の前には3mはある巨体のゴブリンがいた。いたんだが、
「奥義『一閃華いっせんか』」
一撃で首を刎ねられて退場した。バラバラとドロップアイテムが落ちるが、それを俺は全て拾い『アイテムボックス』に入れる。ルーミアはと言うと『システム』によって表示されたリザルトのドロップを見て嘆いていた。
「うぅ、なんで3%の『鬼王ノ大棍棒』はドロップしてるのに10%の『鬼族きぞくノ祈祷石きとういし』は出ないんですかぁ!』
〈うーん、安定〉
〈いつもの〉
〈いつのも〉
〈なんで最大の10個引いて3%のドロップまで引いてるのに出ないんだ?〉
〈やはり物欲センサー〉
〈それにしてもだろ〉
「はぁ。気を取り直してもう一周行きましょう!」
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12周目
「うー、やっと出ました!」
10%を引くために12周もして、ルーミアも涙目になっている。ちなみにこの間に0.1%のアイテムまで引いているのだから恐ろしい。
〈お疲れー〉
〈おつかれさまー〉
〈やはり物欲センサービンビンだったな〉
〈流石に12周は草〉
〈途中になにげなく0.1パー引いてんだよなぁ〉
〈引きが強いのやら弱いのやら〉
「やっと、ドロップしたところで今回はこれぐらいにしておきますね〜。チャンネル登録、高評価よろしくお願いします。」
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配信が終了したのを確認してルーミア…『望月もちづき 白しろ』に声をかける。
「おつかれさん。白」
「うへー、もっと撫でてください。私、いっぱい頑張ったので。」
気が抜けたのかだらーんと俺にもたれかかって甘えてくる。最高に可愛い。
「もう2年か」
「ふふ、そーですよ。まだ、2年しか経ってませんよ。」
そう、白と出会ったあの夕暮れからもう2年になるのだ。あの出会いがこんなことになるとは思わなかった。俺、『神風かみかぜ 凪なぎ』は人生の転換点を思い出す。
簡単に説明するならば、出会って一緒に生活して1ヶ月で付き合い始めて、その時に白から自分がダンジョン配信者であることを教えられ、その手伝いをし始めて、いつのまにかカメラマンとして少し映るようになり、今に至る。
他にも細々としたことはあったがそれはまた今度でいいだろう。
「うぅ、明日は学校かぁ」
「んー、どうした?」
荷物を整理していると白がため息をつきつつ文句を言った。
「やっぱり、中退していい?」
「ダメだ。しっかり卒業すること、それが約束だろ?」
「だけど〜」
白と俺は今、『国立ダンジョン探索者育成学校』通称『ダンジョン高専』に通っている。ダンジョンが現れてから、無理に学生がダンジョンに潜り、死んでしまう事故が多発したために設立された学校である。高専の名の通り5年制学校で卒業と同時に難関資格となった、ダンジョン探索者の免許が試験無しで得られるため、かなりの倍率であるが、俺たちは免許を取っている。ちなみに白が3年生で俺が5年生だ。俺は自由登校になっているので問題ないが、白はまだ学校がある。そんなことよりも、もっと重要なことが明日はあるのだが。まぁ、しっかり書類は書いてるし問題はないだろう。
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?級ダンジョン ?の試練
「さて、始めるか」
翌日、俺は白と一緒に一度市役所に行き、白を学校まで見送ってからダンジョンに来ていた。理由は、次の配信の下見と小銭稼ぎである。ついでに救助要請が来ればすぐに向う。
(救助要請とは:ダンジョンダイバー用のサポートアプリである『シーカー』の機能の一つで周りのシーカー使用者に救助を要請する物である。)
ちなみに一応限定で配信しており、この配信はほぼ白のためであり、バカみたいに高い金を払った人しか見れない上にアーカイブにも残らず、切り抜きや画録も禁止なのだが、なぜかコアなファンがいる。撮影はボディカメラを使っており、俺はお面を被り、人に見られても問題無いようにしている。
〈始まった〉
〈カメラマンのダンジョン巡回〉
〈カメラマン 今日は17時くらいまでの予定〉
〈り!〉
〈了解〉
〈なんだかんだ同接増えてきてんな〉
〈カメラマンさんが戦うのなんてこんな時ぐらいだからな〉
俺はコメントを聞きながら腰のホルスターから愛用のリボルバーを引き抜き、さっそく撃つ。サプレッサーの効果も相まり高威力の弾でも音が小さい。
〈リボルバーにサプレッサーつけてるのカメラマンさんぐらいだよな〉
〈銃使ってるやつはいるけどほとんど突撃銃アサルトライフルとかだもんな〉
〈サイレンサーは金かかるからな普通の銃を扱う中級者には痛い出費〉
〈そもそもリボルバーにサイレンサーつくんだって感じだからな〉
〈カメラマン 普通のはつかんぞ、コイツが特別製なだけだ〉
〈ほえー、てか今見たら刻印、ガーデン社のハイエンドモデルじゃん〉
〈わっつ?あのバカ高いモデル?〉
〈ちょっとまて、前までのは黒色のやつだったぞ?〉
〈あっ(察し)〉
〈最近動画の方もいいクオリティのが出ると思ったら〉
〈最近、残業多そうだったもんね〉
〈残業代…出たんだね〉
そんなコメントを聞きながら肉眼では見えない敵の頭を吹き飛ばす。酷い言われようであるがそんなことは気にせずにゆっくり歩きながら、スキル『探索サーチ』で捉えた敵を撃つ。
(スキルとは:剣術から魔法までさまざまなものが存在し、珍しいものだと生物学、機械工学などもスキルとなっていて、一部武術などもスキルとして存在しており、現在でも新たにスキルが増えている。スキルを習得するにはスキルオーブか、SPスキルポイントを消費する必要がある。例外として流派系スキルや限定種族系スキルは習得出来なかったり、流派の師範などに手解きを受けることで習得できるものもある。)
〈いつ見てもえぐいな〉
〈敵、見えないな。〉
〈代わりに魔石とかは落ちてるぞ、魔石は発砲した数と同じ数だけど〉
〈つまり弾全部当たってるってことなんだよなぁ〉
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休憩を挟みつつ、ぶらぶらとリスナーと話しながら巡回して、そろそろやめようかと思った時だった。
ピロピロピロン
〈おっ〉
〈来ちゃったな〉
〈最近多いらしいぞ〉
〈仕事の時間だな〉
救助要請の通知が入ってきた。ちなみに通知の音は緊急地震速報と同じような音だと思ってもらうとわかりやすいだろう。
場所は今の位置から2階下である。場所を確認すると速攻で走り出し、急行する。サーチで見るとかなりの数に囲まれているようだが、見られたくはないので対物狙撃銃アンチマテリアルライフル『バレット m82』を『スタッシュ』から取り出し、伏せて敵を狙う。他にも遠隔操作できるよう改造された『m40 106mm無反動砲』も取り出しておく。
〈ゴツっ!〉
〈こんな武器持ってんの?〉
〈あえ?〉
〈なんか始まってる〉
〈いつもの配信じゃないな〉
〈ん?ルーミアの配信じゃない?〉
なんかコメント欄が騒がしいが無視して狙う。敵はワイバーン系が4、ドラゴン系が1だ。
まず、救助要請を送ってきた人に一番近いやつの頭を狙う。
ドゴン
爆音がダンジョン内に鳴り響き、弾丸が飛んでいく。
頭部に命中。ワイバーンの頭部を内部から消し飛ばした。
〈えっ?〉
〈ヒュー、さすが!〉
〈はっ?〉
〈もっとやれー!〉
〈おいおい〉
〈動画一般公開されてね?〉
〈マジだは〉
〈どう言う状況?〉
続けざまに近いやつから順に狙う。胸部に命中。が、魔力障壁を貫通のみで鱗に弾かれる。すぐさま胸部を狙い撃つ。今度は鱗を貫通し胸部に穴を開ける。残り三匹。
〈当たり前のように魔力障壁を貫通してるんですが?〉
〈鱗もだろ〉
〈中からパーンって吹っ飛んだし、胸にどでかい穴空いてるし〉
〈やばいんだけど〉
ドラゴン系を無視してワイバーン系に狙いを絞り、二発続けて撃つ。どちらの弾も頭部を捉え、内部から吹き飛ばす。流石に撃たれている位置がバレたのか、ドラゴンが向かってくる。残りの5発を連射するが全て弾かれてしまう。
「ちっ」
ボタンを取り出し、握り込む。
〈あっ〉
〈珍しい〉
〈あからさまな舌打ち〉
〈そして取り出される謎のボタン〉
〈ポチッとな〉
ドゴォォォン
あきらかににバレットの銃声とはレベルが違う音が響き砲弾が放たれる。ドラゴンに命中すると同時に魔力障壁、鱗共に貫通し体内で爆発、汚ねぇ花火が一つできる。
〈威力やば〉
〈ドラゴン種が一撃で〉
今の姿で人と話すのはよろしくないので、配信を切ってからドロップアイテムを全て拾いさっさと退散する。