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突然の話になるが、この世界の武具は大きく2種類に分けられる。一つは一般的な武具でこちらは魔法の無い世界と変わらない物だが、あちらでは伝説上の物質だったアダマンタイトやオリハルコン、ミスリルなんて金属があるので遙かに軽量で強靱な剣や鎧なんかが存在する。とは言えこちらはあくまで物理法則の範疇に収まっているからまあそう言う凄い金属で話が済むのだが、もう一種類はそうではない。

魔導具。その名の通り魔導の力を宿した武具で、その性能は文字通り一般的な武具とは一線を画す性能を持っている。剣が火や雷を纏っているなんてのは可愛いもので、常時肉体治癒や自己再生、とんでもないのになると魂を直接攻撃するなんて巫山戯た物まで存在する。だがこれらも実は魔導具の本質的な部分ではない、では何が魔導具を脅威にしているかと言えば、肉体の一部として扱われる事だろう。こう言われてもピンとこない人は、懐かしのRPGを想像して欲しい。キャラクターと言う基礎値に武器や防具を装備させるとそのまま数値が上乗せされるのだが魔導具はどんな装備でもこれが発生するのだ、銃をぶっ放してその弾丸の威力に使用者の腕力が乗るのだから正に意味不明である。そしてシュラクトもこの魔導具に分類される装備なのだが。


「ぬぉりゃあ!」


『踏み込みが足りん』


突き出した槍はそんな声と共にあっさりと切り払われ、おまけとばかりに姿勢を崩された上で脚を払われる。制御の限界を超えた俺の機体はあっさりとその場にぶっ倒れた。


「ぐべ!?」


『すぐ起きろ、死ぬぞ?』


そんな声と共に機体に影が差す。慌てて横に転がれば、先程まで俺が居た場所へ土煙と共に長大な剣が振り下ろされていた。


『どうした?さっさと掛かってこい。早く立て、槍を構えろ、格上と戦うなら攻撃の手は緩めるな!早く、早く早く!早く早く早く!!』


そうか、俺は今日犬に食われて死ぬんだな?


「チクショウメー!!」


『だから踏み込みが足りん!』


何度聞いたか解らないセリフと共に再び機体が転がされる。土埃の舞う地面をモニター一杯に見つめながら、俺は事の発端を思い出していた。





「マルスは何故接近して戦わないんだ?」


「どうした、急に」


三度目の討伐依頼を危うげ無く熟し、そろそろもう少し高額のものに切り替えるかという話をしている最中にクロエがそんな事を言い出した。ちゃんとバックアップしているつもりだったけれど常に前衛というのは抵抗感があるのだろうか?そう聞き返すと彼女は頭を横へ振る。


「いや、別にポジションに不満がある訳じゃない。どちらかと言えば私も剣を振るっている方が性に合っているしな。ただ、ちょっと気になったんだ」


そう言うと彼女は俺の機体へと視線を向ける。


「マルスのロートブリッツはⅡ号機兵だ。あれは接近戦を前提にした機種だから射撃武器とは相性が悪いし、何より金が掛かるだろう?」


シュラクトが用いる火器は主に杖と称される魔術投射兵装だ。構造はそのまんまライフルで扱いもほぼ同じ、違う点は金属製の弾丸では無く銃口から装填したスクロールに登録された魔法が飛び出る事だろう。ざっくり言えば魔法が撃てる銃と考えてくれれば良い。そして構造が同じとは仕様も同様であるという意味でもある。つまり杖は弾丸の代わりにスクロールを消費して魔法を撃つのだ。因みに空になったスクロールに再度魔法を込められる辺りまで一緒である。技術というのは仕様が同じなら似た形に収斂するのだなぁ、などと関心したものだ。


「あー、それは慎重な検討を重ねた結果の答えです。はい」


「なんで敬語になる?」


「まあ聞いて下さいよクロエさんや、俺のジョブが奴隷商人なのは知っているよな?」


「無論だ、それがどうかしたのか?」


「うん、じゃあ奴隷商人のジョブ特性は?」


「む、すまないそこまで詳しくは知らないな。確か奴隷から色々と奪うとは聞いているが」


うん、大体合ってる。


「実際経験しているから解るだろうけど概ねその認識で間違い無いんだわ」


彼女も俺と契約した結果能力の幾らかを俺に強制徴発されている。そして奴隷商人はそれに特化したジョブなのである。


「ステータスの徴発ってのは実は一番初期の効果でな、双方の繋がりが強くなるにつれ奴隷から奪える物が増えていくんだが、スキルもその一つなんだよ」


スキル。固有であるジョブとは異なり、後天的に身に着ける事が可能な神様からの祝福である。中には俺のレベル譲渡みたいなジョブと同様生まれながらに持っているユニークスキルなんてものあるが、大抵は努力と研鑽で身に着けるものだ。奴隷商人はこのスキルを奴隷と繋がりを強くする事で一方的に共有出来るのである。因みに主人格である奴隷商人側のスキルは奴隷には共有されない。正にお前の物は俺の物、俺の物は俺の物という傲慢な特性なのだが。


「この特性、実は問題もあってな。繋がりの強さに応じてどんなスキルでも共有出来る反面、自分で習得するのに大幅な制限が掛かるんだよ」


具体的に言えばスキルが発現するまでの経験値とでも言うべき物が極端に増える。その差は体感ではあるが驚異の10倍、しかもこれは誰でも覚えられる様なスキルでの話なのだ。剣術や体術なんていう覚えるのに強化補正の掛かるジョブがある類いのスキルになるとこの値が激増する。例えば軽戦士のイルムが1ヶ月で発現させた剣術スキルの初級を覚えるのに俺は5年近く掛かった。因みにその上、ここからが使えてスキル持ちと言い張れると言う中級はワーカーになった今でも発現していない。

更に厄介なのがジョブに比べればスキルによる強化は小さい代わりに、累積可能だと言う事だ。例えば剣術や槍術といったスキルを一通り習得出来れば初級だけでもそれなりの強化が見込める。つまりスキルの多寡がステータスの優劣にかなり影響を及ぼすのだ。


「接近戦は総合的に必要な能力が高くないと難しいだろ?それに近付けばそれだけ反撃される可能性が増える。取り敢えず撃てれば戦力になって、反撃を受けにくければそれだけ余計な出費を考えずに済むだろ?だから俺が稼ぐにはこれが一番確実なんだよ」


まあおかげで討伐じゃあんまり稼げないからメインの収入源がスカベンジャーとかになるんだけどね。そう告げるとクロエは真剣な表情で口を開いた。


「成る程、だが今後討伐の難易度を上げていくなら接近戦の技術は必須だろう。どんなに安全を担保しようとしてもそれが出来ないのが戦場だ」


「まあそうだな」


「だからどうだろうか、マルスさえ良ければ私が近接スキルの訓練相手になるが?」


「いや、だから覚えるまでにかなり時間が掛かるんだって」


「ならば余計早く始めた方が良いだろう。それにイスルギ流には他よりも短時間でスキルを習得させる方法がある。それを使えば他のジョブとまでは行かないだろうが多少は早くなるはずだ」


え、マジで!?イスルギ凄え!


「そりゃ本当か!?」


「ふふ、やる気になったみたいだな。最初はそうだな、槍が良いかな?」


思わず興奮してそう聞き返すとクロエは笑いながらそう答える。いやぁ、マジかー、イスルギ無礼てたわ。国内最大流派は伊達じゃねえわ。


「是非頼む。でも最初が槍なのか?剣じゃなくて?」


イスルギは剣術の流派だったと記憶しているんだが。


「ああ、剣で他の武器を相手取る事だってあるだろう?だからイスルギでは最低限スキルの発現する武術は一通り初級まで習得するんだ。指南役や高弟になれば中級や上級まで習得しているぞ。かく言う私も武芸百般を中級まで修めている」


成る程、親方の見立ては確かに正しいな。この努力を家と才能で片付けるのは正に礼を欠いた態度だろう。


「槍は近接武器の中でもリーチがあるから素人でも戦い易い、取り敢えず振り回せる様になれば相手を近づけさせない位は出来るからな。それに」


「それに?」


「剣術はその、私との仲が深まれば共有出来るのだろう?なら他から学んだ方が無駄が無いと思う…んだが…」


頬を赤らめてそんな事を口にするクロエ。何だコイツ、カワイイかよ?そっちもウェルカムとかイスルギ最高だな!


「そ、そうか。なら槍術からお願いしようかな?」


「ああ!任せてくれ!私がマルスを一人前の剣士にしてみせるぞ!」


「いや俺奴隷商人だって」


そう言って俺達は笑い合い、そして場面は冒頭へと戻る。


『なんだその腑抜けた突きは!子犬でも欠伸をしながら避けられるぞ!足下を疎かにするなと何度言ったら解るんだこの愚図がっ!!』


そんな叱責と共に再び浮遊感が襲い、仰向けに転がされる。背中に衝撃を感じた瞬間、咄嗟に横へと転がるが、それを見越して回り込んでいたソウゲツに蹴り飛ばされる。


「ぐべ!?」


『いつもいつも同じ方向に転がるな!咄嗟の状況でも条件反射で動くんじゃない!そんな動きは直ぐに見切られるぞ!こういう風にな!』


借用ではなくちゃんと訓練用の装甲を用立てろと言われた瞬間から嫌な予感はしていたんだ。イスルギ流の短時間スキル習得法、それは秘伝のコツとか流派の秘技なんて都合の良いものではなく、兎に角いじめ抜くという大変スパルタンな方法でございました。でもこの後ご褒美とか待ってるんでしょう?という淡い期待はクロエさんの無慈悲な一言で打ち砕かれる。


「これで私とマルスは只の仲間と言うだけでなく師匠と弟子の関係だ!より一層親密な仲になったと言えるな!」


畜生軍事教練ガチ勢め!


「死ぬ!死んでしまう!!」


『馬鹿が!ちゃんと死なない様に手加減している!だから安心して死ね!!踏み込みが甘い!!!』


あれ?もしかしなくても、これスキル習得するまで続くのか?


「待て!落ち着けクロエ!一旦話し合おう!?」


『問答無用!構えろマルス!でなければ…死ぬ程痛いぞ?』


「ぬぁぁぁぁぁ!?」


その日何度目になるかも忘れてしまった俺の絶叫が青空へと木霊した。

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― 新着の感想 ―
[良い点] つらく苦しいけれど中々恵まれた環境っぽいですね!
[一言] 新作ですか。頑張ってください!
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