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スカベンジャー、ワーカーのポピュラーな金稼ぎの一つで、同時にとても嫌われている仕事だ。内容はそのまんま、戦場跡の死体漁りである。嫌われている理由は単純で、一つは死体漁りという行為が良く思われていないこと、そしてもう一つはこれが正規の仕事では無い事だろう。ワーカーが戦闘後の現場に入るのは、正規の救助部隊や現場処理の人員が到着するまでの繋ぎや応急救護を期待されての事だった。だが先に述べたように報奨金よりも端材や廃品を回収した方が金になる、だから最近は救護なんてそっちのけで物漁りに勤しむ連中の方が圧倒的に多いのだ。これでも回収品を巡って殺し合わなくなっただけマシになったなんて言われるくらいだから世間様の視線は推して知るべしというやつである。


「まあそれでもお金には換えられないってね」


世間目を気にして清貧に生きたとして、困ったときに手を差し伸べてくれるかと言えば否である。剣と魔法の時代に比べればセーフティーネットも充実しているが、それでも健康的で文化的な最低限の生活なんてものは保障されて居ないのだ。


「うへ、派手にやったな」


それが現場に着いた俺の最初の感想だった。到る処にうち捨てられたモンスターの死体はどれも黒焦げで、周辺の木にも燃え移っている。


「新米がやらかしたかね?」


トレーラーに積んであった装備を起動しつつ推察する。大型種や群れの警告は出ていなかったから、高脅威のモンスターではなかった筈だ。となれば自分の力量を見誤ったワーカーがやらかしたのだろう。


「森林区画で炎熱系を使うとかマジ素人かよ」


攻撃魔法を使うにしても、周辺環境を考慮して二次被害を起こさない様に使用魔法を選択するのは常識だ。それすらも出来ていないところからして、大方二世や三世の新人の仕業だろう。親から継いだ高性能な装備の力を過信して失敗するなんてのは毎年のように起きる話だからだ。


「ま、逃げずに倒しきったのは偉いかな?」


水系の初期魔法で消火をしつつ周囲を探る。モンスターの方は元が判別出来ないほど焼け焦げているから素材は取れそうにない。


「救援の通信だったから、まだ居る筈だよな」


そうなれば狙うのは応急救護の報奨金だ。段々と激しくなる戦闘の跡の中を進んでいくと、案の定爆心地の様に開けた場所の中心にシュラクトが剣を地面に突き立てて擱座していた。

シュラクト、高度に発達した錬金術と召喚魔法、そこに科学が混ざり込んだ事で生まれた人類の牙。小難しい事は解らんが、様は魔法で動く巨大ロボットだ。いや人が乗って動かしているからパワードスーツと呼ぶべきか?


「エーテル反応あり、まだ生きてるな」


コイツのおかげで人類は龍種を始めとした大型種と呼ばれるモンスターと互角以上に戦える手段を手にし、その結果飛躍的に生活圏を広げるに至った。既に登場から300年近くが経過していて、今ではこの様にワーカーですら頑張れば手に入れられる存在だ。


「うお!融着してんじゃねえか」


自爆技でも使ったのか、擱座していたシュラクトのコックピット周辺は装甲が溶けてくっついてしまっていた。周囲に反応もないし他にやられた機体も見当たらないと言う事は、こいつはソロで戦ったんだろうか?装甲を工作カッターで強引に引き剥がしコックピットの中に入る。中に入った途端、濃密な血の臭いが鼻をついた。これ結構やばそうだぞ!?


「おい!しっかりしろ!」


ポケットからポーションを取り出して傷へと振りかける。パイロットは呻き声を上げたが構わず俺は応急処置を続けた。兎に角止血をしないと死んでしまうと判断したからだ。


「ああ、クソっ!頑張れよ!?」


端末とパイロットスーツを接続してバイタルをチェックするが、パイロットがどんどん弱っていくのが解った。多分血を失い過ぎたんだ、このままだと傷を塞いでも救助が来るまで持つか解らない。畜生、ちょっとした小遣い稼ぎのつもりだったのに!勿論コイツが死んでも俺が咎められる事は無いし、なんなら応急処置に使った資材の補填くらいはしてくれるかもしれない。だから素直に最善は尽くしたと諦めるのが賢い生き方と言うヤツだ。そんな事は解っている。けれど、


「畜生、ツイてない!!」


本当に出来る精一杯をせずに諦めたら、多分凄く気分が悪い。そんな確信が俺を突き動かす。


「これで助からなかったら諦める!」


自分にそう言い聞かせて俺は更にパイロットへ顔を近づける。そして唇を重ねるとスキルを発動した。途端俺の体から力が抜けていき、そして目の前のパイロットにそれが渡されるのを実感した。


「…うっ」


スキル、レベル譲渡。使用者のレベルを一つ下げる代わりに、対象のレベルを一つ上げるという中々のぶっ壊れスキルである。使用方法はとっても簡単、使用者と対象が粘膜接触している状態でスキルを発動するだけだ。


「これで死にやがったらただじゃおかねえぞ!畜生!!」


レベルが上昇すると肉体が活性化し生命力も強化される。戦闘で死にかけていた所でレベルアップし、九死に一生を得たなんて話も割と良くあるのだ。問題があるとすれば俺のジョブはレベルアップに大量の経験値が必要で、そのくせ戦闘系のスキルは一切覚えないというポンコツだと言う事だ。死ぬ思いで一年間みっちり戦って、1しかレベルが上がらなくなったとき、俺は戦うという選択を放棄した。レベル低下で鈍くなった体を動かして自分の機体へ戻る。レベルアップと応急処置でバイタルが安定したからだ。


「…代金を貰っても罰は当たらんよな?」


擱座していた機体を背負いトレーラーへと運ぶ。救助される場合、機体は放棄されるのが通例でこれを拾得しても窃盗には当たらない。大抵は国に登録しているから、持ち主が買い戻す事になるのだが。遠くから聞こえ始めたサイレンの音を聞きながら、俺はそう呟いた。





「そうして手に入れたのがこれって訳さ」


「成る程なあ。んで、どうすんだ?」


明けて翌日、俺は手に入れたシュラクトを馴染みの工房へ持ち込んでいた。単純な修理ならメーカーに持ち込むのが確実なんだが、こうした街の工房みたいな所の方が色々と融通が利くから贔屓にさせて貰っている。


「取り敢えず状態次第かなあ?簡単に済みそうなら直そうと思うんだけど」


持ち主に買い戻されるとしても修理済みの方が当然値段が高くなる。とは言えクランを組んでいる様な連中はともかく、俺みたいなソロのワーカーの懐具合なんて寂しいものだ。修理にも先立つものが必要な以上、高額になるなら諦める必要がある。


「見た感じ頭と心臓はやられてねえようだから、そんなに高くはならねえよ」


へえ?


「自爆魔法なんて使ったから、てっきり逝っちまってると思ったんだけど」


頭と言うのはシュラクトの制御ユニットの事でその名の通り機体の頭部に組み込まれている部品だ。そこに精霊を宿してコンピューター代わりにしているとからしいが詳しいことは知らない。俺が解るのは無茶な魔法を使ったりその部品自体が大きく傷つくと、精霊が居なくなってシュラクトが木偶人形になってしまうと言うことだけだ。


「それだがな、マルス。コイツ本当に自爆魔法を使ったのか?」


装甲をペタペタと触りながら親方がそんな事を口にする。


「いや、直接見た訳じゃないよ。状況からしてそうだろうってだけ」


「ふむう?」


そう返すと親方は渋い顔になって俺に告げてくる。


「それにしちゃ装甲の溶け方がおかしい。自爆魔法じゃこうはならねえ」


「モンスターにやられたって事?でも周りにそれらしい死骸はなかったぜ、親方」


「逃げたんじゃねえか?」


「それこそ悪い冗談でしょ」


シュラクトの自爆魔法と誤解するような威力の攻撃を放てるなら、そのモンスターは中級以上の脅威度を持つ事になる。だがその位のモンスターになると内包している魔力も相当量になるから都市の警戒システムに引っかからないなんて事は有り得ない。勿論魔力に頼らずにそうした強力な攻撃が出来るモンスターも居るが、そんなのは動く災害なんて呼ばれるようなもっとヤバイモンスターだ。そしてそいつらは中級なんて話にならない魔力量を保有しているし、何より要監視対象として常に国から見張られている。つまりそんなヤツが都市郊外に突然現れるなんてあり得ないし、それを現場のワーカーはともかく国が逃がすなんて事は考えられない。


「ま、その辺は国が考えればいいんだよ。それよりも俺的にはこれがどの位で直るかの方が重要だね」


「オメエはワーカーなのにそういう所が…、まあ最近のは皆そんな感じか」


ワーカーが冒険者と呼ばれ、世界の神秘に挑んでいたのは遠い昔の話である。まあ今でも一部の物好きがそんな事を嘯いて暗黒大陸に挑んでは音信不通になっていたりするのだが。俺は苦笑しつつ残念そうな顔で溜息を吐く親方に近寄って口を開く。


「これも時代の流れってヤツだよ親方。そんで、どんな感じ?」


「多分装甲の張り替えだけで良いとは思うんだが、元通りとなると結構掛かるな」


「え、そうなん?」


「経年強化されたブルーメタルだからな、100年ってとこか?」


「うえ、まじか」


機械というのは大抵古いと性能が低くなるものだが、シュラクトは一概にそうとは言い切れない。何故ならシュラクトは成長するからだ。長年魔力を通し続けた装甲が非常識な強度と軽さになっていたり、設計段階よりも遙かに魔力炉の出力が上がっているなんて事もある。尤も全てがそうなるなんて事は無くて、大抵は金の掛かった高級モデルが経年変化するようだが。因みに100年もののブルーメタル製装甲となると羽振りの良いワーカーでも借金が必要なくらいお高かったりする。


「…ブルースチールで代用とか出来ない?」


「出来るがかなり性能は下がるぞ?買い取りなら寧ろそのままの方が良いかもしれん」


成長すると言う事は適当に弄ると機体に変な癖が付いてしまうというリスクもある。100年ものの機体なんて絶対に買い戻されるだろうから、親方の言う通り変な色気は出さずにおく方が賢明に思える。


「そうだなぁ…」


「失礼、こちらにマルス・ログホート殿はいらっしゃるだろうか?」


俺が悩んでいると、後ろからそんな声が掛かる。名前を呼ばれて振り返えると、そこには昨日助けたパイロットが立っていた。

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