イントロダクション 2
イントロダクションは3までです。
「というわけでこの本を読み進めるための解説をお願いしたいです。」
カフェテリアの2Fにある学生課で代理人である出井さんと打ち合わせを進める。
サービス利用の前に依頼人の要望や人となりを確認する決まりになっているらしい。
どちらかというと後者の方が重要なんだろう。
出井さんは髪を後ろにまとめた眼鏡をかけた女性だ。
「気になっているのは、茶谷先生はスキルに対して料金が安いことくらいですね。」
事故物件ではないが、だいたいこういう場合は訳ありだ。
予想通り、出井さんの雰囲気が怪しい。
宙を見回してもじもじしながら出井さんが話し始めた。
「そうですね。これは申し送り事項として伝える義務がありますのでー」
ざっとまとめると、依頼人である学生からのクレームが続いている。
そのクレームは虚言癖があるとのこと。
それは先生の役割だと致命的なのではなかろうか。
「とはいってもですね。聴取してみると一方的にそうでもないようでしてー」
状況1: 教えられた学生がコピペしてレポートに使って間違っていた
状況2: 質疑応答で間違った回答が続き、その内容が矛盾していた
これは微妙だ。
同情を禁じ得ないところもある。
しかし、学生の本分的としては、内容を理解できていなかった方にも問題がありそうだ。
そして人間だれしも間違うときはある。
「それとですね。伺ったところ茶谷先生は壮太さんとは馬が合いそうなのですよー」
そういうと出井さんはタブレットの画面を見せてきた。
そこには茶谷先生の評価表が部分的に表示されていた。
「注目してもらいところはですね。これです。忍耐度ー」
忍耐度 S
「忍耐度はですね。先生方の平均はBの設定ですが、何回聞いても怒らないということでしてー」
確かにこれは助かる。
だいたいの人は何回も同じような内容を聞くと怒ってくる。
輪読会を追放されたのも、理解できなくて同じところを何回も質問したからだった。
「普通は先生方の理解度と忍耐度は反比例ですね。同じ所を繰り返すと不機嫌になりますしー」
聞いたことをこちらで完全に理解していく注意は必要だが、何回聞いても怒られない。
いいかもしれない。
「確かに、それは助かります。茶谷先生をおねがいします。」
こちらの快諾を聞いた出井さんもうれしそうだ。
契約の手続きを進めた。
「あとちょっとですね。算数が苦手なようですが、すぐ気づける程度なので指摘してあげてねー」
数学を教えてもらうのに算数が苦手とはどういう意味だろうか。
まあいいか。
その場の勢いも時には必要だ。