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2.勇者、浮かれる

※勇者視点







 クララの魔法で降り立ったオルフィスベリーは、魔物の森から大河を隔てた東にある栄えた町だ。


 大河の船着き場から発展したオルフィスベリーは商人の町として自治の力が強く、沢山の職人の工房とそれを売りさばく商人の店が中心となっている。国と国のはざまにあるため相手を問わず商売できるが故に栄え、栄えているがゆえに様々な人間が通り過ぎる雑多さがあった。


 町の外に降り立った俺たちは南の大門を通って町に入り、まずは収集品を売ってしまおうと道具屋に向かった。ドラゴンの鱗はこの辺りではレアなのでかなりの高値がつく。合計金額を聞いて目を見張るクララを見れば、苦労して拾った甲斐があるものだと俺は満足した。


 換金したお金は用心のために半分にして持ち、俺達は道具屋を出る。


 賑やかに人が行き交う都市は久しぶりだった。町の大通りの人波に紛れながら、俺は外套のフードを深く被り直す。


 さほど目立たない容貌でも、いかんせん俺は魔王を討伐した勇者として祭り上げられた過去がある。教会に絵姿が飾られたため町によっては勇者と気付かれ延々と感謝され続ける事もある反面、魔王を倒した俺を良く思わない連中に絡まれることもあった。この町では後者の方を用心すべきだろう。


 同じようにクララもフードで顔を隠していた。彼女は質素なワンピースに「ておりのケープ」を装備して斜めに鞄を下げている。武器に至っては何も持っていない。軽装過ぎて心配だ。せめて短剣の一つも持ってほしい。


 そんなことを思いながら見つめていると、クララが不意にこちらを見上げてきた。目が合ったクララがはにかむ。嬉しい。


 しかし、油断すれば離れ離れになりそうな人ごみだった。俺はクララの肩を引き寄せた。スリにも注意しなければ。あと、こんなに可愛いクララが誰かに拉致されても困る。


 大通りを抜けて広場に出たところで手を離すと、クララは顔を赤くしていた。気分でも悪いのかと俺は慌ててどこか座れそうなところを探す。


「大丈夫ですか?疲れましたよね。休みましょうか?」


「えっ?いや、全然大丈夫です!ちょっとぎゅうぎゅうだっただけで」


 そう言って下を向くクララに、俺は初めてクララが照れていることに気がついた。


 うそ?!ちょっと嬉しいぞ。最近は何のためらいもなく撫でまわしてくれるから、もしかして男として見られていないんじゃないかと危惧し始めていたところだ。


「あぁ、そうですよね。すみません。はぐれるといけないと思って・・・」


 俺は内心の喜びを隠して言う。するとクララは平気だというように笑顔を浮かべて周囲を見回した。


「いえ、ありがとうございます。本当にすごい人ですよね。毎回驚きます」


 休憩にと足をとめた広場はオルフィスベリーの中央にあり、町の西側に流れる大河が見渡せた。町は大河に面して緩やかに傾斜しているため、広場は少し高い位置にある。階段状になった町を見下ろせば川岸には倉庫街と船着き場が見えた。


「いつも薬草を売るのはこの町ですか?」


 俺は川岸を眺めながら尋ねる。通りの流れから逃れた広場の片隅では、同じように旅人や町の人々が休憩をしていた。クララは川から俺に視線を向ける。


「いえ、いつもは大抵南のエリンドルに行きます。移動魔法で飛べる町では森に一番近いので、別の町に出かけても結局最後に寄ることになりますし」


「なるほど、確かにギリギリ徒歩圏内ですね」


「森にも地点珠があればいいんですけどね。あれは教会の管轄なので」


 クララはそう言って広場の東側を見た。緩やかに長い坂の上に、白い石で作られた荘厳な教会が建っていた。世界中のどの町にもある教会には、その入り口にシンボルとして中心に穴の開いた八芒星が掲げられている。八方を照らす聖なる光の意匠らしい。


 ちなみに俺は教会が大嫌いだ。教会が推している勇者は俺ではなかったのに、魔王を討伐した途端手のひらを返して俺を救世の勇者と祭り上げたからだ。その変わり身が不信極まりないし、おかげで教会に推されていた勇者の恨みを買うはめになった。


 そうだ、思い出したぞ。地点珠だってそうだ。移動魔法は特殊な宝珠を目当てとすることで移動ができるようになるが、それを管理しているのが教会だった。その町を移動先として覚えるためにはその町の教会にある地点珠に触れなければならないのだが、俺を見るなり「勇者証明を精査したい」だの「悪用の恐れはないか」だのと理由を作ってはなかなか触れさせてくれなかった。毒消しも呪いをとくのも後回しにされた記憶がある。俺の旅を妨げるためだ。


「それにしても私、よく一年も魔王が倒されたことに気づかなかったですよね。いつの間にか魔物の影もなくこんなにも平和になっているのに」


 クララが町の賑わいを眺めながら苦笑して言った。クララは魔物(正確には魔獣)を手懐けられるが故に人間に迫害され、魔王が倒れたことを知らないまま魔族の森に引きこもって生活していた。俺が死に場所を求めて森に入らなければ、今も気づかないままだったかもしれない。


「町に知り合いはいなかったんですか?エリンドルとか」


 そう言えば、俺はクララの交友関係を何も知らない。大まかな過去を語って聞かせてくれたことはあるが、知り合いや友人の話は聞いたことがなかった。


「そうですね・・・必ず会っていたのは薬草を買い取ってくれるおばあさんくらいですが、無口な方だったのでなにもお話はしませんでした。それに町では出来る限り誰とも目を合わさないようにしていたんです。・・・・あまり関わりたくないなと思っていたので・・・」


 クララが言葉を探しながら言いづらそうに答えた。その様子を見てあまり触れるべきではなかったかもしれないと俺は反省する。でも、人との関わりを避けながらも、行き倒れた俺を助けてくれるあたりクララは本当に優しいんだと思う。


「・・・でも、魔物がいなくなったことで人々が安心できるんですから勇者さまには感謝しないといけませんね。オルモンド国のヴェセルさん、でしたっけ?」


 空気をかえようとクララが話を変えた。俺はぎくりとして一瞬言葉を失う。


 勇者ヴェセル。それは俺の名前だった。正確には俺が魔王討伐中に名乗っていた名前であり、俺の故郷の村の名前だ。クララにその名を名乗ったことはない。


「・・・勇者の名前をご存じだったんですか?」


 俺は一瞬出来た間を誤魔化すように尋ねる。クララはいいえと首を振った。


「さっきの道具屋さんの壁新聞に書いていました。今行方不明だそうですよ。偉業を成し遂げたのに心配です。ご無事だと良いんですけれど」


「あー・・・そうなんですか。心配ですね」


 俺はにこりと笑みを浮かべて同意しておいた。後から考えるとここは心配そうにするべきだったのかもしれないが、動揺していたのだ。クララは俺が勇者であることを知らない。ただの冒険者だと勘違いしているし、俺もそれを訂正しなかった。だからヴェセルの名と俺が合致しないのは当然なのだ。ギリギリセーフだ。


「他には何か書かれていましたか?」


 クララが読んだ内容がどんなものか気になり、俺はさらに尋ねた。町や教会から発行され店や街中に張り出される壁新聞。俺は字が読めないからさっぱりわからないが、出版主によっては勇者ヴェセルについて否定的なものもある。


「他にですか?オルフィスベリーの地元紙には南の街道が開通した事が書いていましたよ。毒の沼地の一部が完全に清められたそうです。ウィチカ聖堂に行きやすくなったとかベネット王国との通商が活発化しそうだとか、これ以上賑やかになるなんて想像もつきませんよね」


 ふふふと笑うクララから勇者の話はそれ以上出なかった。あまりしつこくも聞けず、俺はそうですねと返す。


(行方不明って・・・・どこに行ったって俺の自由だろうが)


 苛立ちを悟られまいと俺は川を眺める振りをして顔を背ける。オルモンド国もヴェゼル村も、故郷のはずのそこは俺にとって心を寄せる懐かしい場所ではない。理不尽と不自由、そして不信に満ちた呪わしい場所だ。


 思わず思考が闇に落ちそうになったその時、クララがふと呟いた。


「でも、街道を通せたのも沼地を清められたのも全部勇者さんのおかげなんですから、勇者さんには絶対に幸せになって欲しいですね。何のしがらみもなくのんびり暮らしてほしいなぁ・・・」


 思いもかけない言葉に俺はクララを振り向いた。クララは思ったことを口にしただけだというように、こちらを向くこともなく人の流れを眺めている。


 クララにとっては見ず知らずの勇者の幸せを願っているに過ぎないのに、俺はまた心を救われたような気がした。


「クララさん。好き」


 俺はクララを抱き寄せて言った。


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