18.勇者と魔女の帰り道
※魔女、勇者視点
「え?ベッドを別々で?」
魔物の森のことを知られないよう用心のため何ヶ所か別の町を経由して帰る途中、何日目かの宿屋でとうとう私はカロンさんに頼んだ。
「でも、どうしてですか?」
カロンさんがキョトンとした顔で尋ねてくる。私は顔が赤くなるのを感じながら考えていた言い訳を並べてみた。
どうかカロンさんが聞き入れてくれますように。
「だって、もう何日もお・・同じベッドですし、昨日なんかカロンさん狭かったでしょう?たまにはのびのびと寝たほうが良いんじゃないでしょうか?」
「そんなことですか?全然問題ないので大丈夫ですよ。てことで夫婦用の寝台の部屋でお願いします」
そう言ってカロンさんがあっさりと部屋を取ってしまう。行きましょうか、と肩を抱かれて促されれば、抵抗できるはずもなく大きなベッドが一つのお部屋に通された。
カロンさんは聖堂で再会してからというもの、あまりに心配だったのか眠るときも私のことを離さなくなってしまった。触れ合って体温を感じていないと心配で眠れないというのだ。
私も最初は嬉しくて心地よく眠っていたのだけれど、だんだんと邪念が湧くようになってしまったのだ。
結局今夜も誘われるまま、同じベッドに入る。
お風呂上がりの薄着のカロンさんは大きくてあったかくていい匂いで、くっついていると間違いなくとても心地良い。カロンさんは寝付きが良いのか、気がつけばいつも先に寝息を立てている。
そんなカロンさんが寝返りを打って向かい合う形になると、私にはどうしてもその胸筋が気になってしまうのだ。
(うぅ・・・包みこまれたいよぉ・・・!!もう少しくっついてもいいのかなぁ・・・・でも、昨日のベッドで寝辛かった分今夜はゆったり寝てほしいし)
カロンさんの寝相によってはすっぽり腕の中に入ったり、後ろから抱きしめられる形で密着できることがあるのだけど、それを勝手に再現してカロンさんの安眠を妨げてしまっては申し訳ない。
(駄目だわ。どんどん我慢できなくなっちゃう。次こそは別々のベッドにしてもらわなきゃ)
でも、今日もまたカロンさんが眠ったまま私を抱き寄せてくる。向かいあったままたくましい腕に引き寄せられ、足まで絡められればもう私から離れることは出来ない。起きている時なら優しく包み込むような腕が眠っている時は少し強引に私を従わせる。それに何故かぞくぞくとしてしまうのだけれど、この感覚は一体何なのかしら。
(これは不可抗力、これは不可抗力)
自分に言い訳しながらカロンさんの胸元に頬を寄せると、そのぬくもりと安心感から何もかもがどうでも良くなり、私は得も言われぬ多幸感の中眠りに落ちてしまうのだ。
(うう、もうやめられないよぉ・・・)
クララが寝入るのを見計らい、俺は寝たふりをやめる。クララは一度眠るときちんと朝まで眠る。無防備が過ぎるがそこが良い。
腕の中のクララは俺の胸に顔を寄せて幸せそうに眠っている。眠る前の様子からも嫌がられているようには見えない。
(別のベッドが良いなんて・・・気付かれたか)
確かにこの数日間、毎日ダブルベッドの部屋だった。もちろんわざとだ。
最初の宿でのお預けがたたり、再会した夜に一緒に寝ようと俺はクララに泣きついた。聖堂のベッドは狭かったが、悲しげな子犬のような俺をクララはベッドに入れてくれた。もうっ!不用心!!でもそこが良い!!
それからというもの、俺は当然のようにクララと同じベッドを使うことにした。クララは流されやすいので、聖堂を出てもベッドを一つにしておけば抵抗なく一緒に眠る。ついでに寝たふりをしておけば、クララの方から絡めるように手をつないできてくれるのだ。可愛らしいことこの上ない。
「かわっ・・・!」
つい高ぶって、俺はクララの額に口づける。密着した身体が細いのにしなやかで柔らかく、いつまでも撫で回していたい。ので、毎夜勝手に撫でまわしているのに気づかれたのだろうか。
ちなみにまだ一線は越えていない。古巣と離れて傷心のクララに同意無く無体を働くわけにはいかない。俺は『急いては事を仕損じる』ということわざを知っている。
なのでまずは、クララが俺なしでは眠れなくなるくらい当然のように一緒に眠るところから始める事にした。クララの心に空いた穴は俺が埋めなければならない。決して誘われるばかりで誘ったことがないからじゃないぞ。
(クララと末永く暮らすのはこの俺なんだから、焦ることないもんな)
そしてそれからさらに数日後、森に帰りついた時、出迎えたクロネコは俺達を見て怪訝に眉をひそめて俺だけに言ったのだった。
「フノウ・・・?」
「アッハハ失礼なクソ猫だなぁ!」
そんなこんなで俺とクララは無事、魔物の森の楽しい暮らしに戻ったのだった。俺たちに『聖竜を連れて世界を浄化して回る賢者』の噂が届くのは、もうしばらく先の話になる。
おしまい
ここまでお読みいただきありがとうございました。
長い時間がかかりましたが、なんとか終了させることが出来ました。
ひとえに読んでいただけた方々、そしてレビューを下さった方のおかげです。圧倒的感謝・・・っ!
まだ彼女たちで書けることがいくつかあるので続きを書きたいなと思いつつ、別のお話も投稿したいなと思っています。またお付き合いいただければ幸いです。
最後に、評価、レビュー等よろしければお願いいたします。
心の支えにします。




