17.魔女、旅立つ
※魔女視点
それから聖竜の扱いが決まるまでの数日間、私とカロンさんは聖堂に留まった。
いくら私が使役したとはいえ、聖竜を魔物の森に連れ帰るわけにはいかない。かといって私が聖堂にとどまるわけにもいかず、ならば私と聖竜の間の縁を他の誰かに移さなければならない。それは浄化の聖堂の大神官であるレオスくんが適任だろうということで、シロネコさんの知恵を借り、私からレオスくんへの聖竜の譲渡が行われることになった。
その間、レオスくんの計らいで身元は隠してもらっていたけれど、聖竜の暫定的な主であった私について噂が広まるのは時間の問題だと思う。
なので聖竜の譲渡が成立した日、私とカロンさんは聖堂を出ていくことにした。
「そう急がずとも、明日発てば良いだろう」
肩にシロネコさんと、縮小化を覚えたばかりの聖竜を乗せたレオスくんが言う。どうやらシロネコさんもレオスくんを気に入ったらしい。しばらく聖竜さんの親がわりとしてレオスくんの元に身を寄せるそうだ。
すでに出立の準備を済ませて挨拶に来た私たちを見て、レオスくんは眉間にシワを寄せる。それに私はいいえと答えた。
「今からなら経由地で宿も取れるし・・・長居をして気付かれると困るから」
私の苦い笑みを見てレオスくんは苦虫を噛むような顔をしたけれど、口をつぐんで頷いてくれた。
「確かに・・・すぐに発つべきだ。追跡されないよういくつか町を経由した方が良いかもしれない」
もうレオスくんは私を止めない。その事に私は感謝と、少しだけの胸の痛みを覚えた。
聖堂に所属していた頃の私にとって、レオスくんは恐ろしくもあり、同時に確かな心の支えでもあった。同じ苦しみと恐怖を味わいながら、それでも立ち上がる彼の存在を何度利用したか知れない。
彼に置いていかれないため、彼を失望させないため、彼を1人にしないため。そんな口実で私は力を振り絞り、あの辛い瞬間を耐えてきたのだ。
(どうしよう、別れの言葉が思いつかない)
「クララ」
隣にいたカロンさんが気遣うように肩に手を置いてくれる。私はその手に自分の手を重ねた、カロンさんの力を分けてもらうように。
(伝えなきゃ・・・)
言葉にしなきゃ伝わらない。
「レオスくん」
レオスくんの金色の目。いつもまっすぐに見据えてくるのがたまらなく怖い時期があった。でもいつしか、それは相手の話を聞き漏らすまいとする誠実さ故なのだと気づいた。
「私・・・聖堂は嫌だけど、あなたのことは大切に思ってるの。あなたのこれからの人生が、明るくて、温かくて、嬉しい事に満ち溢れることを・・・祈っています」
「・・・・・・ありがとう。クララ」
泣き出しそうになるのをこらえる、唇を引き結ぶレオスくんも、もしかしたら同じ気持ちなのかもしれない。
そんな沈黙の中で、シロネコさんが呆れたように言う。
「にゃぁ〜にぃ?ボウヤとおジョウちゃんがコンジョウのワカれみたいにぃ。アナタ、オンあるワタシにニドとカオをミせないキぃ?」
「えっ?あっ!その。いえそんなつもりは・・・」
「そうでしょぉん?ネンにイチドはカオをミせるべきでしょぉん?どこでアったってイいんだからぁん」
「・・・っ・・・ふふ、そうですね」
はっとした私は嬉しくなって笑う。シロネコさんに言われるまで気づかなかった。聖堂に関わりたくないからといって、レオスくんと今生の別れをする必要なんてないのか。
「じゃあ、いずれまたお会いしましょう。それまでみなさんお元気で」
そう言って、私とカロンさんは移動魔法を使って浄化の聖堂を去ったのだった。
評価、レビュー等ありがとうございます。
泣いて喜んでいます。
次が最終章です。




