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16.勇者、飼い主をとりもどす

※勇者視点


「もうダイジョ―ブだわぁん」


 クララの額に肉球を乗せていたシロネコが前足を戻しながら言う。


「本当だろうな。すぐ目覚めるんだろうな」


 俺は意識のないクララの枕元に張り付いたままシロネコに食って掛かった。こいつら人外の大丈夫は信用できない。人外と人とでは大丈夫の基準が大きく違うことがある。


 シロネコは嫌そうに目を細めると、寝台から飛び降り傍らにいたレオスの足に身を擦り寄せながら言った。


「おキるわよぉん、けっこうテマエにいたからぁ」


「手前?」


 そう呟いた時、寝台の上でクララが小さく身じろいだ。


「クララ!」


 部屋に集う一同が息をのむ。俺は声が震えるのをどうにか抑えながら、クララの顔を覗き込んだ。クララの薄い瞼が震えてゆっくりと持ち上がり、深い赤色の目がぼんやりと俺を捉える。


「クララ?」


 目を開いた途端、次々と新たな恐れが頭をもたげる。意識は正常か?俺のことを忘れたりしていないよな?身体は無事に動くだろうか?どんなクララになっても愛し続ける自信はあるが、できればクララとして生きていて欲しい。


 ぼんやりと俺を見ていたクララの手が動き、俺の頬に触れた。ゆっくりと笑う、いつも俺を見つけて浮かべてくれる笑顔で。


「カロンさん、私・・・帰ってこれた?」


「うん、帰ってきた。俺のところに帰って来たよ」


(良かった・・・・!)


 もう絶対に離れない。誰にも渡さない。クララ、俺の全て。


 堪らず俺はクララを抱きしめた。思いが言葉に出来ないのに伝わって欲しくて、強く抱きしめたいのに壊してしまわないように力を押さえるので精一杯だ。俺にもっと学があれば、クララが俺にとってどれほど大事で、離れていた間どれだけ不安で、再会がどんなに嬉しいか伝えられるのに。


「おい!傷にさわるだろう!」


「やめとけおまえ!死にたいのか!」


 そばで控えていたレオスとアロウズが騒いでいる。その声を耳にして、クララが状況に気づいてしまった。


(大神官殺す)


「あっ・・・あれ・・・もしかして人前・・・」


「気にしなくていいです。問題ありません」


 俺とクララの感動の再会なのだ、他人に邪魔されてたまるか。慌てて身を起こそうとするクララに手を貸しながら、もっとぎゅっとするため俺は寝台に乗り上がり、クララを膝に乗せて抱き込んだ。


「でも、ちょっと人前は・・・・んんっ!?」


 恥じらいながら周囲を見回したクララが、ある一点を見てビクリと体を強張らせる。どうやらこの部屋の中の異質な一角に気付いたらしい。


「カロンさん・・・この・・・大きな子は?」


「え?クララの知り合いなんじゃ?」


 クララが驚くのを見て俺もまた戸惑う。


 寝台以外なにもない聖堂の客室、その小さな部屋の石壁を切り取っただけの無骨な窓から、白銀に輝く竜の顔が突っ込まれていた。おかげで部屋の半分近くが竜の頭部に占拠されている。


 それだけでも目を疑う光景なのだが、この竜はどうやらクララを心配しているらしい。金の針金のようなまつげに縁取られた赤い目が、うるうるとクララに注がれているのだ。


 知り合いではと問われ、クララは確かめるようによくよく竜を見る。


「いえ・・・存じ上げないドラゴンさんです」


「そんな馬鹿な、お前を運んで助けた竜だぞ」


 傍らのレオスが怪訝な表情で言う。その言葉にクララは目を丸くした。


「本当に?・・・それはそれは、ありがとうございます」


 クララがぺこりと飛竜に向かって頭を下げる。飛竜はそれを理解する様子もなく何度か瞬きをした。


「じゃあ、この竜は一体何なんだ?」


 アロウズが呟く。その答えはクララが持っているものとばかり思っていたのだが。人間たちが首をひねるのを見て、にゃあんと啼いたのはシロネコだった。


「オモシロ〜い!アナタシらないであのイシをモッてたのねぇん」


「あっ、シロネコさん!助けてくださってありがとうございます」


 シロネコに気づいたクララはまた頭を下げた。シロネコはいいのよと寝台にぴょんと飛び乗りクララの前に座る。事情がまるでわからない俺達人間は、シロネコの言葉を待った。注目を浴び、シロネコは愉快気にクララに言う。


「アナタがモってたイシ、ドラゴンのカクでしょう?まさかジョウカにサラすとはオモいもしなかったけどぉん」


「ドラゴンの・・・カク?」


 クララと俺は顔を見合わせる。


「もしかして、ドラゴンジュエルのことか?」


「そうよぉん。ツヨいチカラにサラすとセイチョウするのだけどぉ、ここまでキュウセイチョウするとはねぇん」


 飛竜をちらりと見ながら、よっぽどのチカラにサラされたのねとシロネコが言う。それに心当たりがあるのか、今度はクララとレオスが顔を見合わせた。おい、なんだよ、やめろやめろ見つめ合うな。レオスが見てくるのが悪い。


「そして、アナタがサイショにシエキしたからアナタをシュジンだとオモってるみたい。スリこみねぇん」


「使役ですか・・・?」


 覚えがないというようにクララが首をひねる。刷り込みって、鳥がする奴じゃなかったっけ?生まれて初めて見た動く相手を親だと思うみたいな。魔物でもそんな事があるのか?


「あっ、もしかして・・・」


 クララが口もとに手を当て、囁くように言った。思い当たるフシがあったのだろう。何を思い出したのか、クララは俺を見てちょっと顔を赤くした。なになになに、可愛いけどなに?


「何があったか話してもらえるか」


 レオスがクララに言った。直接話しかけるなと俺はレオスを威嚇したが、そんなことには気づかない腕の中のクララは素直に頷きこれまでの事を簡単に話す。


 俺と別れてから色々あったようだが、とどのつまりあの赤毛尼僧がクララを殺そうとしたらしい。


(あァんのクソアマァがァああ!!吊るして沈めて刻んで潰して燃やしてもういっぺん吊るしてやる・・!)


 俺のクララに危害を加えやがったのだ、あの尼僧は万死に値する。


 しかし怒りに総毛立つ俺を、瞬時に落ち着かせたのはクララの次の一言だった。


「それで気が遠くなったときに私、とにかくカロンさんのところに帰りたいと思って。それだけを強く願ったんです。・・・・・・もしかするならそれかも・・・」


「じゃあそれねぇん。このコ、このボウヤメガけてトんでキたものぉ」


「クララぁ!」


 そんな!死の間際に俺のことを思ってくれただなんて!


 感激した俺は思わずクララの額に頬ずりする。一応人前なので自重したのだが、配慮はあまり通じなかったらしい。


「か、カロンさん。だめです!人前です!」


 途端に照れて慌てるクララに止められ、俺はムッとして邪魔者達を睨んだ。アロウズが諦めの溜息をつく。気まずげなレオスは咳払いをしたあと、苦い顔をしながら言った。


「とにかく、私はこの事態の収拾にあたる。それでその・・・ひとまず、このドラゴンについての処遇を任せてもらえないだろうか。君の許可が下りないとこのドラゴンは動かないらしい」


 レオスはクララと目を合わさないようにしていた。俺への配慮が感じられるので、クララと会話することは許可することにする。クララはもちろんと答えつつ心配そうに尋ねた。


「えっと・・・あの、処分したりしませんよね?」


「無論だ。丁重に世話をさせてもらう」


「でしたら、よろしくお願いします。ドラゴンさん、このレオスくんの言うことを聞いて、お世話になって下さいね」


 クララに話しかけられたドラゴンは、嬉しそうに目を細めてグルルと唸った。そして新しい指令をもらって満足したのか、窓から顔を引っ込めようとする。


「わわっ!?ちょっと待ってちょっと待って!!」


 アロウズが慌てて窓辺から逃げる。ドラゴンの角が窓に引っかかり、無理矢理首を持ち上げた結果、窓は周りの石壁と共に音を立てて崩れた。青空が見えるとともに落下した石壁が階下でぶつかる音がする。表通りに面していたら死人が出ていたところだ。部屋にはあっという間に風通しの良い大穴が空き、そこから聖堂を囲む山脈が見渡せた。


「・・・・新しい部屋を用意しよう」


 レオスは溜息をついてそう言った。




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