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15.魔女、さまよう

※魔女視点


(どうしよう、道が分からない)


 誰もいない倉庫街を私は逃げている。


 ここはどこだったかしら。見たことのある景色、それでいて本当とは違う景色。とにかく早く行かないと、暗い何かに追いつかれてしまう。


 角を曲がると、そこは雪景色だった。


(尼僧服なんかでいられるところじゃない)


 私は白い外套をぎゅっと引き寄せる。隣を見ると、鼻を赤くした男の子が同じように歯を震わせながら黙々と歩いていた。


 そうだ、この山を越えるしかないんだった。次の街まで進むしかないんだ。


 早く、早く、はやく。


 いつの間にか、辺りが焦げ付くように熱くなった。地面が燃えているのだ。呪われた燃える大地を列になって順番に清めながら、仲間たちとどうにかこうにか進み続ける。誰かが力尽きれば、諸共に焼け死ぬようななにもない大地。強力な清めの力で、ラザエル様だけが涼しい顔をして先を進んでいる。


(ラザエル様を追わなきゃ・・・置いていかれないように、はやく)


 落伍者を決してかえりみないラザエル様。弱音を吐けば見捨てられる。落ち度があれば見放される。ついていかなければ、その期待にそぐわなければ、私の居場所はなくなってしまう。


 やがて真っ暗な、闇夜よりも暗く重い闇に呑まれた。


(聖領だ、最初の試練の)


 聖領はおかしなところだ。空腹も、排泄の必要もなくなる代わりにいつまでも眠ることができなくなる。気の遠くなるような時間を闇と沈黙の中で過ごさなくてはならない。


 だんだんと恐怖で仲間たちがおかしくなる。みんなどうして静かにできないのかな。暗いだけで狭くないんだから、もっと落ち着けばいいのに。身動きの取れない箱に閉じ込められる方がもっとずっと怖いのに。


 荒い息が聞こえる。隣にいる誰かが精神を保とうと必死に耐えているようだった。


 私は床をたどりながら出来るだけそっと隣に手を伸ばした。


 誰かの手がある。自分と同じくらいの子どもの手。触れ合った途端にビクリと震え、ものすごい力で私の腕にすがりついてくる。


(大丈夫、大丈夫)


 私は反対の手で、その子の背中を探して撫でた。撫でながら、私もまたその子の肩にすがった。


 長い時間そうしていた。信じられないくらい長い時間をそうして耐えた。


(この子は誰だったっけ)


 確か、何度もそうやって聖領の試練に耐えた。5回の試練の最後には、二人きりになっていたっけ。


「なにをしている」


 ふと、側に女性が立っていた。闇の中なのに、黒いシルエットが浮かび上がっている。美しい獣のような優美な姿だった。


「どうしてこんなところにいる。はやくかえれ」


 でも、どうやって帰れば良いか。どこに帰れば良いかわからない。声も出せずに戸惑っていると、その人はため息をついて言った。


「もどらないとおれはこまるぞ。けいやくいはんだ」


「え?」


 契約?


「すうじつのがいしゅつしかゆるしてない。ここにくるひまがあるならもりにもどれ」


(森・・・)


 森で待っているのは。


「カロン・・・!カロンさん!!」


(なんで気づかなかったのかしら、カロンさんのところに帰らないと)


「わかったら、さっさともどれ。ふゆかいなしるしまでつけて、それはずしてかえれよ」


 そう言って黒い女性はかき消えた。


「えっ!?あっ!戻り方は!?」


 私は慌てる。そして同時に色々と思い出してきた。聖領の底でアンナに刺されて毒が回ってしびれていて。もしかして私、今すごく危ない状態なんじゃないかしら。


「どうやって戻れっていうんですかぁ!」


 その時ふと、額に冷たい何かが触れた気がした。さっきの女性が言っていたふゆかいなしるし。


(もしかして!?)


「し、シロネコさぁん!!助けていただけませんか!!あの時のご加護でなんとか!!」


 私は声を張り上げた。すると、何処からともなく光が差し、にゃあんと声が聞こえたような気がした。


「おりこうさぁん。まかせてえぇん」


 途端に私は感覚がなくなり、意識が途切れた。



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