13.勇者、ブレスに呑まれる
※勇者視点
トテモ痛イコトアッタ
トテモ苦シクテカラダ棄テタ
種ニナッテネムル
アタタカイ何カニツツマレテ心地良イ
コノアタタカサヲ奪ウナラ
再ビ蘇リテ我ガ息吹デ屠ルマデ
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浄化の聖堂は毒の沼地に囲まれた荒れ地に建っていた。
オルフィスベリーの教会の方が立派なのではないかと思う無骨な石造りの聖堂は、さながら地に穿たれた楔のようだ。
「魔王城みたいだな」
アロウズがぽつりと呟く。
それでも、聖堂に続く街道には多くの信者がひしめいていた。オルフィスベリーの南の街道が浄化されたことが大きくかかわっているらしい。
浄化されたと言っても、実際は馬車が一台通り抜けられるのがやっとの街道しか清められていない。一歩踏み外せば毒沼といった危険な場所が多いのだが、かつては背後の山を通り抜ける形でしか辿り着けなかった浄化の聖堂に街道を通って行けるようになったのだから、病や呪いに苦しむ信者にとってはありがたい道なのだろう。
その信者の列に遮られる形で、俺達は聖堂のかなり手前から馬車を降りる羽目になった。その上シロネコを抱えたレオスが大神官姿のため、気付いた信者たちがレオスに付き従うように後をついてくる。あっという間に俺達は巡礼集団の頭となり、急ぐことも出来ず夜明け前の街道を進んでいた。
そんな薄明るくなった頃にやっと姿を見せた聖堂から、白い光の柱が昇ったのに気付いたのは後方の信者たちだった。
「あれは!」
恐怖に裏返る叫び声。自然と足が止まり、人々の目が聖堂の上空に釘付けになった。一斉に息をのむ音が聞こえる。聖堂のわずかに上空に現れたのはこうもりに似た巨大な翼、トカゲのような長い尾、そして輝くような鱗を持つ魔物。
「飛竜か・・・?」
俺は空を見つめたまま、呟いたアロウズの足を思い切り踏んでやった。こいつは思ったことが口からこぼれすぎる。
左手で剣を確かめながら俺は飛竜を注視する。飛竜は白い鱗の身体で聖堂の上空を旋回しており、まだこちらに気づいている気配はなかった。
(落とすのが面倒なんだよな。呪物系装備してればあっちから降りてきてくれるんだが)
魔物が俺を標的にしてくれさえすれば反撃で潰せるが、あいにく呪われた装備の持ち合わせがない。
「大神官、信者をまとめていられるな?」
俺は同じく先頭を歩いていたレオスに尋ねる。剣呑なまなざしで飛竜を眺めていたレオスは俺の問いかけにムッとする。
「無論だが、一人でやれるのか?」
「当然、飛ばれるだけ面倒だけどな。アロウズも邪魔だから・・・」
その時、にゃぁあおとわざとらしくシロネコが啼いた。機敏に動き出しレオスの肩に乗り換える。慌てて支えようとしたレオスにシロネコが何かを囁くと、レオスの顔が凍り付いた。
「なんだ?」
俺は剣を抜きながらシロネコとレオスを見る。レオスは注意深く周囲を見回し、俺を見ると声を出さず口だけでこう言った。
『あれにクララが』
俺は飛竜を見る。飛竜はこちらに気付いたのか、ゆっくりと聖堂から離れて街道をたどり向かってきた。大まかにしか判らなかった特徴が徐々にはっきりと見えてくる。金色の背びれ、朝日にきらめく白銀の鱗、赤い瞳と白いかぎ爪、その爪の間から見え隠れする黒い、髪。
息が止まる。音が無くなる。世界に亀裂が走るように目の前が暗くなる。
どういうことだ?あれがクララだと?飛竜の爪の中に?握りつぶされたらおしまいだ。
(一撃で首を飛ばす)
だめだ。そのあとどうやってあそこから助ける。落下する身体から無傷で救い出せるはずがない。巻き込まれて潰れてしまう。斬撃では解決できない、何とかして足止めするしか。
俺は抜いた剣を鞘に戻す。
「皆さん、大神官さまと共にお下がりください。あの竜は私が止めます」
俺は声を張り上げて周囲の信者に呼びかけた。信者たちは恐慌の一歩手前で、怯えながらもどうして良いかわからないままその場に釘付けられている。俺の言葉に従っていいかすら判断がつかないらしい。
「大神官の名の元に命じる!皆、背後の森まで下がるのだ!」
レオスがそう呼びかけ、初めて信者たちは動き出した。
「皆さん!足元に気を付けて下さいね!沼に気をつけて、子供とお年寄りは転ばないように!」
アロウズがそう呼びかけながら老婆の手を取りそそくさと下がっていく。いても役には立たないのでこの際どうでも良い。しかし、退く信者の波に逆らうようにレオスとシロネコがこちらに向かってきた。
「ヴェセル!」
飛竜はいよいよ眼前に迫り、鎌首を持ち上げ口元には光が宿り始めた、ブレスだ。俺は舌打ちする。俺はともかくレオスとシロネコが耐えれるのか疑問だ。
「下がれっつってるだろ!伏せろ!」
「違う!そいつは聖獣だ!」
「はぁ?」
セイジュウ?
言葉の意味を理解する前に、飛竜の白金のブレスが地上に放たれた。
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