1.魔女と勇者、外出する
※魔女視点
クララを掘り下げる(予定の)新章です。
毎日投降を目指しますが、隔日になるかもです・・・。
どうかよろしくお願いします。
既に日は落ち、辺りはとっぷりと暗い。それもそのはず、このあばら家は魔物の森の奥深くにある。ほかに明かりを灯すような生き物は何一つ存在しない。
「そういえば、お出かけするのすっかり忘れていましたね」
夕食後のくつろいだ時間。ベッドの隣の棚に置いた細いろうそくに照らされ、私は膝の上のカロンさんをなでなでしていた。そしてふと部屋の片隅に置かれたままの薬草を詰めた袋を見て思い出した。
数日前にクロネコさんの縄張りを荒らしていたドラゴンさん率いる魔獣の群れを退治した私たちは、それからの時間を魔獣さんたちのドロップアイテム拾いに費やしていた。
ドラゴンさんの肉は魔獣さんたちのごちそうだという。縄張りの主であるクロネコさんの分配で魔物の肉はあっという間に魔物が喰らいつくされた。そして残ったドラゴンの骨や鱗に牙に爪、そのほか魔鳥の尾羽に目玉などは、私たちがもらい受けることになった。
「そういえばそうですね。忙しくて忘れてたなぁ・・・」
ベッドに腰かける私に頭を預けて横たわるカロンさんが言う。日中あれやこれやと動き回っているため、カロンさんよしよしタイムが夜に移動したのもこの数日の変化の一つだ。カロンさんは魔獣さんなでなでが始まる前にアイテム収集に出掛け、夕方帰ってくる生活が続いている。
「アイテム拾いも一段落したので、一度換金に行きましょうか」
そう言ってカロンさんが仰向けになって私を見つめる。力を抜き心地よさそうにするカロンさんを見ていると、私も自然と肩の力が抜けた。
けれど私はそんなカロンさんに対して今日も湧き上がるとある感情に戸惑っていた。
(カロンさん、めちゃくちゃ顔整ってる・・・)
金色の髪は少し耳にかかるくらい、暗い中でも光るような青い瞳。前々から男性というよりは男の子っぽい、可愛らしめの顔だと思っていたのに、気を抜いた状態でもカッコいいってどういうこと?
そしてもう一つ。
(筋肉すごい・・・首とか肩とか、胸板とか・・・)
水浴びや力仕事の時に上着を脱ぐとみえる筋肉が信じられない美しさなのである。
(触りたい・・・・すごく撫でたい)
クロネコさんにするみたいに身体も撫でたい。しなやかで大きくて固そうな筋肉を思いきり抱きしめて頬ずりしたい。太い腕に抱きつきたい。
でも、人生経験の乏しい私でもわかる。それは一線を越えてしまう行為だ。特に男女の関係において、軽々しく頼んでいいことではない。
「クララさん?」
黙り込んでしまった私にカロンさんが声を掛ける。
私はハッとして邪念を払いながら言う。
「あっ、そうですね。買い物もしたいですし」
「じゃあ明日出掛けましょうか」
そういうわけで、翌朝私たちは町に出かけることが決まったのだった。
「ではクロネコさん、申し訳ないんですがしばらく失礼します」
「モンダイナイ。ユックリシテコイ」
旅装を整えた私は、中庭のテーブルの上に寝そべったままクロネコさんに言う。クロネコさんはテーブルが気に入ったのか、ここに来るといつもそこを陣取っている。ドラゴンさんのお肉で回復したらしく、毛並みはつやつやになり以前より一回り大きい。最後の最後にドラゴンさんに止めを差したことで魔物からの敬意が高まり、縄張りも広がったそうだ。
「最後に一回だけ・・・」
あまりのモフモフ感に、私は手にしていた荷物を置いてクロネコさんに顔をうずめた。筋肉とモフモフの共演・・・。はぁ、至福。
「クララさん」
同じく旅装を整えたカロンさんが呼ぶ。いけない、山のように荷物を持ってもらっているのに待たせてしまっている。
「あ、すみません!つい」
「いえ・・・急がないのでいいですけど・・・」
カロンさんは苦笑する。私は慌てて荷物を持った。売れる素材が増えたおかげで、私もカロンさんも大荷物だ。
「では手を握ってください、唱えますよ」
ここから東のオルフィスベリーへ。
それだけを念じて私は呪文を唱えた。
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泣いて喜びます。