少女士官に奢られた缶コーヒー
レーザーライフルから放たれた真紅の光線が、面頬の隙間からカメラアイを的確に捉えて風穴を開ける。
次の瞬間、ロボット騎士の頭部が内側から爆ぜて四散した。
破壊された配線が火花を散らす様は、無惨の一言だ。
「よし!どんな装甲も内側からなら!」
狼狽する敵の哀れな有様に、精密射撃を敢行された吹田千里准佐は喜々とした御様子だ。
戦場を吹く風に黒いツインテールを嬲らせながら、愛銃を携えられた立ち姿。
その凛々しさたるや、国際防衛組織である人類防衛機構の正義を象徴するかのようだ。
白兵戦を得意とする少女士官である特命遊撃士は、戦場の花形と呼ぶに相応しい。
「今です、江坂芳乃准尉!奴の断面に集中砲火を!」
「承知しました、吹田千里准佐!」
そんな吹田准佐の命令を受け、私は目下の敵の掃討に取り掛かった。
「総員、撃ち方始め!」
分隊長である私の号令一下、部下達の突撃銃が一斉に火を吹き、内側から装甲を破壊されたロボット騎士を完全な屑鉄に変えていく。
人類防衛機構の歩兵部隊である特命機動隊に入隊して、早くも十九年。
何度となく繰り返した危険分子の掃討作戦は、今回も無事に完遂出来た。
犠牲者を出さずに済んだのは、分隊長としては何より喜ばしい事だ。
掃討作戦を終えて軍用車へ乗り込もうとした私を呼び止めたのは、我が分隊を率いて戦った吹田准佐だった。
「お疲れ様です、江坂芳乃准尉!良かったら分隊の皆様で召し上がって下さい。」
そうして吹田准佐が差し出されたのは、微糖タイプの缶コーヒーだった。
心の芯まで冷えそうな冬には、実に有り難い。
「有り難く頂きます、吹田千里准佐。御心遣い感謝します。」
「感謝するのは私の方ですよ、江坂准尉。訓練時代から本当に御世話になってます!」
そうして頭を掻く吹田千里准佐の笑顔は、同年代の民間人少女と変わらぬ屈託の無い物だったよ。
基地へ帰還する軍用車に揺られながら、私は吹田准佐から頂いたコーヒーの缶を抱いていた。
「吹田准佐が差し入れとは驚きましたね。失礼ながら子供っぽいと感じていたのですが、こんな心遣いが出来る程に成長されていたとは頼もしいですよ。何しろ、あの御姿で高一なのですから…」
「そう仰っては可哀想ですよ、天王寺ハルカ上級曹長。実年齢より幼く見間違われるのを、吹田准佐は好まれません。」
副官の軽口を窘めながら、私は掌中の缶を再び握り締める。
スチール缶に未だ残る温もりは、吹田准佐の真心のように感じられたよ。