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6・王子さまの護衛騎士になりまして!


 王子さまの護衛騎士に任命されて一週間後。正式に王命が下された私は、王子さまとの初対面を果たすべく、城の中庭で彼を待っていた。着ているのはもちろん女性騎士服だ。

 特に可愛くも美しくもない凡庸な見た目の私だけど、この素敵な騎士服のおかげで八割増しで可愛く見える、はずだ。たぶん。服の効果は侮れないし、おばあちゃんもラフェスさんも身支度を手伝ってくれたからね!

 うっすら施した化粧は、実は元王妃様付き侍女だったおばあちゃん家政婦さんが。綺麗にまとめられた髪はラフェスさんが編み込みをしてくれた。

 お屋敷を出る前に鏡で見た自分はまるでお嬢様みたいで、しげしげまじまじと眺めてしまうほどでした。中身は庶民も庶民、ど庶民だけどね!


 お城の中庭ってこんな広いんだな、お花いっぱいだー。なんでも中庭に魔物除け結界の要石があるらしく、結界の効果もここが一番強いらしい。だから王子さまの部屋も中庭を見下ろせる位置の部屋だとか。

 王城の裏が魔物の住む森なら、裏庭に設置した方がいいのでは。そう思ったんだけど、色々条件があって中庭が一番らしい。詳しくは聞かなかった。聞いたところで理解できないだろうしね。


 で、魔の森に面する王城の裏庭、というか王城裏の広々草原グラウンドは訓練場になっている。

 そんな裏庭をぐるっと囲む城壁の向こう側は断崖絶壁。その真下が魔の森だ。建国者はどうしてこんなところにお城を建てようと思ったのか、歴史を調べたら分かるのかな。

 あとここ数百年は、魔の森から王城へ侵入した魔物はいないとのこと。空を飛ぶ魔物は住んでおらず、小型の魔物が崖をよじ登って城壁近くまで寄ってくる事は稀にあるけど、すぐに森に帰っていくらしい。


 そんなことをつらつら考えていると、小さな足音と共に人の気配が近づいてきた。帯剣中の私は、暗殺者もかくやというほど気配に敏感なのである。剣の愛し子、本当にすごすぎない?

 振り返ると、グウェンさんと小さな男の子がこちらに歩いてくるところだった。俯きながらもまっすぐ歩いてくる姿に、小さくても王族オーラすごいな、なんて思う。なんというか、纏う雰囲気が普通じゃない。さすが次の王様。

 俯いている上に長い前髪が邪魔して、顔が全く見えない小さな男の子。そんな彼の髪は、太陽の光を集めて糸にしたみたいな、とても鮮やかな金色だった。

 そういえば魔力の種類を教えてもらってないや。あとで聞かないと。


 グウェンさんは少し離れたところで足を止め、王子さまの背を押す。

 王子さまの魔力放出は感情の揺れがトリガーになることが多いらしい。珍しすぎる黒目黒髪の私と会ってどう感じるのか、誰にも全く見当もつかなかった。だから結界が強力な中庭で、グウェンさんも同席した上での対面になりました。

 王子さまは促されるまま一人で歩いてきて、私まであと数歩のところで足を止める。そして恐る恐る、顔を上げて私を見た。

 彼と私の視線が交わる。私は思わず目を丸くしてしまった。


 極彩色というか、プリズムというか。

 王子さまの目は、きらきらと光を反射して、定まった色を持たない、まるで宝石みたいな色をしていた。

 私の目も光の加減で色味が変わるけれど、王子さまの目は色味じゃなくて、色そのものが変わり続け、きらきらと光り輝いて見えた。

 その綺麗さに見惚れていたけれど、彼が再び俯いたことで我に返る。それと同時に、陛下の言っていた言葉の意味を察した。


 私は真っ黒な目を恐怖の対象として。

 王子さまは極彩色の目を興味の対象として。


 私たちはその目の色から、初対面の人たちにまじまじと不躾に、目を見つめられてしまう仲間だったのだ。

 私はまだそんなに経験していないけれど、この王子さまはそれこそ赤ちゃんの頃から、そんな不躾な視線を浴びて続けてきたはずで。

 一瞬合った彼の目には、強い恐怖が浮かんでいた。思わず目を凝視してしまった自分に怒りを覚える。

 まずは怖くないと、分かってもらわないと。

 私はしゃがんで、王子さまと目の高さを合わせた。前髪の隙間から私を見つめる怯えた目に、にっこり笑って見せる。


「はじめまして。私は結樫英里奈といいます」


 自己紹介をしたら王子さまが目を丸くした。

 ああ、そういえば私、対外的にはカタコトでしか喋れない設定だった。陛下と王妃様は誰にも話さないと約束してくれたから、きっと王子さまも知らなかったのだろう。ごめんね、驚かせて。

 彼の目を凝視しないように、だけど目が合っているように感じさせないと。眉間を見るといいんだっけ? あれ、鼻の頭だっけ? とりあえず目を凝視しなければなんでもいいや。


「聞いているかもしれないけれど、異邦人です。珍しい見た目かもだけど、怖くないよ」


 王子さまだけど子供だし、敬語じゃない方がいいかなって思って、わざと普通に話しかける。

 こっちがかしこまったら、あっちだってかしこまってしまうから。私の任務は王子様が自由に動けるようにサポートすること。ならばまずは信頼関係から。鉄板ですね!


「よろしくね」


 とりあえず笑顔と握手は万国共通! そう思って手を差し出してみた。不敬? 私異世界人だからわかんなーい。

 王子様は私の目と手を交互に見て、しゅんとして頭を下げた。王族がそんな簡単に頭を下げちゃっていいのかなと思ったけど、今はよけいなお世話なので言いません。


「あの……こわがって、ごめんなさい」

「この世界に黒目の人はいないんだってね、それを聞いた時は驚いちゃった」


 あ、この世界って言っちゃった。まあいいや、あとで口止めしておこう。

 自分の失言に内心舌を出していると、王子さまは私の手を取って、ぎゅっと握った。

 小さくて可愛い手。すっごくぷにぷにしている、とっても可愛い手。

 なにこれ、ときめく。


「第一王子の、ウィスタリア・クロノ・ゼーレエンデです。これから、よろしく、ね?」

「はい! 末永くよろしくしましょうね、ウィスタリア殿下」


 繋いだ手をぶんぶんと上下に振れば、殿下は照れたように俯いた。繋いだ手を離そうとしなかったから、嫌だったわけじゃないはず。

 私は一人っ子なので兄弟はいないけど、弟がいたらこんな感じなのかな。


 よーし、今日から私はウィスタリア殿下のおねーちゃんになります!


 ひとまず、顔合わせは大成功だったと思う。だってこの日は挨拶だけで終わるはずだったのに、殿下直々に誘われて、中庭を案内してもらったのだから。


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