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5・初の女性騎士になりまして!


 ラフェスさんも交えて話し合った結果、私の能力は王様に報告することになった。異国出身の黒目黒髪魔力なし、それも女が剣の愛し子だったことを。

 イレギュラーだらけの私に、関係各所は揉めに揉め。最終的にはグウェンさん率いる近衛騎士団の新人騎士として、王城勤めが決定した。

 ちなみにそのお言葉が陛下の口から出た瞬間、グウェンさんの目から光が消えた。本当にごめんね、グウェンさん。


 私が見習い騎士になることが決定して十日後。

 私の騎士服が出来たと連絡をもらったので、グウェンさん夫妻と一緒に登城し、国王夫妻と謁見することになった。

 この国初の女騎士ということで、なんとびっくり、女性用の騎士服を新たにデザインして作ることになったのだ。

 最初、陛下とグウェンさんは男性用の騎士服をそのまま流用するつもりだったらしい。でも男性に最適化された服を、そのまま女性に当てはめても美しくない。そう王妃様とラフェスさんが猛抗議、いや強く説得してくれて。

 そんなこんなで完成した、女性騎士服のお披露目会。参加者は私とグウェンさんとラフェスさん、そして陛下と王妃様。ちょっと緊張しちゃうね。


「エリナ、とっても似合うわ。かわいいのにかっこよくて、本当に素敵よ」


 王城のメイドさんたちに手伝ってもらい、真新しい騎士服を着た私を、ラフェスさんは興奮に顔を赤らめ誉めちぎってくれた。美人さんがはしゃいで心から喜んで誉めてくれるのは、眼福だしとっても嬉しい。私まで照れちゃう。

 女性用の衣装なのだからと、ラフェスさんと王妃様が一生懸命デザインを考えてくださった騎士服だ。動きやすく、けれども可愛い、なんとも欲張りな騎士服に仕上がっている。


「本当に似合っているわ。公務も放ってデザインした甲斐があるというものです」


 え、公務より優先してくれたんですか?

 王妃様の爆弾発言に驚く私へ、陛下は苦笑いを浮かべ、グウェンさんは死んだ魚の目になった。うん、何も聞くまい。

 私は大きな姿見で自分の姿を映し、騎士服をじっくりと観察する。


 真っ白な上着は、お尻にかかるかかからないかくらいの長さ。詰め襟タイプで、襟と袖には金の刺繍。裾には金の刺繍と飾りレースがつけられている。

 女性らしさを演出するためか腰の部分が絞ってあって、それによって遊びが生まれ裾の光沢あるレースがきらきら光って綺麗。

 この世界は足を見せることがはしたないとされる、異世界あるある文化なので、下は紺色のぴっちりめパンツ。そこに金刺繍の入った白のロングブーツを履いて、帯剣用のベルトを巻いて剣を差せば、女性騎士服の完成!


 うんうん、とっても可愛い! 可愛いのだけれど、着ているのが平凡な日本人である私なのが痛い。幸い、汎用性のあるデザインだから似合っていないわけじゃないだろうけれど。でもこういうのは美少女が着てこそでしょうに。でも美少女が戦場に出るのもなぁ……うん、私で良かったかな!


「レースなんてつけても、すぐぼろぼろになるだろうに」


 鏡で騎士服を確認している私に、グウェンさんが呆れ顔で言った。

 ちなみにこの騎士服、当たり前だけれど近衛騎士団の騎士服を元にデザインされている。もちろん男性用にレースはついていないし、刺繍の量とかは全く違うけれど、白の上着に紺のズボンは共通だ。

 白の上着は近衛騎士の証なのだそうで。王族の側に仕える騎士なのだから、身だしなみには特に気を使え、ということらしい。

 ちなみに近衛騎士団長のグウェンさんは、特例で真っ黒な騎士服に真っ黒なマントがデフォルトだ。衆目を集める公の場でのみ、白の鎧だそうで。

 黒は汚れが目立たないように思えるけれど、代わりにほこりがつくとすぐに分かってしまうから、それはそれで気を使うのだと前にラフェスさんが教えてくれた。なるほど。


「大丈夫ですよ。レースは既製品で作りましたから、ぼろぼろになっても交換できます」

「それに、こんな年若い娘さんを戦場に出すなんて……わたくしは許しませんよ?」


 ラフェスさんの説明と王妃さまの言葉に、グウェンさんは黙った。そして何故か陛下も視線をそらした。うん、正論を言っただけなのにごめんね師匠。

 ……最初は女の子が騎士だなんて、と反対していたラフェスさん。だけどグウェンさんの言葉に、彼女は渋々ながら私の決断を認めてくれた。


 剣聖の加護を受けた愛し子である以上、戦いからは逃れられない。


 グウェンさんは真剣な顔で、そして彼にしては珍しく同情の宿った目で、そう言いきった。

 え、それ初耳なんですけど。どういうことですかグウェンさん。

 その場で思わず聞きそうになって、でも空気を読んで言葉を飲み込んだ。グウェンさんに後で聞こうリストが、かなりの厚さになってまいりましたよ? 後日覚悟してくださいね。


「まさかこんなに可愛い女の子が剣の愛し子なんて、神様もひどいものね」


 王妃さまはそう言って、私の顔を覗き込む。私の真っ黒の目を見て、ほんのすこし、目を細めた。そこにはどうしてか、哀れみの色がある。

 陛下も王妃さまも、私の目を見た時に驚いてはいたけれど恐れはしなかった。それどころか、身元不明の不審者である私に気さくに接してくれる。

 今日だって謁見の間ではなく王城の一室で、こうして非公認ながら親しげに話しかけて、傍に来てくれて。

 そして今も二人は、瞳の奥に慈しみを宿して、私を見つめている。


「いいですか? あなたは異国出身ですが、今はこの国の大切な民のひとりなのです。辛いことがあったら、すぐに言いなさい。いいですね?」


 言い含めるように、王妃さまは言う。ラフェスさんとは親友同士と聞いた時は驚いたけれど、こうして何処の馬の骨ともしれない娘を、こんなに気にかけてくれるあたり、二人は似たもの同士なのかもしれない。


「グウェン、彼女の剣の腕はどうなんだい?」


 私たちのやりとりを黙って見守っていた陛下が、グウェンさんに話しかけた。

 私が剣の愛し子だと発覚した次の日から、私はグウェンさんに剣の稽古をつけてもらっている。

 最初は渋々だった指導も、最近では熱心に教えてくれるようになっていた。なんだかんだ言って、才能ある弟子を育てるのは楽しいらしい。

 私そこそこ優秀な弟子だと自負しているんですが、何故か師匠は苦虫を噛み潰して飲み込んだ顔になった。その反応はひどくないですか師匠。


「……剣の愛し子を教えるのは初めてでしたが、末恐ろしいですよ。俺なんか、すぐに追い抜かすでしょう」


 え、そんなに私すごいんですか? 師匠に誉められたことひとっつもないですけど!


「こいつ自身はただの小娘ですが、剣聖の加護が圧倒的です。剣を持たせて走らせたら延々と走り続け、何千回素振りをさせても疲れ知らず。だが、剣を取り上げたら、ただの貧弱な娘でしかない」


 そうなのだ。帯剣していれば私は無敵な剣の愛し子英里奈ちゃんだけど、ひとたび剣を手放せばひ弱な小娘でしかない。

 ちなみに剣に分類されるだろうと思われる全ての刃物が、『剣』の対象になるようだ。なので刃物全般を持っていれば永続的に加護が受けられる。

 このことは師匠と相談して、内緒にすることにした。長剣を持っていなければ普通の人間だと、周囲に見せかけるために。

 ひとまず今は、私服の時にも肌身離さずナイフを隠し持って生活している。ナイフは短剣なので剣扱い。あと投げナイフの腕前は暗殺者になれるレベルだそうです。

 無敵すぎません? 剣の愛し子というチート能力。


「加護のおかげで大抵の相手には負け知らずとはいえ、基本となるこいつ自身を鍛えることが急務と考えています。自分の限界も知らずに慢心するやつは早死にしますから」

「なるほど。では、ひとまず剣さえ持たせておけば、ほぼ問題ない、と考えていいんだな?」

「そうなります」

「ふむ。……君は魔力なしだったね」


 陛下に話しかけられて、私は頷く。未だにこの国の言葉を理解しながらも喋れない設定のままなのだ。

 ……ラフェスさんあたりにはそろそろバラしてもいいかなぁと思うんだけどね。


「なら、息子の護衛をしてもらいたい」


 息子ってことは、王子様? そんな大切な重要人物をこんな出会って間もない小娘に守らせるとか、頭大丈夫です陛下。

 私が怪訝な顔をすると、王妃様は悲しそうに微笑んだ。


「わたくしたちの一人息子……王太子であるあの子は、強大な魔力持ちなのです。大人でも持て余すほどの魔力を、幼いあの子は制御しきれず、時折無意識に放出してしまう」

「その放つ魔力もとんでもない強さでね、魔力を多く持つ者ほどその影響を強く受けてしまうんだ。具体的にいうと、魔力酔いを起こして動けなくなる」


 ああ、だから魔力皆無な私を護衛につけようってことなんですね。魔力がなければ影響を受けようがないから。


「それ以外にも色々あり、あの子はまだ五歳だというのに大人びてしまってね。人見知りというか、人間不信というか。とにかく、自室に引きこもりがちなのだ」

「あの子は次の王ですが、今はまだ親に甘えても許される幼い子供だと、わたくしたちは考えています。だというのに、あの子はわたくしたちに一切甘えようとしない。いつ魔力を放出してしまうか分からないからと、共に過ごすことも避けられてしまって……」


 それは、親である陛下たちにとっても、子供である殿下にとっても、悲しいことだ。大きくなれば甘えたくても甘えられなくなるのに、甘えられる今、それが出来ないのはとっても悲しいし、さびしい。


「……君なら、あの子は心を開いてくれるかもしれない。そんな期待もある。護衛というより、基本は世話役に近い扱いになるだろう」

「陛下」


 私が返事に迷っていると、師匠の鋭い声が飛んできた。見れば険しい目で陛下を見つめている。

 そんなに私、信用ないですか? いやないでしょうけれども、最低限礼儀をわきまえた振る舞いは出来るよ?


「ああ、分かっている。きちんと説明するよ」


 さすが一国の長、騎士たちが震え上がる師匠の睨みを苦笑で流して、真剣な顔で私に向き直った。


「ただし、この役目は常に危険が伴う。さっきも言ったけれど、あの子は無意識に強い魔力を放出してしまうことがある。それは強すぎる魔力から自分の体を守るための自衛反応で、制御が一切できない。そして一番の問題は、その放出された魔力が魔物を呼び寄せてしまうことだ」


 魔物。ちょっと驚いたけど、まあそうだよね。魔力なんて不思議な力がある世界だ、魔物もいておかしくない。


「王城の裏手にある森は魔の森で、魔物が住み着いている。城には強い魔物除けの結界が張られており、街と魔の森を隔てる防衛線でもあるのだ」


 初耳ですけど、とグウェンさんを見れば、厳しい顔で頷いた。あ、本当に本当の話なんですね。


「そういうこともあり、ほとんどの魔物は城の結界を越えることが出来ない。だが、あの子の魔力はあまりに膨大で強力でな。強い力には強い魔物が引き寄せられる上に、大群で押し寄せてくる可能性もある」


 どんなに強い結界だったとしても、大量の魔物に一斉に攻撃されたら壊れるだろう。

 なんとも情けない話だがな、と陛下は苦笑した。


「あの子は、自分が城内を自由に歩き回ることの危険性を、よく理解しています。だから、自分の部屋から出ようとしないのです」


 王妃様の悲しそうな表情。私もきっと、似たような表情を浮かべている。

 王子様の考えは分かる。一人部屋に引きこもっていれば、誰かを魔力酔いで不快な気持ちにさせず済むし、もし魔物が襲ってきても不用意に周囲を巻き込まない。

 でも、そんなの、寂しいじゃないか。

 なんで小さな子供が、そんなに我慢しなくちゃいけないんだ。それも自分ではどうしようもない理由で。寂しすぎるし、悲しすぎる。


「この国では、高位の騎士ほど魔力持ちだ。いや王城に勤める者ほぼ全員が、強い魔力持ちと言ったほうが正しいな。魔力をあまり持たず腕が立ち、なおかつ信用できる騎士。そんな者はグウェンくらいでね」

「けれどグウェンは近衛騎士団長、あの子の護衛騎士には出来ません。何度かあの子に護衛騎士をつけようとしましたが、あの子は受け入れようとはしませんでした。王族の護衛騎士を務められるほどの騎士はみな、魔力持ちですから」


 ああ。だから師匠が実力を認め、かつ魔力皆無の私に王子を守ってほしいのか。


「あの子は次の王です。本格的に教育が始まれば、今以上に自由に過ごせる時間はなくなります。ですからあの子には、この幼い時分だけでも、出来る限りの自由をあげたいのです。エリナ、どうか協力してはくれませんか?」


 王妃さまが懇願するように私の手を取る。その姿は息子を案じる、とても優しい母親で。

 私は顔を上げて、グウェンさんを見て、次にラフェスさんを見た。グウェンさんは厳しい顔で、ラフェスさんは優しい苦笑いで、私の好きにしなさいと伝えてくれる。だから私は自分の心を伝えるべく、口を開く。


「私は、剣を持っていなければ無力な女でしかありません。それでも、いいのですか?」


 突然すらすらと話し始めた私に、陛下と王妃様は驚愕の表情を浮かべる。けれどもすぐに真剣な顔になって、深く頷いた。


「ええ。他ならぬ、あなたがいいのです。どうかあの子を一人にさせず、王宮内で好きに過ごさせてあげる手助けを、あなたにしてほしいのです」

「わかりました。護衛騎士の任、謹んでお受けいたします」

「ええ、ええ。ありがとう、エリナ。わたくしたちの息子を、どうか、よろしくお願いしますね」


 王妃さまは泣きそうな顔で私を見つめ、陛下も苦笑気味に、けれども安堵の表情を浮かべていた。

 王子様の護衛騎士なんて、重大なお役目だなぁと呑気に考えていると、鋭い視線が私に突き刺さった。

 分かってます、師匠。明日から修行メニューが倍ですね? 剣を持たないで行う、私本体を鍛える修行はとっても疲れるけれど、仕方ないね……。

 明日からの筋肉痛を思い心で涙する私に、ラフェスさんだけは心配そうな目を向けていたのだった。

 

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