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その転移者、雷神につき 〜ボツヒロインのために、俺は異世界を救う〜  作者: taqno(タクノ)


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第88話 逃亡劇も楽じゃない

 霊山に向けて移動を開始して二日。

 みんなの疲労も蓄積し、歩くスピードが落ちてきた。


 疲れたならポーションを飲め? 腹がたぷたぷで数本が限界だったわ。

 それに栄養ドリンクを数本飲んだ時、血流が早くなったことがあるけど、あれに似た感覚も味わった。

 元気の前借りって言うの? 寿命がキリキリと削れていってる感じ。

 ポーションのがぶ飲みは健康に悪い、という結論を得ることが出来たので、無理せず進むことにした。


「霧が大分濃くなってきましたね」


「ああ、霊山の麓付近にまで来たらしいな。ここまで来たらもう一踏ん張りだ。今日中には目的の場所に着くと思うぞ」


「やっとか~~疲れた~~」


「嘘つけよビュウ。お前ウルズを担いでも息切れ一つしてないじゃないか。いくら宙を浮けるから移動が楽だといっても、長時間魔法を維持するのは結構キツいはずだろうに化け物かよ」


「ま、これでも四魔将の一人だからね」


 ビュウは疲れた様子も見せず、ケロッとしている。

【フライ】を二日間移動中ずっと使用して、なおかつ【風糸結界】も展開したままのはずだ。

 二つの高難度の魔法を同時に発動して二日も過ごしているのに、この中で一番元気がある。

 地力の差を感じさせられるな。


「さて、ルビィ。疲れたらまた背負ってやるからな。キツかったら早めに言ってくれよな」


「それは、その……あれは結構恥ずかしかったから、遠慮します……」


「そ、そうか」


 ルビィは顔を赤らめて明後日の方向を見る。

 まぁ、なんだ。結局俺はルビィを背負って移動したものの、数時間程度で終えてしまった。

 こっちを見るビュウの視線に耐えられなかったからだ。


「お兄さん、お姉さんの脚ってどう? 柔らかい? あ、ひょっとして背中に当たってたりする? 図星だ!」なんて言うせいで気まずくて仕方ない。

 こいつ、こんなにマセたガキだったのかと驚いたくらいだ。

 おかげでルビィも「自分で歩くから、下ろして……」と言い出す始末。

 それからはずっと自分の足で歩いている。


 許すまじビュウ。

 こいつが俺よりも強いのがこれほど腹立たしいとは。


 しかし過ぎたことは仕方が無い。

 今は目の前のことに集中しよう。


「みんな、そろそろ強い魔物が出てくるから気をつけてくれ。ビュウ、周囲の警戒を任せてもいいか?」


「うん。大丈夫だよお兄さん。今のところ近くに怪しい動きをするものは……」


 ビュウが周囲の安全を確認しようとしたところに――


「ブモオオオオ!」


「なっ!? 僕の風糸結界に反応しなかったのに魔物が現れた!」


「ちっ! ルビィ、ウルズ! 二人は固まってビュウの背後に! てやああ!」


 霧の中から現れた三メートルほどの魔物に向かって剣を振るう。

 しかし手には堅い感触が伝わり、手応えがない。


 この感触は……甲羅か?


「ブモモモオオ!」


「ちぃっ! 【サンダー】!」


「ブモッ!?」


 雷が魔物を貫き、全身を焦がす。

 剣が通じないから魔法に切り替えたが、こっちは攻撃が通ったみたいだ。


「ふぅ……。なんだ、この魔物。四足歩行で甲羅を背負った……まるでリクガメだな。見た目は獣みたいだが」


「初めて見る魔物だね、こいつ。なるほど、甲羅の模様が周囲の風景と同化しているんだね。獲物が近づいた時だけ動いて捕らえるんだよ、きっと。だから僕の風糸結界にも反応しなかったのか……盲点だったよ。動かない魔物がいたなんて」


「なるほどカメレオンみたいに景色に擬態する魔物か。そりゃ気付かないわけだな。おまけにこの辺りの霧は魔力を含んでいるらしいから、精度が鈍っているのかもしれないな」


「それはあるね。さっきから、なんか調子が悪いんだ。反応があるような無いような、なんとも言えない気配がする。この魔物と同じタイプのやつがそこら中にいるのかな」


「なに……? 今、なんて言った」


 ビュウの口から気になる……いや、ヤバいワードを聞いた気がした。


「だから、さっきから鈍い反応がいくつかあるんだよ。半径数百メートルに六個ほど」


「……それ、詳しく索敵できるか」


「え、うん。もちろん出来るよ、ちょっと待ってね」


 ビュウは風糸結界の索敵を再開する。

 周囲に先程の魔物と似た魔物が多く潜んでいるかもしれない、とビュウは言った。

 だが、妙な胸騒ぎがする。

 考えすぎか? 追っ手から逃げているせいで、疑り深くなっているだけか?

 気のせいだったらそれでもいい。

 しかし、俺の第六感が告げている。脳内で警笛を鳴らしている。


 何か、いる!


「えっと、あれ? 反応がどんどん近づいてるね……。待って、ひょっとしてこの反応……」


「ビュウ! ルビィとウルズを守れ!! 【マサンダ】!」


 叫ぶのと同時に、雷の上級魔法マサンダを周囲にまき散らす。

 威力よりも速度を重視した一撃は、狙い通り周囲の敵に直撃する。


「っ!」


「…………」


 マサンダを食らった敵はその場に倒れ込んだ。しかし、次の瞬間には何事もなかったかのように立ち上がった。

 白い外套を纏った六人の女が、表情を一切変えずにこちらを見る。

 不気味だ。真っ先にそう思った。

 まるで人形のような、意思の通っていない顔。

 ここはゲームに似た世界なだけで現実のはずなのだが、こいつらに限ってはNPCなんじゃないかと疑ってしまう。


「直撃したのにケロリとしてやがる。お前ら、その白い服はブリュンヒルトの部下だな?」


「…………」


「もう追いつかれたって言うの? いくら何でも早すぎない? 僕たち、これでも結構急いでここまで来たはずだけど」


「先回りされてたみたいですね……」


 ウルズは悔しそうな声でつぶやいた。


「そうか、こいつらはこの国の主戦力だ。当然国の地形なんかは把握しているはずだ。おまけに俺たちが大森林に逃げたこと、そこから霊山に向かうことまで読まれていた。だから一直線にここまで来たってわけか」


「戦乙女のお姉さんも中々やるね……こうなったら戦闘するしかないよお兄さん!」


「ああ、二人は任せたぞビュウ! 俺はこいつらをやる!」


 任せたという言葉が自然に口から出たことに、自分のことながら驚いた。

 どうやらこの二、三日の間でビュウに対する警戒心が解けていたらしい。

 もっとも、ブリュンヒルトという共通の敵がいるからこそかもしれないが、少なくとも今はこいつの方が信用できる。


 ルビィとウルズの護衛を任せて、俺は六人の至神乙女たちの相手をする。


「……!」


 至神乙女の一人が手を掲げると、そこに光の槍が出現する。

 槍から魔力を感じることから魔法によるものだろうが、俺の見たことがない魔法だ。

 雷魔法のライトニングスピアーにも似ているが、雷属性といった雰囲気は感じられない。


 至神乙女が手を振りかざすと、光の槍が射出される。


「投擲槍か! まぁ魔法の槍は大抵そうではあるが……【マシルド】!」


 防御魔法シルドを発動し、光の槍を防ぐ。マシルドはエタドラでは魔法攻撃を一回無効にする強力な防御魔法だ。

 消費MPと再使用までのクールタイムが長いため、使いどころ難しい魔法でもある。

 この世界だと、どうやら俺の魔力に比例して防御力が上がる盾になるようだ。

 ゲームのように無敵の盾というわけではないから、マジックバリアなどの軽減系の呪文を優先してダメージカットする方が俺は好きだ。

 あっちの方が取り回しがしやすいからな。多少のダメージは受けるが他の魔法と組み合わせて強固な守りを作れるからな。


 だが、様子見の防御技としてはマシルドは文句なしの性能をしている。

 消費MPもこの世界の俺の魔力量では気にしなくていいだろう。

 なによりエタドラよりも強化されている点として、魔法だけでなく魔力を帯びた攻撃全般に対する防御を行えるのがいい。

 残念ながら再使用に際してのクールタイムはエタドラ同様長いのが残念だが。


「ふぅ。マシルドで防ぎきれる攻撃でよかったぜ。もしブリュンヒルトのグングニル・ノイエスだったら一秒でも耐えられなかっただろうな」


「…………」


 至神乙女達は顔を見合わせて、俺と戦っている四人全員が一斉に手を空へ上げる。

 そして、四本の光の槍が形成される。

 が、光の槍はそれぞれ射出されることはなく、一つの大きな槍に合体した。


「ちょ……そんなのありかよ!?」


「…………っ!」


「ぐっ! マバリアが壊れるかっ!」


 巨大な光の槍はマバリアをあっさりと破壊し、勢いを殺すことなく術者である俺に向かって迫り来る。


 くそ、盾系の魔法は破られるのが定めなのかよ!

 漫画やアニメでもそうだけど、防御系のキャラとか技ってそれを破る敵の強さの指標になってる感じがするよな。

 超すごい防御を上回った敵の攻撃SUGEEEみたいな。

 俺のマバリアもそれだ。一回攻撃を防いだと思ったら次の瞬間に破壊されてお役御免。

 無事防御技の役割を全うしたというわけだ。ちくしょうめ!


「だが、選択を見誤ったな至神乙女! 確かにマバリアを貫くには光の槍を合体させる必要があるかもしれねぇ! でも俺にとってはでっかい槍よりも四本の投擲槍の方が厄介だったぜ!」


 槍が直撃する寸前に雷神モードへと移行する。

 そして、拳に雷の魔力を集中させる。圧縮された魔力がバチバチと音を鳴らす。


「っらあああ!」


「…………!?」


 雷の拳が槍に直撃し、真っ正面から打ち破る。

 巨大な光の槍はバラバラになった後、魔力に戻り霧散した。


「いって~~。だけど大したことないな。さて、このまま畳み掛けるぜ!」


「……っ!」


「今更槍で迎撃しても遅い!」


「っ……」


 瞬時に四人の背後へ回り、急所への攻撃を行う。

 四人はすぐに意識を失い、その場に倒れる。


「命まで奪う気は無い、そのまま寝ててくれよな」


「お兄さん終わった~?」


「ビュウ! ってことは、そっちも……」


 ビュウの方を向くと、先程と一切変わらない姿勢と立ち位置で立っていた。

 背後にはルビィとウルズがいて、二人とも無事そうだ。外見に傷は一切無い、よかった……。


 そして、ビュウの左右には至神乙女が二人倒れていた。


「お前……その二人は……」


「うん。きっちり殺しておいたよ。追ってこられちゃ面倒だしね。あれ? お兄さんの敵まだ生きてるよ。殺しておかないとダメじゃん」


「いや……急所に攻撃したからしばらくは目が覚めないだろ。放っておいても大丈夫じゃないか」


「うーん、そうだね。ま、これくらい深く意識を失ってるなら大丈夫そうかも。じゃあ殺すだけ無駄だしやめておこっと」


「…………」


 ビュウの敵二人は、綺麗に首が切れていた。

 おそらく風糸結界の糸に触れて、そのまま斬られたんだろう。

 ビュウにとっては得意の剣を抜くまでもない相手だったということだ。


「さーてと、敵に先回りしているって分かったし、これからどうするか考えなきゃ」


「ビュウくん……」


 人を殺した直後にも関わらず、一切顔色が変わらないビュウ。

 それを見て、ルビィは何を思ったのか。

 少しさみしそうな顔をしているのは確かだ。

 ルビィのビュウを見る目は近所の子供をあやすお姉ちゃんの目だったからな。


 しかし、子供ながらにして殺しに対する抵抗の無さに、少し震えた。

 やはり帝国軍のトップに君臨していただけはあるか。

 それとも、俺の考えが未だに甘いのか。人の命を奪うことに抵抗のある俺が、腑抜けなだけなのか。


 確かなことは、ビュウが敵ではなく味方でよかったという一点だ。

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