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その転移者、雷神につき 〜ボツヒロインのために、俺は異世界を救う〜  作者: taqno(タクノ)


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第83話 一難去って

「で、何でお前がここにいるんだ?」


 大聖堂から離れた街の路地裏。

 そこで俺とビュウ、そして途中で合流したルビィが人目に入らないように周囲を警戒していた。


 ルビィはビュウの顔を見ると少し驚いたが、何かに納得した様子で頷いた。

 そしてビュウも、「久しぶりだね、おねーさん」と手をひらひらと振り、挨拶を済ませた。

 ひょっとして、この二人は面識があるのか? どこであったのか気になるところだが、ビュウは「べっつに~~?」とはぐらかすだけだった。


「僕がここにいる理由を話す前に……まずはご飯たべたいな!」


 ぐるるるるぅ、とビュウの腹から大きな音が鳴る。

 腹を押さえて、少し照れた顔で笑うビュウ。気の抜けきった顔は、さっきまでこの国最強の戦乙女と剣を打ち合っていた戦士と同一人物とはとても思えない。

 今の彼は年相応の、小学生高学年くらいの少年の姿だった。


「お前なぁ。さっきの出来事で俺の素性はバレてるだろうし、お前のことも当然知れ渡ってる。帝国の将軍と王国の雷神が戦乙女に襲撃をかまして、一緒に逃亡したって思われてるんだぞ」


「まぁ、事実だしねっ!」


「事実じゃねぇ! 俺は話しをするためにいっただげで、戦闘するつもりはなかったんだよ! なのに、いきなり襲われて、おまけにお前まで乱入するし……。完全にお尋ね者だ、これじゃ」


「でも、僕が来なかったらお兄さんはたぶん捕まってたよ。仮に逃げ切れていても、結局お尋ね者になってたと思うけど」


「ぐっ……た、確かに……」


 反論の余地もない事を言われてしまい、ぐうの音も出ない。

 実際あのまま戦ってたら危なかっただろう。負けるつもりはないが、ブリュンヒルトを倒すと更にややこしいことになりかねないから攻めあぐねていたのも事実。

 こいつが乱入してくれたことで、とりあえず撤退出来たのは紛れもない幸運だ。


 横に立っていたルビィもビュウの言葉に賛同する。


「そうだよとうくん、ビュウ君に助けてもらったんだからきちんとお礼は言わないと」


「ぐぬぬぬ……。あ、あり……がとう、ござい……ます」


「うんうん、どういたしまして。これで貸し一つだからね、お兄さん♪」


 ◆


 街の中心から離れた、人通りの少ない路地裏にある寂れた喫茶店。

 フードをかぶり、顔を隠して俺たちはその店に入店した。

 食事を取りながら、俺はビュウから事の経緯を聞きだそうとしていた。


「ま、お兄さんのことだから? 戦乙女のお姉さんを倒すのは悪いなぁ、とか考えてたんだろうけど。あのお姉さん綺麗だったしね」


「なっ、それは関係ないだろうが! っつーか、ほとんど話したこともない俺のことを、知ったように言うんじゃない!」


 美人なのは否定しないが、俺の好みからは離れてるっつーの。

 大体、ルビィがいるところでそういうことを言うんじゃない。変に疑われるだろうが。


 ビュウは鼻で笑う。俺の顔をじっと見ながら。


「いやぁ、お兄さんの人柄は大体分かるよ。なんせあのロキを殺さずにただ気絶させただけで終わったんだもん。国を崩壊させかけた敵の将を殺さずに放置だなんて、甘さ以外の何物でも無いよ」


「それは……あの時は意識を失いかけていてそれどころじゃなかったし……」


「そんなことだからロキに逃げられるんだよ。せっかく四魔将を一魔将まで減らせるチャンスだったのに、また攻め込まれる可能性を残しちゃったんだから」


 はぁ……とため息を漏らすビュウ。


 そうだ、ビュウの言うとおり。あの戦争で俺は闇ザコを倒した。しかし、その場で意識を失ってしまった。

 気がついた時には闇ザコはその場から消え去っていた。後から話を聞くと、四魔将のリーダーである“黒炎”スルトが回収していったらしい。

 闇ザコと邪竜ファフニールの遺体を連れて、移動魔術で王国から去って行った。


 スルトが連れて行ったのは、その二人だけ。


 つまり。

 おなじく四魔将の一人であり、ティウに敗れたビュウは連れ帰ってもらえなかったのだ。


「ビュウ・レイスト……」


「ビュウでいいよ、お兄さん。ま、普通に考えたら見捨てられたんだよね僕は。仮にも世界最強の帝国軍の頂点に立つ僕が、敵国に捕らえられるなんて屈辱だけど……。生きているなら儲けものだよ」


 ニコリと笑い、ハンバーガーを食べるビュウ。

 ガツガツと口に運び、口の周りにソースをつけている。やはりどこから見ても年相応の少年にしか見えない。

 仲間に見捨てられたというのに、少しも気落ちしていない。脳天気と言うべきか、ある意味しっかりしているのか。

 どっちにしても、強いなと俺は思ってしまうのだった。

 この少年は、敵に敗れた時点でどうなろうと自分の責任だと理解しているのだ。だから、見捨てられても文句は言わない。

 今生きているだけで十分だ、と割り切っている。

 実力だけでなく、生きていく上で必要な強い意志の力があるのだと、わかった。


 しかし、なぜスルトはビュウだけ見捨てたのだろうか。その理由が分からない。

 本当に見切りをつけられたのだろうか。というか、敵地に倒れた仲間がいるのに放置する理由なんて、それしか考えられない。

 だがいくら敵に負けたからと言って、まだ歳幼い少年を敵地に残していくなど非常なことをするものだと同情してしまう。

 それに敵に負けたのはビュウだけじゃない。闇ザコも邪竜ファフニールも俺の手で倒されている。

 ビュウだけ連れて行かなかったのはなぜだ。


 ビュウによるとスルトに置いて行かれた結果、王国に捕らえられ、戦争が終わってから今までずっと尋問を受けていたそうだ。

 ビュウは尋問に対して素直に答え、牢屋でも問題行動を起こした様子はない、とルビィも補足していた。


「で、反抗の意思がないから特別に牢から出させて貰ったんだよ」


「へぇ、それがここにいる理由か」


「うん、雷神のお兄さんと王女のお姉さんの二人の跡を追い、危なかったら救出するようにって任務」


 なるほど、だからこいつが俺を助けてくれたのか。


「まて、お前一人か? 他の人間は付いてきてないのか、たとえばハゲ姉さんとか」


「ミズガルズ団の人間はいないよ、僕一人だけ~~」


「よくそれで外に出させて貰えたな。裏切りのリスクとか、色々あるだろうに。王国はよっぽどお人好しかよ」


「それは大丈夫だよ、だってほら」


 ビュウは服をひっぱり、首元を顕わにする。

 そこには金属製の首輪がかけられていた。

 首輪の中心には青い魔石が填められている。


 それは見るからに、拘束具だった。


「お前、その首輪……」


「ま、見ての通りだよ。僕が命令に反した行動をすればこの首輪がボンッ! ってなるわけ。ヴァナハイム共和国のお偉いさん達が用意した、Sクラスの魔道具だってさ」


「酷い……」


 ルビィは口元に手を当てる。

 こんな幼い少年になんてことを、という表情をしている。


 だが、当の本人はあっけらかんな顔をしていた。


「ま、当然だよね。むしろなんの拘束もなく放置したらそれこそ酷い国だと思うよ。危機感なさすぎだし、頭がお花畑過ぎるって言うか。それに、命令違反をしない限り危険は無いこの首輪は温情ある方だと思うけど」


「そういう、ものなのかな……」


「……お姉さん気にしすぎ! 僕が気にしてないんだし、この話はもう終わり! ね、なんで僕がここにいるのかはこれでわかったでしょ?」


「そうだな、事情は分かった。で、これからどうするんだ?」


 ビュウはジュースを飲みながら、んーと声をうならせる。

 そして一瞬思案した後、指を立てて提案する。


「とりあえず、この街から出ようと思う。僕が調べた感じだと、至神乙女(ヴァルキュリア)のメンバーの大半がこの街にいないんだよ。どうにも、他の場所へと出撃してるみたいだ」


「ん? それがどうしたんだよ。あのブリュンヒルトの指揮する組織がどこにいようと、俺たちには関係ないだろ」


「関係ないかもしれない。けど、この国の状況は少し変わっている。ミズガルズ王国に対する姿勢もそうだし、魔典教会の動きもおとなしすぎる」


「魔典教会? なんだっけそれ」


 ビュウは魔典教会なる組織についての説明をしてくれた。


「この国は魔法使い系の組織と戦士系の組織の二つがあるっていうのは知ってるよね」


「ああ」


 以前も言ったが、この国は魔法と戦士二つの組織が存在している。

 そして、戦士系の組織こそがブリュンヒルト率いる至神乙女だ。この国はその至神乙女が実権を握っている。


「魔典教会っていうのは、魔法使い側の組織のこと。一応、さっきの大聖堂も魔典教会の総本山なんだよ本当は」


「へぇ、あそこが魔典教会の本拠地なのか。……ん? じゃあなんてあそこに至神乙女のブリュンヒルトがいたんだ? 別の組織の長があそこに陣取ってるのってなんだかおかしいような」


「国の代表は別にいるけど、ブリュンヒルトはこの国の実質的なトップだからね。あの大聖堂にいてもおかしくはないよ。ただ、なんであそこにいるのかってことと、至神乙女の戦力が外にいることとか、色々不可解なことが連続してるからね」


 なるほど。

 一つ一つは別に変なことじゃないが、それらが同時に起こっていると何かつながっているんじゃないかと思うのも当然か。


「じゃあ、外に行くって言うのはもしかして……」


「うん。至神乙女の動向を探ろうと思う」


「わかった、何も分からない状況だ。まずは手がかりになりそうなことから始めるしかないな!」


 飯を食い終わり、俺たちは街から逃げるように抜け出した。

 そして、このおかしな状況の一端を掴むために、外の大森林へと向かうのだった。

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