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その転移者、雷神につき 〜ボツヒロインのために、俺は異世界を救う〜  作者: taqno(タクノ)


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第72話 初デート、ルビィといっしょ

「いやー惜しかったねトール!」


 にこやかに笑いながら俺の肩を叩くティウ。

 その表情はとても満足そうだった。よほど嬉しいことでもあったんだろう。

 ま、こいつが喜んでいる理由なんて分かっているのだが。


「で、満足していただけましたかね団長様?」


 俺の問いにティウは首を縦に振り肯定する。


「うん大満足だよ。シグルズがあの赤く禍々しいオーラを出したあたりで雲行きが怪しくなったけど、まさかあそこから引き分けに持ち込むとはね」


「おかげでこっちはバテバテだけどな。時間外勤務の値段は高くつくぜ?」


 はは、とティウは笑った。

 結局、俺とシグルズの決闘は引き分けという幕引きとなった。より正確には試合時間が終わり、決着がつかなかったという経緯だ。

 シグルズの大剣が俺の体を吹っ飛ばした後、俺の必死の魔法攻撃に対してついにシグルズも魔法を発動した。

 使った魔法は炎と氷。

 炎魔法は最初に一回使っただけで、以降は使ってこなかった。

 厄介なのは氷魔法だ。地面が凍ったと思うとあっという間に俺の足下まで凍らせてきた。急いで氷の追尾を逃れると後ろには大剣を振り下ろそうとするシグルズがいた。

 俺は雷魔法から炎魔法に攻撃を切り替えて迎え撃つ。


 避けながら魔法と剣でチャンスを狙う俺と、それを氷の魔法で追尾し隙あらば大剣で屠ろうとするシグルズ。

 結果として勝敗はつかず、時間切れ。


 しかし、ティウはこの結果に満足したようだ。


「最初から勝てるとは思ってなかったしね」


「おい!」


「でも引き分けるとも思ってなかった。善戦するとは思ってたけどね」


 舌を出してテヘペロの表情をとるティウ。

 こいつがやると煽り一〇〇%だな。でも呆れるだけでムカつきはしないのがティウのすごいところだな。

 表情の作り方が上手いのだろうか。俺が真似したら顔面パンチされること間違いなしだ。


「じゃあ俺の修行の成果は存分に見てもらえたわけだな」


「うん、それはもうたっぷりと」


 ティウは親指を立てて笑う。

 よかった。これでティウの顔を立てられたし、王国のみんなにも俺の実力が伝わっただろう。

 別に知名度アップなど目指してないが、いい意味で有名になるのは損じゃないからな。

 シグルズも決闘の後に話す機会があったが、今度個人的に話そうと約束した。

 この世界でトップクラスの実力者であるシグルズにも認められたということだろう。


 俺がしみじみ思っていると、ティウがこっちを見ていることに気づく。

 ティウはにっこりと笑っている。すごく穏やかな笑顔だ。

 この笑顔はよく見覚えのある表情だ。こういう顔をする時は大体、面倒なことを考えている時だ。


「で、君の腕を見込んで一つ頼みたいことがあるんだけど」


「ほらやっぱり面倒くさい展開ーーー!」


 ◆


「アスガードに遠征?」


 イチゴの乗ったショートケーキを上品に口に運び、口の中の食べ物をきちんと飲み込んでからルビィは喋る。

 こういう普段の所作に気品というものを感じるあたり、根っからのお姫様なんだなと感じる。

 俺はルビィの行動の一つ一つに目を奪われながら、疑問に返答する。


「ああ、いつになるかは決まってないらしいけどね。近いうちに俺をミズガルズの使者として送り込む気らしい。なんのために行くのかは教えてくれなかったけど、ティウによると結構大事な用らしい。ったく、そういうのは自分で行くか貴族のお偉いさんに行ってもらえばいいのにな。なんで俺なんかを送り込むのやら」


 はぁ、とため息をつく。ティウのおつかいに行かされるのはこれで何度目だろう。別に嫌じゃないが、なんかティウの思惑通りに動かされてる感じがするから好きじゃないんだよな。

 とはいっても、少しだけワクワクしている自分がいる。

 なんせ行き先はアスガード国だ。世界の中心にある、もっとも歴史の古い国だ。

 エタドラでも話の中心にあるのは帝国とアスガード国だっていうくらい、この世界でも重要な役割を担っている国だ。

 そんな場所に行ける機会が与えられたのは、結構嬉しかったりする。

 え? 修行中にアスガード国にいただろって? いや、あの大森林は国の外れのほうだし、日本で言ったら富士山にずっと籠もってたのに、日本のことを知った風になるのも変だろう。

 エタドラで見た風景とはまた違ったリアルな町並みってやつを体験できるんだ。ワクワクせずにはいられない。

「たぶんだけど……」


 ルビィはケーキを食べる手を止めて、フォークを置いた。


「とおくんは護衛の役目をするんじゃないかな」


 ルビィの言葉に、俺は疑問の声を漏らす。


「護衛って、誰の?」


「もちろん、私だよ」


 ニコッと笑い、頬に人差し指を添える。

 それだけで、彼女は大空に浮かぶ太陽と同じ輝きを放つ。きっとルビィは聖属性の魔力を放出しているんじゃないか、と思ってしまうほどのまばゆさ。

 きっとこの笑顔を真っ正面から拝めている俺は、この王国一番の強運に違いない。


「ねぇとおくん聞いてるの?」


「あ、ああ。聞いてる聞いてる。で、ルビィの護衛に俺がついて行く……って、いつかのヴァナハイム共和国の時みたいに? あの時みたいにルビィがアスガードのお偉いさんと話をするってことか」


「うーん……。実は私も詳しいことは知らないんだよね。私もティウに『近いうちに外交に出てもらうかもしれません』って言われただけだし」


「ああ、ルビィにも話がいってたんだな。なら確かに俺の役目はルビィの護衛って線が濃厚か」


 ルビィは声を漏らして笑う。そして両手の指を合わせてこちらを見て。


「また、一緒に旅が出来るなんて楽しみだね?」


 心から楽しそうにそう言うのだった。

 俺も、楽しみだと思った。

 アスガードに行くことが、じゃない。ルビィと一緒に出かけることが、そんな何てことはないことが、本当に楽しみだと思ったんだ。

 俺は紅茶のカップを置いて、いつか来る旅の予定を考えながら、修繕中の庭園を見て午後のひとときを楽しむのだった。



 ◆



 明くる日のことだった。


「四九八! ふぅ……四九九! くっ……五〇〇!!」


 俺は朝から城の訓練場で鍛えていた。

 ウエイトトレーニングから始まり、次に剣を振る。脳内のイメージと自分の体の動きを一致させるように意識しながら行う。

 そうすることで自分の体がどこまで動かせるのか、またどうイメージと違っているのかを逐一確認する。そして、動きを修正してより理想の動きに近づけていく。


 こんなことを一年以上も続けている。今では日常の一部となっている。

 元の世界では自主的に筋トレをする程度だった俺だが、すっかり武人みたいになってしまった。

 まぁ、ずっと続けていたおかげで筋肉が完全に定着したし、体のキレも以前よりも遙かによくなった。そういう風に結果として身についたことで、自信がつく。自信がつくから継続できる。

 この習慣は俺にはぴったりだ。結果にコミットするのを肌で実感できるからな。……なんかどこかのライ○ップみたいになったけど気にしない。

 ところで結果にコミットの「コミット」ってどういう意味なんだろう。知らず知らずのうちに使っている単語だが、実は正確な意味を知らない。

 まぁ、この世界に来てしまった以上元の世界の事柄についての調べ物なんて出来ないから気にするだけ無駄か。


「腹減ったな、飯だ飯。腹と背中がくっついちゃうぜ」


 訓練を終えてから水浴びをした後、寮舎で朝食を取る。今日の朝食はふかふかの白いパンと新鮮な野菜のサラダだ。

 タンパク質が足りないのでドレッドバード(鳥系の魔物。胸肉が美味い)の肉を自主的に買ってきて食べた。

 城から片道十分で市場まで行けるから便利だ。


 朝食の後は新聞を読む。

 とはいっても、俺が買ってるものじゃない。寮のラウンジに置いてあるものを読んでいるのだ。

 俺が新聞なんてオトナなものを金出して買うわけがないじゃ無いか。でも、この世界の出来事は気になるよなぁ……というわけでありがたく読ませてもらっている。

 新聞の内容は主に大国の情勢――主に帝国やヴァナハイム共和国など――や王国で起きた事件など。元の世界の新聞と載ってる内容に大差はない。

 いや、元の世界の新聞なんてテレビ欄しか見てなかったから詳しくないけど。


 ちなみにこの世界の公用語は英語に非常によく似た言語だ。小文字のローマ字を押し崩したような文字が使われている。おかげで俺でも新聞を読む程度なら不便はない。

 この世界に来てから、言葉は普通に通じるし(俺は日本語を喋っているつもりだが、相手には公用語に聞こえるようだ)文字を読むことにも不便はない。これって実は、割と恵まれているのではなかろうか。

 だって言葉が通じないと意思疎通出来ないし、文字が読めないと詐欺とか金銭系のトラブルに巻き込まれそうだし。そういう初歩的な問題をパス出来たっていうのは、かなり運がいいと思う。

 まぁ、あまり実感はないんだけどさ。


 新聞を読み終えてから部屋に戻る。この部屋はティウに鍛えられていた時期に使っていた部屋だ。俺のためにとっておいてくれたらしい。嬉しいね。

 汗が染みついた服を脱ぎ、遊び着に着替える。

 今日はどう時間を潰そうか。


 実は俺は未だに無職だった。

 ルビィだけの騎士になる、と誓ったはいいもののそれで社会的な身分が決まるわけでも無し。


 職業――自称騎士


 そんなことを履歴書に書かなければならない立場なのだ。

 なぜ未だに俺の立ち位置がふわふわしているかというと、先の戦争の活躍が原因となっているらしい。

 難しい話だからよく分からないが、簡単に言うと「戦争の英雄トールをただの食客扱いにするの? もっとふさわしい地位につかせたほうがよくない? 王国の立場もあるんだしさ」という感じで話が進んでいるらしい。

 ここにきて改めて俺をミズガルズ団の一員とするのか、それともそれ以外の組織に所属させるのか悩んでいるというわけだ。

 ちなみにこの話の肝は、どうあっても俺は王国の一員となることは決定事項っぽいということだ。

 そりゃそうだよな。俺の行動を振り返ると王国のためになることばかりしているし(ルビィを守るためだから当然だが)。王国にとっても、ここで俺を逃す手はないだろう。

 まぁ、俺も他の国に逃げるつもりはないからそれについてはどうでもいいんだけどさ。

 そんなわけで俺はちゅうぶらりんな状態で放置。ミズガルズ団の任務も受けるわけにはいかず、受けるとしたらティウの個人的な依頼って形になるらしい。

 ティウならこういう形式ぶったことは無視して任務を与えてくる気がする……というか、毎回ミズガルズ団としてじゃなくティウ個人に頼まれている気がするんだけど、そこら辺記録上はどうなってるのか謎だ。


 俺は当てもなく城内をぶらぶらしていると、侍女たちが集まって作業をしているのが目に入った。

 なんとなく気になって見ていると、どうもガーデニングの道具を準備しているっぽかった。

 これはおそらく、ルビィの庭園だろう。あの半分焼けてしまった庭園を侍女たちが元に戻そうとしているに違いない。

 先日ルビィとお茶を飲んでいる時は、庭園はほとんど手つかずの状態だった。花は焼けたままで、地面のレンガがやっと取り替え終えた様子だった。

 侍女たちを見るに、そろそろ花を植え直す段階らしい。

 俺も手伝おうかどうするか、と迷っていると後ろから肩をつつかれた。


「とーおくん♪」


「なんだ、ルビ――ぶひゅ」


 後ろに振り返ろうとしたが、途中で首が止まる。

 俺の頬に小さく細い指が当たり、動きを止めたからだ。

 その指の持ち主は言うまでもなく、茜色の髪をした可憐な少女だった。


「なーにしてるの、こんなところで」


「ルビィ……あれは新しく植える花なのか?」


「うん! 侍女のみんなと一緒に選んで、今から植えていくんだよ。私も後で手伝うんだ!」


 ルビィは庭園に新しく植える花々を見て、嬉しそうに言う。


「とおくん、庭園が気になったから見に来たの?」


「いやなに、今って俺暇だからさ。任務もなけりゃやることもない。でもじっとしてたらそのまま部屋で寝ちゃいそうでさ。しょうがないから外を歩き回ってるわけ」


「そっか、とおくん働いてないもんね」


「言い方ァ!」


「ふふふっ、ごめんごめん」


 クスクスと笑うルビィ。

 手で口元を隠している所作に気品を感じる。

 ルビィは笑い終えると目線をあげて、俺の顔を伺ってくる。


「ねぇ……ってことは、とおくん用事ないの?」


「言っただろ、暇だって。なんなら指に生えてる産毛の本数数えてもいいくらいやることないぞ」


「なにそれ。でもそっか、時間あるんだね」


 ルビィは俺の返答を聞き、満足げにうなずく。

 そしてうん、と頷いた。


「じゃあ、とおくん。わ、私とで……でで……ででで、でーとととと……!」


「どうしたルビィ!? こわれた音声ファイルみたいになってるぞ!」


 先ほどまでの落ち着いた様子はどこかに吹っ飛び、耳を赤くして言葉を詰まらせるルビィ。

 そこにいくつかの花を抱えた侍女が来て、俺に耳打ちした。


「差し出がましいようですが、ルビア様はあなたとデートがしたいと申しております」


「で、デート……」


「はい。ルビア様はことあるごとに機会を伺っていました」


 侍女の言葉に俺はオウム返しをした。


「機会を伺っていた?」


「ええ。もちろん、あなたと城外に出かける機会ですよ。ルビア様はこう見えても学業で多忙な身、城にいるならまだしも、外に遊びに行く機会は中々ありません」


 そういえば以前聞いたことがあるな。

 ルビィは学校では魔法の成績がいいって。それも学年トップクラスらしい。お姫様として威厳を保つために頑張っているのだとか。

 そりゃお姫様としても公務と、学年トップを維持するために勉強をしているんだから、遊ぶ時間なんてあまりないよな。

 実は俺とお茶を飲む時間も無理して捻出してくれているのかもしれない。暇な自分が少し恥ずかしくなるな。


 侍女の言葉は続く。


「もちろん、今日のご予定はありません。ルビア様は珍しく一日中フリーでございます」


「そ、そうなのか」


「で、わかってますよね?」


 侍女の目が光る。

 比喩のつもりだが、マジで鋭い眼光が差しているように見える。眼力やばい。

 侍女の言葉の続きはもちろんわかっている。ここで俺が知らない振りをしようもんなら、あとで侍女たちから吊されてしまうだろう。

 だから、ルビィの言おうとしている台詞を奪うようで悪いが、俺からルビィに話を振る。


「なぁルビィ」


「な、ななななにかなとおくん!」


「今から一緒に、その。で……デート、しないか?」


 沈黙。


 それは一瞬なのか、それとも数秒なのか。ひょっとしたら数分だったかもしれない。

 ともかく、ルビィの返事を待っているこの間。俺の中では瞬間が永遠に感じられた。


 そして、ルビィはやっとのことで口を開く。


「は……はい。よろしくおねがいします……」


 直後に、周囲からイエーーーーイ! と侍女たちの大歓声が起こった気がしたが、俺とルビィはそれどころじゃなかった。

 こうして、ルビィとの初デートに出かけることとなったのだった。

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