第76話 アスガード国までの道中
そしてまた、数日が過ぎた頃。
ティウから任務の通達が来た。
今の俺はミズガルズ王国の貴族という立場にあるわけだが、これはミズガルズ王国に属するということを意味する。
ミズガルズ団の任務を受けることに、これで何の制約もなくなったわけである。
任務の内容はシンプルだった。
アスガード国の至神乙女《ヴァルキュリア》にコンタクトを取ること。
かの大国は魔法使いと戦士の二つの戦闘組織があり、戦士側の組織が国の実権を握っているそうな。
そして、戦士側の組織こそ至神乙女《ヴァルキュリア》だという。
アスガードに向かうメンバーは二人。
俺とルビィの二人だけだ。なぜ俺とルビィだけなのかというと、以前ルビィが言っていたように今回は戦闘の目的のない政治的な会合が目的だからだ。
事前に向こうには文書を送っており、日程は決まっているらしい。後は現地に行くだけ。
ヴァナハイムの時のような、邪竜と出くわすといったハプニングがない限り、問題は起きないだろう。
ルビィは嬉しそうに、アスガードへ向かう準備をしていた。
俺も少し、いやすごく楽しみだ。ヴァナハイムの時同様に遊ぶ時間などないだろうけど、またルビィと一緒に遠出することが、すごく楽しみだった。
◆
「なぁ、まだ着かないのかよ~」
「しょうがないでしょ。王国からアスガード国の中心地である神都まで七日。それまで休憩を挟みながらずっと移動、我慢我慢」
もう、と頬を膨らませるルビィ。
可愛いなと思うが、移動で退屈になっている現状、ルビィの笑顔だけでは退屈は覆せそうにない。
「大体、とおくんはアスガードにいたんでしょう? だったら、これくらいの移動慣れっこでしょ」
「王国を出た時は行く先なんて決めてない、放浪の旅だったからなぁ。適当にぶらついてたら大森林に行き着いたって感じだったし。帰りは魔法でひとっ飛びだったしなぁ」
そう。俺は大森林から王国までひとっ飛びで帰ってきたせいで、長旅の感覚がいまいち分かってなかった。
だから、馬車という狭い空間の中に長時間拘束される辛さが分からなかった。
ルビィはよく他国に行くらしいが、毎回こんな地味な辛さを味わっているのか。大変だな。
魔法で移動できればあっという間なんだけどなぁ。
「あ、そうだ! 俺の魔法で大森林まで飛んで行けば大幅に時間短縮できるんじゃないか?」
「それって馬車ごと移動できるの? 御者も? 私は? そもそも大森林のどこか分からない場所から、神都までの道は分かってる?」
「あ……ダメかぁ」
落胆し、肩を落とす。
魔法でひとっ飛びという方法ならb行けると思ったんだが、現実はそう甘くはないらしい。
結局、もうしばらくはこの狭い空間にいることを受け入れなければならないようだ。
「あーつまんねー。暇だ、暇すぎるー」
「我慢しよう、ね? 神都は古くから現存している伝統的な建築物がすっごく綺麗なんだよ。あまり時間はないけど、一緒に見ようよ」
「それは楽しみだけどさぁ、移動の時間が退屈なのは変わらないぜ? それにずっと馬車に乗ってると、なんか気分が……」
狭い空間に閉じ込められ、窓から見える風景は木々ばかりで代わり映えしない。
魔道具のおかげでスムーズに移動出来るのが利点のこの馬車でも、そもそもでこぼこ道だと衝撃を殺しきれない。
そのせいか、さっきから気分が優れない。深刻なほどではないが、軽い乗り物酔いのようだ。
「あーなんか頭が重い。酔ったかもしれない。悪いルビィ、俺ちょっと寝るよ。気分がよくなったら目を覚ますからさ」
「え……とおくん寝ちゃうの?」
少しさみしそうな顔のルビィ。話し相手がいなくなってしまうから、つまらなくなると感じているのだろう。
しかし、俺も乗り物酔いには逆らえない。
ルビィは少し迷ったような表情をした後、意を決したかのような表情でこちらを見る。
「な、ならとおくん。ここに頭乗せたらどうかな? かな?」
「ここってお前……そこは……」
ルビィが手で指し示した場所。
それは、ルビィの膝だった。より正確には太もも。ほっそりとした、しかし健康的な肉付きも感じられる程よい太さの太ももだ。
そこに頭を乗せると言うことは即ち、膝枕をしてくれるということを意味する。
「い、いいのか? 膝枕、してくれるの?」
「こ、今回は特別! とおくんの気分が悪そうだから、仕方なくやってあげるんだからね!」
「そうだよな、普段からこんなことしてくれるわけないもんな! あは、あははは」
冗談交じりに笑った後、しんと静まる。
さて、どうしたものか。このままガバッと頭を膝に乗せてもいいのだろうか。それとも礼儀作法的なものがあるのか。
いきなり乗せるのもそれはそれでどうかと思うし、でも失礼しますとか言うのもなんか間抜けな感じがする。
クソ、こいつはとんだ難問だぜ。まさかルビィは俺のマナーを試しているのか?
アスガードで失礼しないように、今のうちに礼儀作法を叩き込もうとしているのか?
だとしたら、これほど効果的な抜き打ちテストはない。
俺が迷っていると、ルビィはもう! と言って俺の頭を引き寄せた。
そして、膝に頭を乗せる。
「あっ」
あたたかい、というのが第一印象だった。
体温が、という意味もあるがそれだけじゃない。
太ももに頭を乗せると柔らな感触を感じる。そして、ただ柔らかいというだけでなく、反発する堅い部分があることも分かる。
これは筋肉だろうか。ルビィはこう見えてしっかり鍛えているんだな。もちろん、騎士たちのように本格的に鍛えているわけじゃないんだろうけど。
そして息づかい。
ルビィは照れているからか、さっきから耳が赤い。そして緊張のせいだろう、呼吸の音がこっちに聞こえるほど大きい。
その様子を見るのが、少し楽しい。照れているルビィは、正直かなり可愛い。だから、この角度からならその照れた表情を余すことなく堪能できる。
あと、これは狙って見ているわけじゃないが、膝枕をしてもらっている状態で上を見る。
すると、二つの小さな膨らみが目に入る。その膨らみはいうまでもない、ルビィの胸だ。
成長したことでしっかりと主張をするようになった双丘は、真下から見ることでその形がより鮮明に見えてしまう。
大きくなったとはいえまだまだ小さい部類に入ると思っていたが、見方を変えると形の良さが見えてくる。
これは、中々いい眺めだ……。
「ああ、最高……」
「ふふ、そんなに気に入ったの?」
「うん、このままずっといたいくらい……」
「そ、そう? だったら、ええと……。とおくんがどうしてもって言うなら、たまにならやってあげても、いいよ?」
「ありがと、ルビィ」
最高の安らぎを感じつつ。
俺は眠りの世界へと落ちていくのだった。
ちなみに、目が覚めると半日が経っており、酔いはすっかり治っていた。
膝枕、いとおそろしや。




