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その転移者、雷神につき 〜ボツヒロインのために、俺は異世界を救う〜  作者: taqno(タクノ)


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第71話 竜殺しは不敵に笑う

 シグルズ相手に大剣を躱し隙を突くという戦法が通じない。

 避けてばかりでは状況は好転しない。ならばどうするか。

 真っ正面から受けて立つしかない!


「【筋力上昇(ビルドアップ)】、【敏捷強化(クイック)】!」


「むっ!」


 肉体強化の魔法を施した。

 本当は複合強化魔法の【雷光】を発動したかった。しかし、雷光は雷神の能力で生み出したオリジナル魔法だ。雷神状態の時でないと発動できない。

 ティウに雷神の使用を制限されている今、俺が使える魔法は汎用的なものに限られていた。


「ふん!!」


「ぐぅう!」


 脳天をたたき割らんとする一撃をロングソードで受ける。

 まるで象の突進の如き力に両腕が悲鳴を上げる。

 しかし受けきった。肉体強化をした状態でなら、シグルズとまともに打ち合うことが出来る。

 回避からのカウンターという得意戦術以外の方法を見つけられたことにほっと安堵する。

 もっともティウに雷神に頼らなきゃ何も出来ないのかと言われないためには、この程度出来て当然といったところだろう。


 そうやって俺が戦いの終わった後のことを気にしていると、眼前のシグルズが語りかけてくる。


「私を相手にここまで凌いだ人間は貴殿が初めてだ」


 心底感心したように、竜を殺した英雄は言う。

 そりゃそうだ。だってシグルズはエタドラの設定上でも強キャラなのだ。そんなのが全力で剣を振るって生き残れるのなんて、それこそ同じ強キャラだけだろう。

 俺がこうして打ち合っていられるのも、高いステータスと強化魔法のおかげだ。素の状態なら間違いなく今頃ミンチになっている。

 シグルズは尚も話しかけてくる。大剣を握る力を一切緩めず、むしろより一層力を加えて。


「私がドラゴンを討伐した時、人々は私に賞賛の言葉をくれた。しかし、私にはそれらの言葉は酷く冷めたもののように感じた。多くの人が尊敬のまなざしを向けてくれるのと同時に、その目に畏怖の念を込めているようにしか思えなくなった」


「なんだ、ドラゴンを殺したあいつは竜と同じかそれ以上の化け物じゃないかって恐れられたって感じか? 漫画やラノベでよくある感じだな!」


「ああ。しかしそんなこと気にはしなかった。私は自分のやるべきことをやっただけ。あのまま国を脅かすドラゴンを放置していては多くの民の命が失われてしまう。そんなことは看過できなかった」


 だが、とシグルズはつぶやいた。

 人々に恐れられても気にせず。ただ自国の民を想う。

 聖人とでも言うべき精神性を持った男が、民に恐れられるよりも心に影響を与えた出来事。それは。


「ドラゴンを殺して以来、私の力は増す一方だった。何人もの悪党を倒してきた。何匹もの魔物を屠ってきた。されどこの心は満たされることはなく、乾いていくのみ。私には戦士としての喜びを感じられなくなったのだ」


 強くなりすぎた。

 故に戦闘は作業に過ぎない。

 その事実が当代最強の冒険者、ドラゴンスレイヤーシグルズの心に深く突き刺さっていた。

 俺は純粋な戦士って訳じゃないが、戦いの中で感じる高揚感っていうのは確かにある。不謹慎だが敵と命を削り合う殺し合いの中に、確かな煌めきを感じることもある。

 相手より一手先を行った喜び、自分の想像もつかない戦法を取られたことに対する驚き。日常生活では得ることの出来ない体験が戦いの中にはあるのだ。

 そういう体験が戦士の喜びというのならば、シグルズはその体験を感じられなくなったのだ。

 シグルズの苦悩する気持ちは痛いほど分かる。俺も似た経験があるから。

 エタドラでミッションをクリアするために自分の現レベルに対して低いエネミーを相手にする時、酷く退屈に感じる。

 戦闘がもはや目的を達成するために必要な作業でしかなく、やらされているだけ感がすごい。戦闘も適当な魔法を発動して即終了。イベント故に特殊な敵として弱いくせに堅い敵なども出てくるが、魔法を連発して終わり。

 そんな惰性で行うバトルがつまらないのは、俺もよく分かっている。


「わかるぜシグルズ。戦いの中の喜び。戦いでしか得られない緊張感。一度味わってしまったらやみつきになる味を忘れられないんだろう?」


 シグルズの大剣を押し返し、反撃の一撃を放つ。

 シグルズは即座に大剣を構え直し、俺の攻撃に対処する。

 防がれてしまったが手を止めるわけにはいかない。相手の方が技量は上、俺が勝つためには勢いで押していかなければならない。

 防がれても防がれても、チャンスをつかむまで攻め続けるのだ。守勢に回るだけこっちが不利だからな。


「お前は待ち望んでいたんだろう! 強敵という存在を! 自分の血をたぎらせるような、そんな戦士を! そして戦士の喜びを得たいんだろ! だったら味わわせてやるさ、思う存分たんまりとな!」


 ロングソードでの攻撃を継続しながらも、左手を柄から離す。

 そして左手を突き出して攻撃魔法を唱える。

 使う魔法は上級魔法。スピード重視の一撃を放つ。


「【マサンダ】」


 呪文を口にすると同時、巨大な紫電が放たれる。

 左手から放たれた雷は、大剣でロングソードを受けたことで無防備になったシグルズに直撃する。

 手加減なしの上級魔法が直撃したんだ。エタドラの終盤の敵でも特殊な耐性が無い限り多少のダメージは受けているはずだ。

 それはドラゴンスレイヤーのシグルズでも例外ではなく、食らった後の様子から間違いなくダメージが入っていた。


「ふ……ふふ」


 攻撃が直撃したというのに、シグルズは笑う。

 普段の俺ならば何がおかしいのか、とかこいつマゾなのだろうかと疑問に思うかもしれない。

 だが、流石にこの笑いの意味するところは分かっている。それはシグルズが長く忘れていた感情。


「いい、いいぞ! 貴殿の攻撃は効いた! 私の肌を焼き、血を流させたのはいつ以来か。かつて倒したドラゴンぶりだ! ふははは! これだ、この感覚を私はずっと待っていたのだ!」


 湧き上がる高揚感を押さえられずに笑うシグルズ。

 その姿は英雄然としておらず、まるで子供のような笑顔だった。

 しかし、それまでの堅物そうな表情からは打って変わった、生き生きとした顔だ。

 おそらくこれこそがシグルズの素の顔なんだろう。

 長年忘れてしまっていた、戦士の顔なのだろう。


「トール殿、もっと技はないのか! あの四魔将を倒した腕を持っているのだ、この程度ではないはずではないか? もっと、もっと私と全力を尽くそうではないか! きっと素晴らしい快感が得られるに違いない!」


「はは……さっきとまるで別人だな……。だが笑ってもいられないな……」


 シグルズに攻撃が直撃したのはいい。俺の魔法がしっかり通用するって分かったからのだから。

 しかし問題はシグルズのダメージだ。上級魔法が直撃したというのにシグルズのダメージは軽い火傷とわずかな流血。

 はっきり言って、この程度で済んでいい威力の魔法ではなかった。

 マサンダを発動した時、正直心の中で「やべ、もしこれで死んだらどうしよ!」と思ってしまった。それだけ高威力の魔法だったのだ。

 それが軽傷程度のダメージしかない。普通の人間の耐久力ならばあり得ない。

 これはまた、シグルズにも特殊な耐性があるタイプの敵なのかもしれない。エタドラでもボスレベルの敵だと大抵何かしらに対する耐性は持ってたからな。彼がそうだとしても何ら不思議じゃない。


「貴殿になら、力の片鱗を見せても大丈夫そうだ……」


「力の片鱗?」


 シグルズは気になるワードを口にする。

 それはまるで、まだ全然本気じゃ無いとでも言っているかのようで。俺は背筋に冷たいものを感じた。


「かああぁぁ……!」


 シグルズは大剣を地面に突き刺す。

 そして、シグルズは腰を落とし、全身に力を入れる。その姿は気を練っているみたいにも見える。

 そして。

 そして……。


 ◆


「おおーっと、どうしたシグルズー!? 剣を放棄して立ち止まってしまったぞー?」


 実況者がシグルズの行動を見たそのまま口にする。

 確かに遠目から見たら攻撃を中断したように見える。

 しかし戦いに身を置く者がシグルズの姿を見れば、それが力を溜めている行動だと見抜けただろう。

 もっとも、このスタジアムの観客達の中にそれが見抜ける者がどれほどいるのかわからないが。


「フレイさん、これはいったいどうしてしまったのでしょうか?」


「あれは攻撃をやめたわけじゃないですよ。おそらく魔力を高めているのではないでしょうか」


「魔力、ですか」


「私もお兄様と同意見です。シグルズさんはトールさんの魔法攻撃を正面から受けてしまったから、その意趣返しのために強い魔法を発動しようとしてる可能性が高いです」


「そういうことでしたか! 会場の皆さん、シグルズの次の攻撃はド派手な一撃になりそうだぞー!」


 俺とフレイヤは、シグルズの行動を魔法を放つための溜めだと判断した。

 しかし、それだと腑に落ちないことがある。

 いくら強い魔法を使うためといっても、もう数秒はあのままだ。仮に強力な魔法が使えたのだとしても、これほど準備に時間がかかる技は実戦だと使えない。

 それを英雄シグルズがわかっていないはずがない。そんな欠陥技をこんな場で使おうとはしないはずだ。

 ならば、別の何か……普段は使わない、故に発動に時間がかかる何か……。シグルズはそのような技を使おうとしているのかもしれない。


「お兄様……!」


 フレイヤが張り詰めた声でささやく。

 視線を舞台に戻すと、そこには数秒前と変わらないシグルズとトールの姿。

 しかし、一つだけ変更点があった。


 シグルズの体から微かに漏れ出す、赤いオーラ。


「なんなのでしょうあのオーラ……。魔力……なのでしょうか。それとも別の……」


「…………」


「お兄様?」


「ん、いやすまない。少し気になっただけだ」


 シグルズの全身から微かに出る赤いオーラ。

 それは初めて目にする類いのものだったのに、不思議なことに既視感があった。

 どこかで見たことがある……そんな気がしてならない。


 あの力は、いったい何だというのだろう。


 ◆


「待たせてすまなかったな。まだこの変性には慣れてないんだ」


「へんせい……? それは一体」


 シグルズは地面に刺さった大剣を掴み直す。

 さきほどまでも大剣を軽々と扱っていたが、今度は更にその怪力っぷりに磨きがかかっていた。

 なんと片手で大剣を持ち上げくるくると回転させるという、RPGのバトル前演出とかであるかっこいいポーズをしはじめたのだ。

 カッコいいとか見栄えがいいなとかどうでもいい感想を抱いてしまうが、そんなことよりも真に驚くべきことはその力。

 シグルズの全身から漏れるオーラが関係しているのだろう。なにかしらの強化系のスキルでも発動したのか。

「気になるか? しかし生憎、この力については知られるわけにはいかなくてな。申し訳ないが、力の一端を見せるためそれで勘弁してくれないか」


「そんだけ禍々しいオーラを出しておいて詳細は聞くな、か。中々のわがままっぷりだな。俺は気になる結果はCMの後で! って言われた後にCMが明けた結果、結局次週の放送に持ち越すような番組が大嫌いなんだよ!」


 肉体強化を施した腕力でロングソードを力強く投擲する。

 剣は一直線にシグルズの胸元へ飛んでいくが、剣は弾かれることもなくそのまままっすぐ飛んでいった。

 シグルズの姿が消えていた。


「!?」


「ッあああああ!!」


「ぐっ、ごおぉぉ! なんて、重さだ……」


「ほう……この状態の私の速度に、尚もついてくるか。やはり貴殿は素晴らしい。戦いというものはやはりお互いの実力が近い時こそが最高に楽しいものだ」


「ああ……俺もそう思うけど……【プラズマレイン】!」


 雷系魔法プラズマレイン。

 細いエネルギー波をいくつも敵に向けて放つ魔法だ。

 このエネルギー波は威力が高いが近距離の敵にしか当たらない。射程が短いのだ。

 イメージ的にはショットガンが近いか。


 シグルズはプラズマレインを片腕で防ぎきる。

 防がれたとはいっても、腕にあたったのだ。それなりのダメージはあるはずだ。そう思ったのは間違いだった。

 シグルズの左腕は傷一つ無いきれいな状態のままだったのだ。


「な!? いくらなんでもチート過ぎだろ、中級魔法とはいえ威力は上級並だぞ!」


 俺はシグルズから大きく距離を取る。ダメージが無いとはいえ防御行動に移ったためわずかな隙は出来る。

 大急ぎでいくつかの呪文を唱えて次に備える。

 シグルズは再び俺の前へと駆けてくる。今度こそその大剣で俺の体を引き千切るだろう。しかし、そんなことはわかっている。

 だから一瞬の隙を作り、策を講じたのだから。


「捉えたぞ!」


 シグルズが力強く地面を踏み込む。


「かかったな!」


 シグルズの足元が光る。

 そして、瞬時に爆発が起こる。

 これは設置型魔法【マインスタンプ】。小規模の地雷に似た魔法だ。

 見えないマークを地面に設置し、敵がそれを踏み抜くと爆発するトラップ。

 使い所が限られる代わりに、中級魔法の中でも威力が高い。

 しかし、それでもシグルズは止まらない。マインスタンプにかかった合間に距離を空けた俺に、再三詰め寄る。


「まだまだ!」


 今度こそ俺を捉えたと思っただろうその時、今度は地面から雷が放たれる。

 これも設置型魔法の一つ。【エレキトラップ】。シンプルな名前の通り、雷魔法のトラップだ。

 電気で敵を麻痺させる単純な魔法だ。ただし麻痺付与率は普通の雷魔法よりはるかに高い。

 現にシグルズは痺れて動けないでいる。


「このチャンスを逃すわけがない! いくぜ!」


 剣を地面に投げ捨てる。

 そして両手を前に突き出し、呪文を唱える。


「【マキシマム・スパーク・ブレードランス】!」


 雷の矛が顕現する。

 俺は右手を思い切り握りしめて、その矛を殴る。

 すると雷の矛は凄まじいスピードで射出され、標的の体を貫く。シグルズの全身に膨大なエネルギーの電流が流れる。


「どうだ……ちょっとは効いたか……へへっ」


 流石にこれだけ攻撃すればシグルズも大ダメージを負っただろう。

 ド派手な技の連続に会場も大盛り上がりだ。

 土煙の中から、シグルズが出てくる。

 轟という音とともに、大剣を振り回して。


「げぶっ!」


 横腹に大剣が当たり、数メートル吹き飛ばされる。

 体がきりもみ回転する。視界がくるくると回る。

 視界が定まり、正面を見据えた先にシグルズはいた。その顔はとても楽しそうに、笑っていた。


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