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その転移者、雷神につき 〜ボツヒロインのために、俺は異世界を救う〜  作者: taqno(タクノ)


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第69話 ティウの提案と、ルビィとの日常

 ミズガルズ王国 王宮――――


「では、報告は以上です」


 文官の男が書類の山を読み終えると、ほうと息をついて席に戻る。

 文官は帝国とミズガルズ・ヴァナハイム連合の戦争の一部始終を事細かに伝えるという大役を務めていた。

 具体的にいうと、この場にいるミズガルズとヴァナハイム両国の代表、さらには軍の上層部や国の有力者などの重鎮相手に、三時間ほど説明しっぱなしだった。

 緊張からか、ことある毎に水を口に含んでいたのが印象的だった。


 で。

 俺こと雷門透こと雷神トールが、なぜこんなVIPばかりが集まった場所に紛れ込んでいるのだろうか。場違いじゃない?

 ひょっとして間違って連れてこられたのかな、と疑問に思うこともやむなし。だって文官が説明している間、重鎮達が質問や確認をしている中、俺は三時間ずっと会話に混ざることも出来なかったからな。


 完全に浮いている俺に対する、貴族の方々の『誰だこいつ』みたいな視線が非常に気まずかった。

 一応、この世界に来てすぐの頃に王宮の大広間で顔は見せているんだけどね。まぁ、あれ以来全く関わりがないんだから覚えていないのも仕方がないんだが。


 そんな風に俺が所在無さげにしていると、王様が立ち上がった。どうやら戦争の事後処理などの話は済んだようで、次の話題に移る流れみたいだ。

 出来れば俺も加われるような話題を提供してくれるとありがたい。


「では、皆さんご存知のように今回の戦争で我々が帝国に勝利した、その立役者を紹介しましょう」


 王様は両手を大きく広げて見せて、その場にいるみんなに自慢の一品を見せるかのような口調で語る。


 なになに? 戦勝の立役者? それはやっぱり、ミズガルズ王国の騎士団長で連合の総隊長を務めたティウだろうな。ティウの指揮のおかげで数万の軍の差を覆したといっても過言じゃないだろう。

 俺は途中からの参加だし、勝ち星なんてたったの二だ。この戦争で貢献できたことなんてほとんどない。

 いや、一応ボスキャラ二人倒したけどね? でもみんなの頑張りに対して、ちょっと地味かなーって。そもそも俺の活躍が認知されているか怪しいし。


 チラリ、と当然のようにこの会議に出席しているティウの顔を見てみる。ティウは俺の視線に気づいて、ウインクで応答する。

 なんだその爽やかな対応。俺が女なら落ちてるぞ。

 でもティウの反応を見ると、やっぱり王様のいう戦争の立役者ってのは、あいつなんだろうなぁ。


 と、俺が他人事のように眺めていると。

 王様が立役者の名を口にする。なんか壮大な前口上を添えて。


「彼こそが我が王国きっての最強の戦士。人智を超えた力を持ち、しかしてその力を無辜の民を守るために奮う、我らが至宝――雷神トール!」


「へ?」


 ヒュー‼︎ と部屋の中で歓声が上がる。

 待ってましたと言わんばかりの声。張り詰めた会議の空気が一気に弛緩する。そして、緊張とは真逆の明るい雰囲気に包まれる。


 なんだ、なんなんだよこれ。

 王様の言っている言葉がわからない。俺が立役者? え、どこが?

 俺が戦争でやったことと言えば、邪竜と闇ザコを倒しただけ。戦争で勝ったのはみんなが頑張ってくれたおかげだ。

 俺の役割なんて野球で例えると、九回裏同点の場面で犠牲フライを打ったことでランナーがホームに生還して勝利、という感じのなんともあっけないものだ。

 いや、こんなこというと野球ファンに怒られそうだけどさ。


 王様の言葉に当てられたのか、なんか貴族たちも我が家の娘を是非とか、ホニャララ商会とご贔屓にとか、色んな人が寄ってくる。

 人の動きと会話の情報量がどっと押し寄せる。正直覚えきれずついていけない。


 会話に困っていると、ティアが助け舟を出してくれる。


「まぁまぁ皆さん、彼はこういう席が初めてですから緊張しているんですよ。詳しい話はまた別の機会にするとして、今日のところは歓談といきましょう」


「ははは。さすが騎士団長殿、弟子にはやさしいのですね」


「ええ、自慢の教え子ですから。もっとも――」


 ティウの視線が一瞬、俺を捉えた。

 その目は楽しそうに細められているように感じて、それだけで嫌な予感がする。

 もうティウの頭の中には、俺を使って面白い状況に持って行こうということしかないだろう。

 断言できる。絶対にそうだ。あの悪い顔は、俺を面倒に巻き込もう、というか自分は安全圏で眺めて俺の困った様子を楽しむ算段だ。


 俺が口を挟むかどうか逡巡していると、ティウは俺にしか見抜けないだろうちょっと笑った口元を開いて言葉を発する。


「もっとも、皆さんが彼の実力をお疑いだというのなら、せっかくの機会ですから彼の力を見せてもらうというのはどうでしょう。相手はそうですね……この戦争にも参加していたロー王国の王子、冒険者として名を馳せる勇者シグルズなどいかがでしょう」


 ティウの提案を受けて、周囲の人々が興味深そうに唸る。


「ううむ、たしかにシグルズはここ最近の冒険者の中では最強とも言われる戦士だ。魔剣を使い、攻撃魔法を巧みに織り交ぜるその姿こそ戦士の頂点と謳う者も多い」


「別にトール殿を疑うわけではないが、なにせ貴公はほぼ無名の戦士だ。実績もないのに戦争の立役者と言われても信じるものが少ない」


「そうですね。ティウ団長の言うように彼の実力を一度目にしておくのもいいかと。実力を把握しておくことで彼に対する信用も上がりましょう」


「というわけだ。頑張ってね、トール♪」


 ニッコリと、本当に楽しそうに笑う。

 いや、心の中では「笑う」というより「嗤う」という字が正しいに違いない。

 ティウとはそういうやつだ。

 一年という短いようで長い間会っていなかったが、かつて二ヶ月もの間寝食を共にしたんだ。

 まぁ、食事と睡眠以外のすべての時間を修行に当てられた地獄の期間だったわけだけど。

 とにかく、ティウの性格をよく知っている俺からすると、きっと大仰な催しにされてしまうに違いない。

 俺にできるのは、相手の戦士に勝って力を証明するくらいだ。負けるのは趣味じゃないしな。


「はぁ……わかりましたよ。じゃあ、頑張るとしますか!」


 ◆


「ええ!? 英雄シグルズってあのゴールド級の冒険者の? そんなすごい人と戦うんだ、とおくん」


 口を開けて目を見開きながらも口を押さえて、上品な笑い方をするルビィ。

 俺の話を聞くときにわざわざティーカップをテーブルに置いてくれているのを見て、ああ……俺との会話を楽しんでくれてるんだなと感じる。


「ああ、なんか成り行きでな。でも考えてみたら、俺が戦ってるところって確かに、あまり見られたことがないんだよ。だから、ひょっとしたらティウの気遣いなのかなって思ってさ」


「気遣い? あのいたずらが趣味で、あまりにもいろんな人にいたずらするせいで騎士団長としての仕事してるところをほとんど見ないティウが?」


「いや、あいつも見えないところで仕事はしてるはずだよ……たぶん」


 ルビィの言葉を強く否定できなかった。

 うん、だってあいつ俺に修行をつけてくれた二ヶ月間で、剣を打ち合っているときでさえ「あ、肩に虫が!」とか言って来てたしな。

 それも一回や二回じゃなく、何回も。


 でも、あいつは俺が困るのを間違いなく楽しんでいるだろうけど。

 それと同じくらいに、真剣に俺のことを考えてくれている。

 じゃないと二ヶ月つきっきりで修行なんてしてくれないしな。


「でも、確かにティウってそういうとこもあるよね」


「うん?」


 俺の考えを読むように、ルビィはこう言った。


「例えば、ここでとおくんが頑張ったらきっと国のみんなもとおくんのこと、すごいって気づいてくれるよ。戦争で……ううん、今まで何回もとおくんは頑張ってたのに、それをみんなに知られないっていうのは私だって悔しいもん。だから、頑張ったとおくんをみんなに認めて欲しいっていうティウの親心なのかも」


 頑張ったやつにはそれに見合った評価を与えるべき、ティウがあの楽しそうな顔の裏で考えているのはそういうことか。

 でも。


「俺はあいつの息子になった覚えはないぞ」


「あはは、じゃあ師匠ごころだね」


「後方師匠面やめろ、と言いたいところだけど。まぁ実際、この世界で俺の師匠といえばティウになるもんなぁ」


「そうそう。たまには師匠の言うことも聞いてあげたら?」


「そっか……そうだな」


 そうだな。

 ティウには世話になりっぱなしだし、恩返しってわけじゃないが、ティウの考えに従うことにしよう。


 そうと決まれば鍛錬だ。

 相手の戦士に負けることは、まぁ無いかもしれんが鍛えておくに越したことはないだろう。


 俺が席を立とうとすると、俺の手に添えられたルビィの柔らかく温かい小さな手が、少し力を強めた。

 うん、恥ずかしいから言わなかったけどね。会話してる間、ずーっと手を握られていたんだ。

 ルビィがティーカップを置いたのは俺の話を真剣に聞こうとしていたってのもあるけど、こうして手を握ることがメインだったのだ。

 会話している間、お互いの顔がすごい近かった。なんだこれ、俺の鼻息が当たってしまわないか心配になる。ブレスケアはないのか、ないか、異世界だもんな。

 とにかく、ルビィにずっと手を握られてついつい顔が赤くなってしまった俺を誰が責められよう。


 そして、俺の手を覆う彼女の手の力がどういうわけか強くなった。

 ルビィの顔を見てみると、視線を逸らして、唇を少し尖らせている。


「どうした、ルビィ。ひょっとして俺が鍛錬に行くのが寂しいのか? なんちゃって――――」


「うん、寂しい……。ねぇ、もうちょっとだけお話してちゃ……ダメかな?」


 顔を逸らしているが、ルビィがいかに恥ずかしい想いをしているのか、俺は手に取るようにわかる。

 なぜなら、彼女の耳が夕日のように赤くなっているからだ。


「……」


「じゃ、邪魔ならいいの! ただ、もう少しだけとおくんといっしょにいたいな……」


 直球というものは、シンプル故に時に大きな力を発揮するのだな。ルビィの言葉を聞いて、俺はそんなことを考えた。

 というか、そんな脇道にずれたことでも考えないと俺も恥ずかしいし。

 だから、思わずからかってしまう。そんなつもりなんてなかったのに。


「……赤耳姫」


「も、もう! それは言わない約束!」


 ごめんごめん、と笑いながら席に腰を下ろす。

 それを見たルビィは、小さくやった、と呟く。見ていて飽きない子だ。


「ふふ……じゃ、あと少しだけだぞ。今度の勝負で負けたら、俺だけじゃなくティウや王様の名前に泥塗っちゃうかもだし、俺も頑張らないといけないんだから」


「うん、頑張ってねとおくん!」


 俺の右手を、ルビィの両手で包まれた瞬間。

 まるで今日の天気のような、暖かなひだまりに包まれるみたいな不思議な安心感を感じた。


 全てを失う筈だったルビィの運命に抗い、手に入れた平穏。

 それは今までと変わらない日常のようで、少しだけ違う日々。

 ほんのちょっとだけだが距離感が縮まった、俺と彼女の新しい世界だった。


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