第60話 トールVSロキ①
「【雷光】!」
俺は強化魔法を自信に施す。
内容はいずれも攻撃に特化したものだ。俺に守りなんかいらない。守りたいものは俺自信ではなく、俺の後ろにいる少女なのだから。
だから、俺はただ全力で突っ込むだけ。
アホな俺にはそれしか出来ないし、それ以外する気もない。
【雷光】は俺のオリジナル魔法で、内容は様々な強化魔法をまとめたもの。
魔法名を言う必要はないのだが、以前も言ったように声に出したほうが効果が高い気がする。
【雷光】の内容は【魔法強化・雷属性】、【魔力上昇】、【筋力上昇】、【敏捷強化】、【サンダーポイント】だ。
そしてこれらすべてを【雷神】の特性を活かし、合成し一つの雷魔法として唱える。
中でも【サンダーポイント】は移動中に電気を纏うという変わった魔法で、“筋力”と“魔力”を元に触れた相手に超微量ダメージを与える(エタドラの中での話だが)。
よって、微量ダメージとは言え他の強化魔法をかければかけるほど威力が増す。
そして雷属性ゆえに、【雷神】のボーナス補正とも上手く噛み合う。
結果的に、五つの強化魔法で適切な強化を施したと言えるだろう。
この状態で、闇ザコと白兵戦を繰り広げる。
剣と影、光と闇が交差する。
攻撃すると漆黒の衣からオートカウンターが放たれ、それを躱して別の角度から一撃を入れる。
その攻撃も衣で強化されたやつの腕で受け止められて、もう片方の手から影の衝撃波が発射される。
衝撃派が視界に写った瞬間に攻撃を中断、即座に跳躍してやつの後方へ。
それの繰り返し。
埒が明かず、雷を闇ザコの頭上に降り注がせる。
規模は非常に小さいが威力は上級魔法並、強化された状態だから実際は上級魔法以上の威力。
数秒の間発動させ続けて、動きを止めている間に高速の突きを放つ。
衣で覆われていない肌の露出した部分を狙うが、剣が触れそうになると衣からカウンターが放たれる。
どうやら、漆黒の衣に覆われていようがいまいが闇ザコに攻撃を仕掛ける事自体がカウンターのトリガーとなるようだ。
カウンターの威力は今まで散々見てきた。
エリくん隊長やハゲ姉さんは食らうと即ダウンしていた。明らかに食らったらやばい技だ。
あの一撃はこっちの攻撃は当たらず、やつの攻撃だけあたるインチキ技。
だが、俺はあえて突きを中断しなかった。
「うおおおおおおお!」
剣が肌に突き刺さりそうになる。
だが、それよりも早く、オートカウンター――影の衝撃波が俺の腹部に届く。
ドシン、という激しい衝撃。
かつての戦いで受けた痛みを思い出す。
だが――
「かはっ……」
ダメージを受けたのは、やつのほうだった。
「ば、馬鹿な……オートカウンターが……!」
「今さら効かねぇよ、そんなもん! 雷神を舐めるな!」
俺の左腕から黒い塵が散っていく。
影の残滓だ。漆黒の衣から放たれた、オートカウンターの残りカスだ。
今の俺は【雷神】による稲妻のオーラと【サンダーポイント】による帯電で全身が一種の防御壁と化している。
俺の体が触れるだけで敵にダメージを与えることが出来るし、何よりこのオーラを貫いてきた攻撃があったとしても、かなり威力を減衰することが出来る。
だから、オートカウンターの衝撃波であろうと、こうやって片腕で防ぐことが出来る程度の威力まで落ちている。
そして、俺の攻撃はちゃんと闇ザコに届いた。
威力が弱まったとは言えオートカウンターを食らったので狙いが外れ、肩の辺りを掠るだけに留まったが。
今、やつを守る鎧はない。
ここからは、俺のターンだ。
「覚悟は良いか、闇ザコ」
「くっ…………!」
「いくぜオイ!」
剣による乱舞――切り上げ、振り下ろし、蹴りを入れた後に剣を投擲。
そして全身のオーラを増幅させた状態でのドロップキック。
全て命中。
やつの仮面から、血が溢れているのが見える。
おそらく口から出たものだろう。きちんとダメージを与えている証拠だ。
「くそ、こんな……」
「わりーが終わらせてもらう……【ビックバン・ライトメア】!」
空間に小さな球が出現。
それは既に小さいにも関わらず、更に小さくなっていく。
そして、目にも見えないくらいのサイズになると、一気に膨張して爆発を起こす。
名前の通り、雷属性の大爆発。悪夢のような威力に怯え、倒れてしまえ。
「ごぼぁっっ!」
闇ザコは勢いよくふっとび、体を何度も地面に打ち付けて十数メートル転がった後に、ようやく勢いが止まった。
体からは煙が出て、立ち上がる様子はない。
戦闘不能だ。
「勝った……のか……?」
「よく……やったね……トール」
後ろから声をかけられて、反射的に首を回す。
そこには懐かしい顔、団長のティウがいた。
「ティウ、生きてたのか! なんだよ、今にも死にそうな顔して。ひょっとして、闇ザコにやられたのか? 大丈夫かよ」
「これは普段からだよ……。でも、心配してくれてありがとね。ロキにやられたのは事実だったから」
「……どうやら、お前も色々あったみたいだな。とりあえず休まないか? お互い疲れただろ」
「それよりもトール、何か言うことは?」
「あん? …………ああ、そっか。ただいま、ティウ」
「うん、おかえりトール。また会えて嬉しいよ」
グッと肩を抱き合わせる。
久々に会った友。色々言いたいことはあるが、今はとりあえずこれだけ。
「そういや、王様はどこにいるんだ?」
「ここじゃない別棟にいるから、たぶん無事だと思う。バルドルさんもそこにいるはずだ」
「そっか、ならいい。ところで……」
別の方向から、ゴトンと音がした。
ここにいるのは俺とティウ、ルビィ(と思われる少女。未だに呆然と立っていて、影のせいで顔が見えない)。
なら、この音の正体は誰のものだ。
「まさか、闇ザコ――――」
音のする方を向くと、邪竜の死体が巨大な影に呑まれていた。
「なんだ――これは」
「ふぅ、ありがとうトール。お前がご丁寧にここまでふっ飛ばしてくれたおかげで、ファフニールの血肉をすすることが出来たよ」
「邪竜を食って、回復したっていうのか……!?」
「それだけじゃない――見ろ」
闇ザコの体を覆う影が、その蠢きを増していた。
今までは黒い靄という印象だったのに、今では黒いヘドロみたいだ。
質そのものが変わったと言っていい。
「お前には感謝しか無いよトール。間抜けな顔して俺のパワーアップを手伝ってくれたのだからなぁ」
「……ティウ、王様とバルドル氏の安全を確保してきてくれ」
「でも、あれを1人で相手するのは――」
「頼む」
「――――わかった。死なないでくれよ」
「おう、何のために修行してきたと思ってるんだ」
ティウはその場から消えて王様がいるところへと向かう。
ここからは俺とやつの最終ラウンドってわけだ。
「さあ来いトール。いい加減貴様の顔も見飽きてきた頃合いだ! ここで消し炭にしてくれる!」
「消し炭になるのはテメェのほうだぜ闇ザコ。俺の目的のために、テメェにはここで焼肉屋の網の端っこにある焼きすぎた肉みてぇに、発がん性物質の塊になってもらうぜ!」




