第59話 王都最終決戦
黒いコートを纏う闇ザコは、俺の言葉を受けてまんまと釣られてくれた。
ルビィ(と思われる少女。ここからだと顔がよく見えない)から離れてこちらへと歩んでくる。
わかりやすい奴め。お前みたいなのをカモというんだ。
「トール……なぜここにいる。転移石は潰しておいたはずだが」
「わかんないか? 俺がここに来たいと思ったからここにいるんだよ、それ以外になんか理由あると思うかダホ」
「……貴様に聞いたのが間違いだったか。まぁいいだろう、どうせここで消えるのだからな。せっかく来てもらって悪いが、お前の出る幕はない……ファフニール!」
ロキの声に反応し、上空にいる巨大な影が咆哮を上げる。
そいつはかつて俺が実質的な敗北を味わった相手。
元四魔将の一人で、今ではドラゴンへと身を落としてやつ。
「ファフニールか……! ってことは、王都の被害もあいつが……!」
「その通り。そして、お前もここで終わる。ここに来たことを悔いながら朽ちるが良い!」
「GUSHAAAAAAAA!」
王都に響き渡る咆哮。
空気が揺れ、ビリビリとした振動を感じる。
激しい勢いで地上に下降してくる邪竜。
その口には炎が溜められて、今にも吐き出されそうになっている。
もし、この火炎の息吹が放たれれば、半壊状態の城は完全に跡形もなくなるだろう。
この火炎は、あの忌々しい技【イービルブレス】だ。
炎属性と状態異常付与の攻撃。広範囲に向けられて放たれるそれは、魔法・物理防御を突破する強烈なもの。
おまけに確立で【恐怖】という状態異常にかかってしまう。
そんな厄介な技を、むざむざ使わせる気はない。
「ファフニール……以前は確かに苦戦を強いられたけど、フレイの攻撃が通じたのを見てお前の弱点は分かっている。今更お前みたいなトカゲ野郎に躓いている暇はないんだよ」
腰に携えた柄を握る。
これは鍛冶師ロックに作ってもらった武器。俺の力を引き出してくれる最高の道具。
それを力強く握りしめ、魔力を込める。
――魔石が輝く。その色は青く、淡い。
魔力を更に込める。
上級魔法を発動するよりも、もっと多くの魔力を。
――魔石の輝きが増す。魔力は連結される他の魔石へと流れていき、柄全体に光のラインが出来る。
魔力を更に、更に込める。
極大魔法を発動するくらいの勢いで、どんどん魔力を柄に送る。
――柄の輝きが淡い青色から、激しい黄色へと変化する。そして、溜め込まれた魔力が鍔から放出、刀身を形成する。
この時、俺の脳内で武器の形をイメージする。
以前フレイが邪竜を攻撃した時は剣だった。【魔法剣】による絶大な威力でその体を切り裂き大打撃を与えた。
だから、俺も剣をイメージしようとしたが、やめた。
なぜなら、フレイのパクリみたいで嫌だったから。
どうせなら独自性を出したいと思うが、考えている時間はない。
ここは破壊力のありそうな武器を形成するとしよう。打撃武器だ。
武器のイメージをして、魔力で形作る。
新しい武器の初陣。デビュー戦だ。ただ使うだけじゃ締まらない。ここは声を出して、自らを鼓舞しようじゃないか。
柄をくるりと回し、そして天に掲げて叫ぶ。
この武器の名を。ブロックに名付けられた、我が力の象徴を。
「さあ、お前のお披露の時が来たぞ。良いところを見せてくれよ。起動せよ――全てを毀す暴威の鎚!」
鍔から形成されるのは、拳よりも大きい程度の頭部。
トイレットペーパー二つを横につなげたくらいのサイズだ。
それはウォーハンマー。相手を打ち付けるための打撃武器。
結局、ブロックのところで試したように柄が短い不格好なハンマーになってしまった。
だが、破壊力のあるものをイメージしたおかげか、形成されたハンマーはあの時よりも力強く輝いている。
うん、これなら俺の力を思う存分振るうことができそうだ。
「URRRRRRRRRRRR!」
トカゲ野郎の口が大きく開かれる。
――攻撃するなら今だ!
「うおおおおおおお!」
ハンマーを握りしめて駆ける。邪竜の懐へ飛び込み、武器を振るう。
狙うは腹部。フレイがかつて攻撃した場所と同じところだ。
一度ダメージを与えたことがあるんだし、ここなら攻撃が通じるだろう。
それに、あわよくば古傷が開いて攻撃が通りやすくなったらいいな、なんて考えてのことだ。
リーチの短いハンマーが当たるように、ギリギリまで近づく。
この攻撃はそう、魔法剣ならぬ魔法鎚……いやそれだと何か締まんねぇな……そうだ!
ハンマーによる魔力を込めた一撃。名付けて―――
「【雷神戦鎚】!」
◆
トールハンマーってなんかゲームとかで聞くよな。
北欧神話由来らしいけど、そういう元ネタ調べようにもよくわからなくて断念した経験がある。
神話って文章が古くて分かり辛いんだよね。
だから、エタドラで北欧神話由来の武器や名前が出てきても――ああ、元ネタかなんかあるのね――という感じに思う程度だった。
エタドラはエタドラとして楽しもう、元ネタなんか知らん! ってスタンスだ。
ただ、トールハンマーってのは俺の名前と被ってることもあってなんとなく印象に残っている。
だから、この技の名前として使わせてもらおう。
◆
俺の一撃は邪竜の腹部を捕らえ、打ち抜いた。
轟音と衝撃。そして血の匂いが充満する。
邪竜のブレスは放たれることはなく。そこにはただ、力尽きた邪竜の姿があるのみだった。
◆
焦げた肉の匂いがする。
それは邪竜からする匂いで、やつは地面に転がっている。
邪竜の腹には風穴が空き、向こう側の景色まで見えてしまう。
傷口から血が溢れることはなく、完全に焼けてしまって血も蒸発している。
これが俺の新技【雷神戦鎚】の威力だ。
「馬鹿な……あのファフニールを一撃で……」
闇ザコの狼狽する声が心地いい。
少しは面食らったかこの野郎。
喜んでいる場合じゃないのは百も承知だ。だが、今ので実感した。俺はこの一年半で強くなった。
もちろん、ブロックに作ってもらったこの武器のおかげではあるんだけど、あの邪竜のブレスに対する処理が以前に比べて格段に向上したように思う。
なんというか、適切な判断力が付いたんだと思う。
うん、自分で言ってて自慢みたいで恥ずかしいな。
「貴様、一体何をした……! ファフニールは貴様にとって天敵、雷属性は効かないはずだ!」
闇ザコが問いただしてくる。
こいつの質問に答えるのは癪だ。だがわざわざ俺に聞いてくるということは、ヤツは何が起きたのか全く全然把握できていないということだ。
つまり、俺のパワーアップはかなりの予想外。まさに俺はヤツラにとってのジョーカーだ。
だから、あえて闇ザコの問に答えることにする。
親切心なんかじゃないぞ。煽るためだ。
「おいおい。四魔将のロキ様ともあろう方が、眼の前で起きた出来事もろくに把握できないってのか? お前の目は節穴なの? それともその仮面で視界塞がってんのかな?」
「…………」
おっ、いいぞ。
やつの意識が完全に俺へと向いている。このままルビィ(と思われる少女)から遠ざけて戦闘すれば、彼女の無事は保証されたも同然だ。
なにせ、見た感じ帝国兵はおらず魔物もいない。敵が闇ザコしか見当たらないのだから。
「ま、いっか。お前のそのオシャレな仮面に免じて教えてやる。俺が今やったのは、魔力で武器を作る……実体化をしただけだ。質量を持った魔力って言ったほうが分かりやすいか? ……そうでもない?」
「質量をもった魔力……だと。どういうことだ」
「説明するわけねぇだろダァホ。後は自分で都合のいいように考えやがれ」
フレイの魔法剣のパクリ……もとい応用と説明するのが悔しかったので、説明を打ち切る。
ついでにまだ腑に落ちていない闇ザコに言葉を吐き捨てる。
「ただこれだけは言っておく。俺はこの一年半もの間、お前たちを倒すために修行をしてきた。人様の国に土足で入ったんだ、ぶちのめされる覚悟はできてん
だろうな」
「ほざけ!」
闇ザコの全身を影が覆う。
本気モードの影の黒衣だ。これによりやつのステータスは大幅にアップしただろう。
全開と違い、最初から全力でかかってくるという、やつの意思表示なのだろうか。
「貴様にはさんざん煮え湯を飲まされたからな、いい加減ここで消えてもらう!」
今までにない巨大な衝撃波が迫る。
それは俺の目の前まで来ると、三つに分裂した。
「SHUU!」
そして、ただの衝撃波だったものが三頭の蛇へと姿を変える。
蛇は左右の頭で俺の両腕を拘束しようとする。そして真ん中の頭を使い、俺の首を噛みちぎるつもりだ。
だが――――
「SHAAAA!?」
蛇はあっけなく塵に帰る。
「【雷神】――発動」
全身を青白い稲妻のオーラが走る。
それに触れた瞬間に、蛇は元の影へと――そして影は塵に変わった。
霧散した影の奥に、闇ザコが走って来ていた。
――蛇は陽動か!
闇ザコが腕を振るい、そこから影の衝撃波が放たれる。
やつも実力を上げたのか、以前よりも早い。
俺は“ミョルニル”のハンマーのヘッドを引っ込めて、もう一度武器を形成する。
今度は剣だ。イメージは至って普通の剣。強いて言うならば、俺が愛用していたが、修行中に折れてしまったものをイメージする。
すると、柄から魔力の刀身が現れる。
某映画のライトセーバーのような棒状のものというよりは、切先や刃がある一般的な剣そのものの形状をしている。
特筆すべき点は、俺の魔力で輝いているくらいか。
その剣を横に薙いで衝撃波を打ち砕く。霧散した先にまた新たな衝撃波。迎撃されるのは織り込み済みでか、やるな闇ザコ。
今度は切り払わずに跳躍して避ける。すると、跳んだ先に闇ザコが待ち構えていた。
両手を組んで拳をハンマーのようにして、頭上から振り下ろす。
確かプロレス技で似たようなのがあったはずだ。確か、ダブルスレッジハンマーとかいう技だっけ。
ドラゴ○ボールでベ○ータがやってるようなやつだ。実際に自分でやると指を痛めるのでみんなは真似しないようにしよう。
位置の都合上、俺が下でやつが上。このままだと俺の頭を打ち抜かれる。
あんなの絶対にくらいたくねぇ、闇ザコはただでさえ馬鹿力なのにこれを食らうとひとたまりもない。
「シャアア!」
「ふんっ!」
闇ザコの振り下ろす拳に合わせて、蹴りをお見舞いする。
足の先をやつの横腹に突き刺す。
「ぐっ……!」
「へっ、どうだ! いてーだろ――ぐわっ!」
先に蹴りを当てて攻撃が止まったと思いきや、やつは攻撃を続行した。
恐ろしい耐久力、そして集中力だ。
いくら強化しているとはいえ、普通攻撃を食らうと自分の動作は止まってしまうものだ。
なのに、きっちりとこちらにも攻撃を当ててきやがった。
幸い、蹴りを入れたことで体勢が少し変わり、やつの拳がクリーンヒットすることはなく、掠っただけで済んだ。
互いに地面へと着地、受け身をとった後再び向かい合う。
一瞬の攻防、刹那の時間だがわかる。
おそらく、やつも感じているはずだ。
――――……一筋縄ではいかないか
「ずいぶんと腕を上げたようだな、トール。かつて邪竜に怯え、腰を抜かしていたお前がこれほどまで育っているとは、正直予想外だったぞ」
「それはどうも。お前も相変わらずの剛力だな闇ザコ……。掠っただけなのに、頭がグラグラするぜ。俺の実力が上がったのは確かなようだが、どうやらそれはそっちも同じらしい」
「当然だ。時間があるなら研鑽する。それが戦士というものだ。現状から変わろうとしない者はただのブタに過ぎん」
こういう時は敵ながらあっぱれ、という言葉を使うのだろうか。
互いに互いを称賛し、素直に実力を認める。
俺たちは戦士だ。だから、敵と自分の力量差には嘘をつけない。皮肉なしの言葉を送ってしまう。
ひょっとすると戦士というのは、最も正直な生き物なのかもしれないな。
だが、互いの気持ちが通じ合えるからと言ってもそれとこれは話が別。俺はやつを絶対に許さない。
「闇ザコ……お前の実力はすげぇよ。俺も鍛え直したけど、純粋なステータスならお前のほうがまだ上なのかもな」
「ほう――素直に自分が下だと認めるか」
「だがな、俺のほうが弱いかもしれないからって、負けるわけにはいかないんだよ。俺は、お前には!」
剣を握り、切先を闇ザコに向ける。
これは宣言だ。バッターがバックスクリーンにバットを向けて予告ホームランをするように。
剣を闇ザコに向けて己が真意を語る。
「ミズガルズ王国をこんなにして! 王都をめちゃくちゃにしたお前らに、負けるわけにはいかねぇんだよ! 何より!! ルビィを殺そうとしている、お前にはな!!」
魔力を溜めて、オーラを増幅させる。
今まではほんの小手調べ。これからが本気の戦いだ。
絶対に。
絶対に、勝ってみせる。




