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その転移者、雷神につき 〜ボツヒロインのために、俺は異世界を救う〜  作者: taqno(タクノ)


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第57話 魔獣変性

「なにかがおかしい……」


 ふと、そう感じた。


 五隊長が敵の部隊に負けたことで、王国の中央戦線が帝国に押され始めた。

 左翼部隊の維持が難しくなってきたところに、中央の損害。これは非常にまずい。

 だが、それとは別に俺は一つの疑問を感じていた。


 ――――上手く行き過ぎてないか?


 もちろん状況は王国の不利。あともうひと押しされると、完全に戦線が崩壊する。

 だが、すくなくとも現状は持ちこたえている。

 そう。圧倒的な兵力差があったにもかかわらず、王国はまだ負けていない。


(兵の練度が低いのか……? どうにも変な感じがする)


 絶望感が薄いとでもいうのか、王国の兵は皆この状況でもまだ諦めていない。

 それはいい。それは喜ぶべきことだ。

 だが。大陸最強を誇る帝国の軍というのは、こんなものなのか?


(確かに俺達は奇策を用いて敵の数を減らした。だが、それでも倍以上の差があった。それにしては、損害が少ないのが不思議だ)


 戦線を立て直すために五隊長を倒したシャドウズとかいう部隊のいる方へと進む。

 せっかく帝国の中央部隊を挟み撃ちにしたのに、シャドウズにより策が破られた。彼女たちを放っておくのは危険だ。


 魔法薬とポーションを口に含む。独特の香りが鼻を抜ける。

 その味に自然としかめっ面になった後、エネルギーが回復するのを確認する。

 回復系の薬は残り少ない。

 俺が全力で戦えるのはシャドウズを相手にして最後だろう。そして、遠くに四人の少女の姿を確認した。彼女たちがシャドウズか。


「おい」


 声を掛ける。四人は一斉に振り返り、俺を睨みつける。

 全員が整った容姿の、若い少女だ。どうやら帝国ってのは見た目で採用を決めているらしい。


「お前たちがシャドウズだな。ミズガルズ団の隊長たちを倒すなんて、中々やってくれるじゃないか。おかげで作戦が台無しだ」


 赤髪の少女が俺の言葉を聞き、鼻で笑う。


「それは悪かったわね。あんた達の隊長が弱かったせいで、足りない頭で精一杯考えたボロくずの作戦をめちゃくちゃにしちゃったわ。ごめんなさい」



 ――――――――少し、頭にきた


「おかしいな。俺は女性には紳士でいるのが心情なのに、どうも君たちにはその気が湧かない。困ったな。実に困った。――――こんなかわいいレディたちをぶちのめさなきゃならないなんてな」


 俺の言葉に、四人の肩がピクリと動く。


「あなた、今の言葉は挑発と受け取りました。いいでしょう、私たち全員でお相手させていただきます」

「調子に乗っちゃって! 謝っても許さないから!」


 水色の髪の少女の姿が消える。

 眼の前にいたのに、まるで煙になったかのようにゆらりと消えたのだ。

 そして黄緑髪の少女は、足に風魔法を展開して宙を舞う。なるほど、自分の体に魔法を纏って制御をすることで飛行しているのか。


「確かにその方法で飛行すると、戦いで大きなアドバンテージになるな」


「へぇ、この魔法に驚かないなんて。ひょっとしてあんた風魔法の使い手? まぁ、関係ないけど!」


 高速で空中を飛び交う少女の姿は、おとぎ話で聞く風の妖精のようだ。

 美しい姿で春の訪れを告げる緑の妖精。そんなことを連想させる。


「すごいけど短時間しか飛べないだろ、それ」


「!」


 俺の指摘に、少女は苛ついた表情をする。

 図星といった顔だな。


「まず制御が難しい。それほどの魔法を常時展開し、姿勢を維持するのは困難といっていい」


「だったら……なによっ!」


 少女は急旋回し、背後から攻撃を仕掛けてくる。

 その手には武器を持っていない。一見すると徒手空拳に思える。

 だが、おそらく違う。

 俺は少女が通り過ぎるであろう場所に向けて風魔法を発動する。

 発動するのは【サイクロン】。風のドリルで相手を穿つ中級魔法。威力は低いが、早いという利点がある。

 それを二つ、同時に放つ。


 風のドリルは彼女の右手と左足――正確には左足に展開する竜巻――に命中する。


「えっ……!」


 黄緑髪の少女は足の竜巻を失い、勢いよく地面に転がる。

 俺はそんな彼女の元へとゆっくり歩んでいく。


「そして、前提として風魔法は消費魔力の割に威力が低い。それほどのスピードで飛ぶのにかなり魔力をつかっているだろ。だから風の刃を手のひらサイズにして接近戦なんて仕掛ける羽目になる」


「む……無詠唱。それも、これほどのスピードと正確さ……。お前、一体……」


「おまけに足の竜巻に他の魔法が干渉するとあっという間に墜落だ。これじゃあ常に地面とキスする一歩手前だ」


「ぐ……」


「だいたい、目に見えない飛び道具というのが売りの風魔法を使っておいて、空を飛び敵の懐に突っ込むなんて無駄だ。目立つデメリットしか無い」


 黄緑髪の少女に講釈を垂れている間に、俺は次の魔法を装填した。

 それは風の壁。【エアバッグ】だ。衝撃を吸収する風のクッションを生み出し、敵の攻撃を防いだり衝突の衝撃をころすために使っている。

 それを発動したのは、俺の背に向けて短刀が投げ込まれたからだ。


「そして水色の髪のきみ。不意打ちをするのなら、気配を消すくらいじゃだめだな。敵の感知魔法に引っかからない方法を備えておくべきだ」


 ――例えば、ティウの【隠の王】のような


「なぜ、わかった」


「だから言っただろう。感知魔法とな。俺がここに来た時点で霧のセンサーを張っていた。君たちの動きは手に取るようにわかる。例えば、赤髪の子が後ろで拳を構えてるってな」


「くっ!」


「そして金髪の子は、俺を捕らえようとしてるのか? ずっとこっちの隙を伺ってるな」


「けど、ここまで近づけば関係ないですね!」


「無駄だ」


 水色の髪の少女が短刀を振り抜こうとしたが、その動きは途中で止まる。

 彼女の全身が、凍って動かなくなったからだ。


「なんです、か……これ、は」


「見ての通りの氷魔法だ。氷像はいいぞ。特に女性の像はな。美しさが三割増しに見える」


「リン! このっ!」


「拳に炎を纏うのか……ならば!」


 赤髪の少女との間に【タイフーン】を発動する。

 規模を小さくして威力を高くした改造版。邪竜のブレスも防いだ竜巻だ。

 赤髪の少女が振るう炎の拳が竜巻にぶつかったが、炎は竜巻を中心として二つに割れて後方へ流れていく。


「ばかな! 私の【魔闘炎舞】は上級魔法並の威力だぞ! こんな小さな風魔法なんかで防げるはずがない!」


「あなた、何者ですか」


 全身の殆どが氷漬けになり身動きが取れない状態で、水色の髪の少女が問う。

 その眼光は鋭く、未だ勝負を諦めていないという顔だ。


「俺はフレイ。【豊穣神】の片割れにして、王国の近衛一番隊隊長だ。この身は帝国を切り裂く剣にして、王国に勝利を導く戦場の風なり」


「豊穣……神」


「雷神の、仲間……」


 俺が名を告げた瞬間。戦場に大きな歓声が起こる。

 戦場にはこれまで見なかった者たちの姿。

 青銅の色をした鎧に、赤く塗られた旗。

 それは紛れもなく、我らの同盟相手。


「やっと、来たか……」


 ようやくヴァナハイム共和国の援軍が来たようだ。

 予想よりも数時間早い。彼らも急いでここへ駆けつけてくれたんだ。


「待たせたなミズガルズの皆よ! 我らヴァナハイム軍、只今より汝らに助太刀いたす!!」


「「「うおおおおおおおおおお」」」


 押されていた王国兵が、一気に力を取り戻す。

 これで状況は五分と五分。活気に満ちた俺たちの軍のほうが勢いがあるから、もしかすると。


「なんて、ことなの……」


 四人の表情が一際険しくなる。

 おそらく俺が極神であると知り主人であるロキの因縁の敵トールを連想したのと、ヴァナハイムの援軍が間に合ったのが効いたのだろう。

 少女たちは、苦虫を噛み潰したような表情で呟いた。


「私達じゃ、難しいかもしれない」


「そうね。もう、()()をするしか……」


「やりたくはなかったけれど、仕方ありません」


「うん……ロキも、しょうがないって言うよ」


「何の話をしている。ようやくヴァナハイム共和国の援軍が来た。今でこそ我らが不利だが、時期に形成が逆転するぞ」


「そんなことさせない、させないわ。()()()()()()()()()()とは言え、与えられた作戦は全うしないと……」


「プランB、いきます」


「なにを……!」


 水色の髪の少女が懐から魔道具を取り出したかと思うと、それのボタンを押す。

 一体なにをしたんだ。何の魔道具なんだ。ただわかるのは、俺がずっと感じていた嫌な予感が的中するという確信があった。


 ◆


「発動しなさい、魔獣変性……!」


 リンが魔道具のボタンを押すと、戦場に静寂が訪れる。

 戦場にいる帝国の兵士が、そのほぼ全てが動きを止めた。

 それはほんの数秒の出来事だった。


「お、おい。帝国兵が動きを止めたぞ」


「なんだかわからんが、今のうちだ!」


「おおおーーー!!」


 王国の兵はわずかに生まれた隙を逃すこと無く、呆然と立ったままの帝国兵を斬っていく。

 帝国兵の体は完全に脱力していて、まるで人形のように力なく地面に倒れていく。

 流石に変だと思った王国兵が、倒れた帝国兵の体を覗き込もうとした時。倒れていた体が、メキメキと音を立ててうごめいた。


「ひっ! な、なんだ一体?」


「内側から膨れ上がってるぞ……」


「全員構えろ! 様子がおかしい!」


 帝国兵の肉体が急速に変化していく。

 内側から変質していき、人の形を捨てていく。

 それはまるで人間の肉体を粘土として、別のなにかを作っているかのようだった。


 ◆


 ――――帝国城


「ふふ、そろそろか……」


「なにがでしょうか陛下」


「おかしいと思わなかったか? なぜ王国という反帝国側のトップを潰すのにあんな練度の低い兵ばかり集めたのか」


「それは……確かに思いました。ですが陛下のお決めになったこと。私の浅慮な考えを陛下に言うことなど出来ませんし」


「シギュンよ、自分を卑下するものではない。私はお前を評価している。ただそうだな。今回は私も伝えていないことが多かった」


 皇帝は書類を手にして、それをシギュンと呼ばれる女性へと渡す。

 シギュンは目を通すと、思わず息を呑む。ここに書かれていることが本当なら、あの戦場にいる兵は……。


「そう。彼らはいわゆる落ちこぼれだ。才能に恵まれず伸び悩む者。生まれの事情で軍に入れなかった者。罪人。立場は様々だが、皆快く実験に協力してくれた礎だ」


「まさか、成功したのですか……魔獣変性に。四魔将ファーフナーが自我をコントロール出来ずに邪竜へと堕ちたあの実験を、人を人工的に魔物へと変質させることに成功したのですか!?」


 皇帝は否定も肯定もしなかった。

 ただ、口を開くだけ。


「ある意味、成功と言えるだろう。彼らは戦場で力尽きるまで人として生き、そして人として死ぬ。そこに自我の崩壊などはない。研究の成果だな、素体の精神を蝕むことが無くなった」


 皇帝はしかし、と付け足して続ける。


「精神が弱かったからか、自分の意志で魔物へと変わることが出来ないのだ。そして、心臓が止まっていると魔物に変化することなく生を終える。これは明らかな失敗だ。幸い、生きている内に魔道具で体内に信号を送ることで魔物へと強制的に変化させることは可能だが、その際にやはり自我の喪失が起きる。結局のところ、彼らは尊い失敗作なのだよ」


「では、なぜ戦場に送ったのですか?」


「データがほしいと研究員が言ってきたものでな。ちょうど良さそうだから投入してみたのだよ。被験者五〇〇〇〇人を」


「陛下、お言葉ですが万が一負けることがあれば帝国の威光に曇りが生じます」


 ふふ、と笑う。余裕がある表情だ。


「その心配はない。失敗作とは言っても、その力は本物だ。邪竜の実験データから魔獣変性の基礎を気づくことが出来た。一人ひとりがAランク以上の魔物だ。王国側の兵士が束になっても敵いはせん」


「ですがあちらには新たに極神が増えたという噂もあります。もし倒されでもしたら……」


「だから、構わないと言っているだろう。私の目的は二つ。『根』と『巫女』だ。そして魔獣変性も、目的のための足がかりに過ぎん。一回の敗北など帝国にとって痛手とはならぬ」


「はっ……申し訳ございませんでした……!」


 ふう、と一息をつく。

 皇帝は頬杖を付き、じっくりと考える。


「さて、どんな結果になることやら……」



 ◆


 ――戦場 フレイ


「uRRRRRRRRRRRRRRRRR!」


「ひえええ! 人が、魔物になったぁー!」


「ひ、怯むな! 迎え討て!」


「くっ、こいつら一匹一匹がデタラメに強い……!」


 戦場は混沌に満ちていた。

 先程まで倒れていた帝国兵は、その肉体を魔物へと変貌させた。

 そして、獣のように本能で暴れまわる。

 虎型の魔物や、狼型の獣。多種多様な魔物が戦場を埋め尽くす。

 その数は一〇〇〇〇を超えている。おそらく、先程まで戦場で立っていた兵士たちだ。

 突然地面に倒れた兵が魔物へと変わり、それ以前に倒した兵は死体のまま倒れている。


「なんなんだよ一体……。せっかく援軍が来たのに、これじゃ勢力もクソもないじゃないか……」


 空中を飛ぶ魔物がいた。

 一瞬、シャドウズのフーかと思ったが違う。飛竜だ。

 そう、魔物の中でも上位に君臨するドラゴン……その下位種の飛竜だ。

 下位種といっても、飛竜はドラゴンの中では弱いというだけで、他の種族の魔物に比べるとかなり手強い。俺が一年前にヴァナハイムの闘技場で戦った獣の魔物よりも強いだろう。プラチナクラスの冒険者が数人がかりで倒せるかどうかっていうレベルだ。

 もちろん、俺なら魔法で一発だ。だが、そんなことは問題ではない。


「飛竜が……何匹もいやがる……!」


 悪夢のような光景だ。

 地上は獣系が走り回り、兵の肩に食らいつきそのまま数十メートル引きずる。そして肉を喰らい、死骸を他の兵へ蹴りつける。

 その魔物を対処しようとする兵を、さらに別の魔物が背後から遅い、爪で切り裂く。

 地面に次々と血の模様が広がる。



「あ、あぶない!」


 霧のセンサーを発動していたままだったから、遠くの様子に気がついた。

 俺のいる位置からおよそ数百メートル。

 若い兵が五人、互いに背を預けて外に向けて円状に立ち、武器を構えている。おそらく新兵だ。

 フレイヤと歳の変わらない、いやもしかしたら年下かもしれない。それほどの幼い兵がいた。


 彼らはなんとか武器を振るい、迫り来る魔物を退けている。しかし、頭上の飛竜が彼らに狙いを定めているのに気付いていない。

 飛竜が牙を立て、彼らに向けて勢いよく下降する。


(くそっ、ここからじゃ魔法が間に合わない―――)


「【グラム・ブレイクレイド】!」


 青い光が地上から空へと放たれる。

 光は透き通る青空のような色をしていた。


「今のは一体……まるで俺の魔法剣みたいだ……」


 霧のセンサーで青い光を放った者の正体を探る。

 その者はすぐに判明し、幸いにして味方だった。


「なるほど……噂にたぐわぬ、といったやつか。竜をも殺す勇者シグルズ――」

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