第48話 ティウと豊穣神兄妹
こんにちは、フレイヤ・ユングヴィです。いま私は王都の中にある監視塔に向かっています。表向きは町の警護、ですが本当は違うんです。
今日は如月の四日。今朝、突然ティウ団長に呼び出されて、城の中ではなく外、それもかなり離れた監視塔に呼び出されました。
わざわざこんな場所に呼ぶのは、何か理由があるのでしょうか?
人の少ない場所に呼び出して、二人きり……まさか、ですよね。
ああでも、ティウ団長は恋人がいないといいますし、ひょっとしたら……いやないない!
それに私は、健康的な男性が好みなんです。ティウ団長は確かに素敵な方ですが、いささか不健康すぎます。手足なんて、こけたら折れちゃいそうなほど細いですし。
と、冗談はこのくらいにしましょうか。
「さて、監視塔に着きました。確かこの部屋でよかったかしら……。休憩所か待合室なのでしょうか、ここは」
部屋の中にはテーブルと椅子が並んでいる。その中の椅子の一つに腰を下ろして、まだ来ぬティウ団長を待つ。
「それにしても、人目のつかないところに呼び出すなんてよほど他の人には聞かれたくない内容なのかしら」
「うん、察しが良くて助かるよフレイヤ」
「きゃああっ!!」
突然真後ろから声がして、思わず叫んでしまいました。うう、情けないです。
声の正体は確認しなくても分かっています。このいたずら好きなところと、怖いくらいに気配を消すのが上手な人は。
「ティウ団長! 脅かさないでください!」
「ごめんごめん、誰かをからかいたくて仕方なかったんだよ。からかい甲斐のある彼はいまいないし」
「もう……だからって、私をトールさんの代わりにしないでください。どちらにも失礼ですよ」
「分かってるよ、僕がからかうのはこれっきりにしておく。ほら、お茶いるかい?」
「はぁ……いただきます」
ティウ団長は悪びれた顔をして、ペロッと舌を出す。まったく、とても年上だとは思えません。
ティウ団長は見た目が若く、外見は十代後半に見える。でも、彼はこう見えて二七歳です。私より十歳近く年上なんです。
どう見ても同世代です。正直、若すぎて違和感があります。若いといえば、エリック隊長もですが、彼は子供っぽすぎて逆に突き抜けてるといいますか。
ティウ団長は身近にいそうでいない、ちょっとリアルな若さで怖いです。
でも、今はティウ団長の外見のことは置いておきましょう。
「で、お話ってなんですか? この後近衛二番隊で打ち合わせがあったんですけど」
実は私、この国に来てから1年弱で、隊長になってしまいました。
元々ミズガルズ団には一から五番の部隊があったらしいんですけど、私が来た時には五番隊の人員が不足していました。
そこで、私とお兄様は五番隊に配属され、他の兵に魔法の教導をしていたのですが……気付いたら独立した部隊の隊長になっていました。
今では近衛二番隊を指揮しています。この部隊は新設された隊で、主に王家や城にいる重役の方々を守るための部隊です。
以前からいた近衛兵の皆さんもこの部隊に編成されて、より本格的に鍛えています。
近衛隊が出来た理由はティウ団長が帝国などの外敵に備えて……ということになっていますが、実際はトールさんが王国を発つ際に団長にお願いしたからなんです。
自分がいない間、ルビアさんを守れるようにと。ふふ、愛されていますねルビアさん。少し妬けちゃいます。
ちなみにお兄様は近衛一番隊の隊長です。肩書きとその容姿から王都の女性から莫大な人気を誇っている様子です。
最近では冒険者のシグルズさんと人気の奪い合いをしているようです。
お兄様の一番隊は王家に牙を剥く外敵の排除、一方私率いる二番隊は王家の命をお守りすることを目的としています。
まさに盾と矛、攻めと守りの部隊というわけです。
「そういえば、今日はお兄様を見ていませんね。また女性と遊びに行っているのかしら」
「俺ならずっとここにいるぞフレイヤ」
「きゃあああああっっっ!!!!」
目の前に、本当に目と鼻の先に突然お兄様が現れた。
直前まで何もなかったのに、本当に急に。思わず喉から心臓が飛び出るかと思いました。
「お、お兄様! お戯れが過ぎます!!」
「悪い悪い、お前の顔をじっと観察していたら、なかなか出てくるタイミングがつかめなくなってな」
「一体どうやって現れたのですか? 私の目には、完全に普通の背景が見えていたんですけど」
「ふふふ、これを見ろ!」
そういうとお兄様はマントを翻した。
見ただけで分かる。これは魔道具だ。ということは、この魔道具で姿を消していたのでしょうか。
「これは姿を消す透明マントだ。以前からあったやつの改良型らしい。既存のタイプは動くとバレやすくなるという問題点があったが、これはそれを多少軽減している。とは言っても、俺の風魔法で光の屈折率をいじって無ければ見つかってただろうな。あと魔力の消費量が旧型よりも高い。ティウ、こいつは失敗品だ」
「そっか、残念だ。帝国が攻め入るまでには、間に合うかと思ってたんだけどな」
「!」
ティウ団長の口から、重要なことがサラッと告げられた。
「ティウ団長、ひょっとして話というのは……」
「そう、帝国が動き始めた。密偵によると軍は五〇〇〇〇、想定よりも少ないけどそれでも膨大な数の兵だよ」
「先手を取られたか。トールの助言で、そろそろだと分かっていたが……」
そうです。トールさんはどうやったのかは分かりませんが、神樹暦七七七年の弥生ごろに帝国がこのミズガルズ王国を攻めると言い残してたんです。
最初は半信半疑でしたが、帝国を調べていくうちに確信が持てました。
おかげで戦力の増強という点では見事に上手くいきました。ですが、実際に兵を集め、軍を編成するまでにはまだ時間が必要です。
ヴァナハイム共和国の軍にも要請を出していますが、最低でも王都周辺に来るまで、超高速の馬車や戦車を用いてもあと一週間はかかります。
「それで、どのくらい猶予があるんですか?」
「ほぼ、ないと思っていい。帝国からこの国まで遠いけど、先に動かれる以上こちらが後手に回るのは避けられない」
「そ、そんな……」
じゃあ、このまま攻めて来られると打つ手が無いということになるのですか?
この国に来てまだ1年ちょっと。ですがこの国はとても住みやすく、よそ者の私たちを快く迎え入れてくれる第二の故郷です。
「絶対に、滅ぼさせなんてしません……!」
「そのためにも、奇襲をかける必要があるんだ」
「なんだティウ、策があるのか?」
「ああ、よく聞いて欲しい。それは……」
時間を稼ぐ方法。ティウ団長から告げられた内容は。




