第46話 始まりの地ノーウェ村
「いやぁ~~驚いたわい。まさか人だとは思わんかった。ここらは魔物が多くて危険だから、誰も住んどらんからのぉ~~」
「いや、こっちもビックリさせてゴメンなおっちゃん。俺はトール、あんたは?」
「わしはブロックじゃ。よろしくなトールよ」
ブロックと名乗ったおっさんはその手を差し出して、握手をする。ゴツくて、まるで岩のようだ。
人間の子供……小学生高学年よりはやや小さな背丈、その割に老け顔で、立派な髭を蓄えている。
そう、ドワーフである。
頭巾をかぶり、大きな武器を背負う姿は物語で見るドワーフのイメージそのままだ。
このブロックという男は、俺を魔物だと勘違いして逃げようとした所を、なんとか誤解を解いてこうやって会話している。
最初はえらく怯えられたが、頑張って声を出していく内になんとか声が戻った。うん、まぁアイテムで回復したっていうのが大きいんだけど。
まさか修行の一環で禁止していたアイテムを使うハメになるとはね。緊急時だから致し方なしって言えばそうだけど。修行も終わってたも同然だしセーフ!
ちなみにドワーフは魔族だけど、確か人間と平和に交流をしている数少ない種族だ。
理由は大昔の人と魔族間で行われた戦争で、ドワーフは人間側に武器を作っていたからだとか。
エタドラの中で語られた話で、おまけに本筋とは関係ない部分だからこれくらいの情報しか知らないんだよな。
ドワーフ本人に直接聞くのもちょっとあれだし。
「うーん……」
「どうした難しい顔をして」
「うんにゃ、なんでもない」
ブロックはこの辺にある魔石を採取しに来たそうだ。
やはりドワーフ、素材採取は得意なようで魔物が寄り付かないルートを見つけるのが得意らしい。
ということはもちろん、ブロックは鍛冶師なんだろう。
今の時代でも、ドワーフは武器を作り、それを人へ売って生計を立てるようだ。
「なぁ、あんたは鍛冶師としては長いのか?」
「長いも何も、わしはそれしか知らん。母親の腹の中にいた頃から鉄を打ってたわい」
「そりゃすごい。んじゃ、その腕を見込んで頼みがあるんだけどいいか? 見てほしいものがあるんだが」
そう言って、俺は折れた剣をアイテムボックスから取り出す。
剣……というよりもほとんど柄しか残っていないそれを、まじまじと観察する。
「こりゃ酷いのぉ。武器への愛着っちゅうもんがないのかお前さんは。ううむ……造りは丁寧、柄の装飾もえらく凝っとる。間違いなく業物じゃな」
まるで美術品を触るかのように優しく取り扱う。
そんなにいいものだったのか、この剣。ゲーム内で入手したからなんとなく使い続けていたけど、この世界における価値については無頓着だった。
とは言っても、終盤で手に入れてからストーリークリアまで装備して、この世界に来てからも愛用した剣だ。
俺もこいつには愛着がある。壊れたのはちょっとばかり悲しいものだ。
「相談なんだが、それに代わる新しい武器を作ってくれないか? 金は……なんとか工面するから」
「ううむ、お前さん今でこそそんな身なりだが、これほどの剣を持っているってことはそれなりの稼ぎがあるんだろう。金の部分は心配しておらん」
だが、とブロックは言う。
「武器を作ること自体はいい。鍛冶はわしにとって息をするようなものだ。何日も作業をしていないとイライラしてくる。しかし、わしにもやるべきことがあるんじゃ……」
「やるべきこと? なんだそりゃ、採取の続きか?」
「その採取に関係があるんじゃよ……」
そういうと、ブロックは訳を話してくれた。
「この山を降りたところに小さな村があっての? そこの村長とちょいと前に知り合って、意気投合したんじゃ。での、その村で最近魔物がよく出てきて困っとると言われてな。村の腕自慢たちに武器を作ってやらなならんのだ」
「なるほど、村で使うってことは長い期間使っても大丈夫な頑丈なやつってことだな。それを数人分も」
「そういうことじゃ。頑丈な武器を作るためには魔石が大量にいるからのう。この一週間はずっと魔石集めじゃ」
「他の素材はいいのか? 例えば鉄とか……」
「そんなの、村に腐るほどあるわい。あとはわしの鍛冶スキルで丁寧にやれば終わるんじゃが……」
そこでブロックは歯切れが悪くなる。
気まずそうな、ちょっと冷や汗をかいた表情で。
「知っての通りドワーフっちゅうのは鍛冶スキルが高いやつが多い。大体は生まれつきスキルを持ってて、子供の頃から鍛冶をする内にランクが上がるんじゃが、中には最初からAランクのやつもおる」
「へぇ、そうなのか。すげぇなドワーフって。俺なんか、鍛冶スキルはDランクが精々だぜ。魔除けのアクセサリーくらいしか作れん」
とは言っても、そのアクセサリーを誕生日プレゼントに贈れるんだから一応使いどころはあるんだけどね。
「まぁ、戦士ならそんなもんじゃろ。人間でもすごい鍛冶師はごまんとおる。ただ、ドワーフは向いてるってだけじゃ」
そう言いながらも、ブロックは髭を触って自慢げになっている。
やっぱり誇りなんだな、鍛冶が得意ってのは。ニヤニヤしてるのがモロに分かる。
が、すぐに先ほどの気まずそうな表情に戻る。
「ドワーフは代々魔力が低い。そのせいで鍛冶スキルのランクが高くても、武器を作るのに時間がかかるんじゃ。魔力の操作が不得手じゃからな。剣一本作るだけで人間なら数時間……早いやつなら数分や数秒じゃが、わしらは数日かかる」
「ああ、だからエタドラのムービーとかでドワーフは鉄を熱して叩いたりしてたのか」
「そうじゃな。魔力で武器の原型を作って、あとは普通の鍛冶のように鉄を打って作ったりするんじゃ。まぁ、苦手だからやりたがらんのと時間短縮っていう理由じゃな」
確かに、効率の悪いやり方でやるよりもそっちのほうがいいな。頭いいなドワーフの皆さん。
俺なら間違いなく、魔力でこねこねし続ける自信がある。三日三晩寝る間も惜しんで効率の悪いやり方をしている自信しかない。
「とにかく、その村まで帰ってから作業が待っているから、お前さんの頼みを聞く時間がないんじゃよ」
「そっか、武器がたくさんいるならしょうがないよな……武器?」
ちょっと待てよ、ひょっとしたら解決できるかも知れない。
俺はアイテムボックスから余った武器を取り出す。剣、斧、槍、弓……様々な武器がなにもない空間からポンと出てくる。
「なぁブロック、村の人達にくばる武器って、これじゃダメかな? 一応、さっきの剣ほどじゃないけどそれなりの物ばっかりだと思うんだけど」
「な……なんじゃこれは。どいつもこいつも一級品じゃないか。お前さん、どこでこれだけの武器を……」
「ええと……世界各地で?」
「何で疑問系なんじゃ?」
だってこの世界で買ったわけじゃないし……。
ただどれも中盤から終盤にかけてゲットした武器だ。この山に出た魔物程度だとこれらの武器で十分ではないだろうか。
もちろん、村人が素人レベルの技量だったら話は別だろうけど。あ、念のために防具も出しておこう。
再び、何もない場所から防具だけが出現する。
いやさぁ、この光景慣れたからいいけど、初見だとビックリするよね。
せめて四次元ポケットから取り出すみたいな真似が出来ればいいのに。
一応アイテムボックスを操作する動作はあるとは言えさ。驚くでしょ、これを見た人は。
「ぼ、防具もあるのか……。ううむ、わしは防具作りは得意じゃないからのう。正直、ありがたい」
「なら……」
「うむ、おまえさんが良ければこれらを村のみんなに譲ってやってくれんか? そのかわりと言っちゃなんじゃが、お前さんの武器を作る際に代金は取らん」
「よし、商談成立ゥ!」
パン、とお手外の手を合わせて、俺たちは村へと出発する。
補足しておくと、アイテムボックスに武器を収納するのが面倒くさかったです、はい。
全部出すんじゃなくて、いくつかピックアップしてみせる程度でよかったなと反省。
◆
「ついたぞ、この村だ」
歩いて約二時間、俺たちは山の麓の村へと到着した。
緑豊かで、落ち着いた雰囲気の村だ。まるで故郷に帰ってきたかのような安心感が……あれ?
待てよ、この村って、もしかして。
「おうなんだブロック、今日はえらく早い帰りだな」
「村長か、なに、そこでちょっと知り合いが出来たもんでな。ここに連れてきた。悪かったかのう?」
「いいや、この村に客なんてめったに来ないからな。来るとしたら、エリエルビーのはちみつを買いに来る人くらいさ。まぁそれで村がやっていけるくらいには稼げてるけどな」
「あ……ぁぁ……」
「ん? あんたか、ブロックの知り合いっていうのは。はは、ずいぶんと汚れた格好だがドワーフ仲間かい、それとも山で遭難でもしたか?」
しゃがれた声、白髪混じりの髪の毛、襟のたった服、口の横のいぼ。
間違いない……この人は。この、初老の男性は……。
「ゲンじい……」
無意識に口から声が漏れる。
その呼び名は、よく使っていた呼び名だ。序章や、この村に帰ってくる度に、言葉をかわした相手だから。
彼の名前はゲン。このノーウェ村の村長だ。
なぜそんなことを知っているのか。語らなくても分かっているかも知れないが、言わせてもらおう。
この村はアスガード国の北西に位置する村。
エタドラの一番最初、主人公がいるのがこのノーウェ村だ。
つまり、はじまりの村である。
北・西でノーウェ村、安直だろ?
でも、そんな安直なこの村が、この自然に囲まれた空間が、俺は好きだった。
よく意味もなく村の端まで行ってはオブジェクトを観察していたものだ。
ゲームの中の俺は、この村で生まれ育った青年だった。だが、今の俺は縁もゆかりもないただのよそ者。
一応、出身はアスガードの北西の村、ということにしてはいるが当然この村の人は俺のことなんて知らない。
「だれがゲンじいだ! こちとらまだ四二歳……ってなんで俺の名前知ってんだいあんた」
「え……っと、その……」
「ああ。ひょっとして、以前はちみつを買いに来てくれたのかい? それで子どもたちがそう呼んでるのを聞いたんだろう」
「そ、そうです。すみません、呼びやすかったのでつい、呼んでしまいました」
俺が返答に困っていると、ゲンじいが都合よく解釈をしてくれた。
「でも困るよあんた、俺だってまだ若いんだ。村のこどもにそう呼ばれるならともかく、他所の人に言われるのはつらいぜ」
「そうです、よね……すみません」
他所の人。
その言葉に、胸がチクリとした。
ひょっとしたら、もしかすると、俺のことを知ってるかもって思ったけど、そんな訳はなく。
正真正銘の初対面。俺は、この村の出身じゃない。
そう、俺は日本で生まれた雷門透。この世界に転移してきたからといって、エタドラの中でそうだったからといって、俺がノーウェ村のトールになるわけじゃない。
その当たり前の事実に、ちょっと切なくなる。
我ながらセンチメンタルだな。はは。
「顔合わせは済んだかの。なら本題じゃ。村長よ、このトールが余った武器や防具を譲ってくれるそうじゃ。わしが目を通したから品質には問題ない」
「おお、そうだったか。いやぁ、済まないな、ありがとう。この村で代金になりそうなものと言えば、はちみつしかないが、どうかたらふく食っていってくれ。はちみつを使ったスイーツが人気なんだ」
「はい、ありがとうございます。武器の代金はいりませんよ、ブロックと物々交換するんで。でも、はちみつはいただこうかな」
そうして、武器を配り終えた後、村の中の鍛冶場を借りてブロックに武器作りを頼むこととなった。
◆
「で、どんな武器がご所望じゃ」
「そうだな、まずこれを見てくれ」
俺は柄に魔力を込めて魔力剣を発動させる。魔力剣って名前が微妙だから、近々他の名前に変えようと思う。
ただ、ネーミングセンスに自信はないので当分魔力剣と呼ぶことにしておこう。
「おお、魔力を剣の形にしているのか。こりゃたまげたわい」
「ありがとう。で、問題は魔力の伝達効率なんだ。十の魔力を使っても、剣の形になるのはせいぜい三くらいでさ。ロスが半端ないんだ」
「そりゃ、非効率的じゃな。わしなら貴重な魔力でそんなマネはしない」
「ぐ……。た、確かにその通りだけど。ただ、普通の剣じゃ太刀打ちできないやつに出会ったんだよ。そいつには魔法も効かなかった。だけど、俺の仲間は剣に魔力を乗せて攻撃していたんだ。俺もそんな風にしたい。でも、魔法を剣に封じ込める技術なんて無い。だから手っ取り早く魔力そのものを剣にすればいいじゃん! って思ったんだけど……」
手元の魔法剣を見る。
形は確かに剣になっているが、バチバチと音を立てている。それは出力が安定しない故のゆらめきで、技の完成度が不十分であることを意味していた。
「ふむ。お前さんの技術もまだまだじゃが、そもそも魔力が上手く伝わってないからコントロールも出来ないと。なるほどのぅ」
ブロックはじーっと魔法剣を見る。その目は細く、まるで事件の手がかりを探る探偵のようだ。
そのうち犯人は貴方ですって指をさされそうなくらい、真剣な雰囲気だ。
「魔石を柄に設置して、魔力伝達と調整の補助をやらせるというのがいいかのう」
「そ、そんな事が出来るのか!?」
「わからん」
「分からんのかい!」
期待させやがって。
なら心の内だけで思っててくれよ。いや、提案してくれるだけありがたいんだけども。
「そんな武器は作ったことがないからの。わしにも出来るか分からん。正直、失敗するやもしれん」
ブロックは、落ち着いた声でそう言うと、今度は熱のこもった声で語りだす。
「しかし、職人ならば誰もが作ったことのないものを造り、そして世に見せつけたいもんじゃ! ならば作るしかあるまい! ましてや、お前さんには借りがある。まかせろ、絶対に完成させてみせるわい!!」
「おおー、まじか! ごめん、わからんって言われた時は内心だめだなこのおっさんって思った!」
「わしはまだ六九歳じゃ。ドワーフの中なら青年じゃぞ。お前たち人間からするとおっさんじゃがな。わははははは!」
ブロックはリュックから魔石を取り出し、背負っていた武器を下ろす。
なんと、背に持っていたものは武器ではなく、巨大な鎚だった。
「火はわしの魔法でなんとかなる。火の魔法だけは人並みに出来るんじゃ。ただやはり作業そのものに時間がかかるぞ」
「構わない、俺も手伝えることがあるんならなんでもするからさ!」
こうして、新しい武器作りがスタートした。




