第44話 少しの別れ
子供の頃は誕生日というと、意味もなくそわそわして、無性に楽しくて、この日だけは特別な感じがした。
まるで世界が自分を中心に回っているような錯覚を覚えた。子供の頃は皆、自分が主人公だと疑わないのだ。
だが、いつのまにか誕生日というのは歳を重ねる以外の意味合いを持たなくなってしまった。
彼女や親友でもいればまた違ったんだろうけど、残念ながら俺にそんなものはいない。泣けてくるよね。
毎日パーティやってるようなセレブの方々には、その一%でもいいからパリピ気質を分けてもらいたいもんだ。
で、自分の誕生日さえろくに祝おうとしない俺が、他人の誕生日なんかに興味を覚えるわけがない。
高校で仲よかった友人の誕生日は一度聞いた後に忘れちゃったし、お世話になった先輩の誕生日もその場のノリで祝ったものの卒業された翌年にはすっかり忘れてしまっていた。
これは俺の悪い癖だなと思いつつも、人間っていうのは関心の無いものにはとことん無頓着になってしまうのだ。
本題に入ろう。
今日はルビィの誕生日だ。めでたいね。
ただ今、お城で盛大なパーティを催している真っ最中である。
ちなみに今日は霜月の十一日、ええと……そう、十一月十一日だ。邪竜との戦いから一ヶ月近く経った。
なんとルビィはポッキーの日が誕生日だった。プレゼントにポッキー一年分でもやろうかなと考えたが、この世界では手に入りそうにないから諦めた。自分で作ろうにも、お菓子なんて作ったことないしね。
自分でも意外なことに、以前ルビィから誕生日を伝えられていたのだが、ルビィの誕生日は忘れずに覚えていた。
俺の物覚えも、この世界に来て向上したということだろう。
で、ルビィは晴れて十四歳。日本で言うところの中二女子だ。ルビィも学校には通っているらしいが、この世界では学年の制度が俺の世界とは違うようだ。初等部六年高等部三年で、十六から十八歳までの三年間が大学という仕組みなんだとか。
普通はよほど優秀でもないと高等部を卒業したら職につくんだよ、とルビィが言っていたのを覚えている。
だからこの世界では十六歳から成人ということになる。学生から晴れて社会人というわけだ。
ルビィは来年十五歳、大人の道を順調に登っている。
そんなお姫様を祝うために国のお偉方やらが集まっている。まぁ、当の本人は恥ずかしがって下を向いているんだけど。
それでも客人が嫌な顔をしないのは、そういうキャラだと認識されているからか。たぶん一番の理由は、ルビィのあわあわ感が一種の癒しになってるんだと思う。
俺はそんなルビィの様子を遠巻きに見ながら、テラスでくつろぎながら、手に取ったグラスに満たされた酒を口に含む。
うん、お子様舌の俺でも飲める。上手いな、これ。
いや、酒好きな人からしたらガキっぽい飲み物なのかもしれんけど。
「ふぅ……」
「どうしたの、一人黄昏れちゃってさ」
振り返るとルビィがいた。
パーティの主役だというのに、こんなところに来ていいのか?
「いいの、みんな私じゃなくてお父さんに会いに来てるんだもん。私は口実だよ……」
「分かんないぞ、熱心なファンがいるかもしれないだろ」
「例えば誰?」
「えーと……俺、とか?」
つい適当に答えてしまった。
いや、まぁ俺が辺境に住んでたとして、ルビィの誕生日が開かれるんなら祝いに行くけどさ。
「へぇ……とおくんは私のファンなんだ……」
「いや、今のは例えであって……つい口から出たというか……」
「そっか……つい……。えへへ……」
いかん、なんだかからかわらてる。ルビィも楽しいのか頬が少し赤い。
「な、なぁルビィ。改めて誕生日おめでとう。これはささやかだけど、俺からのプレゼント」
「え、とおくんから……? ありがと……開けてもいい……かな?」
「もちろん、でもあまり期待するなよ? 俺、こういうの贈ったことないからセンス悪いかも」
ルビィは袋を開け、中にあるものを取り出した。
中から出てきたのは、髪飾りだ。
「白い、髪留め……」
「ああ、アカネって花をモチーフにしてみたんだ。見栄えは良く出来てる……と思う」
「五つの白い花弁……うん、かわいい……! これ、とおくんが作ったの?」
「そそ、俺が丹精込めて作った魔除けのアクセサリー。せっかくの誕生日だし、縁起のいいものをあげたくてさ」
「すごい……本当にかわいい。うぅ……」
ルビィが突如、下を向いて声を漏らす。
具合が悪いのかと、汗が出る。大丈夫か?
「ありがと、とっても嬉しい……!」
「そっか。うん、喜んでもらえて良かった……へへ」
まさかゲームで習得してたスキル【鍛冶D】が役に立つとは。
俺の場合、ランクが低いから強力な武器や防具は作れないが、序盤から中盤で手に入るような装飾品は作ることが出来る。例えば、毒耐性十%アップのリングとかね。
そして鍛冶スキルの効果で、確率で任意の追加効果を付与出来るのだ。三〇%の確率だけど。
鍛冶スキルは材料を合成し、それを叩いて形にする作業だ。魔力により行うので、炉に火を入れるようなことはしない。
今回ルビィにあげた髪留めは、モンスターとのエンカウント率を下げる……この世界だと幸運値を上げて不幸な目に合いづらくする効果を付与した。成功するのに十回くらいトライしたけど。
材料となった素材はエタドラ時代から持ち越したものだが、元々鍛冶をしなかったため素材を溜め込んで無かった。だから今回で使い切っちゃった。
まぁ、ルビィは喜んでくれたし安いもんだ。
ルビィは早速髪留めを付ける。
いつもより少し、大人っぽい雰囲気になった気がする。
「どう……? 似合ってる……かな?」
「うん、可愛いよ。よく似合ってる、バッチシだ」
「えへへ……恥ずかしいなぁ……」
俺のセンスも中々悪くないんじゃないか?
現に髪留めをつけたルビィは十四歳にしてはかなり綺麗だ。
普段の幼い容姿から打って変わって、不意にドキッとする表情を見せる。
髪留めがいいアクセントになっているように思える。いや、こういったら自画自賛っぽいか。
「ね、とおくん。誕生日のお願い、聞いてくれる?」
ルビィが楽しそうに尋ねてくる。
「なんだ急に。俺ができる事なら聞いてやるけど」
「あのね、私の騎士になるための式を、今日やってもらったらダメかな……?」
「…………」
ルビィの騎士になる。
以前交わした約束。月夜に語り合った、何よりも尊い思い出。
俺の目的であり、目標。
ルビィを守れる騎士になる。
でも……。
「ごめん、ルビィ……」
今の俺では。
「その約束、守れそうにない……」
まだ、君を守れないから。
「…………え?」
自分の申し出を断られて、不安な表情になるルビィ。
おそらく、彼女は俺のことをすごく信頼してくれてる。それなのに、信頼している相手からノーと言われるとは思ってなかったんだろう。
「え……と、ごめん。私、なにかやっちゃった……かな?」
「違う、違うんだルビィ。君の騎士になる、君のことを守るという気持ちに偽りはない。ただ、今の俺じゃ、君を守れない」
「そんなこと……」
「邪竜を逃し、帝国の動きもろくに掴めない。帝国がこの国に攻めてくるまで、あと一年弱……邪竜の出現がゲームより数週間早かったことを考えると、もっと早いかも。もう時間がないんだ。それに邪竜を倒せなかったから、エタドラの歴史通りに事が進むかも分からない。いつ帝国が動き出しても不思議じゃない……。だからこそ、残り時間ギリギリまで俺は力をつけないと……」
「とおくん……とおくんが何を言ってるのか、わかんないよ……」
困惑した顔でルビィが見つめてくる。
当然だ。彼女からしたら、いきなり俺が混乱してブツブツ言いはじめたように見えただろうし。
だが、とにかく。
彼女の騎士になることは出来ない。
「聞いてくれ、ルビィ。近い将来、帝国はこの国に攻めてくる。その侵攻を止める戦力が、この国には無い。だから、俺が少しでも力になれるように、外の世界で一から鍛えなおそうと思う。一年くらいは帰ってこれないだろうけど、後のことはフレイ達やティウに任せてある。緊急の時には、ティウの通話魔道具から連絡が来るようにしたし、教会に【テレポ】でひとっ飛び出来るよう登録してあるから」
「え……まって。待ってよ……本当にいなくなるの……? とおくん、この国を出ていくの?」
「修行の旅に行くだけだ。必ず帰ってくるよ」
「でも、でも……」
ルビィの頭を撫でて、落ち着かせる。
震えていた声が、次第に収まる。
「大丈夫だよルビィ。俺は必ず強くなる。俺だけじゃない、フレイ達にも鍛えておくように伝えてる。それで、ちゃんと強くなれたらその時は――――」
ルビィの頭から手を離し、彼女の両手を握る。
「君を守る騎士になるから」
「………………っ」
「だから待ってて」
「うん…………」
ルビィとの別れは呆気なく、しかし重く終わった。
これで思い残すことはない。あとは、来たるべき決戦まで己を磨き上げるだけだ。
次に待っているのは、エタドラの二章部分。キマイラ討伐の裏で、帝国が王国を滅ぼすという出来事。
エタドラのストーリーとは徐々にズレが生じ始めているから、明確な期限は分からないが、これから約一年と四ヶ月後には決戦が控えている。
それまでに、必ず……!
「没ヒロインのために、この国を救ってみせる」




