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その転移者、雷神につき 〜ボツヒロインのために、俺は異世界を救う〜  作者: taqno(タクノ)


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第36話 豊穣神

 日が明けて、俺達は代表館に訪れた。

 俺の服装は昨日買った商人風の格好で、ルビィは男装だ。ちなみに、先程知ったことだが、ルビィは男装しているつもりはないらしい。

 正体がばれないように髪型や体型を隠すための服装だそうで、俺にとっては衝撃の事実だ。

 もちろん、この服装は代表館に入った後は普通にやめた。

 交渉相手に不審な格好するメリットなんて無いからな。


 結論から言うとヴァナハイム共和国の代表とは、驚くくらいすんなりと話がまとまった。

 結論としては、ヴァナハイム共和国はミズガルズ王国と同盟を結ぶこととなった。やはりというか、ミズガルズ王国の戦士―――俺のことだ―――が四魔将の一人を撃破したことが帝国に立ち向かう決心を付けさせたらしい。

 ここまで噂が広まっていると、光栄に感じてくるな。死ぬ思いをして闇ザコを追いやった甲斐があったというものだ。


 ただ、一つ不安なのが噂の広まり方だ。俺としては、闇ザコとの勝負はほぼ相打ちだと思っている。しかし、世間には俺が勝利したという情報しか伝わっていない。

 ルビィの考えでは、どこかの誰かが人々に希望を与えるためにワザと情報を歪めたのかも……ということらしい。

 まぁ、相打ちよりか勝利したってほうが、聞こえはいいもんな。


 で、ヴァナハイムの代表のバルドル氏は大変話の分かる方で、俺が闇ザコを倒した本人だと名乗ると大いに喜んでくれた。

 その後、同盟の約束をしてくれたというわけで。

 バルドル氏は三二歳という若さで一国の代表になった優秀な人である……らしい。

 ごめん、そこらへんはゲームでは語られてなかったから、さっぱりなんだよね。

 バルドル氏もティウやエリくん隊長と同じく、年齢と釣り合っていない容姿の持ち主で、俺の主観では大学生くらいに見えるほどだ。

 しかし、その見た目とは裏腹に国の代表であるだけ、雄弁で慈愛に溢れているのを感じた。


 バルドル氏との会話で一番驚いたのが、彼がブレイザブリクというカジノを経営していたことだった。

 そのカジノこそ、俺がエタドラでよく通い、そして今回の旅でも行きたがっていたカジノだ。まさか、こんなところで繋がりがあるとは。


 俺のカジノに対する熱い想いをバルドル氏にぶつけていると、ルビィが俺の背中をつねったのであまり語れなかったのが残念だった。

 その時のバルドル氏は、大変嬉しそうな表情をしていて俺に対する態度が一気に柔らかくなった。たぶん、同好の士を見つけたと思ったんだろう。

 ……決して、同盟相手にカモ発見! とか思われてないことを祈る。


「トールさんには、ダティ・ワムの件は大変感謝しています」


 カジノの話を打ち切った後、バルドル氏はそう言って頭を下げてきた。

 代表に頭を下げてもらうなど、良くないことだろうから止めてもらおうとしたが、中々止めようとしない。

 バルドル氏に事情を聞くと、ダティ・ワムについて語ってくれた。


「彼は帝国と密接に繋がっていて、この国に帝国の活動拠点をいくつか設けようとしていたそうです。もちろん、そうなる前に我々が妨害してきたのですが、最近は勢いを増す一方で参っていました」


 やはり、ダティ・ワムのヤロウはろくでもないことをしようとするな。

 つーか、帝国がこっちまで勢力を伸ばした後は、用済みになった自分が切り捨てられるって想像つかないかね。

 まぁ、ああいうやつは得てして目先の利益ばかり追い求めて、将来的なリスクが見えないんだろうけど。


「ですが、今回トールさんが彼を止めてくれたおかげで、帝国も彼とのやり取りを打ち切ると思われます。彼は向上心が強い男でしたからね。いずれ代表になって、この国を帝国の属国に仕立て上げてたでしょう。それが帝国の思い通りと知らず、自分の私腹を肥やすのに夢中で」


 全くだ。

 しかし、ダティ・ワムを止めたのは俺じゃない。フレイだ。

 俺はせいぜい、フレイヤに助けを求められたから、彼らのギアスを解除したくらいしかやってない。俺に礼を言うのは間違ってる。


「彼らも、長年大変だったでしょう。彼ら兄妹の両親はこの国の誇りでした。親が亡くなった後、子どもたちを保護しようと名乗り出た者は多かったのです。ですが、ダティ・ワムは汚い手段で彼らを奴隷にし、我々は下手に手を出せなくなりました。せめて、奴隷の身分でも辛く当たらないよう国民達は配慮していたようですが」


 それは、辛かったよな。でも、これでようやく彼らは自由だ。

 今後どうしていくのかはわからないが、あれほどの強さなら冒険者にでもなればしばらくは金に困らないんじゃないかな。

 でも、親のこともあったし、冒険者になるのはキツイかもしれない。


 ん? あの二人を仲間にスカウトしないのかって?

 いやぁ、今までの人生が大変だったのに俺が厳しい戦いにあの兄妹を巻き込む訳にはいかないでしょ。

 もちろん、彼らから言ってきたら是非受け入れたいが。


「トールさん、今回は本当にありがとうございました。こういう言い方は好ましくないのですが、あなたは我が国の癌を消してくれたのです。この恩は、ミズガルズ王国への同盟という形でしっかり返させていただきます」


 だから、俺は何もやってないというのに。

 でも何度も否定すると、それはそれで失礼に当たる。目上の人に奢ってもらう際に、最低三回程は遠慮して、それでも先方が奢ってくれると言うならお言葉に甘える……的なやつだ。

 ちなみに俺は目上はもちろん同期や年下にも奢ってもらったことなんてない。逆はよくある。悲しいね。


「それでは、良き関係を築けることを祈っています」


 俺とバルドル氏、両者の間で握手を交わす。

 これにて、ミズガルズ王国とヴァナハイム共和国は正式に同盟相手となった。数日の内にでも情報が広まるだろう。

 後は、王国に帰って無事交渉が成功したことを王様に報告しなきゃな。明日にでもここを発とう。


 俺は、バルドル氏に会釈をして代表館から去っていく。


 しかし、

 帰り際、一つの事実に気付く。

 バルドル氏と会話していたのって、ミズガルズ王国代表のルビィではなく俺だった!九割九部くらい俺が話していた!

 ルビィが声を発していたの、最初の挨拶くらいじゃないか?

 それに気付いて後ろを振り向くと、ルビィがふぅー……と息を吐いていた。


「はぁー……。よし、やっと一仕事終わったね、とおくん!」


「なに疲れた感出してんだお前!」


「あいたっ! ……もう、頭にチョップしないで!」


「それはごめん。女の子にするべきじゃないな……って違う! お前、仮にも国の代表として来たなら、自分の役目くらい果たしなさい!」


「うう……ごめんなさい……」


「まぁ、でも……。最初の挨拶はスラスラ言えてたな。えらい」


「えへへ……」


 ルビィは笑みを浮かべ、俺を追い抜いて前を歩く。上機嫌といった様子。

 何かの本で読んだが、子供を叱る時はダメな所だけじゃなく良かった所も言うべきらしい。今実践してみたが、さっそく効果があったようだ。


 道路を歩くルビィの様子は、緊張が抜けてすっかり年頃の少女の姿に。

 その時は、男装しているとは感じず、ただただ可憐だと感じた。

 手を広げ、くるくると回り、道を行くその姿は。まるで、茜の花のようだった。


 ◆


「で? 俺が美味しい朝食を食べて、ゆっくりとコーヒーを飲んで、そっから身支度を済ませて宿から出たら。何でお前らが待ち構えてるんだ? フレイ、フレイヤ……心配しなくてもお前たちの部屋の料金は既に払ってるぞ。今日の昼間では利用できる、安心してくれよ」


「そうじゃない、そうじゃないんですトールさん。私とお兄様は別に、お部屋の料金について言いに来たのではないんですよ」


「この宿屋はすごいな。柔らかい寝床に、温かく美味い料理。店の人間は新設で、極上のもてなしを堪能した。まさに天国かのようだ」


 フレイは昨晩のことを回想し、ふけっている。よほどこの宿が気に入ったのだろう、目を瞑り、一人でうんうんと唸っている。

 今までの生活を考えれば無理もない。だが残念ながら、これから二人で生きていくことになると、この宿で受けたような充実した生活を送ることはできなくなるだろう。

 だから、残りの数時間くらいは楽しんで欲しい。


 まぁ、団からの給料がないから金がない俺も二度とこんな宿利用する機会は無さそうだけどな!!


「そういえば、貰った予算がまだ結構余ってるからこっそり頂こうかな……。おつかいの駄賃貰う的な感じで。いや待てよ……この金を元手に、カジノに行けばワンチャン大金持ちもあるんじゃないか?」


「ダメだよとおくん。このお金は元をたどると国民の皆さんから頂いた税なんだから、無駄遣いなんてしないでね」


「うわっルビィ、いつの間に起きてたんだ」


「とおくんが朝食とるずっと前から。王女の一日は早いのです」


 ルビィはえっへん、と薄い胸を張る。

 俺より早いとなると、ルビィは朝の六時には朝食を取っていたこととなる。中学生ぐらいの子供にしてはかなり早起きだ。えらいから頭をなでてやろう。


「も……もう何よ急に頭を撫でてきて……。また子供扱いしてるんでしょ、早起きして偉いね~って」


「まぁまぁ、偉いことには変わりないだろ」


「トールさん、ルビアさん。ふたりとも微笑ましいですね」


「ん? あれ?」


 フレイヤの言葉を聞き、首をかしげる。

 今、フレイヤはルビィのことルビアって呼んだよな。昨日はルビィさんって呼んでたのに。

 昨日は俺がルビィと呼んだのを聞いて、彼女もルビィって呼びかけていた。今ルビアと呼んだってことは、愛称であるルビィではなく本名を知ってるってことだ。

 というか、今ルビィは自分を王女と名乗ってしまってた。つまり、王女ルビアってバレてしまっているってこと。

 つまり、それは、えっとどういうことだ。


 緊張とともに喉を鳴らす。

 戦闘の際は持ち歩かないが、町中では念の為腰にかけてある短剣に手をかける。

 実はフレイヤは俺たちの正体を知ってて、悪いことを企んでいるのではないか。そんなことを考えてしまう。

だが、ルビィが慌てて駆け寄ってくる。


「だ、大丈夫だよとおくん。今朝二人に私達の素性を話したの。二人とも信用できる人だと思ったから」


「なんだ、そういうことだったのか。ふぅ、やれやれ。俺はてっきり、最初から俺たちが誰か知ってて利用されたのかと」


「そんな訳ないじゃないですか! 私はトールさんを信用してます!」


「そっかそっか。で、昨日はルビィって呼んでたのに、なんで今日はルビアなんだ?」


「それは、お姫様と分かったらニックネームで呼ぶのも恐れ多いかなと思って。ルビアさんは構わないって言ってくれたんですけどね。それに、ルビィって呼び方はトールさんが付けたんですよね?」


「ん? ああ、そうだけど」


「だったら、私達が呼ぶわけにはいきませんよねぇ、お兄様」


「そうだな。そんなことをするほど、俺も無粋じゃない」


「は? どーゆーこと?」


 ニヤニヤ、と兄妹は笑みを浮かべる。

 なんだろう、このちょっと小馬鹿にしたような笑顔は。

 俺とルビィを見てすごい気持ち悪い顔してるんだけど。昨日からなんなのこいつら。

 俺が不思議そうな顔をしてると、ルビィが目を瞑って声を出す。


「だ、だからー! 二人とも別にそんなんじゃないんですって! 二人もルビィって呼んでくれていいですから!!」


「「ダメだよそんな、もったいない!」」


「もったいないって何!?」


 意味がわからないから、もう話を進めてもいい?

 俺は咳払いをして、フレイのほうを見る。するとフレイも察したのか、話を本題に戻してくれた。


「それにしても、利用したってずいぶんと飛躍した考えだなお前。だが、まぁ……それは半分当たっているな」


「ええ、そうですねお兄様」


「なんだって?」


 俺たちの正体がなにか知ってるっていう考えが、半分当たっている?

 それはつまり、俺かルビィのどっちかを知ってた?


「【雷神】トール殿。この度は私達兄妹を助けていただき、ありがとうございました。私達兄妹は二人で一人の極神、【豊穣神】フレイとフレイヤです」


「お前が【雷神】状態になった時、魔力の流れですぐ分かった。お前が噂に聞く、四魔将を倒した戦士だってな」


 なんと、俺が極神だと分かってたのか。となると、フレイヤもそれを知ってて俺に救いを求めた?

 あの服屋でぶつかったのも、偶然を装った必然だったと? だとしたら、怖い。あの胸を押し付けてきた動作も、狙ってやってたのか。


「あ、ちなみにトールさんに助けを求めたのは偶然です。見た目が強そうな方だったので、お願いしたまでです」


「なーるほど、ああよかった」


 フレイヤの言葉を聞いて安心した。俺が女性不信になるようなことにならなくてよかったぜ。

 しかし、二人で一人の極神か。俺以外の極神をみたのが初めてだから、よく分からんけど……そういうのもあるんだな。


「そういえば、二人はいつ極神スキルが現れたんだ……? 俺の場合は気付いたらって感じだけど」


「私とお兄様も同じです。ある日夢を見て、夢の内容は思い出せないんですが……。とにかく、その夢がきっかけで【豊穣神】のスキルに目覚めたんです」


「ああ。その時はまだ両親が健在で、冒険者ギルドで暇つぶしにステータスをよく見てたからな。なんだこのスキルって当時は驚いたものだ」


「そ、そんなスキルがあればダティ・ワムに悪用されそうですけど……。大丈夫だったんですか?」


 ルビィが恐る恐る聞く。

 確かに。あの糞豚ならそれこそ金儲けに使いそうなものだが、実際はあの扱いだったしな。

 聞く所兄妹がされたことは、家に監禁、サンドバック代わり。そして外に連れ出したかと思えば公衆の面前でいたぶる。うん、思い返すだけでも酷い。


「このスキルは意識するとステータスなどを覗くスキル、魔道具から見えなく出来る。子供の頃に色々試していたから分かる。それに、ダティ・ワムはいたぶることしかやってこなかったからな。ステータスなど一度も調べなかったから、隠さなくても大丈夫だったかもしれん」


「馬鹿だな、あの豚」


 さすが目先の利益しか見えない男。

 やること為すことしょうもない。あと勿体ない。


「っていうか、意識すれば隠せるんだ……。いいこと聞いたな」


「でも、隠してたらとおくんと私も出会わなかったんだよね……。そう考えたら、知らなくて安心したかも」


「だな。これも縁ってやつだ」


「えへへ、これもフォーン・ベリーの蔦だね」


「なにそれ」


「ひみつ♪」


 ニコニコと笑い、両手を背後で組み、体を揺らす。

 朝から機嫌がよろしいことで。見てるこっちも元気になる。本人には言わないけど、ルビィのはしゃいでる姿を見ると癒やされる。父性ってやつかな。


「で、二人ともそんな力があるならこれからの生活は心配無さそうだな。冒険者にでも雇われの兵士でも、すぐに職にありつけるだろうさ」


「そのことで相談があるんだが、いいか?」


「ん? 俺に相談? いっとくけど、俺はコネとかないぞ。就活のリクルーターじゃあるまいし。強いて言うなら、ギャンブルで稼げる方法を……っていたタタタ! ルビィ、腕をつねるな!」


「今二人が真面目な話をしようとしてるんだから、ちゃんと聞きなよ」


「はい……」


 ルビィの腕つねり。地味に痛い。

 それより、真面目に聞けって言われても、俺は真面目に答えたつもりなんだが。俺が仕事を斡旋できる立場じゃないのはルビィも知ってるだろうに。


「あのですね、トールさん。私達兄妹は……」


「お前に付いていこうと思う。同じ極神同士、協力しあえるはずだ」


「……それでいいのか? 俺は軍人だ。国に帰ったらひたすら特訓の日々。二人の生活を面倒見るなんて出来ないぞ」


「生活をともにしたいわけじゃありません。ただ、貴方の仲間になりたいんです」


「俺は帝国と戦い、そして勝つ。敵も味方も多くの犠牲を出すことになる。戦いはつらい、それでもか?」


「元々帝国は親の仇だ。戦うことに躊躇はない。それに、犠牲が出ることには慣れてるよ」


「お願いします、トールさん。私達はどうしても、あなたと志を共にしたいのです」


「………………」


 二人の目。真剣な目そのものだ。

 決意は硬く、俺の言葉じゃ揺らぎそうもない。


「とおくん……」

「よし…………わかった! 二人とも、これからよろしく! 早速で悪いけど、今日の昼からミズガルズ王国に帰ることとなってる。元の家や、この街でやり残したことがあったら言ってくれ」


「おう!」「はい!」


 こうして、【豊穣神】フレイとフレイヤが仲間になった。

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