第32話 フレイヤ達の両親
昔々……いや、そんなに昔でもないな。精々二〇年以上前ってくらいだ。
で、二〇年以上昔……。あるところに、プラチナクラスの冒険者の男と、ゴールドクラスの冒険者の女がいました。
二人はそこそこ名の通った冒険者で、街で会う人会う人に次々と声を掛けられる程でした。二人は恋仲で、これまで様々な依頼を一緒にこなし、強力な魔物も二人で倒してきました。
(なぁ……プラチナクラスの冒険者って……)
(冒険者の中でもトップクラスがダイヤモンド、次いで上から二番目がプラチナだよとおくん。年に数人昇格するかどうかっていう程で、なるのがすっごく大変なの。だから上から二番目のランクって言っても、冒険者全体で見れば一割にも満たないはずだよ)
(そうなのか。……冒険者っていう職業は知ってても、ランク付けの設定は知らなかったんだよね……。……ストーリーにあまり関わらない部分だったし。プレイヤーのギルドとかも存在してなかったからなぁ。実装予定の噂は聞いたことがあるけど)
(なんの話してるの?)
(んーにゃ、こっちの話。さ、フレイの話をちゃんと聞こう)
ある日、男女は強大な魔物を従える魔族を討伐し、その魔族が所有していた宝を手に入れました。
その中には、不思議な輝きを放つ一振りの剣がありました。その剣は振るえば最強、あらゆる物を断ち切る魔法の剣だったのです。
プラチナクラスの冒険者は、自信の腕前とその魔剣を合わせて増々強くなりました。
そのため、彼がダイヤモンドクラスに昇格するのではないかという噂もちらほらと囁かれるようになったのです。
そんな時、二人の前にある男が現れました。
その男は駆け出しの商人で、都までの旅路を護衛してほしいと二人に依頼してきたのです。
有名になり、金も充実し、ランクも高い二人にとって、護衛の依頼は受ける価値がない低ランク向けの依頼でした。しかし二人は今の自分達の立場にあぐらをかくことなく、頼まれた依頼を受けました。冒険者は人の役に立ってこそ、という言葉が二人の口癖だったからです。
依頼自体は簡単に済ませ、報酬を貰う段階になった時、依頼人の商人はこう言いました。
『正直あなた方の実力を舐めていた。噂だけのへなちょこヤロウだと。だから金は用意していない。本当に申し訳なかった』
男の言葉には驚いたものの、二人は激怒することなく言いました。
『それは残念です。しかし私達にとっては、あなたが依頼主であることに違いはありません。あなたを無事送り届けることが出来て何よりです。ご縁があれば、また雇ってください』
商人は二人の言葉に感動し、身体を震わせたように見えました。
数年後、二人の冒険者は結婚し子供を授かりました。
子供は二人、すくすくと育ちました。
その家族は幸せそのもので、二人にとってまさに人生の絶好期と言えたでしょう。
そんなある日、かつての商人が訪ねてきたのです。
商人は再会した二人にこう言いました。
『昔、あんなことをしてすまなかった。あの時の恩を返したいが、ただお金を渡すだけでは忍びない。どうかもう一度同じように依頼を受けて貰えないだろうか。今回の報酬金と、前回の分を合わせてギルドに預けてある』
二人は快くこの依頼を受けました。
ですが、これは商人が二人を嵌めるための罠だったのです。
護衛の途中、馬車は予定とは違うルートへと入ったのです。
そこは魔物が多く潜んでいる森。護衛がいるとは言え、うかつに踏み入っていい場所ではありません。
当然、魔物が襲いかかります。
二人は全力で商人を守りました。
一線を退いたとは言え、まだまだそこらの冒険者よりも腕が立つ二人。魔物など物の数ではありません。
ですがそんな中、背後から光る物が飛んできました。
それは矢。
どう見ても魔物によるものではなく、人の手によるものです。
飛んできた方向を確認すると、そこにいたのは帝国兵でした。帝国兵はその場から逃げ出し、森の奥へと消えていきました。
なぜ、ヴァナハイム共和国に帝国兵がいるのか。なぜ、二人を狙ったのか。疑問は尽きません。
ですが当時は明確に敵対していた訳ではありませんでしたが、それでも敵国の兵を逃すわけにはいきません。
男は帝国兵を追いかけ、女は残り商人の護衛を続けました。
森の奥に着くと、そこにいたのは数えきれない程の魔物。それだけじゃなく、帝国兵も数百人規模でいました。
男は悟りました。狙われていたのだと。そしてすぐに、愛する女が危ないと気付きました。
ですが時は遅く、女は拘束されていました。商人が魔道具によって彼女を捕らえ、連れてきたのです。
『商人よ、これはどういうことだ! なぜ私達を騙したのだ!』
男は当然の疑問を口にします。
ですが、帰ってきた答えは想像もしなかった言葉でした。
『お前たちを初めて見た時から、ずっと気に食わなかった。美男美女のカップルが、これ見よがしに成功していく姿を見せつけやがって。だから騙した。貶めてやった。俺は俺以外の人間が成功していくのを見ると蕁麻疹が出る。だからこうして、引きずり落としてやったのさ。最初に会った時の嫌がらせじゃ、嫌な顔なんてしなかったからな、次は特大の嫌がらせをしてやろうと決めていたんだ。お前たちが人生の絶頂にいる時にな! お前たちがあの時、文句の一つでも言っていればこんなことにはならなかっただろうにな!!』
商人は単に嫉妬心から、何の関係もない二人を罠にかけたのです。
男は必至に抵抗しましたが、魔物と帝国兵があまりにも多く力尽きてしまいました。
死ぬ間際に男が見た光景は、愛する女が汚され、辱られ、そして壊されるところでした。
商人はそれだけでは止まりません。
残った子どもたちを攫い、強制的な契約魔法を行使させたのです。
商人は己の自尊心を満たすためだけに子どもたちを奴隷にし、かつての住まいや財産を奪われていく様子を目に焼き付けさせたのです。
こうして、冒険者夫婦は悲惨な死を遂げ、残された子どもたちは絶望へと落ちていったのです。
おしまいおしまい。
◆
話し終えたフレイの腕は震えていた。
思い出すだけでも辛いだろうに、それを俺たちに語ってくれた。その気持ち、俺は敬意を表する。
「これがダティ・ワムのやったことだ。可愛そうなことに、やつは俺の復讐心を燃やしに燃やしてくれた。やつに待っているのは、死ぬよりキツイ地獄だ」
「復讐なんて……とか無粋なことを言うつもりはない。そうしないと前へ進めない人もいるんだって、色々と見てきたからな。ただ、俺もやつに聞きたいことがあるから時間をくれよ」
「ああ。じゃあ……いくぞ!」




