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第117話 人間より醜い

「うぅ……いたい……」


「大丈夫? 立てそう?」


「だいじょーぶ、私はそんなにやわじゃない」


「よし、えらい! さっきはありがとう、サン。サンの防御が無かったら私たち、今頃跡形もなくなってたわ。ありがとね」


「私えらい……!」


 サンとヒータが起き上がるところを発見し、合流する。


「無事だったみたいね」


「フー、それにリンも。あなたたちも怪我はないようね。シャドウズの中で負傷した者がいなかったのは不幸中の幸いだわ」


「全くだわ。なんで妖精があんなに大量に現れるんだか。絶対何か原因があるはずだけど……」


 私たちが妖精のことについて考えようとした時、遠くから轟音が響いた。


「この音は!」


「妖精たちの攻撃だわ。方角は……あっちね!」


 ヒータが指さす方角に向けてリンが意識を向ける。

 魔力の感知能力を使っているのだ。


「あっちは村の方角です! 間違いありません! 村が攻撃されています!」


「ッッ! みんな、止めに行くわよ!」


「ええ!」「はい!」「うん」


 全速力で村へ向かうが、果たして間に合うか。


 ◆半魔の村――


「おかあさーーーん! どこぉぉ~~~? うええぇぇん!」


「逃げろぉーーー! 結界が壊されたぞーー! みんな、逃げるんだーー!」


「おお、なんてことじゃ……。最高傑作である村の結界が、破壊されることがあろうとは……」


 ドワーフのハーフであるモーガスは自らが生み出した結界に絶対の自信を抱いていた。

 例えドラゴンが襲ってこようとも、絶対に守り切るほどの防御力がある。

 生半可な攻撃では通用しない。最高レベルの結界だ。


 だというのに、現実はどうだ。


 結界は破壊され、魔力の爆発による攻撃が村を襲っている。

 村人は逃げ惑い、けが人が続々と出ている。


 絶望――モーガスや村人は身を守る術を用意して、危機に備えていた。

 しかし、対抗する手段は持ち合わせていなかった。

 もし守りがなくなったなら、待っているのは死。


「終わりじゃ……もうどうすることもできん……」


 爆発はどんどん激しさを増している。直にモーガスのいる場所までやってくるだろう。


「あ、ああ……そんなばかな……」


 モーガスは見た。

 村を襲う者の正体を。


 それはゆらゆらを宙を舞う、人ならざる物だ。

 それは竜種よりも更に高位に位置する、生物の頂点にいるものの一種だ。


 なぜ妖精なんかがこの村を襲うのか?

 モーガンには理由などわからなかった。


 ただ、自分たちが生き残るのは到底無理な事態にまで陥ったことだけは理解できた。


『JC”H? E’……』


『#DGMK』


『*R』


 妖精たちの手に光が集まり、煌々と輝く。

 溜められた魔力が解放され、大爆発を起こす――


「うわああああああ!!!」



 ◆


「ああああぁぁぁ! ……あれ?」


 危なかったわ。なんとか間に合ったみたい。

 爆発に巻き込まれそうだったモーガスさんを抱えて、遠くへ待避した。


「大丈夫? モーガスさん、もう少しで死ぬところだったわよ」


「あなたたちは村の外へ行ってたはずじゃ……。あ、もしかして狩りに出た二人は妖精が殺して……?」


「そういうこと。どういうわけか分からないけど、人生に一回お目にかかれれば運がいいはずの妖精が群れで現れたの。一体は私たちで倒したけど、あれほどの数はどうしようもないわ」


「じゃ、じゃあどうすれば……」


 モーガスさんは全く分からないといった表情で私たちを見ている。


「逃げるか、戦うかよ」


「た、戦う!? 馬鹿を言わないでください! 我々が妖精と戦って勝てるわけがない! 村人をみすみす死なせる羽目になる!」


「だったら逃げればいい」


 サンは冷たい声でモーガスに告げる。

 とても珍しい、冷え切った目でモーガスを見ている。

 こんなサンを見るのは、かなりレアだ。


「死ぬのがいやならすぐ逃げればいい。それをしないのはなぜ? 逃げないのなら戦えばいい。それさえしないのはなぜ?」


「た、戦ったら危ないじゃないか……! そんなこと、この村にいるみんなできるものか……!」


「へどがでる」


 サンは心底嫌そうに、ゴミを見る目でモーガスを、そして村中を見る。

 以前もそうだけど、サンはこの村に違和感を抱いていた。

 それ故、この村のことをどこか好きになれないでいた。


 私も同じだ。

 この村と、村人たちにどこか違和感を覚えていた。


 そして、この違和感の正体が今、わかった。


「モーガスさん、あなたたちはひょっとして戦ったことがないの? 今まで一度も?」


「当然だ……! 戦うだなんて恐ろしいこと、みんなしない!」


 私たちの感じる違和感の正体に、ヒータとリンも気付いたようだ。


「じゃあ、故郷で半魔と罵られても何もしなかったっていうの!」


「反撃でもしろと? それじゃあ余計自分たちの立場が悪くなるじゃないか……!」


「あなたたちは皆、迫害を甘んじて受け入れてきたのですね」


 ヒータとリンもモーガスさん……いや、この村を見る目が変わる。


「あなたたちは理想郷を求めてここに村を築いたと言ったけど、それは違うわ。あなたたちは逃げてきただけ。半魔と蔑まれて、言い返さずに負けを認めてきた。自分の立場を変えようともせず、相手を恐れてただ争いを避けてきた! だからこの村には守りの結界はあっても、身を守る武器はない。こうして結界が壊れて、逃げるか戦うかを迫られているのに、それさえ選べずにみんな死んでるわ! あなたたちは私たちと同じ半魔じゃない、ただの負け犬よ……人間よりも愚かだわ」


「なっ……」


「あなたたちは村がなくなるのをこのまま指をくわえて見てなさい……ホント、武器を持って抵抗してくる人間どもの方がマシとはね」


 モーガスさんはただその場に立ち尽くし、呆然とするのみだった。

 私たちの言葉に反論するわけでも、この場から逃げ出すわけでもなく。

 ただ、ずっとその場に残っていた。


 ◆



「いくわよみんな、勝てるか分からないけどやるしかないわ」


「幸いこの村は遮蔽物が多い。丈夫な作りの建物もあるから、一発で焼け野原になることはないでしょう」


 リンの言うとおり、先程爆発した場所は炎が広がっているけど建物はまだ残っていた。

 建築素材が特殊な素材なのかもしれない。                              


 これは使えるかも。


「じゃあ作戦を練るわ。あの数の妖精をまとめて相手にするのははっきり言って無理。なら各個撃破を狙うのよ」


「なるほど、残った建物の影に隠れて一体ずつ狙っていくのね」


「でも待ってください。私たちの魔力も有限です。【崩壊元素】を使えるとしてもあと三回が限度……それで十数体の妖精を倒せるかは怪しいですね」


 崩壊元素は私たちの魔力を高めた究極の一撃。おのおので負担を分担しているとはいえ、消費魔力は多い。

 リンが残りの魔力のことも心配しているけど、確かに十数回も使えるような技じゃない。


「ねえフー。【崩壊元素】の矢じゃなくて、ばくはつだけでも妖精ってたおせるの?」


「最初の一体を倒した時を思い出して。矢で妖精の体を貫いた後、爆発で妖精の体を跡形もなく消し飛ばしたでしょ? つまり矢を直撃させなくても爆発に巻き込みさえすれば、妖精を倒せるはずよ」


「なるほど、では各個撃破よりは数体ずつに分断して倒す、というわけね! やってやろうじゃない!」


「で、サンには陽動をお願いしたいの。できる?」


 サンは首をかしげて疑問符を浮かべる。

 自分の役目は崩壊元素の準備中に敵の攻撃から仲間を守ることではないのかと。


「建物の影から攻撃するから防御の心配はないわ。それよりも、サンには妖精たちの注意を引きつけて誘導して欲しいの。さっき私たちを守ってくれた時にわかったけど、サンの防御なら妖精の攻撃を受けても傷を負うことはないはず」


「うん、そういうことなら。ちょっとこわいけどがんばる」


「ごめんね。大変だけど、頑張って欲しい」


 ぎゅっとサンにハグをして元気づける。

 身を挺して仲間の盾になる役目を、一番幼いサンに押しつけることになるなんて、心が痛む。

 でも、私たち半魔は戦わないと生き残れない。

 幼いとか、女だとか。そんなことで世界が優しくなるわけじゃないから。

 だから、だれかしら自分の役目を持たなければいけないんだ。それが死ぬほど大変なことだろうと。


「よし、じゃあやるわよみんな!」


「「「うん!」」」


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