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仲間

 久遠くんに話しかけることができた。図書室で見かけた通り、見た目とは違いかわいらしい人だった。


「大丈夫だから、見かけたら話しかけてみて!」


 渚ちゃんに言われたこともあり、久遠くんの姿を見かけた私は躊躇なく動くことができた。話しているうちに緊張がほぐれ、ついからかっちゃったりしたけど、彼となら仲良くなれそう。

 そして、森本くんとも話すことができた。今までは一方的に見ているだけだったのに。 

 しかも、私のことを知っていてくれた。

 思ったとおり気さくな人だった。

 それでもやっぱり森本くんと話すのは緊張しちゃうな。


「やったね美由希。巧くんと話すを達成しただけじゃなく森本くんとまで話せたじゃない! このまま森本くんと仲良くなれれば無理して巧くんと仲良くする必要もないし。何かあっても私がフォローしておくから大丈夫。的を絞って積極的にいこうよ!」


 興奮気味に話す渚ちゃん。それもそのはず、今日話せるようになった森本くんと放課後にカフェにいく約束まで取り付けちゃうんだから、渚ちゃんさまさまである。


「あははは。でもまだ緊張しちゃうよ。それに巧くんとも仲良くなれそうだし、もう少し話してみたいなって思ってるの」


 噂通り気さくな森本くんと、見た目とは違い人当たりの良い久遠くん。特に久遠くんとは朝はできなかった本の話をしてみたい。どんなジャンルを読むんだろう。どの作家さんが好き? 

 共通点と言うのはコミュニケーションを取る上で最強のツールになり得る。本好きの私にとっては巧くんと()()()()()でのともだちになることは、今後の高校生活……ううん、それ以降にも影響を与えてくれそうな気がしている。


♢♢♢♢


 夕方、私以外の3人は部活に入っているので終わるまで図書室で待つことにした。

 

 『ギィ』という音を立てながら開いた扉を潜り、先日久遠くんが座っていた席に座り鞄からお気に入りの本を出した。


 何年か前に映像化され、世の中にも広く知られている話。亡くなったはずの奥さんが若返って戻ってきて、もう一度恋をするという話。もう何度も読み返している。文庫本が読み返し過ぎてクタクタになってきたのでハードカバーで買い直したくらい好きな作品。


 幸いなことに私の席のまわりには人がおらず、私がパラパラとページをめくる音が時折、聞こえてくるだけだった。


『ギィ』


 読み始めてからどれくらいの時間が経っていたのだろう。気づけば窓の外は茜色に染まり図書室にも他の生徒の気配がしなかった。


「早川、さん?」


 不意に名前を呼ばれて顔を上げると、少し離れた場所に久遠くんが立っていた。


「あ、あれ? く、久遠くん、部活は?」


「ああ、今終わった。本借りてたから返しにきたんだ。それよりも、その本……」


 久遠くんの視線は私の持っている本に注がれていた。


「あ、うん。自分のなの」


「好き、なのか? その、作者」


 作品じゃなくて作者。


「うん、他の作品も読んだよ。恋愛小説なんだけどSFチックというか、不思議な世界観だよね。えっと、久遠くんも好き?」


「えっ、と。まあ、その。俺のキャラじゃねぇかもしれないけど、な。俺もその人の世界観が好きで結構読んでる」


 恋愛小説というジャンルを屈強な久遠くんが読んでる。側から見たら不釣り合いかもしれないけど……。


「いいと思うよ。好きなものにその人のキャラとか関係ないし。好きっていえるのは素敵なことなんじゃないかな?」


 真っ直ぐに久遠くんの目を見ていうと、照れ臭そうに頭を掻いて「そっか」と呟いた。


 集合場所の校門に行くまでに私たちは本の感想などの話で花を咲かせた。


♢♢♢♢♢


 駅前にあるカフェの2階で私たちは文字通り、交友を深めた。中学時代の話や趣味の話、森本くんの飼っている猫の写真がやたらに可愛かった。


「よし! 仲良くなるには形から。俺も2人のこと名前で呼んでいい? もちろん俺も忍って呼んでくれよ? 渚に美由希」


 森本くんの要求は、これまで男ともだちのいなかった私には結構、高いハードルだった。


「OK、私は構わないよ忍くん。美由希は……()()()()しか名前で呼べない感じかな?」


 私の態度から何かを感じ取ってくれた渚ちゃんが、からかい半分で助け舟を出してくれた。


「おっ! 乙女だね。無理にとは言わないから好きに呼んでくれていいよ。じゃあ俺も早川さんって呼んだ方がいい?」


「ううん! それは大丈夫。私が恥ずかしくて呼べないだけだから」


 せっかく歩み寄ってくれた森本くんの申し出だし、仲良くなれるならそれもいいなって思えた。


「ん、じゃあよろしくな。美由希」


 初めて名前で呼んでくれた久遠くんの顔は、私がこれまで見てきた中で、一番優しい表情をしていた。


 その後、みんなで連絡先を交換し、グループを作成した。

 そのグループはいつも賑やかで、みんなで夏祭りに行く約束をしたり、クリスマスパーティーを企画したり、初詣に行く待ち合わせをしたりした。


 そして、久遠くんとの個別のトークルームではオススメの本を紹介してくれたり、感想を言い合ったり、一緒に本を買いに行く約束や映画を見に行く約束をしたりしていた。


 だけど、いまはもうどちらも新規のメッセージが届くことは、ない。


『俺たちは、ともだちですらなかったんだな』


 それを壊したのは、私。

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