起きろ
「ディード、大丈夫?」
「…ああ、もう立てるよ、姉ちゃん」
「そう、よかった…ごめんね、お姉ちゃんがしっかりしてないから…」
「いいんだよ、姉ちゃんは悪くない」
「…」
「姉ちゃんはよくやってるよ。実際、姉ちゃんの魔法が無けりゃオイラは死んでるしな…だからさ、そんな顔すんなよ」
違う、違うの。
だって、私を庇ったせいで瀕死になったんじゃないか。
これじゃ、里にいた頃と何も変わらない。
私を庇って、その度に貴方は傷ついて。
本当に、嫌になる。
私は貴方を助けたいのに、いつも力不足で…
ぐしゃっ
泣きそうになって俯いた時、何かがこの路地に飛び込んできた。
ボロボロになった布のような…え?
小さな女の子…
真っ赤に染まった髪に微かに残る白色。
なにより、この特徴的な琥珀色の目は…
「ユウキ、殿…」
「ユウキっ!!」
全身の骨が粉々に砕けているようで体の形はグチャグチャになっている。
そして、体には無数の穴…歯型がついていて、黒い液体が流れ出している。
これが口内で生成されている呪いである。
ユウキはピクリとも動かない。
当然だ。
これはもう、死んでいる。
この傷で生きているはずがない。
いくら女神の体とはいえ、呪いに触れたら体が腐食して、魂が溶かされてしまう。
「…行くぜ姉ちゃん、まだエメラが戦ってるはずだ。次こそは、絶対に仕留めてやる」
「うん、わかった…」
目は見えない、匂いも分からない、耳なんて聞こえるはずがない。
なぜなら、既に頭は粉々に噛み砕かれているから。
俺の魂は呪いに侵されている。
呪われた魂は生まれ変わることが出来ないそうだ。
つまり、俺の魂はこのまま消失する。
エメラは生きているだろうか。
ディード達はどこにいるのだろうか。
ヘイル達は到着したのだろうか。
薄れゆく意識の中、もういいやと思考を放棄しようとした時、声が聞こえた。
─お前はまだ死んでいない、起きろ。
…うるせぇよ、ガムみたいに噛まれてぐちゃぐちゃになってんだよこっちは。
生きていようがどうせすぐ死ぬだろ。
誰だか知らねえけど、勝手な事抜かしてんじゃねえぞ。
─…諦めが早い奴は好かん。私が力を貸してやるから立て。
…早いも何も、もう無理だって。
立てるはずねえだろ。
関節どころか全身の骨が折れてんだ。
動かせるもんならやってみろよ。
─…わかった、今から体を修復する。痛みに耐えよ。
痛い。
「──────ッ!!!」
痛い痛い痛い痛い痛い!!!
脳が復活したのか、全身から激しい痛みを感じる。
体を粉砕された強烈な痛みで脳が爆発しそうだ。
─喉は…そうだな、叫ばれても困るから最後でいいだろう。
「────っ!──────ッ!!!」
潰れた肺を、音の出ない喉を振り絞って、かすれた音を口から吐き出す。
粉々になった骨が体内を動き回り、元いた場所へと戻っていく。
ミンチになっていた内臓が徐々に元の形へと戻っていく。
いっそ死んだ方がマシと思うほどの苦痛に耐えかねて、俺は意識を失った。




