邪気
暗い夜道、車輪が転がる音だけが周りに響いている。
少しでもコラルから離れるためにずっと走り続けている。
「すぴー…」
「おかぁ、さま…」
「ん…」
三者三様の寝息が後ろから聞こえる。
少し気を抜きすぎでは…と言いたいところだが、アンソルスはともかく、ネムとメレスは1日動きっぱなしだったしな。
「みー、みー」
「お前はまだ寝ないのか?」
「みー」
膝の上に登り、丸くなったニアの腹を撫でる。
ふわふわでとても暖かい。
「よしよし…」
「御主こそ、まだ寝ないのか?」
「わあっ!?むぐっ!」
背後から伸びてきた手が俺の口を塞いだ。
「こら、2人が起きてしまうだろう」
「あ、アンソルスか…脅かすなよ…」
「隣、失礼するぞ」
俺の隣に腰かけたアンソルスは、未だに俺があげたコートだけしか着ていない。
「…寒くないのか?」
「ああ。魔力が体温を調節してくれているからな」
「便利だな、魔力とか魔法って」
「そういう御主は魔法を使わないのか?」
「使えないことは無いけど…苦手なんだよな」
俺はアンソルスに見せるように指先から炎を出した。
炎と言っても、ライターくらいの小さな火である。
実は、これくらいの小さな火を出すのにもコツがいるのだ。
「それに、魔法で火を出すよりも、火を出せる道具は簡単に創造出来るし、今のところはあまり必要性を感じないんだよ」
アンソルスに見えるように、シュボッ、とライターで火をつけた。
その火を興味深そうに眺めたあと、俺の顔を見た。
「そう言えば御主、そこで寝ているネム神の身体を借りていると言っていたな」
「ああ、そうだが…」
「ということは、先程から突発的に出現したりするその道具は『創造』の力によるものなのだな」
「そうだ。マナが存在する場所なら好きな物を好きな時に出せるから便利だぞ…うぶっ…!?」
急に視界がぐにゃりと歪み、激しい吐き気を催した。
馬車を止め、口を押える。
「…大丈夫か?」
「あ、あぁ…馬車酔いしたのかもな…」
「そうか…馬車のことは余に任せて少し休め。きっと疲れているのだろう」
「すまん、そうさせてもらう…」
席を交代し、ゆっくりと荷台に移った。
床に寝転がり、目を瞑る。
あぁ…こんなに疲れてたのか、俺。
「寝たようだな…それにしても、奴が口を押えた時に少し、ほんの少しだけだが、邪気を感じたような気が…」
「みー、みー」
「おお、メリア二世。ニア、と呼ばれていたな」
「みー、みゃーん」
「ふふっ、良い子だ」




