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『創造』という能力

 静寂の中で俺は再び落胆した。


 ステータスすらも見れないとはな…。これじゃただ人間の体とおさらばしただけではないか。魔法もダメ、ステータスも分からん。能力は…この能力は好かないが、次元破りがあるといえばあるか。


 案外これは強力かも知れないが、諸刃の刃だ。どこに落ちるかも分からないし、そもそも次元の扉が近くになければ使うこともできない。

有名RPG最終幻想のアイテム、煙玉の方がよっぽど使えるではないか。


 俺はため息を吐くと、そのまま深呼吸をした。心は落ち着く気がしないが、少しでも神経に良い行動を取っておこう。


 他には何かないのか?…何かを求めて探してばっかりだな。どれだけ猫の手も借りたいような状況に追い込まれているかってことがよく分かる。いくらファンタジー世界だといっても死にかけ過ぎだろう。


 俺は余計な雑学や、格闘技をやっていたからこそ生きているがどちらかが欠けていたら死んでいただろう。だろうというか死んでいた。


 俺は少し視点を変えて自分の内側に意識を向けてみた。さっきはただ働きかけるだけだったが、もっと集中して一点を見つめれば何か見つかるのでは無いのだろうか。


 ステータス!と心の中で念じるもの出てこない。ステータスが欲しい!と欲する。己に呼びかけ、何なら創り出せと無茶振りな指示をする。


 そのときにふと己の違和感に気付いた。己の内側からの、だ。創り出せと思った際、まるで心臓が別の場所でも鳴っているようなそんな感覚があった。


 気持ち悪い。そう思わざるを得ない感覚だった。


 急に心臓が増えて、鼓動が色々なところから聞こえたら誰だって同じ感覚になるだろう。胸の心臓は腹の中に居るときから鳴っているんだ。そりゃあ慣れるさ。

だが、こんな急に来られちゃ慣れるわけがない。


 腹の奥底に脈打つ物がある。そいつが訴えている。俺の心の声に対して応えようとしている。俺にその方法を提示してくれている。


 俺は初めて見る聴いたことのない楽譜を見てピアノを弾くような感覚で、初めてやるスポーツで何となく体を動かしてみるような感覚で、それに従った。


 体の中から何かがごそっと抜け落ちる。俺は急な虚脱感と、嘔吐感に苛まれながらも今俺がしたことの成果を見届けんとする。


 そうするとぼんやりとステータスの表の枠のような物が見えてきた。目を凝らす。更に奥を深淵を覗かんと凝視すると文字のような線が浮かんできた。


 名前 海藤怜  

 

 元



 


 ……これがステータスなのか?自分の名前なんぞ言われなくても分かるし、元って何だよ元って。


 ステータスを見ても何も得られなかったが、ステータスよりも大切なことを発見できた。


 体の中には何か別の脈打つものがある。多分それが魔力の源みたいなものなのだろう。この世界ゆえなのか、この体ゆえなのかは分からないが。


 体の中から何かがごそっと抜け落ちた感覚がしたのは魔力を大量に消費したせいなのだろう。よくラノベにおいてある設定だ。


 そして魔力を代償に何かを創り出すことが出来るらしい。これは何となく分かるのだ。本能的に分かる。使い方も何となく分かるのだ。


 『創造』といった能力なのだろうか。この名前は神が持ってそうな能力みたいでカッコいいな。


 あのじじぃはどんな神なんだろうか?そもそもこの世界は神が一人しか居ないのかもっと沢山いるのかすらは俺は知らない。会って話したいことが増えたな。


 様々なことが確認できて満足した俺はその場で柔軟運動を始めた。この場所は歩き回ってどうのこうのという話でも無さそうなのだ。それに体も魔力的にもダメージを負ってしまっている俺が歩き回ったら、すぐにバテてしまうだろう。酷ければ気を失ってしまう可能性だってある。


 やはりここで何かしらの変化を待とう。ここが何処なのかは分からないが、再び次元の扉を破って抜け出さなければならなさそうだなと思う。


 ここが次元の狭間のような所であれば、魔物とかは出たりするのだろうか?俺の最も好きなゲーム最終幻想の五作目では普通に魔物は出てきたのだが…。


 その疑問に答えるように俺の背後から足音が聞こえた。座り込んでいた俺は咄嗟に風を切る音を聞きながら地面に仰向けに寝転びながら後ろを向いた。


 人型の首がカタカタ行っている奇妙な人形が腕を振り回した後のような体制で立っていた。


 体は未だにボロボロ、魔力はカラカラ。


 この空間のずっと明けない漆黒の空は俺の運命を表しているようだった。

読者の皆さん。皆さん私の作品を読んでいただいているだけで嬉しいのですが、誰か感想を一言下さると励みになります!良いという感想でも悪いという感想でもいいので一筆添えて下さると今後の作品の質の向上に繋がりますので、よろしくお願いします。

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