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異世界に来た瞬間、命の危険が迫ってきました。

目が覚めた俺は空中に居た。


 下は海だ。マイ○クラフトとかだったら水に落ちてもノーダメージだがここは現実。何故こんなところに転移させられたのか、何故こんなことになっているのか。何故何故何故何故何故。


 自宅で次元の扉を蹴破って落ちているとき程ではないが何故という疑問が頭を埋め尽くす。しかし何故と百回叫ぼうと、今落ちている現実は変わりようがない。とにかく俺は今、生き残らなければならない。


下までは60m弱はあるだろう。子供の頃20mくらいの崖から川に飛び込んだりしていたが比べ物にならない。落ち方にもよるが60mから水面に落ちたときに水面はコンクリートのようになると聞いたことがある。それが本当ならば、ほぼ確実に死ぬ。


 おまけに俺は泳げないのだ。もしノーダメージで入水出来たとしても、溺れて死ぬ可能性は高い。なんせ学校の50mプールで溺れたのだから。


0.1秒ごとに死が近づいてくる。こんなところに転移させたじじぃへの文句は尽きないが今は全神経を集中して生き残る方法を考えなければ。


水に当たる面積が広ければ衝撃がその分跳ね返ってくる。ならば、なるべく爪先や手の指先からの入水が望ましい。

今は頭から縦回転で落ちている。頭の位置が変わりまくるのは状況把握に相応しくない。体を斜めに捻りどうにか横回転に変える。


視界がぐるぐる回りながら落ちているが頭の位置は変わらないので先程よりはマシだ。回りすぎたことで胃液が上がってきて盛大に吐く。吐いたことで喉が焼けるように痛い。吐瀉物が顔にかかり気分は最悪。視界も塞がれた。


落下の風によってある程度視界が確保されてきた。下まであと30mといったところ。体の軸が安定してきている。入水の際には爪先か手の指先からだ。その為には再び縦回転にならなければならない。しかし縦回転は視界が安定しないため激突寸前で捻らなければならないだろう。


 あと20m



 まだまだ下まで遠い。



 あと15m



 ここまで来ると恐怖心が芽生えてくる。



 あと10m


 

 勝負はそろそろだな。



 あと5m

 


 俺は体を捻った。前転をする要領で捻ると丁度足から落ちるような体制に入った。あとは爪先から入水するだけだ。


 しかし、5mから落ちるスピードは俺の体感より早かった。そんなに速く感じなかったのは集中力が高まりすぎて周囲のスピードが遅くなっていて、それに気付かなかったのだ。体が想像よりも全然動かない。後悔先に立たずだ。爪先を立てる時間がない。膝も曲がっている。

 俺は歯を食いしばった。足の裏全体で激突したことによって全身を衝撃が突き抜ける。膝が曲がっていたのは幸か不幸か、膝の骨は折れなかったものの、衝撃に流されて椅子に座ろうとして椅子を下げられた人のような体制で尻と背中を順番に打ち付ける。


尻はそこまででも無かったが背中を打ったのは相当ダメージが入った。

内臓を中から掻き乱され、折れてはいけない骨が嫌な音を立てた。針を背中から何十本も刺された痛みと、お腹を下して地獄だったような痛みを何倍かにして全身の内臓がそれを訴える痛みと、ぶつけた衝撃で肺の空気が全て抜けて息が出来なくなる辛さと。


 体は十数メートル沈んだのちに徐々に浮き上がった。肺の空気は全て抜けた気がするのだがな。


 一瞬気を失いそうになったが、すぐさま痛みで意識を叩き起こされる。息が出来ず口を拙く動かしながら水に打ち上げられた魚のように口をパクパクさせる。口を動かそうと少し力を入れるたびに、この世のものとは思えない激痛が走る。


 息をしないで死んでしまいたい。


 そんな考えが脳を過ぎったが、生存本能がそれを阻害した。どっかから飛び降りたり、何かを自分に突き刺すような一つかつ、自殺以外なら日常でする動作だったら己の意思の強さだけですることが出来るだろう。

しかし、息を止めるのは別だ。随意運動は随意的に止められるものもあるが、結局は不随意的に再開してしまうのだ。己の意思のみで呼吸を止めて死ぬことができるのは狂人か、人ですらない他の何かだろう。


 そんな無意味なことを考え少しでも酸素がないことと、体中が訴える激痛から逃げていると、段々と息が吸えるようになってきた。どうやら肺は痛めてなかったようだ。


 しかし息を吸った瞬間目の前が真っ白になる錯覚を覚えた。吸う際と吐く際の両方で起きる。


 痛い。そう声に出そうとしても、微かな吐息となって大気に散るだけだ。何も声が出ない。声を出そうとすると息をするとき以上の苦痛が襲い、俺を苦しめる。


 そうして一時間くらい経ったであろうか。いや、ただ単に物凄い苦痛のために時間の観覚が引き延ばされて実際の経過時間と体感での経過時間がズレているだけで、数分くらいだったかもしれない。


 雨が降った。霧雨でもなくゲリラ豪雨というわけでもなく普通の雨量より少し少ないくらいの雨だ。落下している最中は青空だったはずなので、本当に一時間近くは経過していたのだろう。

雨水が俺を容赦なく打ち付ける。雨に打たれその微かな衝撃でも、激痛が走る。それに加え、俺は口を開けたままだったので、雨水がどんどん口内に侵入してくる。


 今、死に物狂いでしている微かな息が塞き止められ再び苦しくなる。一秒間に溜まっていく量は雀の涙ほどだが、舌や喉に直接雨水が当たる衝撃だけで、呼吸のリズムは乱れるし、ほんの少し溜まっただけで仰向けに転がっている俺の息を塞き止める効果がある。


 息が再び出来なくなった。


 息をしないで死んでしまいたい。


 そんな考えが再び脳を過ぎる。今回は息を無理に我慢してしないのではなく、このまま成り行きに身を任せるだけで死ぬことが出来る。

 

 俺はどっちを選べばいいのか。すぐ目の前に死という救いの手がある。この地獄から連れ出してくれる救いの手が。


 俺の脳内を再び走馬灯が過ぎる。つい先程みたばかりであるし、そして今は見る場面ではない気がする。生を諦めた俺には先程とは打って変わって心が痛くなる光景だ。目を背けようとしても脳内に焼き付くように情景が過ぎる。


 俺は生か死かどちらを選びたいのか……


 


 答えは決まった。

今回は会話文が一つもない回でした。少し時間に余裕ができているのでならべく早く投稿できるようにしたいと思います。

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