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13 こんなものは悪のうちには入らない

 トーマスとフレンダの間にあったわだかまりはここに解消され、二人は互いに抱えていた後ろめたさを解消することができた。

 だがこれで全ての問題が解決した……かというとそういうことはないわけで。


「私、トーマスをずっと束縛して苦しめてきたんだね。もうトーマスを苦しめたりしない! トーマスが新天地に行っても応援するよ!」

「駄目だよフレンー! 僕も、フレンの気持ちをちゃんと考えていなかったー! ヴィンセント氏たちにはごめんなさいしてから、もう一回元のパーティに戻って、一緒に頑張ろうー!」

「何言ってるの! 先輩たちにも失礼になっちゃうし……私なんかと一緒にいたらトーマスが駄目になっちゃうよ!」

「僕、さっきの話を聞いて、考え直したんだー! 今までフレンにおんぶにだっこだったのに、その恩返しをしてないってー!」

「そんなこと考えなくてもいいよ! っていうか考えないでよ! 幼馴染みでしょ! 私のことは大丈夫だから、トーマスは自分のやりたいようにやって!」

「親しき仲にも礼儀ありだよー!」

「どこで覚えてきたのそんな言葉! こんな時ばっかり持ち出してきて!」


 ……二人は主張をそのままひっくり返して、再び喧々がくがくの言い争いを始めていた。

 俺とアリソンは、そんな二人をほほえましくも面倒くさい目で眺めている。


「お互いがお互いのことを配慮しようと切り替えた結果、立場が逆転してるな」

「なんだか面倒くさいことになってるわね。どうするのヴィンセント」

「まあ任せておけ。この場を取りなす最高の解決策が俺の頭の中に……っと、その前に」


 俺はこれからやろうとしていることについて、アリソンにそっと耳打ちした。


「――――して、……だから、……って、しようと思うんだけどどうだろうか……?」

「……へえ」


 アリソンはにやりと楽しそうに笑い――――背中に平手をぶち込んできた。


「いてっ!」

「いい加減貴方も学習したみたいね。そうよ! その報連相が大事なのよ!」


 やめろ背中をバシバシ叩くな。

 パワーアップ中のお前と俺とじゃ基礎身体能力が全然違うんだよ!


「仲間を信じるってそういうことよ、ヴィンセント! そういう大事なことは、これからもどんどん私に相談するのよ!」

「それは分かったから、叩くのをやめろ!」

「あら、ごめんなさい」


 無自覚かよ。たちが悪いな。


「……で、アリソン自身はどう思うんだよ」

「私からは特に何も言うことはないわ。むしろ賛成。そのアイデアを実行すれば、きっとこれから楽しくなると思う。いずれにせよ、貴方のやりたいようにやりなさい」

「ああ、そうするよ。ありがとう」


 頷くと、俺はその場で手を打つ。

 大きな音に反応して、フレンダとトーマスの注目がこちらに向いた。


「……な、なんですか?」

「びっくりしましたー」

「一旦ちょっと話を整理しようか。今トーマスが、うちのパーティに入るのをやめて元のパーティに戻ろうとしているのはなんでだ?」

「え、えっとー……それは、フレンを一人にしないためですー」

「じゃあフレンダ。お前がトーマスを独り立ちさせるべきだと思ったのはどうしてだ?」

「それは……先輩たちにも迷惑がかかりますし……何より、トーマスが珍しく自分からやりたいと言ったことは、尊重した方がいいと思いまして……」

「なるほど、なるほど」


 そういうことなら、俺のアイデアが使えるな。


「じゃあ、二人の目的を同時に叶えられる良い方法がある」


 俺は指を立てて、それから二人を順繰りに指さした。


「トーマス、そしてフレンダ。お前ら二人とも、うちに来い」

「……え?」

「へ? それはどういう……」

「お前ら二人をまとめて、うちのパーティにスカウトするってことだよ!」


 二人は同時に目を見開いた。

 が、より大きく驚いていたのはフレンダの方だった。


「……わっ、私をっ……先輩たちの、仲間に……?」

「ああ。そこまで良い待遇とは言えないが、雑用全部させられるようなことは決してないと言っていい」


 胸を張って、自信に満ちた笑顔でフレンダの手を握る。

 誓ってもいい。フレンダが俺たちのパーティに来たならば、絶対に雑用で使い潰されるようなことはあり得ない。


「何故なら冒険で役に立たない後ろめたさから、大体の雑務は俺が勝手にやるからだ!」

「自信満々に言うことじゃないわよ!」


 心外だな。ちゃんと働いているというアピールをすることに、何を恥じることがあると言うんだ。


「で、でも……私、ついさっきまで先輩たちに好き勝手酷いことを……」

「それで俺が何か傷ついたか?」

「え、えっと……先輩の額が……」


 そういえばそうだった。

 タオルで額の血を拭ってからもう一度。


「どこも傷ついてないだろ?」

「誤魔化せると思ってるなら無理がありすぎない?」


 流石に無茶だったか。

 咳払い一つ、気を取り直して。


「額以外に傷ついてないだろ? 猫の額って言葉もあるし、額の傷なんて誤差みたいなものだ」

「初めて聞いたわよそんな理屈」


 アリソンは黙っててくれ。味方じゃないのかよ。


「ともかく、俺の傷ぐらいのことは気にしなくていい。それを言うならほら……フレンダの鉄球だって粉々になって、買い直さないといけないだろ?」

「それは……自己防衛のためですし。アクエリアスさんに対しても、言えることなんて何も……」


 フレンダは徐に首を横に振る。

 どうやら今までの自分の行いを省みて、いたたまれない気持ちになっているらしい。

 ここ数時間の蛮行は、普段通りの彼女のやることじゃなかったんだろうな。

 まあ、それだけ思い詰めていたってことだろう。


「気が動転していたとはいえ……私、先輩たちにとっても酷いことをしました! そんな私が、先輩方のパーティに入ろうなんて……」

「ハッハッハ……酷いことだって?」


 確かにフレンダが俺たちにやったことは褒められたことではないだろう。

 だが酷いことと言えるかどうかは話が別だ!


「いいかフレンダ。酷いことっていうのは、縁を切った仲間の飯に毒を盛ったり、損切りで仲間を殺したりすることを言うんだ」

「……えっ、ええ……?」

「それに比べたら、仲間を探すために脅しでちょっとした乱暴をするくらい、たいしたことじゃないな! きちんと謝れたし!」

「い、いえっ、その……その低い基準は一体なんなんですか!?」


 これが低い基準だと思えるなら、フレンダはまだ幸せな世界で生きてこられたんだろうな。

 俺が生きていた時代に比べると、まだゴーグリアもマシになっているんだろうか。

 是非フレンダやトーマスには、そのままの関係でいて欲しい。


「基準が低かろうがなんだろうがどうでもいい。受け入れる俺たちに異論がない以上、あと大事なのは入ってくるお前らの意志だけだ。トーマス、フレンダ。お前ら離ればなれになりたいのか?」

「それは……」

「僕は……! フレンと一緒にいられるなら、それがいいですー!」

「トーマス!?」


 フレンダはぎょっとした表情でトーマスを見た。

 トーマスはフレンダににこりと微笑む。

 首から下は不気味なゴリマッチョだが、顔だけ見るとハンサムなんだよな、こいつ。

 おまけに気の良い純粋な良い奴だから、幼馴染みのフレンダが気に入るのも分かる。


「む、無理、しなくていいんだよ? 私に気を遣ってそう言ってくれてるなら、別に――――」

「勘違いしないで欲しいんだけど、僕は別にフレンと一緒にいるのが嫌だからパーティを抜けようと思ったんじゃないんだ。一番心配していたのは、あのままあのパーティにいたらフレンが辛い思いをしそうだったから」

「トーマス……」

「でも、僕がいたらフレンはきっとあのパーティを抜けられないと思ったからー……だから、きっかけを与えようと思って行動したんだー。やり方は、あんまり正しくなかったみたいだけど……」


 あんまりどころか意味不明に片足突っ込んだ立ち回りである。

 だがトーマスがアホの極みなのは今までの会話からも十分分かることだったわけで、今更どうこう言うことじゃないか。


「もしフレンと一緒にこれからも冒険を続けられるならー……僕にとっては、それが一番の幸せ。一緒にヴィンセント氏たちのパーティで頑張ろう、フレンー!」


 そう言って差し伸べたトーマスの手を、フレンダは少し恥じらいながら取った。

 どうやら話がついたようでとりあえずめでたしめでたしだな。


「え、えっと……それじゃ、これからよろしくお願いします、ヴィンセント先輩、アクエリアスさん……」

「ああよろしく。過酷な旅になると思うが、頼りにしてるからな」

「なんだか私に対して距離を感じる挨拶だけど、まあいいわ。お互い、全く知らない者同士だしね


 決して良好とは言えないファーストコンタクトでも、仲間になるとなるとこういう態度を取れる。

 アリソンのそういう柔軟さには少し憧れる。


「さて……と。じゃあ仲間入りが決まったところで、最後に果たすべき義理を済ませてしまうか」

「義理……ですか?」

「君らが今日まで付き合ってきたパーティに、ちゃんと話を通しておかないといけないだろ」


 あくまで寄り合い所帯とはいえ、メンバーの引き抜きであることに変わりはない。

 ちゃんと事情を話して、場合によっては補填をして――――要らぬ軋轢を回避する。

 これも冒険者として必要なスキルの一つだ。


「というわけで、今から向こうのパーティを訪ねに行くぞ。こういうことは、早ければ早いほど都合がいいからな!」

「ええ、今から? 折角の料理がどんどん冷めちゃうわね」

「料理のことは一旦忘れろ! というわけでフレンダ、案内を頼めるか?」

「は、はい。分かりました」


 こうして俺たちは、トーマスとフレンダと徒党を組んでいた冒険者パーティ――――『森の精霊衆』が宿を取る部屋へと足を運ぶこととなった。

 さて、最後の大仕事だ。ここを乗り越えて二人をゲットしたら、ようやくパーティとして最低限の規模と呼べるようになるぞ!

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