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EX2.『暁の殲滅団』の悪巧み

今回はEX1以来の別視点です。

最初は『暁の殲滅団』のメンバー、ロドヴィーゴ=エステラント視点で進みます。

 ヴィンセント(だんな)の姿を街中で見た時、ロドヴィーゴ(オレ)は思わず目を疑ったもんだ。

 まさか旦那がまだフレスベンを彷徨うろついていたなんて。

 そしてしかも、既に仲間を見つけていたなんて。


「嘘だろオイ……あれだけボロボロに心を折ってやったのに、まだ折れてないのかよ……!」


 旦那の執念深さには舌を巻いたが、それ以上に隣にいた冒険者に驚いた。

 アリソン=アクエリアス――――『弥終(いやはて)の行進曲』の屋台骨だったはずのあの女が、どうして旦那なんかに協力してる?

 一時的な結託なのか、まさか本当に旦那なんかと一緒に新しいパーティを立ち上げたのか。

 最近『行進曲』のリーダーであるゴードンが酒場で荒れていたような気がするが……まさかな。


 まあ、旦那が新しいパーティを作ったかどうかはどうでもいい。

 重要なことは、旦那がまだフレスベンに残っているということだ。

 オレたち四人と違って、レイチェルは旦那追放の際の真相を知らない。

 あいつには、旦那の方から勝手にうちのパーティを抜けたと伝えてある。

 今のところは信じているようだが、レイチェルと旦那が万が一このフレスベンで出会うようなことがあれば、その目論見は一気に瓦解するだろう。レイチェルがパーティを抜けるとも言い出しかねない。

 次に攻略しようとしている『千蟲洞窟アタゴニア』の突破には、あいつの才能スキルは必要不可欠だ。

 それをこんな、旦那みたいな下らねーものを追い出した余波で失うようなことがあってはならない。


「レイチェルがインドア派で助かったぜ……早いこと、対策を練っておかないとな」




 オレはドミトリーに戻ってから、リーゼロッテにそのことを伝えた。

 彼女は顔を青くして、杖で頭をこつこつ叩いた。


「あいつ……まだこの町にいたの!? 信じられない! 何考えてるのよ!」

「さてな。旦那の考えることだから、もう一度パーティを集めて再起しようと企んでるんじゃないのか」

「できるわけないじゃない! この町は冒険者稼業の最果て! ここまでたどり着く冒険者には必ず既に仲間がいるし、ペーペーの素人を適当に捕まえて役に立つほど、周りにあるのは甘っちょろいダンジョンじゃないのよ!」

「そんなことオレに言われても困るぞ。でも、既に一人捕まえたみたいだぜ。相手はあの、アリソン=アクエリアスだ」

「……なんてこと!」


 杖で激しく床を叩くリーゼロッテ。

 おーおー、荒れてるみたいだな。最近他にも嫌なことがあったらしい。


「一体あいつがどんなコネを使ってアクエリアスを手に入れたのかはこの際どうでもいいわ。問題はあいつがまだこの町に留まっているということ」

「それについてはオレも同意見だぜ」

「あいつは今、どこに住んでるの?」

「なんでも話を聞いた限りだと、町の大通りにあるレストランに部屋を貸してもらってるらしいぜ」

「……!」


 リーゼロッテはしばらく黙った後、魔女のような鋭い目でオレをぎろりとねめつけてから言った。


「だったら、そのレストランにいられなくしてやりなさい。レストランを壊すなり、ヴィンセントの信用を落とすなり、どんな手を使ってもいいわ!」

「……ん? それってもしかして、オレにやれって言ってるのか?」

「当然でしょ! あんたは斥候スカウト! こういうときに役に立たなかったら、いつ役に立つの!」


 普段の冒険から役に立ってんだろうがとぶん殴ろうかと思ったが、思いとどまった。

 変にへそを曲げられて、戦場で癒しの力をケチられたら敵わない。


「手を出したのがバレたら、オレが冒険者資格を剥奪されるかも知れない」

「それはアンタのやり方次第でしょ。自分で考えなさいよ」

「やり方次第って、そんな適当な――――」


 反駁しようとしたオレだったが、その時一つ思い出した。

 そういえば、旦那は名前も聞いたことないような貧乏レストランと結託して、人気レストランの『シャトー・ローズマリアージュ』を没落させたらしいじゃないか。

 だったら『ローズマリアージュ』の連中は、旦那とそのレストランのことを恨んでいるはずだ。

 そいつらを上手く動かすことが出来れば、オレが直接手を出さなくても旦那を追い詰められるかもしれない。


「……まあ、オレは天才だからな。足が着かない方法で旦那を追い詰めるなんて、お茶の子さいさいさ」

「何か良い策があるみたいね」

「まあな」


 善は急げ。

 既に日は暮れていたが、オレはその足で『シャトー・ローズマリアージュ』を目指した。








 その時、ローズマリー(あたし)は店がいなくなったレストランの中で一人すすり泣いていたわ。

 半分以上の従業員には逃げられたし、お客はうちの店に銭じゃなくて泥を投げるようになったし、もう散々よ。

 いっそのこと自殺でもしてやろうかしら。そしたら世間様も、ちょっとはあたしのことに同情してくれるに違いないわ。

 店のドアを蹴破って、洒脱な少年が現れたのは――――ちょうど私が奥からロープを取り出した時のことだった。


「おいおい、死ぬ気か? やめとけよ。そんなことしたって、あんたに何の得もないぜ」


 突然現れたその少年は、失意に暮れていたあたしの前に立つと、不気味な笑顔でそう言った。

 あらやだカワイイ顔してるわね、中々いい男じゃないの~……ってそんなことはどうでもいいわぁ。


「な、なによぉ~! イケメンだからって、勝手に店の中に入っていいと思ってるのぉ~? 出て行って! あたしは忙しいの~っ!」

「今自殺したって、世間は誰もあんたに同情しちゃくれない。むしろ弁明の機会を失うだけだぜ」

「……!」


 な、なによこいつ……人のこと分かったような面してくれちゃってぇ……!


「弁明なんて……どうしろっていうのよぉ~……今更あたしが何を言ったって、誰も信用しちゃくれないわよぉ~っ!」

「目の前の店が何かしらボロを出して信用を失えば、あんたの話に耳を傾けてくれる奴だって現れるだろ」

「……え?」

「たとえば向こうの店の料理を食って死んだ奴が現れるとか」


 そう言って、少年はポケットから液体の入った小瓶を取り出した。

 あたしははっと息を呑んだ。

 な、何この子……! 怖いわ、この子あたしに何をさせようとしているのぉ!?


「ど、毒を混ぜるなんてぇ~!! いくらなんでも、そんな恐ろしいことできないわぁ~!! もし死人が出たら、あたしが人を殺したのと同じになるのよぉ~っ!!」

「ああそうだ。オレはあんたにこう言ってる。店を元通りにするために人を殺せってな」


 怯えるあたしに、少年はゆっくりと近づいてきた。

 そしてあたしの首筋に手を当てると、その綺麗な顔を妖艶に歪ませて、笑ったわ。


「ひ、ひっ……!」

「なあに、心配するな。この毒薬はオレが才能スキルで作った特別製でな。煮ても焼いても毒性が消えない上に、一度混ぜたら一切証拠が残らない優れもの。物理的に粉が残るあんたの出来損ない才能スキルとは訳が違う」「


 少年が瓶を軽く振ると、瓶の内側で粘っこい泡がふつふつ湧いたわ。


「本当はこれで直接旦那を殺してもいいんだが……流石に旦那に直接死なれると流石にレイチェルの耳に届くからな。あくまで事件はレストランについて起こってくれないと困る」

「レイチェル……? 旦那……?」

「気にするな。少なくとも表向きは、あんたが殺人犯になることはない」

「……でっ、でも……今日粉を混ぜたのがバレたばっかりよぉ~! また何かを混ぜようとしたって、すぐにバレるに決まってるわぁ~!!」

「料理そのものにはな。だが、料理になる前の食材ならどうだ?」

「……え?」

「この町の飲食店は、毎朝必ず市場で食材を仕入れて持ってくる……」


 その時あたしは初めて、少年がやろうとしていることの恐ろしさに気がついた。


「……料理に混ぜられないか警戒している分、その前段階の警戒心は緩んでいるはずだぜ」


 食材に混ぜるということは、不特定多数のお客の口に毒の入った料理が運ばれるということ。

 たった一人殺すなんて、生ぬるいことは考えてない。

 この少年は、たった一人を追い落とすために、何人もの無関係な人間を殺せと言ってるんだわ。


「あ、あたしにそんな恐ろしいこと……」

「はぁ? なにカマトトぶってんだ? 今までも散々、人の店の飯に毒物混ぜて来ただろうが。たまたま死ぬ毒じゃなかっただけで、やってることは今更何にも変わらねえよ――――!」


 そ、それは……近場にあって競合した店の存在が鬱陶しかったから、仕方なく……。


「今更死ぬ薬を混ぜようが、混ぜまいが、あんたの信用なんてこの町のどこにもないも同然だ。向かいのレストランに毒を混ぜなければ、あんたはフレスベンで永遠にレストランを再開できない。いや――――」


 少年があたしの首元を掴む力が強くなった。


「うっ……」

「他の町に逃げることは、このオレが許さない。オレはこれでも顔が広い方でね。あんたがどこの町に逃げようが、フレスベンでやらかしたことがすぐさま噂として流れるように細工してやる」

「ひ、ひぃっ……」


 脅しじゃない。

 どうやってやるのかは分からないけど、やろうと思えば本当にそれができてしまう。

 そんな凄みを、少年から感じたわ。


「さあ、どうする? 一か八かにかけてこれを混ぜるか、それともこのままその肥えた体を引きずって惨めな一生を送るのか」

「うっ……ううっ……」


 息が苦しくなる。動悸が激しくなる。

 絶望と混乱と恐怖に埋め尽くされたあたしの頭では、もはや恭順以外の答えを出すことはできなかったわ。


「わ、分かったわ! 貴方の言う通りにするわぁ~!!」

「……その答えが聞きたかった。勇気を出したな。今のお前、カッコいいぜ」


 少年はあたしから手を話すと、背筋が凍るような微笑みを浮かべた。


「大丈夫。あんたが仕事をしやすいように、オレも少しは手を貸してやるからさ」


 悪魔の囁きなのか、それとも天の助けなのか。

 それはまだ分からないけれど、少なくともあたしがもう後戻りできないことだけは分かったわ。

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