貴方は5w1hで恨まれる
貴方は、誰かを虐めたことがありますか?ただの悪ふざけだった、ちょっとからかっただけだと言ってもその対象になった相手が辛かったらそれは虐めです。
貴方は、誰かに虐められたことがありますか?どんなに些細な言葉や嫌がらせでも、あなた以外の誰かが楽しそうに笑っていて貴方だけが辛かったら貴方は虐められています。
そんな貴方たちに読んでみて欲しい小説です。
僕は中学校に入学した翌日から虐められている、まあその・・嫌がらせくらいのものなんだけど。男子には消しゴムのカスを頭に乗せられたり声が男性にしては高いことを馬鹿にされたりで、殴られたり持ち物を隠されたりみたいのはない・・・ちょっとしんどいのは、学校の教室って男女隣同士になって座ると思うんだけど、自分の隣になる女子は絶対に机をくっつけないんだ。席替えするときも、くじを引いて黒板に書かれてる席の番号に自分の名前を書きに行くと後ろから「女子の〇ちゃんの隣~?来るなよかわいそう」とか、声が聞こえてきたりする。で、女子って何人かのグループで島を作ってると思うんだけど誰かの机に近づくと近くの島にいる奴が全力で遠ざける。一切気にしてないふりをする為に表情を全く変えずに通り過ぎてくんだけど、背中に届くくらいの声で「○○ちゃんの机の側に近づくんじゃねーよ気持ち悪い」と聞こえてくる。この生活で僕は思春期でありながら女子が大嫌いになったし、小学校が一緒だった女子もやってるんで人間不信にもなった。学校通うのがしんどくなって、自分のクラスの教室が3階にあるんだけど、窓から飛び降りちゃおうかなって考えた事は何度もある。あるけど、その度に自分の頭の中で想像されるのは嫌がらせしてる連中の笑った顔。
「あいつ飛び降り自殺したんだって?あの程度のことで!?神経幼稚園児かよマジ笑える」
「気持ち悪い顔のくせに普通に学校来てんじゃねーよ、だからうちらが教えてあげてたんじゃんね。お前キモイからってさ!」
みたいな会話が脳内再生されて踏みとどまる。死んだ方がマシだと思うことはあるけど、それがあいつらを楽しませる物になってしまっては意味がない。遺書書いてももみ消されるとかニュースで見た事あるから、たぶん自殺は復讐にならない・・。
そんな暗いことを考え続けて登校拒否になり、久しぶりに登校したら周りの視線が痛い。どうせアイツラはこのまま来なきゃよかったのにとか思ってんだろうなあ。自分の席に着いて鞄から教科書やノートを取り出して机の中にしまおうとしたら何かが手に触れた・・?何だろう、登校拒否前に机の中は空っぽにしたのは確認した筈なんだけど?鞄から取り出した物は一旦机の上に置いて机の中に入っていた物を取り出してみる。中に入っていたのは一冊のノートだった。普通に文房具屋さんで売っているような何の変哲もないノート、名前も書かれてなければ何の授業に使われてるかも書かれていない。誰かが間違えて入れたんだろうか?ちょっと申し訳なさを抱きつつノートをめくってみる。そこに書かれていたのは人の名前とちょっとした呪い?みたいな。名前の後に廊下で転ぶとか、授業中に筆箱落とすとか小っちゃいことが書いてある。これに名前を書かれた人はどうなったんだろう?そして書いた人はどうなるんだろう?まずはそれを知ることから始めようと思い、他の自分が持ってきた教材と一緒に机の中にしまっておく。
授業が終わり自宅に帰ると早速謎のノートを取り出して眺めてみる。名前の後にその人に何が起こるか書かれたノート、これは未来予知でも書かれているんだろうか?それにしては規模が小さすぎるし、不幸なことしか書かれていない。しかも、急に筆跡が変わる。まるで途中から別の人が書いているみたいに。書かれた名前を辿っていくと聞いたことのある名前を見つけた。家が近所だったから仲良くしてくれた先輩が「この男には近づかない方がいい」って言ってた名前だ。この名前を書いたのは先輩だろうか?あの人は僕と性格が似ているからもしかしたら苛めにあっていてそれで僕に忠告してくれたのかもしれない。自分の考えを補填したくて思い切って電話をかけてみた
「あ、もしもし先輩?お久しぶりです」
「お~!久しぶり。どうした珍しい」
「先輩、以前に近づかない方がいいって忠告してくれた人いたじゃないですか」
「ああ、あったな」
「その人のことを呪ったりとか・・?」
「呪うって程の事じゃないけど・・不幸になってくれとは思ったことあるかなあ・・、嫌な奴だったし」
「ノートに書いたりとかしました?}
「ん?ノート?・・・ああ!あったななんか変なノート!」
「それ、今僕の手元にあるんですよ」
「マジか!?じゃあ、お前も学校で虐められて・・。」
「お前もって、やっぱり先輩も?」
「ああ、その名前書いた奴にちょっと嫌がらせみたいなの受けててな」
「このノートはそういう状況にいる者のとこにくるんでしょうか?」
「噂でよければ聞いたことがある。所謂学校の七不思議的なやつなんだが、苛めを苦にして自殺した子がいて、その子が遺書代わりに残していたノートがあるって、結局見つからなかったらしいんだが」
「名前と小さな出来事が書いてあるのは何でですか?」
「虐められている奴が相手の名前と、現実的に起こりそうなことを書くと本人に書いた出来事がおこるらしい」
「それ、結構凄くないですか?」
「そうだな、相手が死ぬようなことがないから罪悪感なく書ける」
「何か書く人間にデメリットはあるんですか?」
「虐められた人間に復讐する以外の使用をしてはならないっていうのと、虐められてるかの判断が自分じゃなくて最初のノートの持ち主だとは聞いたことがある」
「最初の持ち主って自殺したっていう子ですよね」
「うん。で、自分が苛めだと思って、名前とどういうことが起こってほしいかを書いても、そう判断されなかったら書いたことは自分に起きる」
「それがデメリットですか」
「俺が知ってるのはこれくらいかな」
「ありがとうございます。かなり参考になりました」
「ああ、命の危険があることはないだろうけど気を付けてつかえよ」
「わかってます。ありがとうございました」
そう言って僕は電話を切った。思ったより怖い話だったな。学校の七不思議的な話って言ってたけど僕の代でそういう噂を聞いたことがない。でもそれっぽいノートがあるわけで・・。名前を書いてみたいけど、お試しで書けるような名前の相手では恐らく自分に返ってくるだろう。でも、それも確認しておいた方がいいか。
僕が最初に書いた名前は新藤夏海。女子バレー部に所属していて可愛くて成績もいい。何かされたわけではないんだけど、同じクラス内にいて嫌がらせを止めるでもなくただ黙って見ているので、これが苛めに加担していることになるのか試してみたい。名前を書き、何が起こるかを書こうと思ったけど自分に起こるかもしれないからあんまり強い出来事は書けない。勉強机の椅子に座ってノートを見ながら考えていたんだけど思いつかず、ふと顔を上げると壁に貼ってある受ける授業と曜日の一覧が目に入る。明日は移動教室があるのを見て『移動教室の途中、廊下で自分の足に躓いて転ぶ』と書いてみた。これで明日僕か新藤が移動教室の途中で転んだらノートの力を信じていいかもしれない。久しぶりにわくわくしながら眠りについた。
翌日、いつも通りに登校して授業を受けている。時間割的に次の授業が移動教室だ。いつも以上に終わりのチャイムが待ち遠しい。あと3分・・あと2分・・あと1分・・きた!日直の号令で頭を下げ、次の授業の準備をして早々に教室を出る。周りと一緒のタイミングで出たら転ぶとこを見られてまた何か言ってくる奴がいるだろう。急ぎ足で廊下を歩いてると自分の足に躓いて転んでしまった・・・!これは、ノートの力を信じていいかもしれない。でも、まだ検証してみたいことが多いので不用意に大きな出来事は書けないけど。
これ以降、今日の授業は全く頭に入ってこなかった。数少ない貴重な友達の誘いも断って真っすぐ帰宅する。勉強机の椅子に座ってまたノートを取り出す。ちょっと気になったことがある。それは「現実に起こりそうな出来事」というフレーズ。確かに廊下で転ぶくらいなら現実に起こるだろう。しかし言ってしまえばどんな犯罪だって日常的に起こってることで現実的な出来事だ。それが自分たちにとって非日常であるというだけで。僕は、自分のされてることが確実に苛めだと思えることが起きたときに人を殺せるんじゃないだろうか?でも、それはこんな早い段階では書けない。苛めだと認定されなかったら僕の命がなくなるのだから。ゆっくり、じっくりと検証しなければならない。
次に書くのは僕の後ろの席にいる徳岡だ。こいつは毎日のように僕の頭に丸めた消しゴムのカスを頭に乗せてくる。何か乗った感触があってから振り返って文句を言っても適当に聞き流される毎日だ。できればちょっと強めなことを書きたい・・。こいつもバレー部だったな、じゃあ部活が出来なくなるように腕を骨折でもしてもらおう。状況は・・家の階段の一番上から転げ落ちるにしてみよう。今回は苛めと認定される自信があるからな。これで、明日は徳岡が骨折してるんだろうか?書いたことが必ず翌日に起こるとしたらそうなんだろうけど・・。ふと思いついた。起こる出来事に日付を入れて書いたらどうなるんだろう?狙った日に起きて欲しい出来事が起こせるならもっと効果的な日を狙える。だが、今回のは結構大きめな出来事なので、試すわけにはいかない。まずは明日を楽しみにしよう。
翌日、少し遅めに教室に行くと人が入ってきた途端に嫌そうな空気をだしてこっちを見てくる奴らがいたがそれ以上におかしな空気がある。騒がしいはずの、朝のホームルームが始まる前の教室がざわざわとしている。自分の席に着いて5分くらいしてチャイムの音がする。クラスの全員が席に着いたけど、自分の後ろの席が空席になっている。そこは間違いなく徳岡の席。すぐにクラス担任が入ってきて日直の号令に合わせて起立・礼・着席を行いまた座る。そして自分の予想の斜め上を行く事実が告げられた。彼は、徳岡はバレーがやれない腕になってしまったと。連絡事項もそこそこに担任は教室を出ていく。クラス内には、彼の頑張りを知ってて悔しがる者、昨日まで仲の良かったクラスメイトに起きたことが信じられず動揺を隠せない者、中には涙を流している者もいる。僕はこの空気から抜け出すためにそっと立ち上がりトイレへ向かった。
僕は、確かにノートに徳岡の名前を書いた。けど、どんな出来事が起こるように書いたのかが思い出せない。学校であのノートを見られるわけにはいかないから自分の部屋に隠してある。少なくともこのことで僕が疑われることがないのは確信できるから、気持ちを落ち着けて教室へ戻る。まだ空気が変わっていなくて、ざわついてる教室の中で一人席に着く。早く家に帰りノートを見たい。じりじりとした気持ちを抱えながら1日を過ごす・・。
いつも以上に長く感じる授業が終わって急いで帰宅する。隠しておいたノートを取り出し書いてある文字を確認するとそこには『徳岡 部活が出来なくなるように腕を骨折』と書いてある。部屋に一人でいるはずなのに背中から誰かの笑い声が聞こえてきたような気がした。確かに、そんなことを考えていた覚えがあるから無意識にノートに書いてしまったんだろう。一つ検証できたのはかなり大きな出来事でもやはり現実に起こるような内容を書けば起こせるということ。そして一つ思いついたのは、精神的なダメージを負わせることが出来るのだろうかということ。目には目を歯には歯を、じゃないけど、肉体的な苛めよりも精神的な苛めを受けているから同じように傷を負わせたい・・。ただ、ノートを遡ってみても精神的なことを書いてる人がいない・・。それに、どうやって試せばいいんだ、自分の精神に傷を負わせるなんて?自分に起きても平気な事・・、今までやられてこなかった事だと体操服を水浸しにされるとかになるのかな・・。書く名前は、どこのグループにも属していない感じの女子、小島冴子を書いておいた。もし、これで自分に起きれば彼女は僕を虐めていない、けれどもし彼女に起きれば虐めの指示を出しておいて高みの見物をしているという可能性があるということだ。果たして、明日何がおきるのか・・。
翌日、HRの5分前くらいに無表情の仮面を被って教室に入ると、いつも自分をからかってくる連中がニヤニヤしながらこっちを見ている顔に迎えられた。いつも体操服が入っている袋を引っ掛けている机のフックに、あるはずの物が掛かっていない。昨日、ノートに書くときに『廊下の手を洗うスペースで体操服を濡らされる』と書いておいたので真っすぐに目的の場所に向かう。そこにあったのは、びしょ濡れになった体操服。廊下に落とされてる袋が自分の名前だけど一応体操服に書かれている名前を確認してみたら僕の名前が書かれていた。こういう精神的に来るような嫌がらせは、からかわれる以外のことをされたことはなかったので、ノートに書くことは精神的にキツイ様なことも起こせるということと、小島冴子は僕を虐めていないということがわかったということでいいのだろう。とりあえず、体操服乾かしたいんだけど教室で乾かしたら何されるか、何言われるかわからないから体操服をきつめに絞って袋に入れて教室に戻る。何も気にしていないような顔をして自分の席に着くが、心の中では暗い炎を燃やしていることを悟られないようにしなければ。人を小馬鹿にする笑いをしてくる奴らをどう苦しめるかを考える時間が幸せで仕方ない。だって、今笑っている連中は人を虐めている連中なのだから、僕に何をされても何も文句言えないよね。僕を虐めてる連中は罪悪感なく僕の心を傷つけたのだから、僕は罪悪感を抱かずアイツラの心を傷つける。何をノートに書くか、僕は授業そっちのけで考えることにした・・・。
今日も真っすぐ家に帰ってノートを広げる。また友人の誘いを断ってしまった。僕が何かされたとき必ず声をかけてくれる。いつも声をかけてくれるのは学校の外に出てからで、自分が苛めの標的に変わりたくないという思いは透けて見えるけど、それでも僕の心の一服の清涼剤にはなってくれている貴重な友だ。さて、ノートに書く内容なんだけど、一つのグループを纏めて潰そうと思っている。今日、体操服を取って戻って来たときにこちらを見て笑っていた今日野里奈・幸田玲・水島花の3人。こいつらは同じ社宅に住んでいて教室でも登下校時でも基本一緒にいるから一人ずつ名前を書いて時間や場所まで書けば同時に書いた出来事が起こるだろうと踏んでいる。3人同時にってなると何を書くか難しいけど、現実に起きる非日常は無限にある。どれを書くか、そしてそれが起きるのか、明日がとても楽しみだ。
また朝が来た、学校に行くのが苦痛だった今までと違ってとても楽しみな気持ちで登校することができる。今日は始業の10分前に登校して自分の席に座り寝たふりをして周りの空気を伺う。特に変わったものは感じない。頭の中で5分数えて起きたふりをしてトイレに向かう。今まで、下校してから書いたことは翌日の登校時には起きていたから今回もそうだと期待したい。何より僕には書いたことがおこっていない。教室に戻ってすぐにHRのチャイムが鳴り自分の席に着く。自分の後ろはまだ空席だけど、他にも3か所誰も座られていない席がある。ペアで並べられた机の全て左側、簡潔に言うと女子の席。誰の席かを確認してたら教室の前のドアから担任が入ってくる。日直の号令で立ち、黙礼をし、また席に座る。その後に担任が話始めた内容は僕がよく、とてもよく知っている内容だった。今日野・幸田・水島の3人は下校途中にある寂れた公園で殺人現場を目撃してしまったと。そしてその犯人に顔を見られてしまったかもしれない恐怖とショックで家の外に出ることが出来なくなってしまったという話だった。これは僕があのノートに書いた内容そのままで、周りが可哀想とか毎日迎えに行ってあげれば来れるかなとか同情的な言葉が交わされてる中で、僕は無表情な顔をし続けてるが浮いていないだろうか。アイツラは僕に嫌がらせをしていたというのは、このクラスの人間なら皆知ってるだろうから不自然にはならない筈だ。幸い僕の席は廊下側の後ろから2番目、一番端の列だから誰かがこっちを気にしていればすぐにわかる。僕はこのクラスに親しい友達はほとんどいない。そして、僕はクラスメートから嫌がらせを受けているし、今回学校に来れなくなった三人は正に僕を蔑んでいた奴らだ。だけど、嬉しい顔をしてしまったら何の証拠もない癖に糾弾してくるだろうから、表情を変えないのがベストな筈だ。大丈夫、大丈夫だ・・・。
その日の帰り道、数日ぶりに僕は友人と下校した。帰る方向は一緒でお互いの家は徒歩5分圏内のとこにある。学校側が一人で下校しないようにと全学年全クラスに言ったようだから、不自然にならないように帰るには丁度いい。
「自分たちが住んでる町で殺人事件が起きたなんて恐ろしいな、犯人早く捕まってくれないかな・・。」
その発言を聞いて疑問に思ったんだけど、何故殺人が起きたんだろう。勿論、今までの流れから自分がノートに書いたから起きたんだろうとは予想がつく。けれど、僕が転ぶのは事故だし、徳岡が骨を折ったのも自宅で転倒してのことだ。でも、今回起きたことは僕の体操服が濡らされたのも殺人現場を目撃するのも、誰かの気持ちがそうならなきゃ起きないことだ。もしかしたら、このノートで他人の心を操れるんじゃないか・・。そんなことを考えながら、しかし表面上は殺人事件に怯える中学生を演じながら友人と別れた。
自宅に帰って制服から部屋着に着替えて勉強机とセットの椅子に座り隠しておいたノートを取り出す、毎日の事となったルーティン。そして今では一番幸せな時間だ。完全犯罪を行っている犯罪者は今の僕のような気分なんだろうか。今日はどんな災厄がアイツラに降りかかるようにしようか考えるのが楽しくてしかたない。しかも僕はただノートに書くだけでいい。これは復讐、そう復讐なんだ。アイツラが先に僕を痛めつけたんだから僕に痛めつけられても仕方ないよね!一つ、試したいことがあったのを忘れていた。このノートで日付の指定はできるんだろうか。試すとなると余り大きな出来事を書くわけにはいかない、自分に来ない、いや、来ても耐えられるようなことを書かなくてはならないし、相手もグレーゾーンな奴を選ばなければ。幸い、明後日に技術の授業がある。書く名前は月野奏、演劇部所属で同じ部活に所属してる奴らとグループを作ってる。けど、僕に嫌な言葉を投げかけてくるのは周りにいるやつばかりで、月野からは言われた記憶がない。犯罪では実行犯と見張り役で罪の重さが違うけど、実際問題、嫌な言葉を投げかけられると精神が摩耗するけど、周りで見てるだけの連中の視線は僕を疑心暗鬼にさせる。こいつらは周りと同じようなことを思っているのだろうか、それとも心の中ではもっとやれと言っているのだろうかと。そう、虐められてる人間は周りを誰も信用してはいけないんだ、簡単に信用して、自分が誰を恨んでいるかやどんな風に復讐してやりたいかをぽろっと言ってしまえば翌日には学校中に広まってる。小学生の頃に経験したことがある。放課後に、クラスで好きな女の子の話になって、誰にも言わない約束で自分だけが馬鹿正直に話して周りにいた奴らは俺は特にいないなだけで終わらせて、次の日学校に行ったらクラス中が自分の好きな女の子を知っていた。あの屈辱と裏切られた怒りを僕は忘れていない。アイツラの名前もノートに書いてしまいたいぐらい憎しみは僕の心の中に黒い炎としてあり続けている。・・・意識が過去に行ってしまったせいで余計な恨みつらみを思い出してしまった。今は月野だ。起こる出来事は明後日の技術の授業中金づちで爪を打ってしまうというもの。これでどうなるか、明後日まで平静でいるのが大変だな・・。
丸一日を何も起きることなく過ごし、ノートに書いてから二日後の授業を受けている。ノートの効果を実証できる日だ。自分の身体を使った人体実験、とてもワクワクするけど僕はハイになってしまってるんだろうか?今日の技術は3時間目。書いた内容が内容だからもし起きるとしたら確実に授業中、作業中に起こるはずなのは確信している。2時間目終了のチャイムが鳴り、科目教師と礼をし合い次の授業の準備をする。声をかけてくれた友人と一緒に技術室へ移動する。席の座り順は教室と同じだから僕は廊下側に、友人は窓側の席に座る。これから何がどうなるのか緊張の50分だ。休み時間が終わる前にトイレに行っておこうと思い席を立ち一人でトイレに向かう。トイレでの虐めや嫌がらせはないから安心して行けるのは数少ない学校生活中の救いだ。トイレから戻ると席が9割くらい埋まってて、そのうちの何人かがこっちを見てニヤニヤしている。自分と席が近い男子連中だ。チャイムが鳴って笑ってた奴らや廊下で駄弁っていた連中も入ってきて席に着く。そしてすぐに作業が始まる。今の作業は用意された木材を使って貯金箱を作るというもの。必要な道具の金づちと鋸を用意する。そして、技術科の教師はやらなきゃいけないことがあるからと言って準備室に行ってしまった。こまめに様子は見に来るからと言ってるが教師の監視の時間が減るのは変わりない。何か起こるならこのタイミングだろうかと思っていたら、さっきこっちを見て二やついていたうちの二人が金づちを持ってやってきた・・・・なるほど、そういうことか。この後何が起きるか察したので、声をかけずに無視して作業をしてるふりをする。
「おいおい、ずいぶん遅れてるなあ。また放課後に残って作業しなきゃいけないんじゃねーの」
「俺たちが手伝ってやるよ」
そう言って、手ぶらだったほうが僕の手を机の上に置いてそのまま押さえつけ、金づちを持っていた方が僕の手の爪を狙って振り下ろす。
「ぐぁっ・・!」
予想通りの展開とはいえ流石にこの痛みには耐えられなくて声を出してしまった
「あ~、悪い悪い。手元が狂ったわ」
「邪魔しちゃったみたいだから戻るな」
そう言って戻って行ったがすれ違いざまに
「教師にチクんなよ」とお決まりの台詞が聞こえた
二人は自分たちの作業スペースに戻っていく。何人かが大笑いしてるから、今回はたぶん計画者と実行者がいるんだろう。一番僕の作業スペースに近い二人が実行者になったわけだ。早く保健室に行きたいけど幸いやられたのは人差し指一本だけだし、下手に準備室に行って教師に声をかけるとアイツラが変に報復をしてくるかもしれない。教師の見回りがないときはとにかく人差し指を極力使わないようにしながら黙々と作業をこなした。
授業が終わってからすぐ保健室に行き手当をしてもらったが、痛みが中々引かず残りの授業ではノートを取るのがかなり辛かった。痛みに耐える時間に比例して自分の中にどす黒い感情が溜まっていくのがわかる。
最初のノートの持ち主はどこかでさっきの出来事を見ていたのだろうか。だとしたら、教えてほしいことがある。今回の出来事は空野が僕に嫌がらせをしていない、僕自身に呪いが跳ね返ってきたことで起きた出来事だったのだろう。けど一つ疑問が湧いた。書いた名前は一人だったのに僕の爪を打ってきた連中は実行犯含めて4人。アイツラに改めてノートを使って復讐することは許されるだろうか。教えてくれ。この感情を解き放つために。そんなことを考えても返事が返ってくるわけでもなく、只々いつもと同じ無味乾燥な時間を過ごした。
家に帰って今日もまたノートを広げる。最後に書いた月野の名前が書かれたページを広げた時に違和感があった。僕が書くのは名前と必要なら日付、それと起きてほしい出来事を書いてる。逆に言えばそれ以外のことは書かない。筈なのに自分が書いた覚えのない『できるよ』の四文字。何だこれは?自分で言うのもなんだが僕は字が汚い。けれど謎の文字はとても綺麗な字で書かれている。まさか、いや、そんなことが起こるのか?それはもうホラーの領域だ。けれど、文字に見覚えがあってノートの一番最初のページを開いてみる。そこに書かれているのは『できるよ』という文字と全く同じだった。確かに僕はノートの持ち主に問いかけたけどまさか返事が返ってくるとは思っていなかった。だって、最初に書かれている文字と同じってことはこれを書いたのは自殺した子ってことだ。つまり僕は復讐の許可をもらったってことだ。まだ人差し指に力を入れようとすると爪に痛みが走る。この痛みを復讐の糧にして自分が書いていたページに戻る。
今回名前を書くのは4人、野中雄太・花森大我・田島豪・小森修二。全員野球部だ。野球ができないようにしてやりたいが骨折では怪しまれるだろうか?なら・・・脱臼はどうだろう?骨折よりも癖になるから厄介だと聞いたことがある。花森は野球部のエースだ。脱臼が癖になって投げられなくなったらと思うと顔がにやけてしまう。せっかく復讐許可をもらったのだから強烈なことが書きたい。野球・・脱臼・・癖・・!閃いた!部活が出来なくなるようなことも起こせるのは実験済みだ。今回書くのはこれで行こう。ただ、今は殺人犯の件で部活停止中だからな・・。かなり期間が開いてしまうが日にちは二週間後にしておこう。楽しみだ。本当に楽しみだ。
今日はあれから二週間後の登校日、昨日の時点で部活動の再開が発表されてるからノートに書いたことが起きている可能性はかなり高いはずだ。HRの五分前に教室に入ると、それまでざわついていた教室が突然静まる。いつもなら侮蔑や軽蔑といった視線を向けられてるのを感じるんだけど、今日はそういうのじゃない。恐怖とか怯えとかそんな感じの視線を感じる。いや、教室を見渡すと一斉に目を逸らされたから感じてるのは空気か。鞄を机に引っ掛けてトイレに行く。背中に意識を集中させながら教室をでるとあからさまにホッとしたような空気を感じたような気がする。用を足して教室に入る。平常心で、しかし真顔にならずに自分の席に着いてチャイムが鳴るのを待つ。残り一分になって空席は五つ。自分の後ろの席は勿論として、残りは野球部の四人の席だ。女子三人の席には本人たちが座っている。何人かで朝迎えに行くようになって学校に来れるようになったらしい。現状を確認していたらチャイムが鳴ってクラス担任が入ってきた。いつものように日直の号令に合わせて全員で同じ行動をとる。担任が話したのは予想通りのこと、四人が部活動中に肩を脱臼してしまったことを話し始めた。ここまではいい。問題はこの後だ。これだけでは満足できない。僕に恨まれたことを後悔しろ。
四人が脱臼してから一か月後、いつもの通学路を歩いて学校に向かっている。怪我の治ったアイツラは普通に学校に来て授業を受けるなどの生活は送っていた。大事なのは部活動に復帰した昨日、何かが起きていないだろうかということ。帰宅部の僕には放課後に起きたことの情報は全く入ってこない。楽しみにしながら教室に入ると、アイツラが登校するようになってからは感じなくなっていた恐怖や怯えの空気を感じる。僕の望んだ『何か』不幸な出来事が起きたのを感じる。今日はぎりぎりに着いてしまったので座ったままHRのチャイムが鳴るのを待つ。鞄から教科書やノートを取り出してしまおうとする一挙手一投足に周りが怯えた目を向けてくる。そんな空気を心地よく感じていると、暗い顔をした担任が入ってきた。いつものやつをして席に座ると話が始まった。野球部の四人がまた脱臼した話。そうなんだ、これが今回の僕の復讐。書いたのは、野球部の練習中に脱臼、治っても部活動をするたびに繰り返すというもの。そりゃあ、怯えるよね。このクラスのほとんどが共犯だ。技術室での出来事も皆が知っている。担任の話が終わって、授業前の貴重な休み時間になってあちこちで小さな話し声は聞こえるけど教室が騒がしくならない。朝一行きそびれたのでトイレに行くために席を立つ。歩きながら考えるのはノートの使い方。僕が復讐したいのはせいぜい後一人くらいで、それが終わればおそらく今の教室内にある怯えた空気も時間が経てば雲散霧消としてしまうだろう。何かいい方法はないだろうか。そんなことを考えながら用を足してきて教室の席に着いた。
あれからまた一ヶ月が経った。僕への嫌がらせはすっかりなくなり、平穏な日々を過ごしている。もう一人不幸のどん底まで叩き落したいやつがいるんだけど。輪島美香。最初に僕のことをキモいと言い放った女。こいつさえいなかったら登校拒否になるほど追い込まれなかっただろう。頭の固い大人が理想とする中学生からは正反対にいるような奴だから逆に同級生の取り巻きは多い。親は何を考えてこいつの名前に美しいなんて単語のある名前を与えたのか。人の身体的特徴を馬鹿にし、障害を持つ他人を見ては可哀想といいながら大笑いする。外見は良いけど中身が最悪の典型みたいな奴。こいつに辿り着く前にクラス内で僕に嫌がらせをする奴がいなくなってしまった。周りの連中で怯えさせ過ぎただろうか・・。このノートの唯一の弱点はカウンターでしか使えないということ。やられなければ殺れない。ただ、一つ気になってることがある。この一ヶ月で、友人の纏う空気が急に暗くなった。思い当たることがあるので、僕は帰り道でわざと友人の後ろを歩き同じ学校に通う連中がいなくなったところで声をかけた。
「よ!久しぶりに一緒に帰らないか?」
「ああ・・。うん、いいよ」
「最近、なんか・・大丈夫か?やけに辛そうな顔してるけど・・。なんかあったら言ってくれ。君は俺が辛いときに唯一声をかけてくれた相手だから。できることがあればしてやりたいよ」
「ありがとう・・。でも・・。僕と話してるのがバレたらまた君が嫌がらせを受けてしまう」
「なるほど、下校時に俺と話してるのが誰かに見られて標的にされたんだな。たぶん、一ヶ月くらい前から」
「わかるんだね」
「経験者だからな。」
「こうして、自分が受けてると学校外で声をかけるなんてただの偽善だったんだと思い知らされた。教室内で声を荒げるべきだったと後悔してるよ」
「そんなことない!俺は救われてたよ。俺にとっては偽善じゃなくて最善の行為だった」
「ありがとう」
「なあ、俺みたいに一回学校思いっきり休んでみたらどうだ?」
「だけど、そうしたらまた君が標的になる」
「おいおい、他人を気にしてられるのか?俺なら大丈夫だよ。そういえば、この学校に七不思議があるのを知ってるかい?」
「七不思議?いや、聞いたことないけど」
「ま、俺が知ってるのも一つだけで先輩から聞いただけなんだけどな」
そう言って、僕は一つだけ知ってる七不思議の話をした。自殺した女の子、名前が書かれたノート。虐められてる人間が恨みを晴らすために力を貸してくれる存在。
「本当に、そんなものが・・?あったら今すぐ欲しいけど。」
「とりあえずさ、暫く学校休んで行きたい気分になったらまた来なよ」
「そう・・だね。その方がいいかもしれない」
「よし、決まり。んじゃ学校戻るか。」
「え?」
「学校長く休むなら置いてる物があるのはまずいだろ。全部持って帰らないと」
「そっか、そうだね。」
「よし、行くか」
二週間後、僕は久しぶりに学校へ行った。まず職員室へ行き担任に登校拒否を詫びる。しかし、僕の謝罪はそこそこに流され、ドッキリを疑うような内容の話しが始まった。僕が虐められてた時に唯一声をかけてくれた友人が自殺したと言うのだ。虐めを苦にして自殺しますと書かれた紙がすぐそばにあったらしい。けれど、彼が死ぬ前に苛めは僕に移ったはずだ、だから僕に声をかけてくれたんだと思ってたけど・・。担任との話を終え教室に入ると、一瞬静かになるけどすぐにざわめきを取り戻す。彼も登校拒否してから再び学校に来たことがあったが、今の僕のような気分だったんだろうか。自分の席に着いて鞄から教材を取り出してしまおうとしたとき何かが手に触れた。僕が登校拒否するときに友人と一緒に学校に戻って中を空っぽにしたはずなのに。不思議に思い取り出すと、どこの文房具屋さんでも売ってそうな何の変哲のないノート。一瞬誰かの入れ間違いかと思ったけれど、彼との最後の会話を思い出し何もなかったかのようにしてそのまま机の中に戻した。息を潜めて、気配を殺して、感情を捨てながら一日を過ごす。
やっと家に帰れた。流石に登校拒否明け初日に仕掛けてくるようなクラスメートはいなかった。中学生は狡猾で残忍だ。罪の意識なく他人を傷つけ悪だと思わず弱者を甚振る。しかも決して教師にバレないように。暗い感情に支配される前に急いでノートを広げる。一ページ目に書かれているのは綺麗な文字で書かれた人の名前とちょっとした不幸な出来事。パラパラとめくって使われてる最後のページへ行ってみると、そこに書かれていたのは自分の知っている名前と起きた出来事。友人との最後の会話を思いだす。このノートが効果を発揮するのは苛めをされた人間が虐められた相手に復讐する時だけ。そして友人が自殺して虐めていた奴らはその対象を失った。このノートが使われなければ奇妙な出来事は起こらない。そうしたら友人が死んだこともさっさと忘れて遊びやゲームと称してすぐ虐めを再開するだろう。忘れさせない、お前らが僕に恨まれたときに恐怖を甦らせてやる。
3作目にして身を削らないと書けないポンコツ作家です。初めましての方もそうでない方も読んで頂きありがとうございます。
この小説は半分以上が実体験です。僕が中学生だったのは20年以上前ですが当時僕を登校拒否に追い込んだ連中の顔と名前は今でも覚えています。だからこそ書けた小説ではありますが・・。
最後まで読んで頂きありがとうございます。4作目も頑張って書いていきますのでよろしくお願いします。そら豆でした。