外側の世界
近未来――汎用型量子コンピュータが米国にて実用化され、旧来のコンピュータでは計算困難だった難題が高速に解くことができるようになる。
量子コンピュータは一部の間では「電子の核」とも呼ばれ、特に先進国を中心に世界のパワーバランスは波乱を経験した。
普及による混乱期を経て、民間にも徐々に量子コンピュータが浸透し始め、研究や製品開発等にて量子コンピュータを利用することは一般的になっていく。
特に旧来の古典的なコンピュータのソフトウェア資産を容易に引き継げる量子コンピュータが出現したことで、爆発的に普及し、量産効果によって価格が下がるようになる。
そんな中、量子コンピュータ内での仮想現実シミュレーションの可能性についての研究が発表され、量子コンピュータの新たな活用法として認知される。
これは、これまでに判明している物理法則や状態を量子コンピュータ内で低解像度ながら可能な限り忠実に再現することで、世界の創造から現在に至るまでをシミュレーションし、過去に起こった事象の検証から、ひいてはこの先起こる可能性の一つとしての未来予想図まで描けるというものである。
期せずして現れた「タイムマシン理論」に、タイムパラドックスを起こすことなく、未来の技術を先取りできる夢の技術として脚光を浴び、量子コンピュータによる仮想現実シミュレーションの研究が世界各国で国家プロジェクトとしてこぞって行われ、量子コンピュータを配列にした量子スーパーコンピュータが次々と誕生する。
****は、堅牢性の高いシミュレーションシステムを備えた、独自の量子スーパーコンピュータSTARLINK8200を構築する。
また、コンピュータの飛躍的な進化によって、演算処理の意志決定に必要な人間の動作速度の遅さによるボトルネックが顕著となり、その対策として抽象的な表現を解す人工知能の搭載が一般化していく。
人工知能は人間に代わって、状況に応じた適切な判断を自動で行い、人間の関わる作業を極力減らし、ユーザーの意図に沿った動作と結果を返すものである。
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社会状況
基底現実(外側の世界)の日本は、若くて活気のある国になっている。
かねてより問題だった高齢者の社会保障費の問題について、世界的な自己の生命の処分の自由の権利を謳う潮流を受け、政府は国民生活の質の向上に係る法律の策定によって、一定年齢以上の人間は安楽死を選択できるようになった。
安楽死を選択すると、その後3年間の税制が優遇され、死亡時には相続税の一定額以上の控除が行われるなどの措置が申請を行うことによって得られる。
高齢者の積極的な安楽死を政府は推奨している。
これに伴い、労働者人口の減少を懸念した産業界と政府は、教育改革を行い、小学校の教育を6ヶ年から4ヶ年まで短縮した 。
つまり若者の社会に出る年齢を下げることで、労働者人口の減少に歯止めを掛けようとした。
これに伴い、労働者人口の減少を懸念した産業界と政府は、教育改革を行い、小学校の教育を6ヶ年から4ヶ年まで短縮した 。
教育の効率化などの工夫は行ったものの、世界的に高度化する教育に対し、日本の教育水準は世界的に見て相対的に低下し、昔のようなノーベル賞を受賞するような学者の数は激減した。
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European Unified Research Organization (欧州共同研究機構/EURO)
量子コンピューティングシステムのELVESを所有する組織。
本部はドイツ、フランクフルト。
スイスの山岳地帯にUHL-LHC(Ultra High Luminous - Large Hadron Collider)、通称、超超高輝度大型ハドロン衝突型加速器を所有している。
UHL-LHCは、その動作において荷電粒子を加速させ、また加速中の粒子が加速器から逸脱しないよう強力な磁場による制御を行っている。
強力な磁場を実現するためには、超伝導電磁石に膨大な電流を与えるための電源設備、それから極低温維持のためにの液体ヘリウム冷却システムが不可欠である。
UHL-LHCは年単位で稼働と休止を繰り返す運用スケジュールとなっており、休止期間中はこの強力な電力供給設備と冷却システムが余剰となるため、設備の有効活用を目的に、EUROは本質的に大電力と液体ヘリウム冷却を必要とする量子コンピュータを設置。これがELVESである。
量子コンピュータと高エネルギー粒子の相性は悪く、加速器使用中の演算エラー軽減のため、ELVES全体を高レベルの電磁波防御および放射線防御シールドで厳重に保護されている。
しかし厳重な保護にも関わらず、UHL-LHCの稼働状況によってはデコヒーレンスによる検算結果の大きな相違や、エラー停止によるジョブ失敗が散見され課題となっている。
これを解決するため、立地的に離れて安定運用が可能で、かつ本設備の提案国であるスウェーデンにELVESの2号機も設置されており、スイスの1号機とスウェーデンの2号機を合わせて1つの量子コンピュータとして使用している。
クラスタノード型の分散システムとして設計された恩恵を活用している。
仮想現実によるタイムマシン理論による技術探索プロジェクトは、EUROにおいては「|クロノス計画《Cronus plan》」と呼ばれ、ELVESのメインジョブとして実行されている。
ELVESはしばしば並行して、産学連携のためのジョブや、UHL-LHCで取得したデータ解析などの研究用のジョブも実行している。
ここ10年で時代が設定に追いついてきました。