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人間観察部の活動記録  作者: ニカ
3/4

人間観察部の悩み相談3

 この部に入って一週間が経った金曜日。

部内の立ち位置が大体把握できた。まぁ、初日から分かってはいたんだがな……

まずは窪木、この部の副部長。先日知ったが、かなり喧嘩が強い。本人曰く、この学校で勝てない奴はいない……だそうだ。頭は良いのか分からないが、人間の事を全く分かっていない。変な奴だ。

そして楠木、この部の部長。学校で一二を争うくらい可愛い、というか綺麗な顔立ちだ。窪木と似ていて、人間の事が分からないらしい。この部を立ち上げた理由も窪木と気が合い、それじゃ作ろうかとなったらしい。なんとも適当な理由でできたものだ。

最後に荒木、この部のマドンナ的存在。俺の好みドストライク。窪木と楠木を尊敬しているところがあり、少し危ない。俺がなんとかしなければ……。この部に入ったキッカケは楠木に誘われたからだそうだ。なんでも、中学が同じだったんだと。

そして、この部の活動内容は人間を観察すること。今行っているのは、悩みを募集して、人間はどんな事で悩み、その時どう思うのかを知りたいのだそうだ。だが、そんな活動内容だからこそ

「……誰も来ないな」

あまり活動しない。楽でいいんだがな

「人間はあまり悩まないのかもしれないな」

俺の呟きに反応したのは窪木。最初はなんか鼻につく奴だったが、慣れたらそうでもない。今では話し方や考え方が面白いとさえ思う。

「悩み募集以外の活動は考えてないのか?」

「そうだな、他の部に体験入部して、その部の人間関係や下手な奴の気持ちについて聞くってのは考えてる。」

下手な奴に限定しているところに性格の悪さを感じるが

「体験入部か、面白そうだな」

「後は適当に上級生に絡んでいこうかと考えてる」

「なんでだよ」

と話していると

「失礼します。」

少し日に焼けた青年が入ってきた。スリッパの色からして、二年生か。窪木たちは黙ってその青年を見ている。

「えっと、用件は?」

痺れを切らして俺が話す

「実は次のテストで良い点を取りたいんだが、その協力をしてほしいんだ」

「違うな」

言ったのは窪木。違うってなんだ?

「ええ、お門違いね」

同意したのは楠木。なんだこいつら

「まず、悩みを聞かせて下さい」

荒木がそう言うと、窪木と楠木は頷き、青年は話し出した。

「えっと、俺はテニス部の桐谷(きりや)。訳あって次のテストでクラス一位をとらなきゃいけなくなったんだ。だから」

「訳ってなんだ?」

「う。……言わなきゃダメか?」

「言わなくてもいいが、その場合は邪魔だから帰ってくれ」

こいつは辛辣だな。

「分かった、言う。……うちの親は厳しい人で、部活と勉強を両立できなきゃ部活は辞めてもらうと言い出したんだ。元々、両立するって理由で部活をやらせてもらってたから当然なんだが。そして一年の最後の期末テストでクラスの平均よりも低かったんだ。それで怒った親が、次のテストでクラス一位をとれなきゃ部活は退部させると言い出した。俺は部活を続けたいから、テストで良い点をとりたくて、相談しに来た」

「なるほどな。もう手遅れだから、退部の手続きをした方がいいと思うぞ」

こいつはまた、上級生相手に。

「……頼む」

怒るかと思ったが、頭を下げてきた。よっぽど部活を続けたいんだな。窪木は罰が悪そうに頭を掻いた。

「部活を辞めたくない理由と、親に反抗できない理由を聞かせろ。それが条件だ。あと、教科書と問題集、過去のテストの答案を持ってこい。来週の月曜から、テスト対策をする」

「ありがとう!」

もう一度深く頭を下げ、青年は出ていった。

「……なんで、受ける気になったんだ?」

「あの人間に興味が湧いた、それだけだ」

とても冷たい目をしながら言った。

「何か手伝えることは?」

「テスト対策の時、たまに聞くオレの質問に答えてくれればいい」

「そうか、分かった」

……そういや、相手は上級生だが、こいつは勉強を教えられるのか?……考えるだけ無駄か


そして、月曜日の放課後。部室に入ると

「田宮さん、お早いですね」

「お、おう。荒木こそ……」

二人きりか。何を話そう……

「今日からあの上級生のテスト対策ですね。どんな風に対策するのか聞いてますか?」

「それがさっぱりで、というか上級生相手に教えられるのかって思ってる」

「それは大丈夫ですよ。楠木ちゃんは中学の時からすごい勉強ができて、高校レベルなら余裕って言ってましたし。窪木くんは楠木ちゃんも認めるくらい勉強できるみたいですから」

「へぇ。あの二人はなんでもできるんだな」

「二人とも、個人競技ならすごいんですけどね」

言いつつ、目を背けた。

「それ、どういう……?」

ガララと戸が開く

「お前らだけか?」

窪木が入ってきた。

「ああ、どうかしたか?」

「いや、何話すんだろう、と思っただけだ」

「窪木くんは、上級生相手にどうやってテスト対策するつもりなのかなって話してたの」

「なるほど。あんまり大した事はしないけどな。過去のテストと教科書と問題集から内容を推測するだけ。それで、推測した問題を解けるようになってもらう」

「それだけか?何か策でもあるのかと思ってた」

「まぁ、策って程でもないが、情報収集はしとかないとな」

「どうやって?」

と言ったところで、戸が開いた。

「失礼します」

「来たか桐谷。さっそくで悪いが、教科書と問題集と過去問を見せてくれ」

「ああ、これだ」

窪木はパラパラと教科書と問題集をめくりながら言った

「前回のテストで、各科目ごとのクラスの最高点は分かるか?」

「えっと、確か……」

窪木は点数を聞くと

「なるほどな。さて、これからの動きについて説明する」

「おう、頼む」

「まず、家では勉強するな」

「…………は?」

桐谷は、こいつは何言ってるんだ?という目で窪木を見ている。

俺もそう思う。こいつは何を言ってるんだ?

「とりあえず、そんなところか」

窪木は満足そうに頷き、再び教科書に目を通す。

「いや、待てよ一年。それでどうやって……」

「一度に言って分かるのか?」

窪木はいつもの目で桐谷を見る。

本気で聞いている。バカにしている訳ではないのが分かる。

「分かるとは言い切れんが、お前の言う通りにして、テストで良い点を取れるとは思わない」

確かに、今のところ勉強しないってだけだな。窪木が言ったのは

「何を言ってるんだ?」

窪木が言った。……何を言ってるんだ?

「は?だから、最初にそう言っただろ。クラス一位をとらないとって」

「お前の目的は次のテストでクラス一位をとることではないだろ」

「いや、クラス一位をとることだ」

「違うだろ。その事を理解してない奴に教えることなんか無いな。この話は無かったことにしてくれ。じゃあな」

窪木はそう言って、教科書と問題集を桐谷に返して小説を読み始めた。

さっぱり分からん。だが、何も考えてない訳ではないのは分かる。

ただそれは、俺が少なからずこいつの事を知っているからだ。桐谷から見れば面倒になってやめただけに見えるかもしれない。

「ふざけるなよ……!!黙って聞いてりゃ、好き放題言いやがって!」

桐谷は窪木の胸ぐらを掴んだ。そして睨み付けた後、教室から出ていった。


「好き放題……ね。どの口が言ってんだか。」

「窪木君、この後どうするおつもりですか?」

「……そうだな、オレとしては奴が崩れていく様を見ていたいってのはあるんだが。」

そこまで言って俺の方を見た。

「お前はどう思う?」

「俺は、そうだな。どうやってテスト対策するのか見てみたかった。だが、本人にやる気が無いのなら無理強いはさせん。」

「ふうん。じゃあ、オレのやり方でやらせてもらう。」

窪木のやり方か。どうせまともじゃ無いんだろう。

「でも、あの上級生は帰ってしまいましたよ。」

荒木が窪木に問いかける。窪木がその上級生を追いかけるとは思えない。

「その点は大丈夫だろ。」

「何か根拠が?」

「今までの成果だ。奴は返ってくるさ。他に頼るところがないしな。」

「成果ねえ……。」

思わず呟くと

「何か言いたげだな。」

「いや、なんでも。」


そして、次の日の放課後

「結局来ないじゃないかよ。」

「慌てるな、昨日はあの流れで来るわけないだろ。来るなら今日だよ、もう時間が無い。」

時間?

「失礼します。き、昨日は悪かった。お前たち以外頼る相手がいないんだ……」

「分かってる。ただし、オレのやり方でやる気がないのなら、すぐにこの話は無しだ。いいな!」

「ああ、よろしく頼む。」


その後、窪木の指示と楠木の提案で机をくっつけて桐谷と窪木が向かい合う形で座った。その横にさらに机を一つずつくっつけて、桐谷の隣に楠木が、窪木の隣に荒木が座った。俺はそのすぐ近くの座席から椅子だけを持ってきて窪木の隣に座った。

「昨日も言ったが、お前の目的を再確認する。」

「クラス一位をとること、じゃないんだよな?すまんが、分からん。」

「まぁ、いい。おい、田宮。お前、字は綺麗か?」

「え?いや、普通だと思うけど……それがなんだよ?」

「普通か。まぁいい黒板にこう書いてくれ。」

窪木に言われた文字を書いた。

部活を続けたい、と。書く意味あったか?

「つまりはこういうことだろ?」

「ああ、そうだった。」

「テストの点数はそのための手段だ。つまり、この結果がただ良いだけでは、確実に続けられる保証はない。」

「いや、でも。約束したし……」

「甘いな。そんなもん、いくらでも破られる。誓約書でも書いたのか?」

「かっ、書くわけないだろ!」

「お前と親の約束らしいが、父と母、どっちだ?」

「両方だけど。」

「だったら、二対一だ。相手が二人ともそんな約束してないと言えば、してないことになるんだ。」

「うっ。いや、そんなことする人じゃ……」

「そんなことってなんだ?部活を辞めさせるのと何が違う。」

窪木がそう言うと、桐谷は黙ってしまった。

「心配するな、今から言うのはその為の作戦だ。」

「作戦、って大袈裟じゃないか?」

「そっちの方がこっちのやる気が出る。」

「ああ、そうか。(変わってるな)」

やはりこいつは変わってるな。


そして、窪木の作戦はこうだ。

一、家では勉強せず、テニスの練習をする。

二、親に何か言われたら、残りの時間を部活に充てたい旨を伝える。

三、その上で、全科目学年一位をとる。

「三つ目だけ難易度高すぎないか?」

「甘いな、むしろ一番楽だろ。」

正気か?

「俺の前の点数教えたよな?それに、他の奴等の点数も……」

「聞いた上で、とれると思ったから言ったんだ。後、他の二つもちゃんと守れよ。」

「それは大丈夫だ。」

「それなら安心だ。早速だが、テスト対策をするぞ。」

「よろしく頼む。」

窪木は淡々と教科書の要所要所を読み上げていく。

そしてたまに問題を出す。それを桐谷が答える。

「……なんだ、思ってたよりできるじゃないか。」

窪木が人を褒めるとは……どれだけ下に見てたんだよ。

「今の程度の問題なら大丈夫だけど、こんなんで大丈夫なのか?」

「心配いらん。テストに出ない問題を勉強するよりはいいだろ。次の教科いくぞ。」

「あ、ああ。」

そしてその後も同じようにして勉強する。

「さて、じゃあお前の教科書にアンダーラインを引いといたから、授業中はその部分をひたすら暗記しとけ。授業は聞かなくていい。」

「……信じるぞ。」

「ああ。テスト当日までは毎日ここに来い。」


桐谷が帰った後に聞いてみた。

「桐谷は大丈夫そうか?」

「テスト自体は問題ない。それよりも、あいつの親だ。そこばっかりは運だな。個人的には予想が外れる方が面白いんだけどな。」

「その言い方だと、予想が当たれば桐谷は部活を続けられるってことか?」

「そうだな。」

顎をさすりながら窪木は言った。


テスト三日前の放課後

「最初に言った通り、聞かせてもらう。なんで部活を続けたいんだ?」

「ああ、その話か。別になんでもよかったんだけど、都合が良いんだ。親が嫌いでできるだけ一緒に居たくなかったんだ。その為に部活に入ってる。」

「ふうん。じゃ、親に反抗できない理由は?」

「普通できないだろ。」

「なんで?」

その窪木の言葉に桐谷はギョッとした。

「なんでって……親だぞ?」

「それが分からない。別にいいんじゃないのか?」

「うーむ。なんというか、部活やってる事が反抗みたいな感じなんだけどな。」

「そうか、なるほど。参考になったよ。」


テスト前日

「ところで、家で勉強してないよな?」

「ああ、テニスの素振りとか筋トレとかやってるよ。」

「親に何か言われたか?」

「勉強はいいのか?って言われたよ。辞めさせられる前にいっぱいテニスをやっておきたいと言ったぞ。」

「そうか、それで何て言ってた?」

窪木はワクワクしながら聞いた。

「約束は約束だからなって。」

「やな親だな。」

こいつは人の親になんてことを。

「やっぱそう思うか?」

「まーな。明日、頑張ってこいよ。」

「ああ。」

結局テスト前は毎日同じことをしていたな。


そして、一週間後の放課後。

「失礼します。」

桐谷が入ってきた。

「おう。桐谷か。結果分かったのか?」

「……お前何者だ?」

そう言って見せてきたテストはほぼ満点だった。

「順位は分かってないのか?」

「いや、テスト返却の時に一位の点数だけ発表されるんだが、全て俺だった。親には昨日見せたんだが、テスト前もずっとテニスの練習してた事もあって続けてもいいことになった。」

「そいつは残念だな。」

「いや!良かったんだよ!!」

「えー、そうか?」

「本当にありがとう。今回は俺が助けられたから、何か協力できることがあったらいつでも言ってくれ。」

「……それなら、今度でいいんだが、テニス部に一週間ほど仮入部させてくれ。」

「分かった。時期が決まったらいつでも言ってくれ。それじゃあな。」

そう言って桐谷は出ていった。

「予想通りだったみたいだな。」

「ああ。つまらん。まぁ、約束も取り付けたし大目に見てやろう。」

「今回は窪木君だけで解決してしまったので、私は暇でしたよ。」

「そうね、見ているだけっていうのは嫌いじゃないけど、蚊帳の外っていうのは少し不快かしら。」

「仕方ないだろ、時間が無かったんだから。次は部長の指示に従いますよ。」

ヒラヒラと手を振りながら窪木は言った。

「次っ言ってもいつになるか分からんけどな。」

「あら、田宮君、言うようになったわね。」

楠木……ちょっと苦手だ。窪木に相談しようかな?なんてな。

「すみません。」

「噂をすれば、か。」

「ここって悩みを解決してくれるって聞いたんですけど。」

女生徒が入ってきた。

「そんなことないわ。」

「そんなことないぞ。」

「いいえ、違いますよ。」

コイツらブレないな。

「聞くだけなら、構いませんよ。」

俺がいなけりゃ本当に廃部だったろうな。人数の問題だけでなく、人間の問題で。さて、今日も部活だ。

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