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人間観察部の活動記録  作者: ニカ
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人間観察部の悩み相談2

17時ジャスト、第2体育館。突然だが、今かなりピンチだ。

俺たち人間観察部の4人と悩み相談してきた生徒1人、計5人は、武器を持った連中に囲まれている。どいつも殺気立っている。その数パッと見20人は下らない。何故こうなったんだ。話は20分ほど遡る。


俺が入部して最初の月曜日。別に楽しみでもないのだが、ある人にあいにきた、という点で言えば楽しみなのかもしれない。そう思いながら第3講義室へと足を運ぶ。中に入ると俺以外の部員が揃っていた。20セット程ある机と椅子の中からテキトーに空いている席につく。

「活動内容の話だが、生徒がやって来ない日はどう過ごすんだ?」

そう聞くと、

「テキトーに時間潰して、17時頃になれば帰る」

答えてくれたのは、副部長の窪木だ。

「そのテキトーの部分が知りたいんだが……」

「テキトーはテキトーだ。本読んだり、雑談したり、勉強したり……」

「なるほどな。じゃあ、時間潰せる物を持ってくればいいのか」

「そうだな」

なんて話をしていた時だった。

コンコンコン、とノックの音がした。

「どうぞ」

部長の楠木が返事をする。

「失礼します」

そう言って入ってきたのは、小太りの男子生徒だった。スリッパの色を見る限り、上級生だ。なんとなく気弱な感じで、威厳はない。

「あの。ここで悩み相談をしてくれると聞きまして……」

丁寧な物腰だな。

「してないぞ?さて、なんのようだ?」

窪木が答えた。あれ?悩み相談してなかったっけ。

「いや、だから。その……悩み相談を…………」

男子生徒の声が小さくなっていく。

「誰がそんなこと言ってたんだ?」

うん。こいつは相手が上級生だってわかっているのか?

今町先生(いままちせんせい)に」

今町先生というのは俺のクラスの担任のことだ。なんで今町先生が出てくるんだろうか。

「そんなこと言ってたのか、あいつ……」

窪木がクシャっと自身の髪の毛を掴む。そして

「まぁ、顧問がそう言うならそうだよな。しょうがない、言ってみろ。その悩みとやらを」

今町先生は顧問だったのか。道理でこの変な部活の事も知ってた訳だ。

「実はラブレターを貰ったんです!」

急に男子生徒が叫んだ。こいつ、自慢しに来たのか。おっと、思わずこいつ呼ばわりしてしまった。窪木のことを言えないな。

にしてもラブレターか。さぞ、こいつら(特に窪木と楠木)が好きそうな話だ。

「よかったな。それで悩みってなんだ?」

……思ったより普通の反応だ。というかつまらなそうな顔をしている。窪木もこいつの話を自慢と受け取ったのだろうか。

「だから、アドバイスを……」

…………アドバイスかぁ。あいにく俺はこういう事には縁が無い。俺には無理な相談だ。楠木とか荒木は貰ってそうだがな。

「他に好きな人がいる、とかお前のことが嫌い、とか言えばいいんじゃないか?」

それは断り方じゃないか。

「それは断り方じゃないか」

む。意見が合ったな。

「ラブレター貰った時にアドバイスをもらうと言ったら、断り方じゃなくて?」

楠木は窪木と同じ意見らしい。さて、この部のマドンナ的存在の荒木はどうだ?と言わんばかりに視線を送った。

「行かないって選択肢もあるんじゃないですか?」

そうきたか。相手はかなり傷つくだろうな。

「そうか。行かない、か」

「盲点だったわね」

窪木と楠木は考え込むようにして言った。

「よし、そうしよう」

「ええ。それがいいわ」

えええええ。マジでか。

「ふざけるなよ!!お前ら、他人事(ひとごと)だと思って……」

「他人事だからなぁ」

「もうアドバイスはいい。代わりに付いて来い。17時に第2体育館だ。逃げたら承知しないぞ……!!」

すっげえキレたが、窪木は無表情。全く動じていない。恐ろしい精神力だ。これなら笑いを精一杯堪えている楠木が可愛く見える。

ドカドカと大きな足音を鳴らしながら、男子生徒は出ていってしまった。

「さて、俺は行くがお前らはどうする?」

「行くわ」

「私も行きます」

楠木と荒木が即答した。当然俺も行く。

「聞くまでも無いだろ」

笑いかけてやった。しかし

「……まぁ、いいか」

なんだか煮え切らない反応を見せた。


それから3分と経たず今の状況になった。

どこで間違えたんだろうか。いや、今はそれどころじゃない。どうやって切り抜けようか。俺と窪木はどうなってもいい。そしてこの男子生徒はどうにでもなればいい。……だが、楠木と荒木はそういうわけにはいかない。俺は体格がそこそこいいから、喧嘩もそれなりに強い。ただ、誰かを守りながらとなると話は別だろう。それに相手の人数も結構多い。楠木と荒木を逃がすので精一杯だろうな。窪木は喧嘩が強いのか。体格を見る限り期待はできん。

「お前らはそこのブタの仲間なのか?」

ボコボコになった金属バットを持った金髪の男がそう話しかけてきた。おそらくリーダー的存在なのだろう。

「ブタってのはこいつのことか?」

窪木が怯えている男子生徒を指差しながら聞き返した。

「それしかねえだろ!なめてんのか、あァ!?」

分かりやすく不機嫌だ。あまり刺激してほしくないんだがな。窪木にそう言っても無駄だろう。

「ハズレだ。俺たちはこいつの仲間ではない。連れてこられただけだ」

「どうなるか、分かって来たのか?」

「ああ、一人を除いてな」

窪木が俺の方を一瞥する。……え、なんだ?

「そうかそうか。……だったら死ねやあ!!」

金髪の掛け声と共に20名程の不良が突っ込んでくる。始まってしまったかぁ。右足を半歩引いて、ガードを上げ、戦闘体制に入った。

やるしかない。覚悟を決めた瞬間だった。周りがスローモーションに見える。円形に俺たちを囲んでいる不良が一斉に向かってきたが、当然それぞれの速さは違う。そしてさらに俺の視界に入ったのは、窪木の足だった。不規則なステップを踏みながら、首をブンブン振っている。ついにおかしくなったか?そう言いかけた時、俺の視界から窪木が消えた。

シュっと風を切る音が連続して聞こえてくる。その後に近くにいた不良たちがバタバタと倒れていく。何が起きてるんだ……?そう思ったのは俺だけでは無いだろう。事実、そうだった。

「何が起きてるんだ……?」

金髪がそう呟いた。不良が半分程倒れ、残りの不良たちが戸惑っていると、ようやく窪木が姿を現した。いや、正確にはようやく窪木の姿を確認できた、だな。手には鉄パイプを握っている。いつの間に……

「ほらっ」

窪木が突然こっちに鉄パイプを投げた。

「ありがとうございます」

言いながら荒木がキャッチした。え、それ使うの……?

「怯むな、かかれえ!!」

金髪の声に続いて残りの不良たちが向かってくる。

「窪木くんは次お休みで。私たちに任せてください」

割と好戦的なんだな……

「そうか。じゃ、任せる」

そう言って窪木はブタに……ブタと呼ばれた男子生徒に近づいた。

少し気になるが、そんな暇は無さそうだ。金髪の男以外の不良たちが向かってくる。

「えい、とうっ……やあっ!」

という掛け声と共に荒木が鉄パイプを振るう。的確に不良に命中させている。俺はタックルやパンチを駆使して不良を追い払う。そういや楠木は、戦えるのか?振り返るとまさに楠木が不良に殴りかかられているところだった。

「まずいっ」

急いで楠木の方へ向かうが、間に合わない。

「くそっ」思わず声がこぼれ、目を閉じてしまう。

次の瞬間、男の悲鳴が聞こえた。

……男?

目を開けると、不良が地面に突っ伏している。

「ああ、やっぱり……」

出てきた言葉はそれだった。なんとなく戦えるんじゃないかなぁとは思っていたが、う~む。なんとも微妙な感じだ。こいつら変人(荒木は除く)は普通に戦えるんだな。残念って訳では無いんだが……むしろ今回にいたっては良いことなのかもしれない。だが、なんとも微妙な、微妙としか言えない感じが頭から離れない。出来ないことなんて無いんじゃないかな。


その後、まぁ、あっさりと俺たちは不良を圧倒した。そして金髪だけが残った。

「くそ。お前ら何者なんだよ!!」

金髪はこちらの様子をうかがっている。

「さて」

窪木がそう切り出すと、金髪はビクッとした。

「な、なんだよ」

「後は任せたぞ、ブタくん」

窪木はそう言い、振り返ってドアの方へと歩き出した。

そして、すぐに止まって

「戻るぞ、お前ら」

俺たちにそう言って、また歩き出した。

俺たち人間観察部は窪木に続いた。

相談者と金髪を残して。


「戻るんじゃなかったのか?」

言ったのは俺だ。俺たちは窪木に続いて部室に戻るハズだったが、どういうわけか第2体育館のキャットウォークにいる。

「静かにしろ、気付かれるだろ」

窪木はこちらを見向きもせずに言った。相談者と金髪をじっと見ている。

「この距離じゃ声は届かんだろ。あっちの声も聞こえねえし」

「聞きますか?」

荒木がイヤホンを片方外し差し出してくる。

「さ、サンキュー」

自然と距離が縮まる。かなり嬉しい。というか盗聴してんのか。

耳を澄ますと

「お前が奴らを呼んだのか?」

さっきの金髪の声だ。音質は結構いいな。そしてタイミングもバッチリだったようだ。

「……そうです」

か弱い声でブタくんが言う。

「何者なんだよ、あいつら……」

「よく分かりません」

へぇ、と窪木が顎をさすっている。

なにか企んでいるのか

「お前をボコったらあいつらが仕返しにくるのか?」

「いえ、それは…………」

ブタくんが顔をそらした

「ちっ、もういい。行け」

金髪がそう言い、ブタくんは逃げるように体育館を出ていった。

「こんなとこか」

「そうね。戻って総評でもしましょうか」

窪木と楠木の言葉に頷き、体育館をあとにする。


「さて」

窪木が教卓に立ち、脇には荒木が立っている。

俺と楠木は教室の前の方の席に腰かけている。

「今日は確かラブレターのアドバイスってことで悩んでる生徒が来たんだったな」

「ええ。そしたら急に怒ったのよね」

窪木が確認し、楠木が答える。基本的にこの二人が話しているな

「あれは不思議だったなあ」

「いや、怒って当然だと思うぞ?」

俺の発言に一瞬窪木は驚いたが、すぐに嬉しそうな顔をして

「一般人代表、田宮くん。どうぞその理由を」

一般人代表て、まぁいいか。

「あいつはラブレターのアドバイスを欲しがっていたんだ。アドバイスって言っても本当にアドバイスが欲しかった訳じゃない。単に勇気が欲しかったんだ。心配するな、行ってこい的な」

「それはどうだろーな」

窪木は納得がいっていないようだ

「そう考えると、色々矛盾してくるのよね」

楠木も続いた

「矛盾?」

「ええ。彼は悩み相談をしに来たのよ」

確かにそう言ってたな。カッカッと黒板の方から音が聞こえる。

見ると、荒木が黒板に文字を書いていた。悩み相談に来た、と。

書記なのか。っと楠木の質問に答えてなかったな。

「そうだったな」

「アドバイスが欲しいなら、そんな確認しないハズよ」

「確かにそうかもな」

「つまり、アドバイスを貰うのが目的ではなかったんですね」

「そういうことだ」

荒木がまた黒板に記していく

「アドバイスが目的ではないのなら、あいつは何しに来たんだ?」

「あいつが出ていくとき、なんて言ってた?」

えっと、確か

「もうアドバイスはいい。代わりに付いて来い…………とかなんとか」

「その後に、17時に体育館だと言っていたわね。……逃げたら承知しないとも言ってたかしら。私思わず笑ってしまったわ」

そういや、楠木は笑っていたな。窪木は無表情だったけど。

「ああ。そこから分かることは?」

急に窪木に聞かれた

「分かること……怒っているってことか?」

「違う。感情なんて関係ない」

きっぱり言ったな

「だったらなんだ?」

「時間と場所がハッキリしているよな」

「?まあ、そうだな」

「場所はともかく時間はもう少しアバウトでもいいだろ」

「17時にと言ってたな。まあ、別に深い意味はなかったんじゃないか?」

「じゃあ、付いて来いってのはなんだ?」

「なんだ?ってなんだよ」

「付いて来いと言うなら、時間と場所は言う必要ないだろ」

「あ……」

なるほど。それもそうか

「もう一つ、逃げたら承知しないとも言ってたわ」

「そんだけ怒っていたんだろ」

反論してみるが、どうだろうか

「ラブレターを貰っていたのよね?」

「えっ?あ、ああ。そうだな」

急になんだ

「私が貰った限り、ラブレターっていうのはその日の内に、返事が欲しいものらしいの」

さすがですね……

「まぁ、そうだろうな」

「そんな彼は、私達を連れていこうとしたのよ」

「うん。不安だったんだろうな」

「私もそう思う。ラブレターの示す場所に行こうとした。逃げたら承知しないって言ってた彼がその場所から逃げるとは考えがたいから」

「なるほど。そこまで深くは考えていなかった」

「じゃあ、田宮。お前は自分宛のラブレターに17時に第二体育館に来てと書いてあったらどうする?」

「いたずらだと考えるかな」

「あいつもそう考えたんじゃないか?」

「それで俺たちを呼んだのか」

「ああ。だが、あいつは誰が書いたのか知っていた。何をされるかも分かっていたろうな。そうでなければ、ここまで来ないだろ」

ま、確かにな

「そこで仲間がいるとみれば相手も引き下がると思ったんじゃねーかと考えた。そして、都合の良い奴等を探した。どんな奴だと思う?」

なるほど、そういうことか。

「俺たちのような、一年だけの部活の部員か」

窪木は頷き

「校内で集められる人数は限られてる。学外の人間は校内に入るのは厳しいし、リスクがでかい。そして、学内の人間なら一通り見たが、オレが勝てそうに無い奴なんていなかった。だからあいつに付いて行ったんだ」

こいつは恐ろしい事を平気で言うな

「荒木や楠木も同じ理由で?」

「私はそうね。窪木くんには勝てないだろうけど、他の人と喧嘩して負ける気はしないわね」

楠木がそう答え、

「私は二人がいれば、負けることはないとふんで行きました」

荒木がそう答えた。

「結局俺だけか、知らずに行ったのは」

溜め息がこぼれた

「今日は大して収穫無かったなぁ」

窪木がそう呟いて、今日の活動は終わった。

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