転生王子は悪役令嬢を愛していました
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「メアリ・ドルレアン、今この時をもって、お前との婚約を破棄し、国外追放処分とする」
今、ここでは王立学園の卒業パーティーが行われている。いや、行われていた、といった方が正しいだろうか。突然の宣言に場内は混乱しており、先ほどまでパーティーが行われていたとは思えない様相だ。
私の目の前にいるのは、それはそれは美しい令嬢。太陽を溶かしたような黄金の髪、つり目がちな目の中に翡翠色の美しい瞳をたたえる公爵令嬢。今日は薔薇のような深紅のドレスを身にまとっている。
突然の宣告に驚き、屈辱に肩を震わす素振りをしているが、その実、瞳には安堵の色が浮かんでいる。素晴らしい演技だ。私以外の人間は誰一人これが演技だと気づいていないだろう。
そして、私の後ろにいるのはストロベリーブロンドの髪の子爵令嬢。名はリズというらしい。いわゆる“ヒロイン”というやつだ。
現在、私は“ヒロイン”の訴えに応じて“悪役令嬢”を断罪しているかたちになる。
唐突だが、少し自分語りに付き合ってほしい。お気づきだろうが、私には、いわゆる前世の記憶というものがある。
生まれた時から記憶があったので、ものごころついた頃にはおおよその事情を把握していた。これは、俗にいう“乙女ゲー転生”というものだ、と。姉の趣味で無理やりさせられていた乙女ゲームのようだ。どうやら私は攻略対象の“王子”になったらしい。
なにはともあれ、当時の私はとにかく、生きたかった。死にたくなかった。前世の記憶があるから。一度死んだことを知っているから。だから、毎日毎日、勉強した。立派な統治者になれるように。エンディングを迎えても、私の人生は終わらないのだから。
それに、ゲームの“王子”は眉目秀麗、成績優秀な俺様キャラだ。ゲームをなぞっていれば、ゲーム開始時点までは生きられるだろう。それまでは、普通の“王子”のように。転生者だと悟られないように。
そうやってゲーム通りに進めようとしていた私に、ある日、想定外のことが起きた。“悪役令嬢”メアリが私との婚約を拒もうとしたのだ。彼女は私に一目惚れして婚約を結ぶはずだったのに。ゲームの強制力からか結局婚約は結ばれたが、彼女が転生者であることを疑うには十分だった。
注意深く彼女を観察していると、どうやら予想は当たっていたらしいことがわかった。彼女は、ほんの数回だが、前世にしか存在しない言葉を口にした。
そして、彼女は王家に嫁ぐなどまっぴらごめんだと思っていることや、婚約を避けられなかったために国外追放エンドを望んでいることを知った。
この世界のすべてを創作物の一部としてしか認識していなかった私にとって、同じ転生者である彼女の存在は衝撃的だった。自分と同じルーツを持つ彼女に惹かれるのには、そう時間はかからなかった。
いっそ、転生者であることを明かそうかと思ったこともある。でも、彼女は私のことをただの“王子”としか見ていなかったし、転生者だと伝えれば彼女に負担をかけてしまうかもしれない。
いや、言い訳はよそう。ただ、私にゲームから外れた行動をする勇気がなかったのだ。
何の行動も起こせぬまま、私は入学の時を迎えた。いよいよ、乙女ゲームが始まる。ここで、“ヒロイン”は攻略対象と愛を育むのだ。
私がこれから学園生活で行うことは二つ。私が生き続けられるようにストーリーを進めること、そして、彼女に悟られないように追放エンドに導くことだ。
“ヒロイン”はどうやら転生者ではないらしい。それは好都合だったのだが、やつはいわゆるお花畑ヒロインのようだった。王家に嫁ぐことで生まれる義務など想像していないのだろうと思った。
ゲームの強制力によって、やつを好きになってしまうのかと懸念していたが、杞憂だった。まあ、感情にまで強制力がはたらくのなら彼女は私を好いているはずなので、当然と言えば当然である。
私の一方的な恋心からの行動に利用することに良心の呵責がなかったわけではないが、私はやつを利用した。私にとって、彼女以外の人間はやはり創造物の一部でしかなかったのだ。
学園生である三年間、彼女は非常にうまくやった。ゲーム通りに、傲岸不遜なわがまま令嬢であった。そして、婚約破棄と国外追放を言い渡される程の、しかし、それ以上の処罰はうけない程の絶妙ないやがらせを仕掛けた。そう、ゲーム通りに。
私がしたことといえば、彼女の自称取り巻きたちが度を過ぎたいやがらせをしないように警戒することだけだ。好いた相手を殺したくなどなかったから。
そして、現在に至るわけだ。まったくもって少しではなかった自分語りに付き合ってくれたことに感謝する。予定通り断罪イベントが行われ、彼女は追放されることになる。私は、特に好いてもいないやつと一緒になるために彼女を断罪するのだ。
彼女がしたいやがらせを一覧にした、罪状のようなものを読みあげる。残念ながら、これらは事実だ。万が一にも冤罪を訴えて助けようとするものがでないように、彼女が自ら行った。
再び、処罰を告げる。彼女が応える。
「左様ですか。それでは、謹んでその処罰をお受けします。お慕いしておりました、殿下」
普段とはまったく異なる彼女の態度に周囲が一瞬ざわつく。私が一瞥すると、すぐに静かになったが。
演技だとわかっていても、その言葉に酷く胸が痛んだ。私は、彼女の幸運を祈りながら、その背中を見送った。
彼女は家族の前でも演技をしていた。だから、今後公爵家からの援助も受けることはない。大衆の目前で婚約破棄された恥さらしとして家を追われるのだ。
だが、私は知っている。彼女は国外に居場所をつくっている。私も手のものを紛れさせており、何かあれば力を貸すように用意してある。
彼女のわがままが演技だったと知るものは、私の他にいない。すべての王国民が、愛らしく優しい、新しい婚約者を歓迎した。
時折、手の者から報告が届いた。彼女は国外で楽しくやっているようだった。
私は、淡々と自分の役割を果たして、長く生きた。そして、やつは意外にも王族の義務をしっかりこなした。
だが、私が彼女以外の者に心惹かれることはなかった。
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