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「明日、だね」
いつものソファーに座って、いつものように天井を見上げていた魔法使いは、少女の声に慌てて体を起こした。
「何か、夢みたいで・・・変な気分なんだ」
真夜中の訪問者に驚いて固まった魔法使いをよそに、少女はフラフラと近づいてくる。
「起きててくれてよかった。寝てたらたたき起こしてやろうと思ってたんだけど、それじゃあ、後味悪いでしょ。だから・・・あたし・・・どうしたの?」
手を伸ばせば届く距離まで近づいたところで、少女はようやく惚けた魔法使いに気がついた。
いつもならそんな魔法使いをみればすぐ何か文句を言うのに、今日の少女は軽く首を傾げただけだった。
その仕草はあまりにもしおらしすぎて、魔法使いを驚かせた。
少女の外見は(黙ってさえいれば)、確かに可愛いという言葉がよく似合う。
ヒラヒラのたくさんついたドレスを着ていると本当に高級人形のようだし、白い大きな翼がはえていても何の不思議もない気がする。今のように、しおらしくしていた方がこの姿には合っている筈なのだが。
少女の性格を知ってしまってからでは、なんだか居心地が悪い。
「どうしたんだ? らしくないな」
「え、そうかな? 全然普通だけど」
少女はそう肩をすくめて微笑んだ。でも元気がない。
「・・・眠れないのか?」
また余計なことを言って怒鳴られるのは嫌だったので、とりあえずそう聞く。
少女は唇を尖らせて、傾げてた首をさらに傾けた。
「うーん」
「座るか?」
悩み始めた少女に向かって、半分あいたソファーを示す。
「いいの?」
「・・・ああ、特別だ」
信じられないものを見るような目に、魔法使いは咳払いしてそう答えた。
「ありがと」
嬉しそうに少女がソファに沈み込む。
「不安、だよな」
「うーん、そうなのかなあ。ドキドキはしてるよ。でも家を飛び出したときのとかと違うの。何て言うのかなあ。凄く欲しかったものが入ってるってわかってるプレゼント開けるみたいな気持ち。もしかしたら違うものかも知れないって・・・わかる?」
今度は魔法使いが首を傾げる。
「分かんないよねぇ、やっぱり」
くすっと笑いながら、少女はひっくり返りそうな勢いで、背もたれに倒れ込む。
「なんて言うのかな。この体自分に合わないって前に言ったよね。でもこの体は神様があたしにくれたたった一つの体なんだよね。今までそんなことちゃんと考えたことないし、あの魔法見つけてからだってずーとあの魔法をどうにかして使う方法だけ考えてたでしょう。だからいざそれが叶うってなったら、何かすごく変な気分なの」
少女が天井に向かって手を伸ばす。
「嬉しいような、寂しいような」
「体を離れるのが嫌になったのか?」
嫌ならまだやめられるぞ・・・と続けようとして、魔法使いは言葉を止めた。
引き止めてどうするつもりだ? と自分に問いかける。この少女はこれがたった一つの願いなのに。
「それともちょっと違う・・・かな」
背を預けたまま、両膝を引き寄せ丸くなる。
子供みたいな仕草で、足を上げたり下げたりする。
「よく分かんないや。説明できない。変な気分だよ」
「・・・そうか、ならあまり考えない方がいい。酒でも飲んでさっさと寝てしまえ」
「うーん」
投げやりな魔法使いの言葉に、まだ何か言いた気に唇を尖らせる。
そして、しばらく天井を見上げた後・・・魔法使いの方に倒れ込んできた。
「!?」
トンという小さな衝撃に魔法使いは全身をこわばらせた。
勿論全精神力を使って動くのはこらえる。
「どうした? 突然」
膝を抱え俯いたままの少女に魔法使いは尋ねた。
少女は長い沈黙の後、ささやくように言った。
「少しだけこうしてていい? 他人といて落ち着くのってはじめてなんだ。だから、少しだけこうさせてて」




